呪術のセカイ   作:猫山紅葉

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 たとえそれがエゴだったとしても、手を伸ばしたかった。底に居る貴女を、少しで良い、光のあるところに引き上げたかったのだ。


第七十三話 手を伸ばす

「え……な……?」

 

 奏が、瑞希が、雪が、ミクが、私を信じられないと言うような目で見る。当然だ。今の私は入院服を身に纏っており、身体も包帯で覆われて居るのだから。それこそ、初めて対面にて会った時より私の身体はボロボロである。最早立っているだけでもやっとだった。

 

 けれど、そんなことはどうでも良い。私はKにスマートフォンを返しながら目の前で困惑した表情をしている雪を真っ直ぐと見据える。

 

 本当は来る予定なんてなかった。けれども落ち着かなかったのだ。雪が消えることも、瑞希と奏だけに雪を任せるのも。まるで私が安全圏で傍観している卑怯者の様に思えて仕方がなかった。

 

 だから、会いに来た。全てをかなぐり捨ててでも、私が行方不明になったと騒がれても、私は雪を止めに来た。葛藤していないと言えば嘘になる。けれどもそこまでして雪の元に来たのは、理由があった。

 

「文句って……私はあなたに文句を言われる筋合いなんてないけど」

「あんたねぇ、あれだけこっちを煽っておきながらよくもまぁそんなぬけぬけと……まぁいいや」

 

 雪の言葉に少し腹を立てつつ、今はそんな事を言っている場合ではないと、途中で飲み込む。

 

 言いたい事はそこではなかった。

 

 色々考えたけれど、矢張り腹が立つのだ。こっちが非術師の為に命を賭して戦っていると言うのに、どうして消えたいなんて言えるのか。まぁ、非術師は呪術師の存在を知らないからと言われればそれまでなのだが、こう、立つのもしんどい程に己の身を削った結果がこれだと考えると、本当に心底腹が立つ。

 

 だから、文句を言いに来た。消えたいと嘆く雪の首根っこを掴んで引き戻す覚悟で。

 

「何なのあんた? 何であんたは、私が欲しくて欲しくて堪らないものを当然のように持っていながら、消えたいとか平気で言えるわけ?」

「……何、言ってるの? 私は何も持ってない、ずっと……ずっと!」

 

 そう言って、雪は声を荒げる。まるで堰を切ったように、声を張り上げながら叫んだ。私は今迄、雪のこんな姿は一度たりとも見たことがなかった。

 

「Kも、Amiaも、えななんも、もういい加減しつこい! 出てって! 私のことなんて何も分からないくせに、勝手に入ってこないでよ!」

 

 そんな雪の声が、無限に続いているセカイに反響する。壁なんてないのに。それ程までに雪は我を忘れていた。

 

 私と瑞希が雪の声に戸惑っていると、奏が一歩、前へ出る。

 

「…………わかるよ」

 

 その一言が、雪をハッとさせた。そんな雪を気にする様子もなく、奏はただ淡々と話す。

 

「雪、わたし達に言ったよね。本当は消えたいんでしょって。そうだよ。わたしも本当は消えたくてしょうがない。わたしは自分の曲で……一番大切な人を不幸にしたから」

「え……」

「……わたし、作曲家だったお父さんがいるの。お父さんは、自分の音楽でたくさんの人を幸せにしたい、って思って、ずっと頑張ってた。わたしはお父さんみたいになりたくて、曲を作り始めた。でも、わたしの曲が……お父さんを追いつめた」

 

 そう話しているうちに、奏は苦しそうに胸を抑える。本当に、奏にとってそれは苦しく、悲しい記憶なのだろう。けれど雪を止めるために、奏は自分を押し殺して言葉を紡ぐ。それは一種の自傷行為に思えてならない。

 

 ……私の感覚では初耳なのだが、どうにも聞き覚えのある話である。さてはまた記憶を失っているな。まったく、本当に厄介な病気である。

 

 奏は苦しそうな顔をしたまま、それでも口を開く。まるで懺悔をするように、奏は震える声を出した。

 

「お父さんはずっと苦しんでたの。自分の作る曲は、古くて、受け入れられないって。わたしはそれに気づかないで、無理して笑ってるお父さんに自分が作った曲を聴かせた。……それが、お父さんを余計に追い詰めた。自分には、こんな曲は作れない……って思わせた。お父さんは絶望して、倒れて……。もう、曲が作れなくなった」

「それは……でも、本当に奏のせいなの……?」

 

 瑞希の言葉に、一瞬奏は押し黙る。けれど奏は顔を歪ませながら笑った。

 

「……わたしのせい、だよ。わたしがお父さんを傷付けて、お父さんにとって一番大切な音楽も、未来も奪った。だから──どうしようもないくらい消えたくなった。でも、お父さんは、わたしに曲を作り続けるんだよって言って……だからわたしは……誰かを救う曲を作り続けなくちゃいけないって思って、生きてる。どれだけ絶望している人でも救える曲を、消えたくても作り続けなくちゃいけないって」

 

 そう言って、奏は雪を真っ直ぐと見る。

 

 どれだけ絶望している人でも──か。

 

 口で言うのは簡単だ。けれど実際人を救うと言うのは救う側の労力をゴリゴリ削られる行為である。

 

 私ですら、今迄救えた人間は片手で数えられる程度だと言うのに。それが一少女である奏が行うというのは、どれだけの労力と精神力を消費することだろうか。

 

 奏も、それは重々承知の上だろう。それでも奏は雪を救おうとしている。

 

 業火の中に迷わず身を投じるかの如くであった。

 

 雪はそんな奏を見て、フッと、口角を上げた。

 

「…………そう。Kは、お父さんに呪われてるんだね。消せない呪いがあるなんて、かわいそう。でも私は、Kの呪いなんてどうでもいい。そんなものに私を巻き込まないで」

「……は?」

 

 雪から投下された言葉に、私は思わず言葉が漏れる。

 

 雪……自分が追い詰められているからって、何を言って良くて駄目なのかごちゃごちゃになっている。

 

 ……いや、本当は解っているのかもしれない。解っていて、それでも奏を引き剥がす為に敢えて言っている可能性もある。まぁ、だとしたら余計たちが悪いのだが。

 

 だからといって言って良い事と悪い事がある。

 

「雪。それはないんじゃない」

「……なにが言いたいの? えななん」

「そのままの意味よ」

 

 聞いているだけじゃ我慢がならず、でしゃばりだと分かりつつ、私は口を挟んだ。元来私は感情を我慢するのに向いていないのだ。瑞希は困惑した顔で「絵名!?」と私の身体を片手で抑えた。私が手を上げるとでも思っているのだろうか。

 

「あんたの事は分かんないけどさ、それでも赤子のようにいやいやと首を振るんじゃなくて、本当に救われたいのなら差し出された手を、握っても良いんじゃない? 少なくともさっきの発言は奏に謝るべきね」

「……分からない? 分かる筈だよ。えななんには、私の気持ちが。えななんと私は、似ているからね。だってえななんも、消えたいって思ってるんでしょ?」

 

 そう言って、雪は見透かしたように私を見る。それは私の奥底を見るかのようであった。

 

 私が雪に既視感を抱いていたと同時に、雪もまた私に対して既視感を抱いてたらしい。当たり前か。今迄の私はお世辞にも嘘や誤魔化しが上手かったかと言えば首を捻らざるを得ない。

 

 けれど、似ているけれど違う。

 

 雪と私は、決定的に根本的なものが確実に違う。

 

「……そうだよ。私は消えたい。跡形もなく──死んでしまいたい。何回もそう思った。このまま死んでしまった方が楽なんじゃないかって。でも、私には死ぬという選択肢すら許されないの」

 

 私はそう言いながら、雪の方へ歩いていく。そうして、雪の手を握った。雪の手は、優しい程暖かかった。

 

「だから、あんたはその分、自分の好きな道を見つけ出して進んで欲しいの。私には絶対出来ない事だから」

「……じゃあ何? 私はえななんの分まで苦しめば良いの?」

「うん。そう言ってる。雪には、私の分まで幸せになって、苦しんで欲しい。それに、雪は私が欲しいものを持ってるからね。期待されて、望まれて。あんな凄い作品を作れる。だから、持ってない人の分まで苦しみなさいよじゃなきゃ、あまりにも私が報われない」

 

 きっと、それこそが〝生きている〟と言うことなのだろうから。

 

 私の言葉に、雪は目を見開いた。

 

 私には、自由に未来を選べなかった。だからその分、雪には自分を殺すことをして欲しくなかった。雪だけじゃない。奏も、瑞希も。みんな、幸せになって欲しい。その為に私は歯を食い縛って呪霊を祓っているのだから。

 

 みんなが、笑顔でなくても前を向いて生きてくれるのなら、私に刻まれた傷も、少しは愛おしく思えるのだ。

 

「……私の曲がすごいかどうかなんて、えななんの分とか、そんなの、どうだっていい。私がほしいのは、すごい曲じゃない。誰かの称賛でもない。私はただ──見つけたかっただけ。でも、そんなの無理だって分かったから、もう、どうでもいいの」

「じゃあ、雪はいつから自分を探してるの?」

「……? 中学三年からだけど、そんなの今関係ないよ」

「じゃあ雪は、()()()()()で諦めるわけ?」

「なん……────!?」

 

 雪が言い終わる前、私は雪の手を強く自分の方へ引っ張る。雪の紫の目が、私の目を捉えた。

 

「たった二年で諦められる程、あんたは自分を探すのを諦めるの!? その程度の想いだったの!? 違うでしょ! あんたの想いはこんな場所を作ってしまう程、大きくて抱えられない程大切なものな筈よ! だったら、何年、何十年掛かっても、消えたい程苦しんでも手を伸ばして探しなさいよ! 今見つからなくても、これから先見つかるかもしれないでしょ!? それなのに、なんでそんな簡単に消えたいなんて言えるのよ!」

 

 私には、その全て許されないと言うのに。

 

 いつの間にか声を荒げていたようで、私は息を荒くしていた。手を引かれている雪ですら、目を見開いて私を見ている。

 

 だって、本当にムカつくから。たった数年程度で自分を探すのを諦めるだなんて、そんなの、絶対に許さない。私だって記憶を失っても必死に取り戻そうと頑張っているのに。どうして雪が諦めるだなんて言えるのか。

 

 怒りやら悲しみやらが限界に達し、頭に鋭い痛みが走る。これはいつもの痛みではなく、純粋に、ただの頭痛であった。自律神経が乱れたとも言う。 

 

 私達の何とも言えない空気に割って入ってくれたのは、今迄静観していた瑞希であった。瑞希は雪の腕を掴んでいる私の手に、ソッと触れた。

 

「ボクは雪の気持ちちょっと分かるな」

「Amia……?」

「ほら、天才だろーがカワイイ子だろーが、キツいことってあるし? 雪がどんだけすごい曲を作れても、一番ほしいものが手に入らないなら雪にとって意味ないと思うんだよねー。それにやっぱり苦しさの基準って人それぞれだし、えななんにとってはたった二年でも、雪にとってはそうじゃないのかもね。だからボクは、雪が消えたいなら好きにすれば良いと思うよ。ボク達がいろいろ言ったところで、雪の問題は雪にしかわかんないんだからさ」

「…………なら」

「……でもさ、なんとなく、ボク達って似てるような気がしたんだ。周りに少しずつ自分の形を変えられそうになってるところがさ。それに抵抗したり、受け入れたりして──そうやって必死になってるうちに疲れて、全部どうでもよくなっちゃう。……そんな感じが、似てるなって。あんまり、この気持ちをわかってくれる相手っていないからさ」

 

「だからボクは……雪がいなくなったら、ただ寂しいって思うよ」と、瑞希は悲しそうに言った。

 

 ……前から思っていたことだが、瑞希は今年高校に入ったばかりだと言うのにどこか達観している節がある。

 

 それが良いことなのか解らないけれど。

 

 寂しい……か。確かにそうなのかもしれない。私もまふゆが消えると考えたら、何だか心にぽっかりと穴が空いたような、そんな感覚になる。その気持ちが寂しいと言う名の感情だとしたら、納得が出来た。

 

「……勝手なことばっかり」

 

 そう、雪は呟く。その声はひどく震えていた。見ると雪は俯き、手を固く握り締めている。

 

「勝手に嫉妬して、勝手に共感して、勝手に救おうとして……分かったようなことばかり。もうやめてよ。私は消えたいの。それが、本当の想いなの」

「……それでも、わたしは雪を救いたい」

 

 奏の言葉が、雪の何かに触れたのだろう。雪は今迄で一番感情を露にした。

 

「──もう疲れたの! 希望があるかもって……まだ、見つかるかもって思うのが。だったら、最初から見つからないって思えてた方が楽だった。だから、もう……もう……! もう、救われるかもなんて、思いたくない!」

 

 それは、絶叫にも似ていた。張り裂けてしまいそうな雪の声は、あまりにも苦しかった。

 

「もう、疲れたの! 探しても、探しても、探しても探しても探しても! 見つからなくって……っ、また探して、違うって、絶望して……もう、これ以上……どうしようもないじゃない……っ」

 

 そう言って、雪は泣いた。それはまるで迷子の子供のようであった。

 

 ──いや、まふゆは、きっと迷子なのだろう。自分が何処に居るか分からず、ずっと彷徨っている。出口も分からず、明かりのない迷路を、永遠と。それはどれだけ孤独で、虚しいものだろうか。

 

 ほんとつくづく、私と似ている。そんな気持ちが痛い程分かってしまう私が、心底憎たらしかった。

 

「──わたしが作り続ける」

 

 雪の言葉に間髪入れずに言葉を発したのは、奏だった。雪はそんな奏を呆気に取られた表情で見ていた。

 

「この曲で本当に雪を救えなかったとしても、救えるまで作り続ける。雪が自分を見つけられるまで──ずっと作る」

「……何言ってるの?」

「ずっと作る。お父さんの呪だとしても。わたしはもう、わたしの目の前で誰かが消えるのを見るのは嫌なの」

 

 

 ──化け物!!

 

 

「────!」

 

 殴られたように、頭が痛くなる。その衝撃に、わたしは後ろにある三角のオブジェクトに背中をぶつけてしまった。幸いにも四人には気付かれることなく、体制を立て直すことが出来た。

 

 ……吃驚した。急に私の地雷を踏まれるのだもの。いや、奏は何も悪くない。悪いのは油断していた私だ。

 

 それに驚愕したのはそれだけではない。奏も同じ心持ちなことに、とても驚かされたのだ。

 

 私も、似たようなことはある。目の前で誰かが死んだ事も──自らの手で殺したことも。だからこそ分かるのだ。目の前で誰かが消えた時の感情は途轍もなく不快だということに。

 

 不快? いや、違う。その言葉はこの感情に相応しくない。では何か。

 

 ……悲しいのだ。目の前で知っている人間がか消えていくのは、やるせない。

 

「……自分が何を言っているか分かってるの? そんなの、もうひとつ呪を増やすようなものじゃない! 私が私を見つけられるまで、Kはずっと曲を作り続けなくちゃいけない! それを……!」

「うん。わかってる」

「……どうして……そこまで……」

「それは」

 

 そこまで言って、奏は決意したように雪をさ見た。

 

「わたしの、ただのエゴだよ。どの道わたしは、ずっと曲を作り続けなくちゃいけない。だから雪の分が増えたってなんでもないよ」

 

 奏は、一歩も引かなかった。まるで足にしがみ付いているかのように、奏は雪を捕らえて離さなかった。そんな奏の様子に、困惑した表情を浮かべる。けれどその表情には少しの希望が見えた。

 

「……わからない。見つかるまで、どれだけかかるかもわからない。見つからないまま終わるかもしれない。それでも……本当に、やるの?」

「うん」

 

 こそまで言って、雪は力が抜けたように項垂れた。恐らく奏に何を言っても無駄だと分かったのだろう。観念して、雪は口を開き、そして、笑った。

 

「はは。そんな必死になって馬鹿みたい……」

 

 そう言って、ずっと笑っている。言葉尻的にこれは奏に向けて放たれた言葉なのだろう。けれども私には自分に対して笑っているように見えた。本当の事は雪にしか分からないのだが。それでも先程の剣幕とは裏腹に、ゆきは少しだけ、穏やかな顔になった。それは決して取り繕いの笑みではなく、本当に、ポロリと出たものであった。

 

「…………。なら、もう少しだけ……探してみるよ。本当に──ずっと作り続けてくれるんだよね」

「……うん。大丈夫だよ、雪。絶対に、いつか救って見せるから」

 

 雪と奏の言葉を聞いてから、私はオブジェクトに体重を預けながら座り込んだ。ホッとしたら急に力が抜けたのだ。

 

 なんとか、なった。

 

 取り敢えずは消える事を反故にすると言う言葉を聞き出せただけ、良しとするか。何ならお釣りが来る程である。何か話している奏と雪を横目に、私はスマートフォンを見た。時間はもう一時間程経っており、もうそろそろ戻らないと不味いかなと思っていると、突然瑞希が私に抱き着いてきた。

 

「いやー! 本当に良かった! 一件落着だね! ボク達頑張った!」

「まぁ、一番頑張ったのは奏だけどね」

「あっはは。それはそうだ」

 

 この中の一番の功労者は誰が何と言おうと奏である。雪の為に曲を作り、雪の為に世界に来て、根気強く雪と向き合った。それがどれ程の労力を使うか、私は痛い程分かる。

 

 まぁ、かく言う私は別に何が出来た訳ではない。ただ雪に感情をぶつけただけ。まったくと言って良い程何も出来ていない。どころか事態を悪化させてしまった恐れもある。本当に申し訳ない。

 

「ま、ボクとしてはまだまだ問題が山積みな気がするけどねー」

 

 そう言って瑞希は私の身体を見る。そう言えば雪の事で忘れていたが、今の私は入院服に包帯まみれと言う誰がどう見ても訳ありの姿をしている。瑞希としては説明が欲しいところだろう。

 

 けれども本当の事を言える訳もない。術式が暴走して傷口が広がったなんて言われても瑞希は分からないだろう。どころか頭がおかしくなったと思われてしまうかもしれない。それは絶対に嫌だ。

 

 私は誤魔化すように手を適当に振って瑞希を追い払う。何を言っても無駄だと判断したのだろう。瑞希は少し腑に落ちない顔をするも、それ以上聞いてこなかった。

 

 私達がそんな遣り取りをしていると、ずっと静観していたミクが口を開いた。

 

「……よかった。本当の想いをみつけられたんだね。これでやっと、一緒に歌えるね」

「……歌える?」

 

 思わず聞き返してしまう。ミクはそんな私を一瞥して、上を見た。

 

「本当の想いから、歌が生まれようとしている。ほら……」

 

 目を閉じて耳を澄ませるミクに倣い、私達も耳を澄ませた。するとどこからともなく音楽が流れ出した。

 

「もしかして、これがミクが言ってた……?」

 

 そう言えば以前、本当の想いから雪の曲が生まれると言っていた。それが、この曲なのだろう。雪はミクの言葉を聞いて、首を捻る。

 

「この歌が、私の本当の想い……? でも私はまだ、何も見つけられていないのに……」

「ううん、まふゆは見つけられたんだよ。セカイが……そして歌がここにあるのがその証拠」

「ここに……私の想いが……」

「うん。だから一緒に歌おう」

 

 どうやらこの曲をミクと雪で歌うらしい。何も出来なかったけれど当事者になってしまったのでなんだか感慨深いものがある。

 

 ハッピーエンド……と言っていいのか分からないけれど、それでもマシな終着点なのは間違いない。誰も消えずに済んだのだ。これで良しとしよう。

 

 すぐにでも帰りたかったが、まぁ、二人の歌を聴いてからでも良いか。そう思い清聴の体制に入ると、ミクからとんでもない言葉が飛び出た。

 

「さぁ、五人で歌おう」

「……なんだって?」

「まふゆと、奏と、瑞希と、絵名と歌いたい。本当の想いは、あなた達がいなければ見つけることができなかった。だから、一緒に歌おう」

「……さいですか」

 

 ミクの言葉に、私は何にも言えなかった。ここで断って無理矢理帰っても後で痼が残るだけだ。体も痛いし、本当はこう座っているだけでもしんどいのだが、それでもこの大団円を締め括れるのなら、安いものだ。

 

 私は痛む体に鞭を打ち、ゆっくりと立ち上がる。そうして息を吐いてミクを見た。

 

「言っとくけど、自信ないからね」

「大丈夫。歌は、自由だから」

 

 その言葉と共に、音楽は大きくなる。まるで私達を包みこんでいるかのように、けれども激しく。

 

 あれが、雪の想いなのか。中々に悪くないと、私は五人で歌いながそう思ったのだった。







そろそろ番外編を書きたいのでアンケートを募集させてください!

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