Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける 作:お薬二錠
結構捗ります。
彗星の如く現れた覆面で素顔を隠すミステリアスなバンド【Ave Mujica】演奏技術はさることながら、素顔を暴いたメンバー自身も大人気アイドルや有名人の娘など一人一人が話題性を持っていた。
そんなバンドに解散説が出れば、マスコミはこぞってその甘い汁に群がるだろう。
「どうすんのこれ」
控え室に集まった私達。祐天寺さんが投げ捨てたのは今朝の新聞で、そこには大きく【Ave Mujica デビューから最速解散!?】と書かれていた。
「アンタ自分が何言ったか分かってる?長くは続かないって、ここからだって時に何言ってんの!? アタシにとって今が自分を売り込む大事な時なの!それなのにこんな……動画のコメ欄も解散解散ってマジで最悪!!」
「やめろ祐天寺。若葉を攻めたって何も変わらない。大事なのはこれから先どう動くかだろ?」
千明希が睦を庇ってくれているが、私にそんな余裕はなかった。
(解散?Ave Mujicaが?どうして?またバラバラに…私の世界が終わってしまう。どうしていつもいつも……また、ここでもうまくいきませんの?)
「アンタの意見なんて聞いてないから黙ってて!そもそも小さい頃からテレビとか出てたじゃん?インタビューとか慣れてんじゃないの?」
「にゃむちゃん、睦ちゃんも悪気があったわけじゃないんだし」
「ウイコはいいよ。Ave Mujicaが無くなってもsumimiがある。ウミコも別のバンドがあるし、ムーコもサキコもAve Mujicaが無くなって困ることはないでしょ?アタシはここからなの!それなのに、それなのに邪魔しないでよ!」
「祐天寺さん、流石に言い過ぎです。それにムジカが無くなったら私、困ります」
「それ本気で言ってる? てかサキコもいい加減何か言えば?それとも幼馴染だからって許すわけ?」
鏡越しに俯く睦に目を向ける。一瞬顔を上げた時に目と目があったが、睦は後ろめたさからか慌てて視線を逸らした。
「……私の責任ですわ。睦、今後は発言にプロとしての自覚をお持ちになって」
「ごめ……私……」
初めて見る顔だった。いや、忘れているだけで幼い頃見たことがあったのかもしれない。私はこの時、
Ave Mujicaを結成してから始めて睦の顔をまともに見たような気がした。
「若葉さん、そろそろの次の仕事に向かわないと」
「……うん」
「若葉さん?」
「送ってく。今日はこれで解散でいいだろ?」
「……ええ。睦を、頼みますわ」
「分かった」
千明希の後に続く睦の歩きはたどたどしく、目を向けられないほどに弱っているのは一目瞭然だった。それでも私はやり遂げなければならない。今まで積み上げてきたモノを捨て、新しく生まれ変わった私に後戻りは出来ない。AveMujicaは私そのものなのだから。
睦の仕事を終え、俺は彼女を家まで送り届けていた。
事務所を出てから俺達の間に会話はなく、睦はずっと俯き気味に歩いている。
有名人の子として見られることを嫌う睦にとって、今のAve Mujicaの状況は最悪だ。やはり仮面を外すのは悪手だし、こうなることを考慮しメンバーとして勧誘するべきではなかったのではないかとも思う。
「睦、着いたぞ」
家に着いても睦は口を開こうとしない。
「おかえりむつみちゃん! 千明希君も送ってくれてありがとうね」
「いえ、それじゃ俺はこれで」
「待って!」
睦は慌てて俺の服の袖を掴んだ。
「睦?」
「あ、えっと……」
「……すみません。みなみさん、睦さんと少し話したいので上がってもよろしいですか?」
「もちろん!後でお茶持って行かせるわね」
「ありがとうございます」
何かを考え続け動けないでいる睦の手を引いて、俺は地下のスタジオへ向かった。
スタジオは最低限の照明だけが付いており、夜ということもあって少し肌寒かった。
睦の隣に座りいただいたコーヒーを飲みながら、俺は彼女が話し始めるのを待つ。睦は俺の方を見て何か話そうと口を開くが、踏ん切りがつかず俯くというのを何度も繰り返していた。
(俺から切り出さないと厳しいか)
「前来た時も思ったけど、ここのスタジオは昔から変わらないね。小さい頃、みんなで楽器持って演奏会ごっこしたのが懐かしいよ」
祥子はおもちゃのキーボード、睦は子ども用のギター、俺はおもちゃの太鼓でよく演奏会をしていた。子どもの演奏だから完成度は低くて、でもそんなの気にならないくらい三人で音を合わせるのは楽しかった。睦の両親、祥子の両親も俺達の演奏を楽しそうに聴いてくれていた。
「むっちゃん、Ave Mujica楽しいか?」
睦はしばらく考えて首を横に振った。
「ライブの練習や取材、撮影ばかりで疲れるもんな」
「千明希は、何でAve Mujicaやってるの?」
落ち着きを取り戻してきたのか、睦は口を開いてくれた。睦にとって祥子は幼馴染以上の存在。彼女が祥子を大事に思っていることは、二人を見ていれば分かる。だからきっと、
「俺は……多分むっちゃんと同じ理由」
「祥のため?」
「そういうこと。劇の台本、舞台の演出、作曲に大人達とのやり取りもお嬢全部一人でやっちゃうでしょ?それに加えてメンバーのこと見たりなんて、流石に無理がある」
「…自分が始めたバンドだから、責任を取るのは当然だ……って」
「お嬢が言いそうなことだ。気持ちは分からなくはないけど、お嬢ももう少し肩の力を抜いてほしいんだけどね。いくら自分がつくった大事なバンドだからって」
「だからあの時、あんなに怒ったんだ」
「あー、それは出来れば忘れてくれ。あまり思い出したくない」
「あれは良くない……千明希が出て行った後、雰囲気最悪だった。でも……千明希が祥を、大事に思ってるって改めて分かって安心…した……」
「大事に思ってるのはむっちゃんも同じだろ?一度ちゃんと話すべきだよ。今後のAve Mujicaについて。今のままじゃ、むっちゃんいつか倒れちゃうよ?話す時は俺もいくから。ね?」
「うん……そう…する……」
彼女が話し終えると同時に、ぽすんと肩に何か乗せられ重みが増すのを感じた。
「むっちゃん?」
隣を見ると睦が穏やかな表情で寝息を立てているのが見える。最近忙しくてあまり眠れていなかったのか、彼女の目元にはくまが出来ていた。
「……お疲れ様です」
優しく頭を撫でると、くすぐったかったのか表情を少し歪ませる睦。しかしその表情が穏やかな笑顔に変わったのを見て、俺はもう少し彼女に肩を貸してあげることにした。
懐かしい夢を見た。小さい頃の夢だ。私と祥と千明希の三人で遊ぶ夢。
ある日、近くに住む幼馴染の祥がいつもより明るい笑顔で家にやってきた。
「むつみー!きょうはしょうかいしたいひとがいますわ!」
そう言う祥に手を引かれてやってきたのは、無愛想な目つきの小さな男の子だった。
「だれ?」
「このこは、わかばむつみ。わたくしのたいせつなおともだちですわ!むつみのごりょうしんはすごいんですのよ!なんと!おわらいげいにんとじょゆうさんなんですの!」
「……わかばむつみ」
「……ふたみちあき」
今までは祥と二人で遊んでいたが、その日から千明希を入れた三人で遊ぶのが日課になった。祥は一人っ子と言っていた。それじゃ千明希との関係は?
「うーん、わたくしもよくわからないのですが、ちあきはわたくしのかぞくですわ!」
「おにいさん?」
「いえ!わたくしがおねえさんですわ!」
「うそつけ。よるひとりでトイレにいけないからっておこされるのはおれなんだけど」
「ち、ちあき!それはいってはいけませんわ!」
千明希は口は悪いけど、祥のことを大事にしていた。二人は本当の姉弟のように仲が良かった。千明希も祥と同様に私のことを若葉睦として見てくれていた。たあくんやみなみちゃんの周りにいる大人達の様な気持ち悪い目で見てこない。
『だから好きになった』
違う
『千明希君は私のことも祥子ちゃんと同じくらい大事にしてくれる』
違う 千明希はただの友達
『何で自分に正直にならないの?本当は自分だけのモノにしたいくせに』
違う 私はそんなこと思ってない
『だって、今日彼が家に来てくれて嬉しかったでしょ?』
嬉しかった
『久しぶりにぐっすり眠れたもんね』
千明希の隣がすごく落ち着いた
『千明希君は祥子ちゃんにも優しい。でもそんな千明希君を祥子ちゃんは捨てた』
違う!祥も千明希を必要としている!
『捨てられた千明希君かわいそうだった。奪っちゃえば良かったのに』
祥が大事にしてる もう壊したくない!
『いいじゃん別に祥子ちゃんが壊れても』
何で そんなこと言うの
『祥子ちゃんは今の睦ちゃんなんてどうでもいい。必要なのはモーティス。話題作りのための若葉睦』
違う そんなことない
『それじゃ何で祥子ちゃんは助けてくれないの!?祥子ちゃんはいつもいつも自分のことばかり』
祥はずっと 辛い思いをしてきた
『だったら睦ちゃんにも同じ思いさせていいの?おかしいよねそんなの』
私はもう 祥にも千明希にも 傷ついてほしくない
『その選択は間違ってる。それで傷つくのは睦ちゃんだよ』
私はそれでも 構わない
『バカな私』
ゆっくりと意識が覚醒していく。
私はソファの上で横になり、身に覚えのない毛布がかけられていた。
「千明希?」
スタジオはまだ薄暗く、私はついさっきまで横にいた彼の姿がないことに気づき名前を呼ぶ。でも帰ってくるのは静寂で、彼の姿はここになかった。
「帰った…の?」
テーブルの上に書き置きを見つけた。千明希の字だ。
ー祥子が熱を出したって初華から連絡が来た。様子を見てくるから今日は帰る。むっちゃんもしっかり休んでー
『ほら、千明希君は祥子ちゃんが大事なんだ。いいの?このままで』
「黙って!」
分かってる。しょうがないことだって分かってる。千明希は祥に、祥は千明希に。お互い好意を抱いてることくらい見れば嫌でも分かる。それはきっと仲違いした今も変わってない。
仕方ない……仕方ないことだから……
「千明希……好き……」
伝えたくても伝えてはいけない思いが溢れてしまっても、許してくれるよね
キャラ紹介
若葉睦…幼い頃からギターを弾いてきたので演奏技術はかなり高い。でも本人は納得しておらず、それが理由でバンドを楽しめないとのこと。千明希が好き
若葉睦?…作者大好き若葉睦。彼女が最後を迎えたのか、睦ちゃんの中でひっそり生きているのか私とても気になってます。睦ちゃんが好き。千明希が好き。祥子ちゃんは嫌い
読んでいただきありがとうございます
次回も楽しみにしていただければ幸いです