Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける   作:お薬二錠

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ストックがあるので本日二話目の投稿です。前回あげてたものと内容はそんなに変わってません。



第二話 ハルヒカゲ

「お待たせしました。こちらアールグレイのホット

お二つです。熱いので気をつけてお召し上がりください」

 

お客様の前に注文のアールグレイを差し出す。

カップの絵柄を正面に向けるのを忘れずに。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

今俺は、椎名の代理として彼女のバイト先で働いている。担当がキッチンと言っていたからてっきり飲食店なのかと思ったが、現地に辿り着くとそこは最近できたRiNGというライブハウスに併設するカフェだった。

 

「双海君慣れてるね。よければこのままうちで働かない?」

 

「せっかくのお誘い申し訳ないですが、部活だったり、他の頼まれごとがあったりで、何か一つに絞ることができそうにないので、すみません」

 

RiNGのオーナーを務める凛々子さんに仕事ぶりを褒められ、ありがたいお誘いを受けたが丁重にお断りさせてもらった。

 

「すみません、注文お願いします」

 

「はい、今お伺いします」

 

今日はPoppin'partyとAfterglowという有名なガールズバンドがメインでライブを行うようで、彼女達の演奏を聴こうとライブハウスは多くのお客さんで賑わっていた。

 

 

 

 

カフェ内が少しずつ落ち着きを取り戻し、俺は食器を拭きながら凛々子さんからの質問攻めにあっている。

と言ってもほとんど聞かれるのは椎名とのこと。

なんだか凛々子さんから疑いの目を向けられている気がするが、きっと気のせいだろう。

 

「立希ちゃんとはクラスメイトなんだよね? 代わりの人が来るって、てっきり女の子だと思ってたから男の子が来た時はびっくりしちゃった」

 

「椎名とは席が前後で、よく話すんですよ。元々仲が良かったわけではなくて、今の関係になるまでだいぶ苦労しましたけどね」

 

「確かに立希ちゃんってちょっと鋭いもんね。でも仕事熱心で優しい子だからこれからも仲良くしてあげて」

 

「もちろんです」

 

「恥ずかしい話しなくていいから」

 

そんな話をしていると、私服に身を包んだ椎名とピンク色のロングヘアーをした少女がやってきた。

 

「凛々子さん、こいつちゃんと働いてます?」

 

「バッチリだよ! お客さんからの評判も良いし、ホールだったら立希ちゃんより上手かもよ」

 

「なっ!?」

 

凛々子さん、余計なことを言わないでください。椎名の鋭い眼光がいつもの数倍増しで痛いです。椎名から逃げるように視線を逸らすと、一緒に来ていたピンク色の子と目が合った。

 

「初めまして! りっきーと同じバンドメンバーの千早 愛音(ちはや あのん)です。ギターやってます!」

 

「ご丁寧にどうも。双海千明希です。椎名とはクラスメイトで仲良くさせていただいております」

 

椎名にずっと睨まれてるせいで萎縮してしまい語尾がおかしくなったが、千早と名乗った少女は明るい笑顔を浮かべた。

 

「ねぇ、この人本当にりっきーの友達?」

 

「それどういうこと?」

 

あ、鋭い眼光が俺から千早さんに移った。

 

「だって、ともりん以外にギラついてるりっきーが他に友達いるなんて思えないし、しかもそれが男の子なんて尚更ありえないじゃん」

 

「お前、本気で怒るよ?」

 

椎名が敵意剥き出しなのにも関わらず、臆することなく言葉を並べる千早さんにある意味感心しながらも、2人の仲が険悪になるのは同じバンドを組む仲間として良くないと思い仲裁に入ることにした。

 

「椎名ストップストップ。千早さんも。千早さんが思ってる以上に椎名は良いやつだよ。確かに言葉足らずで元々ぶっきらぼうなのもあって人付き合いは苦手だけど、こう見えて面倒見いいし、なんだかんだ優しいし、一緒にいる時間が増えれば千早さんも椎名の良いところが見えてくるし、きっと仲良くなれるよ」

 

「ちょ! お前もうそれ以上喋るな!」

 

「何で? 悲しいじゃん、自分の大事な友達が誤解されてるなんて」

 

「……うざ」

 

小声で悪態をつきそっぽを向く椎名。そんな彼女を横目に、何かよからぬことを考えてる視線を向ける千早さん。凛々子さんまで、微笑ましいものを見るような目でコチラを見てくる。

 

「へぇ、そうなんだ〜。りっきーがね〜。良かったじゃん! りっきー応援してる!」

 

「うるさい! もういい先に行く!」

 

「椎名! ライブ頑張れよ!」

 

「うるさい! お前も話しかけるな!」

 

「えー、俺何か怒らせることした?」

 

「ちっちっちっ。まだまだだね、ふたみん」

 

「ふたみんってなに? もしかして俺のこと?」

 

突如呼ばれたふたみんという謎の名称に、千早さんは答えることなく俺のことを指差した。

 

「君はまだ、女の子の扱いレベルが低い! というわけで私も協力するから連絡先教えて?」

 

「えっと…」

 

一応仕事中なんだけどと思い凛々子さんに目を向けると、お客さんも少ないから良いよと承諾をもらい、自分の携帯を取り出した。

 

「あと私のことは名前で呼んで? 苗字で呼ばれるの好きじゃないんだよね」

 

初対面でもお構いなしにグイグイくる彼女のコミュニケーション力の高さに押されながら、俺は名前で呼ぶことを決めた。

 

「そういえば愛音は高校どこなの?」

 

「私は羽丘だよ。あと、ともりちゃんも羽丘。で、そよさんが月ノ森で、らーなちゃんは花咲川!」

 

「あ、愛音ちゃん、そろそろ…ライブ始まるって」

 

「うん、今行く! それじゃふたみん、時間あったら私たちのライブ見に来てね!」

 

「いや、だから俺は今日椎名の代わりにバイト」

 

「見にこいよー!」

 

こちらの話は一切聞かず、千早さんは大きく手を振りながらステージ裏に向かっていった。その時、彼女を呼びに来た小柄な少女と目と目があった。

 

貧弱な小動物の様な印象を与える少女。

彼女は俺を見て驚いたのか、目を大きく見開いている。きっと俺も似た様な表情をしているんだろう。

 

我に返ったのか、彼女は慌ててステージ裏に走り出していった。

 

「今の燈ちゃんだよね? 双海君、知り合い?」

 

「……一応、知り合いですかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『聞いてください千明希!今日出会った方…あ! 名前は燈というのですけれども、彼女のノートを見せてもらったのですが、とても感動しましたの!』

 

『千明希、紹介しますわ。こちら高松 燈さん。私達のバンドの作詞担当ですわ。燈はすごいんですのよ。作詞の天才ですわ』

 

『彼女の書く歌詞は心の叫び。共感する部分ばかりで、直接心に響くんですの。新曲の歌詞を読んだ時、皆さんの前にも関わらず私泣いてしまいましたわ』

 

『千明希! どうしましょう、いよいよ明日が本番ですわ。落ち着けないから私の演奏聴いてくださる?え、明日の楽しみにとっておきたい? それは嬉しいことですけれども……それじゃ出だしだけ! 出だしだけでも聴いて気になる箇所があれば教えてください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高松 燈と再会してから、ずっと頭の中にモヤがかかり仕事に集中できなくなった俺は、凛々子さんの計らいでステージ裏の業務を行っていた。出演バンドの演奏の準備を手伝ったり、重量物を運んだりとホールよりかは単純作業ばかりで助かっている。

 

今は椎名達のバンドが演奏準備を行なっている。

結成したのは割と最近で名前はまだ無いらしい。

緊張しているのか椎名は俺に全く気づかず、先ほどまでリラックスしていた千早さんも見て分かるくらいガチガチに緊張していた。

2人と違って他のバンドメンバーは、ボーカルの高松さんを含め落ち着いている様に見えた。が……

 

 

いざ演奏が始まると緊張していたのは高松さんも同じだった様でほとんど声が出ていなかった。

周りのバンドメンバーが心配する中、俯きながら歌い続ける高松さん。しかし、顔を上げたその時、客席に何かを見つけたのか彼女の声に強い想いが重り、厚みを増し心に響く歌声に変貌した。

 

この歌がどういう想いで作られたのか分からない。でもそれは、必死で不器用ながらも相手に伝えたいという気持ちが強いもので、あの人の言う通り直接届く心の叫びだと思った。

 

 

 

 

 

 

 

彼女達の演奏は1曲。メインでは無い彼女達に与えられた時間は少なく、捌ける準備をしようとした時、高松さんが客席に向かって話し始めた。

 

「…来てくれて、嬉しい。あの日バラバラになって、辛くて、もうバンドなんてやりたくないと思ってた。

でも、名前もないけど、ずっと迷子だけど……それでも前に進みたくて……頑張れ!って言ってくれた様な気がして、嬉しくて」

 

彼女の言葉に合わせ、オッドアイのギターの子がBGMを奏で始める。予定になかったのか他のバンドメンバーは困惑している様だった。

 

「……私は必死にやることしか出来ない! うまく歌えなくても、届かなくても! 私はそれでも歌い続ける! だって、私の歌は心の叫びだから!」

 

背景で流れていたギターのBGMが変わる。

 

『それでは弾きますわよ』

 

「これって……」

 

それは過去に聴いたことがあるフレーズ。

今はもうない、とあるバンドのオリジナルソング。

彼女達が、あの人が、楽しそうに演奏していた最初で最後の曲。

 

『千明希、聴いていてくださいね』

 

『「春日影」』

 

 

 

 

 

目の前のステージで演奏する彼女達の姿に、1年前に見た光景が重なる。

同じ曲を演奏しているのに、それは全く別物に思えた。あの日はあった無表情ながらも綺麗な音色を奏でるギターと、眩しいくらいの笑顔で楽しそうに弾くピアノの姿がここにはない。しばらくして、あたたかい雫が頬を流れたことに気づく。

 

「……俺が泣いてどうすんだよ」

 

涙を拭い再びひらけた視界の端で、ライトブルーの髪をした少女がライブ会場を飛び出していくのを見た俺は、人混みを掻き分け無我夢中で追いかけた。

 

「双海君? どうしたの⁉︎」

 

途中すれ違った凛々子さんの静止の声も聞かず、俺は彼女を追い続ける。

 

 

 

 

 

『あんしんなさい! きょうからここが、あなたのあたらしいおうちですわ』

 

『ごらんなさいちあき! わたくしもあしたからこのランドセルをつかうんですのよ! とがわけにはじない、りっぱなレディになってみせますわ!』

 

『不恰好? そんなことありませんわ。とてもよく似合ってますわよ千明希。私専属の執事として、これからも頑張ってくださいまし。そもそも言い出したのは千明希ですからね。お母様、お父様、それに加えお祖父様前であんなこと…どれだけ恥ずかしい思いをしたか分かってますの?』

 

『千明希……私はもう、大切な人を失いたくない!』

 

『千明希…これからの人生はあなた自身のために生きて。あなたは自由ですわ』

 

『私はもう! あなたの主人ではないの! 必要ない! あなたなんかいらない!』

 

 

 

 

 

 

 

 

追いつかない。人混みが邪魔だ。

届かない。脚が重い、うまく呼吸が出来ない。肺が苦しい。呼吸の仕方が分からない。

怖い。こわい。コワイ……また捨てられたら俺は……

 

 

 

『お願いだから……私のまえから、いなくなって』

 

 

 

その時、彼女から突きつけられた言葉を思い出し、脚を動かすことをやめた俺はその場に立ちつくす。彼女の姿が遠くなっていくのをただ見てることしかできなくて、何も出来ない自分の臆病さに腹が立ち、行き場のない怒りは握った拳の中に血を滲ませた。

 




簡単なキャラ紹介

椎名立希…有咲とは違ったツンデレで好きです。顔も整ってるし、燈ちゃん以外の面倒見も良くて好きです。

千早愛音…この子がいるからMyGo!!!!!があって、この子がいるからCRYCHICができた。本当に欠かせない存在だと思います。

忘却の少女…彼女のせいでバンドリ再熱しました。責任とってもらいます。どうか幸せになってください。

今回も読んでいただきありがとうございます
次回も楽しみにしてくれたら幸いです
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