もふもふ雷狼竜   作:APHE

8 / 9
岩塩って素敵な響きですよね


8.俺と岩竜

 

「ワゥ゛!」

 

 殆どビームと形容して差し支えのないそれ(熱線)を横飛びで躱す。体の反射だった。連発はできないだろうと希望的に見て目の前の存在が何者かに意識を回す。記憶が正しければ焦る必要はない。

 

 まさに動く岩塊と形容していいようなそれは岩竜バサルモス。見た目通り頑丈な岩で体を覆い擬態し時には盾とする非常にタフなモンスター。その強度は成長した姿であるグラビモスよりも高く、幼体ならではの柔らかい体を補うようになっている。そう幼体なのだ。

 

 成体の代名詞となっている強力な熱線(グラビーム)は幼体が放つにはいささか無理があり、今そうしているように失敗する可能性もある。初撃を躱されて焦ったのか2発目を放とうとしたそいつは熱を収束しきれずに勢いのない炎と生ぬるい風を吐き出している。

 …あっ、リカバリーに毒ガス出しやがった!

 

「ヴォォォォ!」

 

 短い(といっても十分に大きいが)翼でバサバサと仰ぎかけて来るので俺はたまらず陣地転換。鉱石を主食とするこいつは消化を体内バクテリアに頼っており、その処理過程で毒ガスが発生。こうして攻撃に用いたりもする。勘弁してほしい。

 

「アオンッ!」

「ヴォ!」

 

 ガスの影響を避けるため奴の周囲を大げさに回って背後を取り、まだ俺を追いかけている体に一撃。悲鳴を上げてよろめいているがあまり効いてる感じがしない。お返しに振り下ろされた尻尾をステップ回避しもう一撃。

 今度は筋肉の力だけではない、体重をかけた重い攻撃。バヂッ!という岩壁を思いきり殴りつけたような音がしてはじき返された。奴はというと勢いよく前につんのめった。

 

「アォンッ…」

 

 おー痛い、よく動かない右前足を動かないなりに固定し体全体で振る鈍器のように扱ったのだが結果はほぼノーダメージ。予想はしていたがそれが現実になると頭を抱えたくなる。たとえ十全に体が動いたとて無帯電の俺がバサルモスにできることは小突いて転ばせることだけか。

 

 衝撃による筋肉や内臓へのダメージは通っているのだろうが、表面の感触が本当に"岩"なので実際どうなのかは測れない。あわよくば頭部を破壊できないかと回り込んだ俺に炎を吐きながら起き上がってきたので本当に大したことにはなっていないようだ。

 

「ヴォォ!ヴォルルッ!」

 

 咆哮と一緒に火炎が舞い散る。寄られないためかブレスを主体に攻め立ててくるようになり若干いやらしい。機動力で上回っているためまだカバーは効くのだが、このまま殴りまくって岩石の装甲を破壊もしくは内部ダメージで再起不能にするとなると千日手。

 

 アシラにやったように嫌がらせに留めて諦めさせることも考えたが、昼間ずっと修行して落雷を受け止めた俺は既にだいぶ疲れていて長期戦は無理なのと『強くなる』目標のためにその答えは除外。そもそもバサルモスの方が俺のことを許す気がなさそうだ。足がかりに蹴っ飛ばされたのが相当頭に来たらしい。

 

「オンッ!」

 

 膠着状態を破るべく真正面から挑む。突っ込んでくるなら当てられると踏んだのか奴は準備していたブレスを熱線に切り替えた。それを認めて踏み出していた右足を固定、軸にして270°回転。熱線が放たれた瞬間には射線上から俺の姿は消えていた。

 

 熱線を出したまま薙ぎ払われれば崩壊する立ち回りだが、奴にそれができないことは戦いの中で分かっている。必殺の一撃をすかして唖然とするそいつの顔面に叩き込むのは──

 

「アオォォォンッ!!」

 

 電撃を纏いトルクを増した渾身のお手!

 

 バヂィィィン!!

 

 横から殴りつけたためとてつもないビンタのようになったそれはバサルモスの首を反対方向に振り切らせてそのまま横転させた。実戦投入はもちろんこれが初、効果は上々。よく見ると当たった部分の甲殻をかち割ることに成功している。

 評価は後でするとして今はトドメを優先、これ以上命を狙われないために頭を潰す。幸いにも起き上がる気配はない。

 

「ヴォ…ガ…」

 

 脳震盪を起こしつつも最後の力でもう一度熱線を放とうとするそれにもう一度強化電撃お手を食らわせて静かにする。

 …死んだな。

 

 ……うん。

 

 正直蹴っ飛ばして悪かったとは思う。やっと遭遇できた嵐に興奮してあまり周囲が見えていなかった。でも出会い頭に熱線をぶっ放されたらもう戦うしかない。体が間に合わなかったら火傷じゃ済まなかっただろうな、あれは。

 仕掛けてきたというのは勝算があったということだ。

 

 …それとも右足をずっていたのを普通に見られていたか。それで弱っていると思われたのかな。常に見られていると思わなきゃ駄目なのか?広い縄張りを持つならプライベートの時間は無に等しくなりそうだ。

 

「…ォ」

 

 真っ赤な夕日を拝んで平原に目を向ければ上空からの視線を感じる。修行を切り上げたあたりでは地面に降りていたはずの火竜が再び舞い上がっていた。しっかりとマークされているらしい。嬉しくないね。

 

 しかし一部始終を見ていたのなら俺の力も見ていたはずだ。正面から挑んでねじ伏せられるなんて思っちゃいないが、予後の悪い傷のひとつは残せるだろう。そして何より……俺がリオレウスの治世の終わりを望んでいない。

 どうか末永く平原の王者をやっていてください。お願いします。この通りです。俺はそっち側(平原)に進出する気はないんで。

 

 そんなメッセージを遠吠えに乗せているといつの間にか火竜の姿は見えなくなっていた。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「ぐわー」

 

 岩壁を滑り降りていつもの道を通り寝床へ向かう。途中で俺を待っていたらしいガーグァの一団とぶつかり行動を共にしている。帯電状態の俺を見てビビっていた彼らも一週間も経てば慣れたのか普段通りだ。たまに突っつかれる感触もする。

 家主の同意を得ずに棲みつこうとする不届きな虫はいくらでも食っていいからね。

 

「ワ゛!」

 

 と、大きな悲鳴を上げて一羽がひっくり返った。それを号砲に周りにいたガーグァが大慌てで駆け回る。何事かと見てみればどうやら感電してしまったようで…

 その嘴は強力な絶縁素材であり雷光虫の放つ電力などものともしないが羽はそうでもない。普通のジンオウガとは比べ物にならない量の帯電毛、首を深く突っ込みすぎて莫大な電力に当てられ羽毛の装甲を貫通されたようだ。

 

 ぴくぴくと足を震わせるガーグァを慎重に起こしてやるがぐったりとした顔のまま動かない。どうしよう。心室細動を起こしているのだとしたら除細動器の要領で助けてやれないだろうか。

 胸のあたりに前足を当て、出力を絞って電気ショック。

 

「ワ゜ッ!」

 

 でかい声をあげて飛び起きた。うまく行ったらしい。

 

 しかし、そうだな。帯電するとできることが広がる一方で周りの存在を感電させてしまうリスクもある。逐一帯電量を調節できればいいがそれができない俺の場合は平時にはかえって邪魔になってしまうか。

 大丈夫なビジョンが浮かばなかったのでフワフワクイナを乗せることも控えていたが、やっぱり放電しきるまでお預けだ。

 

 でも戦闘への有用性は言わずもがな。無帯電での全力を弾き返される相手にも出力強化した攻撃ならば問題なく通った。あの一撃は目測で素の全力の2倍弱の威力に繰り出す速さも倍。電力の適用範囲は出力の強化が主で属性を纏わせることはしなかったが、蓄電殻にまで電力を回せばそれも可能。

 

 今なら森のヌシたるアオアシラにも肉弾戦で勝利できるかもしれない。思い返せば問題らしい問題は攻撃が通らなかったことだけであり、背中の装甲を貫通できるなら負ける要素はない。機動力も強化すればあの大振りな攻撃に刈り取られる未来もない。

 俺、わりと強いかも。

 

 

ピシャァァァァン!!

 

 

 ふいに空気の震える爆音が鳴り響き、空が一瞬真っ白に光る。落ち着きを取り戻していたガーグァたちが再びあわくって駆け回る。背中を濡らす雨粒に広がる黒雲──山にとり付いていた雷雲の成長した姿──を見上げ、本格的な嵐の訪れを知った。

 その拍子に思い浮かんだのは奴の顔、追い回された時のこと。尻込みするほどでもないが、抱いていた自信が少し揺らぐ。そういえばあの日もこんな嵐だった。

 

 雨が葉を叩く音を聞きながら、重くなった足取りで寝床へ向かう。怖がるな、姉さんの言葉を思い出せ。平原にはリオレウスがいる。違うそうじゃない。そんな感じに自問しながら、ぐだぐだと……

 

 

 

 

「ピィ!」

 

 抜け落ちた帯電毛の束に隠れていたフワフワが顔を出す。それは俺の顔を見てさえずり、蒼く光る背中を見て肩を落とした。

 今のところ縄張りを侵しに来るモンスターはいないし、居着いたガーグァたちが留守を守る形になっているので彼がひとりになることは無いのだが、一緒にいられないのはやはり寂しいらしい。

 俺も寂しい。

 

 先週からほんの少しだけ軽くなった背中に違和感を覚え、激しい動きをしてはそこに居ない彼の身を案じ、吠えてみては追いかけるさえずりが無いことにその不在を思い出す。

 彼を危険な目には合わせたくないし、戦場の真っ只中に連れ込むことは本望ではない。しかし独りでいることは寂しく哀しい。

 しかし俺は帯電量を調節できない。だから……

 

 諦めの言葉を紡ぎかけて踏みとどまる。妥協できる事だからこそ妥協してはいけない気がした。そういう逃げグセを成功体験で上塗りしていくことが今の俺には大事なことだ。

 

 だから──そうだな、できないなりに対策をすればいい。自力で帯電できない代わりに電流の操作に熟達してきたのだから、さらに熟達して周りの存在を感電させない術を身につければいい。

 そしてフワフワを乗せて、ガーグァと身を寄せあって眠るんだ。

 俺ならできるはず。

 

「ガゥ」

 

 ものは試し、電力をできるだけ奥に押しやり磁場を巻きつけ閉じ込める。やや先の垂れた帯電毛を近くの木に擦り付けてみて、問題ないのを確認してからガーグァへ当ててみる。なんともない。

 そして細心の注意を払いながらフワフワクイナを撫でてみる。彼が感電した様子はない。帯電毛を押し付けてみる。問題ない。突貫の対策が機能した。

 

「チュリリ」

 

 数日ぶりのスキンシップにさえずりを飛ばす彼を眺めて目を細める。対策はあくまで突貫で即刻全身に適用できるものではなく、彼を背に乗せられるのはまた後になってしまうだろう。

 それでも、無理ではないという事実が未来に希望を抱かせる。

 

「……」

 

 嵐はまだ続いている。そして奴はきっと戻ってくる。でもこれ以上逃げたりはしない。

 俺はできるんだ。

 




・"俺"
新技で勝利。自信がついた。
もう怖気づいたりしない。多分。
・バサルモス
蹴っ飛ばされて激おこだった。
弱っている相手かと思ったら全然違ったし処された。
・出力強化
筋繊維に適切な経路で電力を注入し動作を強化、強制する。
攻撃にも機動にも使える単純かつ強力なバフ技。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。