呪術のセカイ   作:猫山紅葉

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少しだけの、安寧へ




第三十八話 いざ小旅行へ

 部屋の窓を開け、冷たい風が部屋に入る。山の上だからだろうか。外の風は思ったより暑くない。その心地の良い風の所為だろうか。妙に眠たくなってくる。もうこのまま寝てしまおうか。そんな欲求に駆られるが、ご飯を食べた後直ぐに寝ると牛になるとは良く言ったもので、鍛えぬ駆れた私の体に程好い肉が付いてしまう。

 

 そんな欲求に堪え忍び、私は再び窓の外を見るのであった。

 

「で。明日まで待機だとよ。だったら明日の朝に来ればよかっただろ」

「あんたらは夜中に起きて現場に着いた瞬間任務に移れるわけ?」

「……絶対無理だ」

 

 私の部屋で寝転びながらそう言っている秤くんに、私は呆れながら返した。五条先生曰く明日の朝八時に現場へ向かう様になっているらしい。それを考えたら片道三時間。逆算すると最低でも五時にはもう東京を発たなければいけない。そんなこと、朝の弱い私が出来るとは到底思えなかった。

 

 風を感じ、また外を見る。碧が綺麗だ。たまにはこうやってネットから離れて自然を感じるのも悪くない気がする。まぁ、自然と言っても高専や屋敷で腐る程感じてはいるのだが。そこはまぁ、環境が違うからと言うことで。

 

「と言うかあんたらさぁ、そろそろ自分の部屋に戻りなさいよ。いつまで此処に居るつもり?」

 

 寝転がって各々好きな様に過ごしている二人の馬鹿に向かって、私は溜め息交じりにそう呟いた。

 

 部屋の割り振りは当然男女で別けられており、外面は可愛らしい星さんも服を脱げば男の子なので私とは別の部屋な筈である。だと言うのに二人は自分の部屋に行くどころかお昼を食べた後に私の部屋へと直行していったのである。

 

「良いじゃん? 東雲さんだって本当は寂しいくせに」

「いや、私は大抵一人で過ごせるから」

 

 そんな人を寂しがりみたいに言わないで欲しい。あの地獄の一年間、私はずっと一人であの屋敷に居たのだから。人は居るが味方が居ない。あの状況で一人になるなど容易いことであった。

 

 然し私の心情を察してなのか、「そんな冷たい事言わないでよー」と星さんは私の体に物凄い勢いで体当たりをしてきた。本当に、途轍もない力であった。下手したら昼間に食べた美味しいご飯が全部出て来そうな程である。

 

「ちょっと、そんな勢いでぶつかって来ないでよ! 窓から落っこちちゃうじゃない!」

「お前は落ちても無事だろうよ」

 

 そんな簡単に言わないで欲しい。いくら私でも不意打ちの攻撃は対処不可能だ。、上手く受け身を取れる自信はない。

 

「そう言えば、えむちゃんは何処行ったの? 昼食後から姿が見えないんだけど」

 

 今現在、部屋の中には私と秤くんと星さんのみ。あの天真爛漫な太陽の様な彼女の姿が何処にも見当たらない。トイレにでも行ったとしても嫌に長い。

 

「そういや、なんか部屋に取りに行ってくるっつってたな。なんか忘れ物か?」

「それでも長くない? いくら此処が凄く広いからってこんな長く時間が掛かる事ってある?」

 

 何か事件に巻き込まれていないだろうか。あの性格だ。何らかの面倒事に首を突っ込んでいる可能性は大いに有り得る。

 

 面倒事は意外にも身近に起きる事を、私はこれ以上にない程知っている。

 

 けれど、噂をすれば何とやら。廊下の向こうから軽快な足音が此方に向かって来た。聞き覚えのあるその音に、私達は一斉に出入り口の襖を見た。

 

「わんわんー……わんだほーい!」

 

 そんな事を叫びながら部屋に入って来たのは、帽子をかぶり、大きなリュックを背負ったえむちゃんだった。

 

 まるで今から外に出ようと言いそうな出立ちである。

 

「外に、行きますよ!」

「……えぇ」

 

 外に、行くらしい。

 

 

 

 

「じゃーん! 此処がこの街一番の展望台です!」

「おおー、めっちゃきれー!」

 

 星さんは柵に体重を預け、身を乗り出す。確かに星さんの言う通り、この街一番の高台であるこの展望台から見た景色は絶景と言う言葉が相応しい程に美しかった。

 

 あれから私達はえむちゃんに連れられ、この展望台に来ていた。片道徒歩三十分かかるこの場所は景色に不似合いな程に人が少なかった。と言うか、人っ子一人、私達四人以外、誰も居なかった。

 

 穴場、と言うものだろうか。当然だろう。この場所に着くまでとんでもない細道を通る事になる。整備はされているが、それでも薄暗い、じめじめした道である。そんな道を、誰が通りたいと思うだろうか。恐らく地元の御老人達もこの場所なんて知らないだろう。

 

 私も星さんに倣い、木製の手摺に手を掛け景色を見る。本当に綺麗だ。こんな景色、東京にずっといたら絶対に見る事は叶わなかっただろう。

 

「あ、彼処賑やかだね。商店街かな?」

 

 木々が続く景色の中、建物が無数に建っている場所があった。あの構造から行って、きっと街中に建設されている商店街だろう。人の喧騒が此処にも届いて来そうだ。

 

「そうです! 彼処はたい焼き屋さんがあって、凄く美味しいんです! 後で行きましょう!」

「そうだね。楽しみ」

「いや、お前らどんな視力してんだよ。バケモンか」

 

 化物だなんて失礼な。ただ動体視力が少しだけ良いってだけである。

 

 そんな秤くんの言葉を無視して、えむちゃんの方を見る。天真爛漫な笑顔を向けられ、思わず顔が綻んだ。そうか、彼女が言っていたおもてなしと言うのはこの事だったのだ。

 

 確かに、これ以上に無い程のおもてなしである。横に並んでいる秤くんと星さんも何処と無く表情が穏やかそうだ。

 

「夕方になるとあっちに沈んでいく夕日が綺麗なんです」

 

 そう言ってえむちゃんが指差した方向には、森を挟んでその向こうに海があった。太陽に照らされたキラキラした海。

 

「えむちゃん詳しいねー。来たことあるの?」

「はい! おじいちゃんとお兄ちゃん達とお姉ちゃんと、あとお母さんとお父さんと一緒に!」

 

 そう言って嬉しそうに笑うえむちゃん。お兄さんは多分、嘗て会った晶介さんと慶介さんだったか。父親と、その祖父には会ったことはあるが、残念ながら姉と母にはまだ会えてはいない。尤も、これから先会う機会があるのかも分からないが。

 

 そんな事を考えていると、私の携帯に着信が入る。誰だと思い画面を見ると、そこには『五条悟』と書かれていた。

 

「誰から?」

「五条先生。どうしたんだろう」

 

 星さんの質問に答えながら、私は電話に出る。

 

「もしもし、五条先生、どうしたの?」

『あ、もしもし? そっちはどう? ちゃーんと待機してる?」

 

 電話越しである五条先生の言葉に、私は三人の様子を見る。三人は展望台に設置されている望遠鏡で辺りを見渡していた。その光景に、少し顔が綻ぶ。

 

「ちゃんとしてるわよ。大人しく、節度を守ってね」

『本当にー? なんか風の音と三人分の楽しそうな笑い声が聞こえるんだけど。まさか待機中に外で遊んだりしてないよね?』

「あら? 今この場には私しか居ないけど。もしかしてもうボケちゃったの? 気をつけなさいよ、スマホ認知症って言うのが流行ってるらしいから」

『意外と絵名って毒舌だよね……ま、良いや。任務の話なんだけど』

 

 それから五条先生は言いたい事を言って通話を切った。毎度の事であり、もうすっかりなれてしまっている態度だが、それでも彼の唯我独尊精神はどうにかならないものかと頭を抱えるのであった。

 

 任務の話と言っても、現場の場所や時間帯の事であり、特別記述する程の事でもない。そう言えば、五条先生にしては珍しくお土産の話が出なかったなと少し怪訝に思う。本来的なら謙虚として評価する場面なのだが、普段の行いと言おうか。出てくるのは称賛ではなく君の悪さだった。

 

「先生なんてー?」

「任務の最終確認。特に変更な点は無いよ」

「りょうーかい。あ、ねえ。今から彼処の商店街に行こうって話になったんだけど、東雲さんも一緒行くでしょ?」

 

 そう言いながら、星さんはえむちゃんとじゃれ付いている。その姿がすこし、姉妹の様に見えた。と言っても、星さんは正真正銘の男なのだが。あまりにも女の子の姿過ぎてたまに忘れてしまう時がある。

 

「別に良いけど。でも今からじゃもう遅いんじゃない?」

 

 今の時刻は十五時。あの距離では徒歩数時間掛かってしまう。何とか日が落ちる頃に着けたとしても長い時間は堪能出来ないだろう。抑もえむちゃんはまだ中学生。そんな夜遅く迄連れ回す訳にはいかない。

 

 ん? 確かえむちゃんは中学三年な筈だ。間違っていなければ。となると受験勉強は大丈夫なのだろうか。

 

「平気ですよ。バスも近くを通ってますし。それに、わたしもっと皆さんと仲良くなりたいんです!」

「えむちゃん……! 本当に良い子!」

 

 眩しい位の笑顔に、星さんは勢い良く抱きついた。先程から思ってはいるが、一応、彼等は異性同士である。そんな二人がこんなに接近して良いものなのだろうか。まぁ絵面的には何の問題もないのだが。

 

 然しまあ、そうか。確かにバスだと一時間も掛かりはしないだろう。それだったら充分に商店街を楽しめそうだ。

 

 先に行き私に声をかける三人の声を聞きながら、私はもう一度眼前に広がる景色を見る。その綺麗な景色を、目に焼き付けるように。

 

 

 

 

「んー! 本当に美味しい!」

「ですよね! 私此処のたい焼き屋さんのたい焼き凄く好きなんです!」

 

 片さ四十分位だっただろうか。私達はえむちゃんが先程言っていた鯛焼き屋に来ていた。えむちゃんの言葉を疑っていた訳ではないが、それでもここまで美味しいとは思わなかった。確かに新幹線に乗ってでも食べに来たいと思わざる負えない。

 

「こっちのカスタードも美味しいよ。少し食べる?」

「ほんと? 一口頂戴!」

 

 此方に鯛焼きを差し出してきた星さんの言葉に甘え、少しだけ鯛焼きを噛る。カスタードの仄かな甘さが口内に広がり、長時間の移動で疲れた体にじんわりと染み込む。まさか任務の合間にこんな美味しいものが食べれるなんて。この時ばかりは任務を割り当てた五条先生に感謝しなければいけない。

 

「じゃあ私の漉し餡鯛焼き一口あげる」

 

 そう言って、私は食べ掛けの鯛焼きを差し出す。私だけ食べて他に何も与えないなんてそれは筋が通らないだろう。

 

 星さんは少しだけ戸惑った顔を見せるが、諦めたのか少しだけ。ほんの少しだけ噛った。

 

「もっと食べても良かったのに」

「いや……私はこのくらいで良い」

 

 何だろうか。もしかしてカロリーの事を気にしているのだろうか。明日恐らく死ぬ程動くから大丈夫なのに。そこの所は女性より女性っぽい。

 

 そんなことを思いながら、また一口鯛焼きにかぶりつく。彼処の鯛焼き屋はお土産も売っていると書いていたし、五条先生や家入さん、それに愛莉と彰人に買っていっても良いかもしれない。

 

「なんだ? 俺たちもした方が良いのか?」

 

 そう言ってえむちゃんに鯛焼きを差し出す秤くん。えむちゃんは「わあ! 良いんですか!?」と瞳を輝かせながらかぶり付いた。

 

 うん。何だろうか。決して悪い事をしている訳ではない筈なのに、絵面がとんでもなく危うい感じに見えてしまう。秤くんが少し大人っぽい顔な上にえむちゃんが童顔だからだろうか。

 

「あー! ずるい! 私も金ちゃんにあーんして貰いたい!」

「あ? しょーがねーな。ほらよ」

 

 秤くんから差し出された鯛焼きを、星さんは幸せそうに食べる。それを見て秤くんは苦笑し、えむちゃん「良かったですね!」とまるで自分事の様に笑っている。それだと秤くんと星さんの間接キスではなくて星さんとえむちゃんの間接キスになってしまうのではないかと思ったが、きっとそう言うことではないのだろう。間接キス云々以前に、秤くんから食べさせて貰ったと言うことが星さんは嬉しいのだ。

 

「お。可愛い子いっぱい居るじゃん」

 

 その時であった。ふと、そんな不愉快極まりない言葉が聞こえてきたのは。顔を上げると茶髪や金髪と言う──所謂不良っぽい人間が二人、私達を見下ろしていた。

 

 ……なんだ?

 

「暇ならオレたちと遊ばない?」

「はあ? 私たちそんな暇じゃないんだけど」

 

 成る程、これはナンパと言うやつかと思った直後、沸々と怒りが込み上げ思わず食って掛かる。無視したり聞き流せば良かったものの、どうしてかそれが出来なかった。

 

 まぁ、出来たからと言って行動に移していたかと言われれば甚だ疑問なのだが。

 

「そんな事ないでしょ。オレたち結構イケメンだと思うんだけど?」

 

 そう言ってキメ顔をする二人。何処がイケメンだと心の中で嘲笑した。それだったら家の彰人の方が何倍もイケメンである。認めたくはないが。中身は生意気だが。それでもコイツらよりは何倍もマシだ。

 

「おい。俺の連れなんだよ。とっとと失せな」

 

 鯛焼きを全て食べ終えたのだろう。飲み込みながら口許に白餡を付けた秤くんが私達を庇うように前へ出た。秤くんの顔はそこら辺のヤクザよりおっかない顔である。けれど余裕があるのか。それともただの馬鹿なのか二人はそんな秤くんに怯みもせず馬鹿にした様な顔で秤くんの神経を逆撫でした。

 

「オッサンにはきょーみねーんだよ。引っ込んでろ」

「もしかして今話題のパパ活ってやつ? うわ、キモ」

「あ?」

 

 秤くんのこめかみの血管が音を立てて千切れるのがわかった。けれど当の本人より先に、ぶちギレ寸前の私より先に前へ出たのは他でもない、星さんだった。

 

「ちょっと、いい加減にしてよね。さっきから聞いていれば好き勝手言って。それに金ちゃんはオッサンじゃないから。私達と同じ学年だから」

 

 ああ、そうだ。星さんは秤くんの事が大好きなのだ。そんな大事で大切な人を貶され黙っていれる筈がない。

 

 私だって同じである。二ヶ月しか経っていないと言っても同じ釜の飯を食べた彼。そんな人を悪く言われては黙っておけない。じっとしてもいられない。先ずは彼らに生きているとこが苦しいと思う程の鉄槌を与えなければ。

 

 然しそんな私の行動を遮ったのは悔しくも彼等の行動だった。茶髪の方の男が星さんに近づいて顔の覗き込む。

 

「あ? コイツ良く見たら男じゃね?」

「うお。マジだ最悪騙されたー」

 

 そう言って男たちはさも自分が被害者であるかの様に顔を顰めた。

 

「はぁ? そっちが勝手に勘違いしたんでしょ? 私の所為にしないでくれる?」

「おいおい。責任転嫁すんなよ。つか、男の癖にそんな格好して恥ずかしくないわけ?」

「そうだよ。気持ち悪い。何? お前もしかしてゲイだったりする? 俺達を好きになんなよ。お前みたいなのが居るから俺たちみたいな()()の男達が苦労すんだから」

 

 その瞬間、男は吹き飛んだ。

 

 一瞬の出来事だった。私が手を出す前に、秤くんがその大きな拳を力任せに一番笑っていた茶髪の男へぶつけた。男は無様にも地面へ転がり、そして蹲っていた。

 

「な、何すんだよ!」

「こっちの台詞だボケカス。さっきから好き放題言いやがって。俺はなぁ、そう言う男は一番嫌いなんだよ。お前らからは熱の一つも伝わらねぇ」

「熱ぅ? 何訳の分かんねぇ事言ってんだこいつ!」

 

 そう言って今度は金髪の男が秤くんに殴り掛かる。けれど、その拳が秤くんに届く事はなかった。私はその腕を掴み、逆方向に捻る。

 

「いででででで!」

「今痛いのはあんたらに暴言吐かれたこの子でしょうが。つか、何私のクラスメイトを殴ろうとしてんのよ」

「今俺殴られたんだけど!?」

「は? 自業自得でしょ。知らないわよ」

 

 捻った腕を其の儘、関節から折る。その瞬間男は悲痛な叫びをあげて膝をついた。けれどそれが可哀想とも思わず、罪悪感すら湧かなかった。その代わり相手に湧く感情は侮蔑や嘲りなどのあまり良くはない感情であった。

 

 それから男達は叫びながら何処かに行ったが、よく覚えていない。興味もないし、この先思い出す事もないだろう。本当はもっと痛めつけたかったが、此処は往来。人の目がありこれ以上問題を起こすわけにはいかなかった。

 

 星さんの方を振り返る。星さんはえむちゃんを庇う様に前へ出ながらも困惑した顔で私達を見ていた。

 

「大丈夫? 星さん……って、大丈夫じゃないわよね」

「え? あ、いやいや。大丈夫! ありがとね、二人とも」

「良いのよ。私が気に食わなかっただけだし」

 

 そう言って私はそっぽを向く。秤くんも同じ気持ちだった様で「気にすんな」と一言言っただけであとはもう何も言わなかった。

 

 そう言えば、なんだっけ。前にも似たような事があった気がするが、忘れてしまった。どうにも最近物忘れが加速している気がする。最早昨日の晩御飯すら覚えていない。

 少しだけ残念な気持ちになり、手元の鯛焼きをみる。そしてふと、思い立ったのだった。

 

「あ、そうだ。ねえ、もう一個買ってきても良い?」

「まだ食べるつもりかよ。そんなに食ってたら肥っちまうぞ」

「う、うるさいわね。その分明日動くもの」

 

 ふん。と、そっぽを向く。余計なお世話だと内心で愚痴りながら私は鯛焼き屋に向かった。けれどそんな愚痴を口に出来ない辺り、私の中の図星を押された。

 

 別に良いじゃないか。こんな仕事をやっていると食事量も必然的に増えて行くのだから。

 

 そんな言い訳を心の中で呟きながら、私はクリームチーズが入れられた鯛焼きを一つ買った。他にも抹茶やらチョコレートやらがあったが、今の気分はクリームチーズであった。

 

 店員から受け取り、私はそのままスマートフォンのカメラを起動した。そして何枚か写真を撮り、その中でも一番良い写真を加工して、保存する。勿論、ピクシェアに投稿するためである。その見事な出来に、思わず笑みが溢れる。今度もいっぱいいいねが付くと良いなと思いながら。

 

 スマートフォンに夢中になっていたからだろうか。私は後ろからの突然の衝撃に声が漏れた。よろけはしなかったが、それでも結構な衝撃だった。

 

 何事かと後ろを振り向くと、短ランを着た図体の大きい男が此方を見下ろしていた。

 

「あ……ごめんなさい」

「あぁ、すまねぇな」

 

 そう言って、此方を一瞥した後、彼はそのまま踵を返す様に立ち去った。

 

 後ろ姿を見ながら、呆然と立ち尽くす。あんな筋肉が付いた男は、呪術師にもそう居ない。もし彼が呪術師であったなら、呪術界も安泰だろう。

 

 まぁ、私如きが考えても意味ないのだが。

 

 そう考えながら、まだ冷めていない鯛焼きを食べる。クリームとチーズの甘さが口内に広がる。そんな少しの幸福を感じ、私は辺りを見渡す。みんな笑っていて、幸せそう。そんな光景が、少しだけ眩しい。明日には見納めだと思うと、どこか寂しい思いがするのであった。

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