Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける   作:お薬二錠

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本日、Ave Mujica最終回ですね。
明日からムジカロスが確定していますが、私大丈夫でしょうか。
なんて思ってたらにゃむちのバースデーグッズが販売されるじゃないですか。イラストすごく良き!買うかどうか迷ってしまいます。


第十三話 モウヒトリノ

Ave Mujicaツアー初日。

 

会場では彼女達を見に来た観客達が、解散説に不安を抱きながらも開演の時をいまかいまかと待ち続けていた。控え室では各々が台本を確認し、今日開かれる仮面舞踏会の最終確認を行なっている。しかし、その中に睦の姿はなかった。

 

「睦ちゃん、遅いね」

 

「前の仕事が長引いてるって連絡は来てるから、もう少ししたら来るよ。俺達は俺たちの準備をしておこう。てか台本に俺のセリフあるけど、俺も出るの?」

 

「当たり前でしょインテリタス。前回の仮面舞踏会で勝手にロフトヌーンの守り手を名乗ったんですのよ?無責任に放棄することなんて許しませんわ」

 

「おっしゃるとおり…」

 

俺は過去の行いを反省しつつ台本に目を通した。プロの脚本家と比べても遜色ない完成度に、祥子の苦労が見て分かる。それに加えてライブの演出の打ち合わせや、作曲も彼女が担っている。Ave Mujicaを立ち上げた責任があるとはいえ負担がかかりすぎではと思ってしまう。

 

「なぁ、おじょ……豊川」

 

「…オブリビオニスですわ。何ですのインテリタス」

 

凛としてそれでいて冷たく突き放すような彼女に声に嫌気がさすが、お構いなしに問いかける。

 

「何か手伝えることないか?台本に演出、作曲までやってたら休む時間なかなかないんじゃ」

 

「余計なお世話ですわ。それよりも、あなたにはメンバーのマネジメントをお願いしましたわね。にも関わらずまだモーティスが来てないなんてどういうことですの?」

 

「豊川さん、スケジュール通りにいかないイレギュラーなこともあります。双海さんを攻めても今はどうしようもないかと」

 

「口を挟まないでティモリス」

 

その日の祥子は珍しくピリついているようだった。Ave Mujicaの命運がかかったツアー初日ということもあって気合が入っているのだろう。言葉遣いなどはいつも通りだが、珍しいことに八幡にも当たりが強いと感じた。

 

「いや、俺の管理不足だ八幡。悪かったな、もう一度睦に連絡してみる。何かあったら言ってくれよオブリビオニス」

 

「…ええ」

 

ちょうどその時、控え室のドアが開き睦が遅れてやってきた。

 

「若…おい!大丈夫か、むっちゃん」

 

睦は見てわかるほどに疲弊しており、クマも酷く呼吸も絶え絶えだった。

 

「時間がありません。モーティスはそのままお聞きになって」

 

しかし祥子はそんな彼女を心配もせず、話し始める。

 

「おいお嬢!若葉の容態見て分からないわけじゃないだろ!少しは心配」

 

「プロとしての自覚をお持ちになって。それは己の発言だけではありませんわ。自身の健康管理も出来ないなんて、プロ失格ですわよ」

 

「お前な!」

 

「千明希君、ストップ!」

 

睦を蔑ろにするあるまじき言動に怒りを覚えるが、初華に止められたことと、過去の行いを思い返し進もうとした足を止める。

 

「今宵は仮面を失った私達にとって初めてのマスカレード。向けられる好奇の眼差しや、解散報道を蹴散らすし、観客をAve Mujicaの世界に引き摺り込まなければなりません。今こそバンドの真価が問われる時。失敗はできませんわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私に言われているような気がした。

指先が震える。足元がふらつく。うまく息ができない。

 

でも!失敗なんかできない!

もう!壊したくない!

次こそはちゃんと!ちゃんと、ちゃんと……ちゃんとやらなきゃいけないのに、どうして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ!アタシの完璧な顔を返して!」

 

「アモーリス…」

 

「こんなの…こんなの本当のアタシじゃない!」 

 

 

気づけば舞台の上にいた。

(本当の私…?)

 

 

「アモーリス、あなたが望んだことですわ」

 

「違う!アタシはこんなこと望んでない!」

 

「無責任だねアモーリス。自分の行いが招いた結果だろ」

 

(自分のせいで……)

 

「月は?月の光ならきっとアタシを輝かせてくれる!」

 

「……残念ですが月は誰も癒しはしない。それどころかどこまでも追い詰める」

 

睦、振り返る

眼前にはたくさんの自分の顔

 

(本当の…私って…なに?)

 

「もう…逃げられない……」

 

「そんなぁ!」

 

「それでも慰めを求めるのなら…すべてをAve Mujicaに委ねなさい」

 

観客の声が一気に上がる。

 

「ようこそ Ave Mujicaの世界へ」

 

しかし、彼女達の音楽が奏でられることはない

 

「む……モーティス!」

 

事切れたかのように椅子に座る人形

もう音楽を奏でることも、自分で立ち上がるもできない彼女は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムジカのライブ、やっぱり最高だった!」

 

「でも一番すごかったのは睦ちゃんだよね!」

 

「あのパフォーマンスすごすぎ!私目離せなかったもん」

 

「生で見れてよかった〜!」

 

 

 

睦の行動はパフォーマンスとして、観客に大反響だった。しかし実際はパフォーマンスでも何でもなく、ギターを間違えた彼女が咄嗟に誤魔化すことができず固まっていただけ。そこを祥子が咄嗟に合わせ、事なきを得たのだ。

 

 

俺は豊川に控え室に残ってほしいと伝え、今彼女と二人きりになっている。右手で左腕を押さえる祥子。彼女はばつの悪そうな顔をしていた。

 

「言いたいこと、分かる?」

 

「えぇ、モーティスのことですわよね……ごめんなさい」

 

「……俺に謝っても意味ないだろ」

 

睦のギター技術は俺達二人がよく知っている。普段ならあんなミスは絶対しない。つまりいつも通りに出来ないほど、仮面を外した代償は彼女に大きな影響を与えているということだ。

 

(くそっ!祐天寺の奴、余計なことしやがって)

 

「私がもっと気にかけるべきでしたわ。モーティスが……睦がどういう子か、昔から知っていましたのに……」

 

「お前一人の責任じゃない。俺達は全員でAve Mujicaだ。責任感じるのは悪いことじゃないけど、頼れる仲間がいることを忘れんな」

 

「仲間……そうですわね」

 

そう言うと祥子は俺に向かって頭を下げた。

 

「ありがとう千明希。あなたがいてくれてよかったですわ」

 

「……話ならいつでも聞くから。お嬢も無理すんなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

控え室を後にし、今日のライブを振り返る。

ツアー初日ということもあり、Ave Mujicaにかかる期待はとても大きなものだった。初華や八幡は場慣れしてることもあって心配はしてなかった。祐天寺も自分の名を売るためにAveMujicaをやっている。これくらいの注目があった方がモチベーションも上がるだろう。睦はやはり、有名人の娘として好奇の目で見られることに抵抗があり、撮影や取材が重なったこともあって今回普段しないミスをしてしまった。祥子は、

 

 

「……意外なんだよな」

 

 

 

彼女には今日、違和感があった。ツアー初日ということもあって緊張していただけかもしれないが、彼女はライブ前に控え室であってからメンバーのことを舞台名で呼んでいた。それに睦に対しての当たりも強かった。

 

(最後は普段通り睦って呼んでたし、お嬢も緊張していただけか)

 

俺は頭を左右に振り、この違和感を取り払う。

まずは自分にできることから。睦のマネジメントをしっかりこなし。Ave Mujicaのツアーを必ず成功させようと心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また一人。ギターを抱えてスタジオのいつもの椅子に座る。勇気を出して千明希に連絡したけど、忙しいみたいで返事は返ってきていない。

 

「私…また…」

 

「睦ちゃん?」

 

暗がりから一体の人形がとことこ歩いてくる。Ave Mujicaの衣装に身を包んだ私によく似た人形だった。

 

「なんでいつも、めちゃくちゃに……ダメにしちゃうんだろう……」

 

「むつみちゃん!」

 

名前を呼ばれて気づく。テレビの収録スタジオのような場所。私と同じくらいの大きさの人形達。自分が小さくなってることに気づいたのは、そんな光景に驚いた時、ふと自分の小さな手が視界に入ったからだ。

 

「本当にかわいいね〜。ママそっくり!」

 

「みなみさんみたいな素敵な女優さんになるのかな〜?」

 

「なに……これ、」

 

「このように睦ちゃんは昔からおしゃべりが苦手でした」

 

Ave Mujicaの衣装に身を包む普段の私が台本を読み上げる。

 

「おしゃべりが苦手なんだ〜。口から生まれたパパに似なくてよかったね〜」

 

「うるさいわ、誰が全身口やねん」

 

「七光?」

 

「二人分で十四光!」

 

「でも可愛い!」

 

昔から周りの大人は私を褒めてくれた。でもそれは私のじゃなくてみなみちゃんとたあくんのもの

 

「私のものじゃない」

 

「睦ちゃんのものなんてなにひとつなかったのです」

 

 

 

真っ暗な部屋でピンクのギターだけが、スポットライトの光を浴びている。今でも忘れない。私がようやく私だけのものを手にした大事な思い出だ。

 

「でも神様は意地悪でした。睦ちゃんにギターを歌わせる才能をくれないのですから」

 

「やめて」

 

「毎日練習しました。そのギターとはいつも一緒にいました。千明希君も祥ちゃんも褒めてくれました」

 

「やめてってば」

 

目の前にはCRYCHICのメンバー達。

 

「燈ちゃんのすっごいお歌。かっこいい立希ちゃんのドラム。そよちゃんの優しい音色。祥子ちゃんが作った綺麗な曲。どれだけ手を伸ばしても、どれだけ練習しても、睦ちゃんには手に入れることができないものばかり」

 

「やめてー!!! 分かってる……私はみんなみたいにできない……歌えない……だから!バンド楽しいと思ったことなんて!」

 

『CRYCHICを辞めさせていただきますわ』

 

雨の中。傘をささずに歩く祥子ちゃん。彼女が涙を流していても、傘を差し出すことが出来ない私。

 

「ち、ちがう。そう言う意味で言ったんじゃない。また私が喋れば壊れちゃう。私がギター始めたから……祥が、千明希が不幸になる。そんなの嫌なのに……私のせいで……」

 

睦ちゃんはその場に立ち尽くし、深く、深く絶望しました。大切な人達が褒めてくれたギター。それをうまく歌わせることが出来なかったから二人を傷つけてしまった。そしてまた、自分のギターのせいで大切な人が悲しんでしまう。

 

「私…もう……」

 

「大丈夫だよ睦ちゃん!」

 

(モーティス)(若葉睦)が出来ない満面の笑みで彼女を見つめる。

 

「…モー、ティス……」

 

「私が睦ちゃんの居場所を守ってあげる。私はいつでも睦ちゃんの味方だよ!」

 

睦ちゃんを傷つける奴は許さない。千明希君を傷つける奴も許さない。睦ちゃんの居場所は私が守るよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、早くそこを譲って?

もう一人の私




キャラ紹介

豊川祥子…ツアー初日でだいぶピリピリしてた様子。大事なツアー初日で睦ちゃんのあの時間のことを考えると心境は、かなり穏やかではなかったはず

モーティス…もう一人の睦ちゃん。強キャラ感のある彼女ですが、原作話数が進むにつれわがままな可愛い妹キャラになりました。ただ三話の睦ちゃんを飲み込むシーンと、四話の祥子ちゃんに自分の正体を明かすシーン。バンドリを見ていたはずなのにすごいゾクゾクしたのを覚えています。

今回も読んでいただきありがとうございます
次回も楽しみにしていただければ幸いです

13は調和を乱す数字と言われているので彼女を出すことが出来て満足です
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