Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける 作:お薬二錠
でもギスギスした話も書きたかったんです。AveMujicaだから
若干キャラ崩壊注意かもしれません
目が覚めると、見覚えのない布団の中にいた。
(……ここは?)
見渡してもこの部屋に覚えがない。天井がすぐ近くにあり、登り降りするための梯子が目に入る。俗に言うロフトと呼ばれる場所に自分はいるのだと理解できた。ただ、なぜ自分がここにいるのか思い出せない。そしてここが誰の家なのかも……
その時、手に何かが触れる。それが氷の入った氷嚢だと気づいた時、私はようやく昨夜のことを思い出した。
クソ親父にいなくなってくれと言われ、私は帰る場所を失った。それからは事務所で寝泊まりしていたのだが、その日は運悪くsumimiの仕事で遅くまで残っていた初華に見つかってしまったのだ。
良ければうちに来てほしいと言う初華からの誘いを断ったのだが、これまでのAve Mujicaの活動で無理をしすぎたのか体調を崩してしまった私は、初華の誘いに甘えることにした。
(ここは初華の家ということですわね。帰り道を初華と二人で歩いたのは覚えていますが……何故かしら家に着いてからの記憶がありませんわ)
その時、下から物音が聞こえ私は身を乗り出して覗き込んだ。
「初華…?」
「おはよ、体調はどう?」
え?下を覗くとそこにいたのは千明希。何で?だってここは初華の家で千明希がいるわけなんてない。あれ?そう言えば私は今起きたばかりの姿。
「きゃーーーですわーーー!!」
「え?は?なになになになに!?」
寝起きのみっともない姿を見られたと思い込んだ私の、橋の上で叫んだ時よりも大きな声が部屋中に響き渡った。
「はっ!祥ちゃんが危ない目に、いや危なくはないけど、千明希君と何かイケナイ雰囲気になってるような気がする!」
「初華ちゃ〜ん、次のお仕事行くよ〜」
静かな部屋の中で食欲を促進させる香ばしい匂いと、何かを混ぜる音だけが聞こえる。千明希がたまごがゆを作ってくれている間に、私はようやくハッキリとしてきた頭で現状を再確認した。
ここは初華の家。しかし家主である彼女はsumimiの仕事で家を出ているそうだ。その代わりに千明希が私を看病してくれている。つまり、今この家には私と千明希の二人きりだ。
「なるほど、そういうことでしたの」
私はついに、一つの真実に辿り着いた。
「これは夢!疲れすぎてリアルのある夢を見てるに違いありませんわ!そもそも何で千明希が初華の家のキッチンで何不自由なく料理していますのよ。どこに何があるか疑問に思うこともなく、素晴らしい手際で今もわたくしのためにたまごがゆを用意してくれている。それに……私の身勝手で千明希を見捨てたのに、看病をしてくれる訳がありませんもの」
ここが夢の世界なら何をしても現実に何の影響もない。だったら私はオブリビオニスではなく、豊川祥子でいたい。夢の中だけでも、偽ることなく、自分の気持ちに正直にいたい。今、この時だけわ……
「お嬢、たまごがゆ出来たよ」
「ありがとうございます。ふふっ。千明希はもう私の執事ではないのではなくて?」
「あー、職業病だなこりゃ。頑張って直すよ」
「いえ、そのままで構いませんわ。あなたにはずっと私の執事で……いいえ、そばにいてほしいって思ってますもの」
鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔で千明希が固まっている。次第に顔色がどんどん赤くなり、千明希は慌てふためき始めた。
「は?は!?きゅ、急にどうしたのお嬢。まだ熱ある?」
「そのようですわね……あなたのおでこで熱を測ってくださる?」
「え……それって……」
「昔やってくれたではありませんか。子どもの頃、おでことおでこを合わせて私の熱を測ってくれたでしょう?」
「いや!あれは子どもの頃の話で俺たちもう高校生」
「高校生だってまだ子どもですわ。ほら、千明希」
前髪を上げておでこを顕にする。千明希はしどろもどろしながらも、おでこを上げゆっくりと私に近づいてきた。
「どうかしら?」
「いや、ご、ごめん。この部屋暑いのかな?ちょっとよく分からないわ。た、たまごがゆ食べよ!」
「ええ、いただきますわ」
恥ずかしいのか慌てて話を逸らす千明希が面白くて、可愛らしくて笑みが溢れる。
夢の中とはいえ、大胆すぎるだろうか?いや、これくらいしてもいいはずだ。
母を亡くし、父は壊れ、最高の友、最愛の人を自ら手放した。そして今、偽りの自分で自分自身のためにバンドを組んでいる。メンバーを私利私欲のために利用している。汚れきってしまった。深いところまで落ちた。自分でも目を背けたい人生だと思う。だけど今は、私を照らしてくれる人が目の前にいる。この人に甘えたい。この光に包まれていたかった。
あれから千明希と色んなことをした。
たまごがゆを食べさせてもらったり、昔話をして笑い合ったり。あんな別れ方をしたから、こんなに笑いあえると思っていなかった。これが現実ならと、どれだけ懇願したことか。
「もうそろそろ初華帰ってくるって。今日は祐天寺とのスタジオ練があるからそろそろ行くわ」
夢の中とはいえ千明希が帰ってしまう。それだけで胸が張り裂けそうだった。今この瞬間を深く、根強く、記憶に残したい。何かいい方法はないかと考えた私は小さい頃を思い出して千明希にお願いした。
「ねぇ千明希、少し眠くなってしまったから子守唄を歌ってくださる?」
「……かしこまりましたよお嬢」
「それから手を握って。頭も優しく撫でて」
「はいはい」
初めて会った時、千明希がよく分からなかった。
何かに怯え、恐怖しているような。それでいて、何かに怒り、何かを憎むような目をしていたから。そんな彼だから、初めて見せてくれた笑顔がとても素敵だったのを覚えている。もっと見てみたいと思った。もっと千明希に笑ってほしいって思った。千明希の笑顔を見ることが私の望みだった。ずっと一緒に笑い合いたいと思った。
大きくなっても千明希の笑顔は素敵だった。専属の執事になると皆の前で宣言してくれた時、恥ずかしかったけどものすごく嬉しかった。母の葬式で泣き崩れる私を受け止めてくれた時、千明希もいつかいなくなってしまうんじゃないかって怖くなった。怖くなったから、そんなことないはずなのに、ずっと一緒にいると千明希は言ってくれたのに、別れることを恐れ、自ら手離してしまった。
「千明希……どこにも……行かないで。ずっと……そばに…いてほしい……わがままで、ごめん…なさい……弱く…て……ごめん……なさい」
ー離しません。ずっと、そばにいますー
夢の終わりに、千明希の声で、そう聞こえた気がした
「祥ちゃん!」
初華の大きな声で私は慌てて目を覚ます。
「初華!?どうしましたのそんな大きな声を出して」
「はぁ、はぁ、祥ちゃん…無事!?」
急いで帰ってきてくれたのだろう。彼女は息が上がっており、落ち着くにはしばらくかかりそうだった。
「おかげさまで熱はもう下がりましたわ。ご心配おかけしましたわね」
「そっか…なら、よかった……あれ?祥ちゃん、泣いてるの?」
「え?」
初華に言われて気づいた。確かに頬に触れると一筋の涙が流れていた。
(あんな幸せな夢見たら泣くのも当然ですわ)
「…千明希君なんだね」
「初華?」
拳を握りしめぷるぷると振える初華。なぜでしょう。俯いている彼女から黒いオーラのようなものが見えますわ。
「ユルサナイ千明希君、私の大切な祥ちゃんを泣かせるなんてユルサナイ」
「う、初華!誤解ですわ!これは夢に千明希が出てきて、それがすごく幸せだったから思わず」
「夢に…千明希君が出てきて?ずるい!ずるいずるいずるい!」
「もう何なんですのー!?」
禍々しいオーラを解き放つ初華を宥めるために、その日は同じ布団で寝ることにした。おかげで普段の笑顔が素敵な初華に戻りましたが、人って怖いってことを痛感しましたわ。
「ねぇ!今日ミス多くない!?調子悪いんなら別日にしてよ!」
「……ごめん。集中します」
「え、素直に謝られんの怖いんだけど」
にゃむ曰く、その日の千明希は練習に全く身が入っておらずミスを連発していた。急に顔を赤くしては勢いよく首を左右に振り、壊す勢いで力強くドラムを叩いていたそうだ。
簡単なキャラ紹介
純田まな…おそらく今回が初登場で初セリフ。この子の結末も気になります。sumimi解散なんてバッドな終わり方だけは避けてほしい。この子にも幸せになってほしいです。すごく良い子なので。
三角初華?…ユルサナイユルサナイユルサナイ千明希君ユルサナイ。ずるいずるいずるい私も夢の中で祥ちゃんに会いたい。祥ちゃん祥ちゃん祥ちゃん祥ちゃん!
今回も読んでいただきありがとうございます
次回も楽しみにしていただければ幸いです