学校が終わり、現在僕の家の僕の部屋で彼方と二人。
ゲームをやって、アニメを見て、そんな感じで過ごしていた。
「おい、今週もやばかったろ?」
「そうだね、でも好きなヒロインの回じゃないのがなぁ…」
「黒髪ストレートだっけか?」
「そうそう」
「なんか普通だよなー、お前はもっと大衆とずらそうって思わないのか?」
「正統派なかわいさがいいんだよ」
ふと部屋の時計を見ると、もう18時になるくらいだった。
「もうそろ、帰った方がいいんじゃない?まだ明るいけど、もう6時だよ」
「え?あぁもうそんな時間かー」
彼方も時計を見て無念がっていた。
彼は立ち上がり、僕を見た。
「最後にさ、気になってることがあってさ……」
「え、何?」
なんとなくだが、彼方がいつもと違うテンションのような気がした。
少し、ドキドキしながら彼方の言葉を待った。
「やっぱりさ、悠はさ……」
「黒澤さんが好きなのか?」
え?
彼方は予想の斜め上の質問をしてきた。
好きな人についての話は、他の人としたことがなかった。
最近は違うが、それまではみんなも一線を置いていた気がする。
やはり、学校の風潮に煽られて彼方もそういう話をしてきたのかもしれない。
クラス内でも、男子は男子同士で、女の子は女の子同士で、そういう話をこっそりしてたりする。
僕も少なからず聞こえてしまうこともあったけど、だれがだれを好きとか聞くと意識してしまう気がしたので、聞かないようにしていた。
けど、面と向かって僕自身がそんな話を振られたことはなかった。
そういう話に入りたくもなかったし、みんなもなぜか入れなかった。
だから、驚いたと同時に、すさまじい現実感が襲ってきた。
自分を恋愛小説の中の主人公だと思っていたわけではなかったけれど、僕も、そういう普通の話をするんだと。
恋愛は決して1対1の駆け引きではないのだ。
恋愛小説でも何でもない現実を知らされた気がした。
彼に僕の好きな人がばれていたことにはあまり驚かなかった。
僕が彼の好きな人がわかっているように、長い間一緒にいるような、気が置ける人の考えていることはまぁまぁ理解できるのだ。
しかし、その彼が、黒澤さんのことが好きな彼が、この話題を選んだことが意外だった。
僕からはできない話題だったから。
「な、なんで?」
「考えたんだよ。告ったり、告られたり、あるだろ?そういうの」
「うん」
「お前が黒澤さんを好きだとして……例えばだけど、お、俺も黒澤さんのことが好きだとするだろ?」
「う、うん」
「好きな人が被ったらさ、アニメのヒロインみたいにさ、それを受け入れて、各々が同じ人に告ったりさ……」
「できないよな?悠もだろ?」
「どういうこと?」
彼方は考えをひねり出しながら話しているのか、あまり訳のわからないことを言っていた。
僕の理解力がないのかもしれない。
「だ、だからさ。俺たちが友達のままでいることと、どっちかの恋が実るっていうのは、
「え」
ついには僕自身も彼方の言っていることをおぼろげに理解して、納得してしまった。
僕も考えた、もしも、彼方が黒澤さんと付き合ったとして……。
そしたら、心の中がもやもやとした。
嫉妬なのかな。
でも、誰が黒澤さんと付き合ったとしてもそう思うだろうな。
けど、近しい人間、彼方が黒澤さんと付き合えたとしたら、恋愛していたら、もっと胸が苦しくなる気がした。
僕は考えるのをやめた。
「で、どうなんだよ?悠は黒澤さんのことが好きなんだよな?」
「え、えと」
ここで誤魔化してもどうせ、彼方にはバレているので、仕方がなかったけど。
なぜだか、肯定の言葉が出てこない。
それは、友情と恋愛の天秤だった。
彼方の話でそれに気づかされたのだ。
あと、もう一つ。
意外な理由が生まれた。
白木さんを思い出したのだ。
さっきまで賑やかだった僕の部屋に沈黙が生まれた。
気まずさに耐えきれない。
丁度限界が来たところで、彼方が動いた。
「急にこんな話ごめんな。はぁ……ただでさえ勝ち目ないってのにな……」
「俺たち、友達だからな!」
「う、うん!」
彼はそう言ってドアノブをひねり、出ていこうとした。
彼の天秤がどちらに傾いているのか、僕にはわかってしまった気がした。
ドアが開かれると、部屋の外に人が立っていた。
「うわっ」
「うおっ」
彼方とその人がぶつかりそうになったが、すんでのところで回避した。
「悠のお姉さん。お邪魔してます!」
「お、おう。そうか、帰りか?」
「はい」
「気ぃ付けてかえれよ……」
「はい。じゃ、じゃあな悠」
「うん、また明日」
彼方は姉さんを通り過ぎ玄関の方へ向かっていった。
「おい悠、見送りだけでもしてこいよ」
「う、うん」
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玄関先まで行って彼方を見送る。
「悠、さっきのことは忘れていいからな。じゃあな」
「うん、じゃあね」
少し門限を過ぎてしまっているのか、彼方は走って消えていった。
玄関に戻ると姉さんが立っていた。
「姉さん、帰ってきてたんだ」
いつもは、もう少し遅く帰ってくるから、意外だった。
僕より身長の高い彼女を見上げる。
しかし、姉さんはそれに返事をせず。
「悠、おまえ好きな奴いるのか?」
玄関側の窓から入ってくる夕日が姉さんの金髪やピアスを爛々と赤く照らしていた。
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side
あたしには5つ離れた弟がいる。
あたしに似てとてもきれいな男の子だ。
小学生にしては自立しているし、あたしと違って頭もいい。
色々なことを察して、考えて、よくできた弟だ。
鈍くさいとこもあるが、そこがまたチャーミングポイントだ。
あたしは弟、悠のことが好きだった。
好きと言っても家族愛だけじゃない。
男女としての好きだ。
そういう好きっていうのは間違いだ。
かなり前から知っていたし、気づいていた。
歳の差もそうだが、姉弟の関係が問題を深刻にした。
あたしが中学生だった頃だ。
周りのみんなが付き合ったり、別れたり、それなりの恋愛をしていた。
対してあたしは、同級生や先輩なんかで好きな奴なんていなかった。
そんな奴らより、段々と成長してきた悠にずっと目が奪われていた。
告白は何度もされたが、好きでもない奴からの告白なんか反吐が出るくらい不快だった。
面倒くさいし、それだけで話題になる環境が嫌だった。
そんな、普通の人ができるような恋愛という娯楽を弟に奪われたあたしは段々と人生の道を逸れていった。
当然それだけが理由ではなかったが、バカで勉強ができないこともあって順調に落ちぶれていった。
中学生半ばで、髪も金髪に染め、夜はそういう友人たちと毎日のように遊び歩いていた。
あまり家にはいたくなかったからだ。
髪を親に無断で染めて、かなりキレられたし、正直気まずかった。
悠だけはかっこいいと褒めてくれたけど……。
家にいたくない理由として悠の顔も見たくないというのもあった。
悠を見たら好きって気持ちが溢れて止まらないのに、それでも悠に伸ばせない、悠に似た自分の手が嫌いだった。
悠をみたら、気持ち悪い自分を、落ちぶれた惨めな自分を自覚するから嫌だった。
去年は少しだけ勉強をまじめにした。
ギリギリ市で一番頭が悪い高校には受かった時は、久しぶりに両親の笑顔を見た気がした。
高校に行って新しい出会いもあり、未だに新しい友人たちと遊びまわっているが、あたしはもう恋愛に興味をなくしていた。
その穴埋めをするかのようにやんちゃばっかりして、気を紛らわしているのだ。
今日は、いつもつるんでる奴らみんなが用事があるとかで、放課後の予定がパーになっていた。
しけてんなぁと思いながらも、今日は早めに家に帰ろうと決めた。
このあいだ悠にせがまれて、しかたなく買ったゲームの感想でも聞いてやることにしよう。
自分の考えに反して、やっぱり悠に近づきたくて、気が付くとなにか共通の話題や理由を探していた。
そうだ、あたしの分も同じゲーム買って帰るか。
あんな子供だましのゲームなんかには興味はないが。
一応、一応な。
悠があたしを頼るなんてのは久しぶりだったから、少しハイになっているのかもしれない。
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玄関をそっと開けて、家に入る。
両親はまだ仕事だろうけど、あんま顔合わせたくないしな。
階段を上がり、あたしの部屋の手前にある悠の部屋のドアの前で足を止めた。
ん?悠の部屋の中で、話し声が聞こえた。
友人でも呼んでんのか?
ドアに耳をそばたてる。
「で、どうなんだよ?悠は黒澤さんのことが好きなんだよな?」
は?
あたしの心の中で何かが崩れた気がした。
想定していたこと、実際に悠が誰かと恋をして、付き合う。
想定していたことだけど、目を背けていたことでもあった。
それ以上は聞くべきではないと、理性の壁があたしを守る。
ドアから耳をはなした。
一気に立ち眩みがした。
頭に浮かぶ、悠と一緒に笑いあう誰か。
何もできない。
あたしは、その場所にいないんだと。
足が震えてその場を動けなくなった。
ぐるぐると、同じような、どうしようもない討論を頭の中で繰り返した。
すると、急に悠の部屋のドアが開く。
中から出てきた、悠の友達とぶつかりそうになった。
「悠のお姉さん。お邪魔してます!」
「お、おう。そうか、帰りか?」
「はい」
「気ぃ付けてかえれよ……」
上の空で、そいつと軽いコミュニケーションをとる。
「はい。じゃ、じゃあな悠」
「うん、また明日」
悠、お前は……。
とりあえず、頭を冷やそう。
「おい悠、見送りだけでもしてこいよ」
「う、うん」
悠は、玄関に向かった友人を追いかけていった。
その後ろ姿を、なぜか目で追いかけた。
さっきそういう景色を、頭の中で見た気がしたから。
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悠を見下ろしてあたしは問う。
「悠、おまえ好きな奴いるのか?」
もはや、悠の回答は何でもよかった。
その
あたしの愛と理性を乗せた天秤が、壊れる音がしていた。