もふもふ雷狼竜   作:APHE

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見晴らしがいいって危険だよね


4.俺と遠雷

 

 ジャギィの襲撃から2週間。俺の体毛はモッコモコに生え揃い、無帯電状態では威厳もへったくれもない状態へと変貌していた。ただ戻っただけなんだけど。

 

 体が必要なものだと判断しているのか帯電毛の再生は非常に早く、実際には2日ぐらいで概ね元通りになっていた。体の方もそれくらいの勢いで治してほしかったんだけどな…

 

 「グォゥ」

 

 立ち上がって身体を振るう。いい感じ。体のラグはやっと消えて満足に動かせる状態に。今ならジャギィの群れなんぞ正面から蹴散らせるはずだ。

 

 「ピィイ!チュリリリ」

 

 フワフワクイナも翼を広げて絶好調。相方が元気になったのを感じたのか、余裕綽々とさえずっている。かわいいね。

 

…さて。

 

 動き始めた足をそのままに、俺はいつもの巡回ルートへ。森林のはし、切り立った山肌、渓流の入り口。ジャギィたちのテリトリーと接していたらしいこの辺も、今や俺のナワバリだ。

 水を飲みに来るアプトノスや川魚たちをありがたく頂いている。

 

 満足に活動できる範囲というのは大切。ここに落ち着いたばかりの頃は何か外敵が来たら逃げればいいとしか考えなかったが、今はもうそのような考えはない。

 

 ここ大自然、モンスター界では外敵に舐められるわけには行かない。行動、外見、すべてで力を示し、戦わずにして勝つようでないと。

 

「チュリリッ!」

「グワッグワッ」

「グワー」

 

…うん。

 

 結論から言って、それは無理。今の俺には舐められる要素しかないし、それを取り除くこともできない。

 

 幼体がそのまま大きくなったのかと思われるようなフワッフワの体毛に、ちょこんと乗っているフワフワクイナ(被食者)。あたりを無警戒にうろつくガーグァの群れ。そして何より、帯電できない特大ハンデ。

 

 この体毛はアイデンティティみたいなもんだし、フワフワクイナは俺の精神衛生上必要な存在。ガーグァは食料にもなるし、帯電に関してはその…

 

「グワワッ」

 

 ガーグァが俺の背中をついている。フワフワクイナが迷惑そうに睨むが、相手にされていない。悪いけど、()()は甘んじて受けさせてくれ。

 

 ガーグァの嘴には大柄なホタルのような虫が。雷光虫だ。

 

 俺という存在はだいぶ曖昧な感覚を持っていて、いわばジンオウガであり、人間でもある。しかし虫がどうしても嫌という一点ではどうしようもないほどに一致している。

 

 仮に俺という存在がこの世に生まれなくたって、ジンオウガとしての"俺"は雷光虫を振り払って生きてゆくはずだっただろう。

なので発電は無理。自力での帯電、不可能。

 

「アォ…」

 

 雷に打たれてみたり、何らかの外的要因で帯電すること自体はできる。が、任意のタイミングで戦闘形態に移ることはできない。奇襲を受けでもすればこのフワッフワの状態で戦うしかないのだ。

 すると相手は「こいつ雷光虫に見放されるほど弱ってんのか?」と認識し、ほぼ確定で舐められる。詰みだ。

 

 その油断をついてぶっ飛ばしてやればいい、という考え方もできるが…

 

 悶々としながらも渓流のほとりで休んでいると、一匹のジャギィがこちらを見つめていた。手を出すわけでもなく、追い払おうとするわけでもなく、ただ俺を見ている。

 エリマキに刻まれた小さな傷はあの日に見逃した個体か。

 

「アオン!」

 

 少し威嚇してみたが逃げない。監視しているのか。

 もともと彼らの縄張りだった場所だ。新たに設けられた緩衝地帯に見張りを立て、さらなる侵攻をさせまいとしているのだろう。

 もし強引に踏み入れば彼らのリーダーがすっ飛んできそうだ。

 

 しかし逆に言えば、こちらが何かをしない限りは向こうからも不必要な干渉は無さそうだ。彼らを蹴散らしたあの日、群れが動いて報復に来るという最悪のパターンを勘ぐったりもした。

 が、今のところそうなっていない。

 

 俺が十分に力を示したからか。

 

 だとすれば方針は決まった。舐められるのもよし。というか仕方なし。しかしそれを看過はしない。向かってきた相手をねじ伏せて自分の力を示す。

 続けていればご近所の評判は安定してのびのびと過ごせるようになるだろう。

 

「アオーン!」

 

 奮い立った俺は力強く吠えてみせた。

 

 突然の咆哮に驚き、ガーグァたちが転んだ。そのまま逃げていく。ごめん。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 向かってくる脅威は追い払うと決めた、そんな折。

 

 よりにもよって"ヤツ"が現れた。

 

 意識を改めてから数日、やけに天気が良かった明朝。調子に乗って平原に足を伸ばした俺は遠景に緑の(いかづち)を見た。照らし出されたシルエットは翼竜。足の裏がじわりと湿ってくる。

 

 まだそうと決まったわけではないと思い直してその場を去ろうとしたとき。背後から響いた咆哮は間違いなくヤツの、あのライゼクスのものだった。

 

 まさか、俺を追って…

 

 嫌な想像をして身体をこわばらせていると、ヤツとは別の咆哮が響いてきた。上空を通り過ぎる影。それはいかにもな造形のドラゴン、"モンスター"の看板を背負うに相応しい空の王者。

 

 火竜リオレウス。

 

 挨拶とばかりに吐き出された火炎が遠くの空に光って消える。それからはいくつかの雷鳴と火柱が奔り、猛烈な空中戦が繰り広げられた。

 雷撃を躱してブレスを吐きかける空の王者。この平原を縄張りにしている個体なのだろう、歴戦の風格を感じる。対してライゼクスは効果的な反撃を繰り出すことができず押されっぱなし。

 

 開戦から何度目か、火球を被弾したライゼクスはついに高度を大きく下げると平原の真ん中に生えていた木に激突。目を回してたたらを踏んでいる。

 

 この大きな隙にリオレウスは急降下。ライゼクスが俺にやったのとは話が違う、完璧な軌道計算と致命の威力を持った一撃だ。俺はヤツの頭部が弾け飛ぶのを予見し目を細めた。

 

 が、そうはならなかった。ヤツが苦し紛れに放った雷撃が命中。リオレウスは体勢を崩してトドメを刺しそこねた。命拾いしたライゼクスはドタドタと助走し、めちゃくちゃに羽ばたいて逃げてゆく。

 

 突発的に起こった縄張り争いはリオレウスの勝利で終わった。

 

「グオオオオオン!」

 

 逃げるものは追わないのか、体勢を直したリオレウスはそのまま着地し勝利の雄叫びを上げている。

 

 気づけば俺はぽかんと口を開けたまま、アホみたいな顔で一連の戦闘を眺めていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 もうね、リオレウス様々。力を示すとか何をアホなことをのたまってるんだって話。昨日までの俺だよ。

 縄張りの支配者というのはああいうのを指して言うんだ。

 

「チピィ…」

 

 背中のフワフワが心配そうな声を上げる。元気になったかと思えば急にふさぎ込んだ俺を見て不安になったのだろう。ごめんよ。全部俺の問題だ。

 

 俺はねぐらで丸まったまま思考を巡らせる。

 

 誠に残念だが、俺は"ああ"はなれない。器じゃない。ジンオウガとしての自力しか持ち得ない今の俺ではとても真似できたもんじゃない。

 それでも死力を尽くせばヤツを撃退できるはずだが、いざ戦うことを考えると思考にもやがかかる。

 

 ライゼクスがこの森までやってきたのは偶然とは思えない。あのリオレウスが負けるとは思わないが、ライゼクスの方もやられっぱなしに見えてうまく立ち回っていた。

 万が一、リオレウスが負けてしまった時。俺は……どうすれば良いんだろう。逃げる?

 

「……」

 

 いや、いや、いや。前提を見直そう。まず、あいつが俺を追いかけてきたとも限らないんだ。好戦的な性格のようだったし、強いスパーリング相手を探していたのかもしれない。

 本当にたまたま、あの場で居合わせてしまっただけで。そう考えることにする。

 

「…………スゥ…」

 

 俺は懸念材料を抱え、俺自身の問題も何一つ解消しないまま、ふて寝という究極の逃げを行使した。

 

 




・"俺"
世界はそう甘くなかった。
トラウマの方からやってきてビビり上がった。
・ジャギィ
生き残った男の子。
ボスから縄張りの監視を命じられた。
・リオレウス
空の王者であり平原の王者。
闖入者を追い払った。

・平原
モンハン世界比で一般的な平原。
草食竜が歩き、翼竜が空をゆく。
見晴らしがよく危険。
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