Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける   作:お薬二錠

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昔話です。
最初はモブだった彼等にも少しずつスポットを当てていきたいと思いまして。よろしくお願いします。


ティータイム アカノタニン

ふと、視界に入ったオパールグリーンの髪色で、昔会った少し変わった女の子のことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は、何をやっても上手くいかなくてむしゃくしゃしていた。学校ではだる絡み。街を歩けば難癖つける奴らが後を立たない。一歩歩くごとに敵とエンカウントするクソゲーをやっているような気分だった。視界に入るものに対し、次から次へと苛立ちを覚える。

 

「この辺危ないからお兄さん達がついて行ってあげるよ」

 

「一番危ないのはお兄さん達かもしれないけどね〜」

 

だからいつもなら無視する厄介ごとも、オパールグリーンの髪色をした女の子が困ってるように見えたから声をかけずにいられなかった。

 

「ねぇ、その子嫌がってんの分かんない?」

 

「は?お前誰だよ?この子の知り合い?」

 

「そーそー。クラスメイトが頭の中空っぽそうな二人に声かけられてるから気になって」

 

「誰が頭の中空っぽだって?口の聞き方には気をつけろクソガキ」

 

この瞬間で俺のイライラは爆発寸前まで来ていた。慣れないことはするものじゃないと思いながらも、何とかあの子だけでも無事にここから引き離そうと考える。

 

「落ち着けって。こんな安い挑発で折角の獲物逃すつもりか? ねぇ、この男の子制服違うけど君のクラスメイトって本当?」

 

もう一人の男がこんな状況にも関わらず表情も変えず、微動だにしないオパールグリーンの彼女に問いかけた。

 

「知らない人」

 

空気読め。そこは話合わせろ。お前のためにやってんだよ。顔には出さないように気をつけたが、この女に対しても苛立ちを覚えた。

 

「だってさクソガキ君。折角助けてあげようとしたのに残念だったね」

 

「それじゃちょっとお兄さんとお話ししようか。おい、その子逃すなよ」

 

「分かってるって」

 

やろうと思えばこの場でも良かった。でも女の子の前で人に暴力を振るうのは良くないと、最後に残ったミジンコサイズの良心が俺を踏みとどめさせた。

 

 

 

 

路地裏に連れて行かれ、男は意気揚々と肩を回している。

 

「さて、覚悟はいいかクソガキ。よくも頭の中空っぽとか言ってくれたなぁ!」

 

「……だる」

 

振り下ろされた拳を避けて、自分の拳を相手の顔面にめり込ませる。

 

「はへ?」

 

「は〜、ほんとイライラするわ」

 

まだ意識が残っていたので、もう一発顔面に叩き込んでやった。

 

路地裏から出てきた俺を見てもう一人の男は驚いた様子だったが、仲間がやられたことに激昂したのか一直線に襲いかかってきた。

 

少し左に避けて足を引っ掛け、相手の体勢が崩れたところで顔面目掛け膝をぶつける。よろけてガラ空きとなった脇腹を思いっきり殴りつけ、地に倒れた男はピクリとも動かなくなった。

 

 

 

オパールグリーンの彼女がまだいることに気づき俺は歩み寄る。逃げ出してもおかしくない状況にも関わらず、彼女は相変わらず何を考えているのかよく分からない表情だった。

 

「まだいたの?お前も早く帰れよ。もしかしたら騒ぎ見て誰かが警察呼ぶかもしれないし、そうなったらお前も面倒だろ?」

 

「……ここに行きたい」

 

オパールグリーンの彼女はそう言いながら、何処かの住所が書かれた紙を差し出してきた。

 

「……お前、俺の話聞いてた?てか、自分の携帯で調べろよ」

 

「……家に、忘れた」

 

「じゃあ俺が調べてやるからそれで」

 

「この辺……来たことないから……道、分からない」

 

「……何なのお前」

 

突っ込んでしまった厄介ごとは、俺の予想の範疇を超えていた。

 

「名前?若葉睦」

 

「いや、お前の名前はどうでもいいんだけど」

 

オパールグリーンの彼女改め、若葉睦は首を傾げながら不思議そうに俺を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話を聞いたところ、若葉は所属している園芸部で使う肥料を、わざわざ電車で数駅行ったこの街まで買いに来たらしい。あまり販売しているものではないらしく、たまたまSNSで入荷情報を見てやってきたらしい。

 

だとしてもだ。見知らぬ土地で携帯を忘れるのは致命的だと思った。物珍しいのか辺りをキョロキョロ見渡す動作が多いし、あれは何かとかすぐに聞いてくる。答えてやってそこから話を広げようと話題を振ってもすぐに途切れて会話にならないし、さっきよりも周りからの視線を多く浴びている気がするし、散々だった。

 

ただ歩く姿勢はすごく綺麗で、整った顔立ちも相まって、存在そのものが一つの芸術作品のように思えた。

 

お目当ての場所はショッピングモールの中にあって、在庫も残っており無事に購入することができた。

さっさとおさらばしてこの子守りから解放されようと思ったが、少し待っててと言われ、渋々と従うことにした。

 

(……何やってんだろ俺)

 

子どもに自分の理想のレールを用意する親に苛立ち、自分が招いた結果だが学校で喧嘩を買い、見知らぬ女の子の買い物に付き合う。今日一日はかなり荒れてる日だと思った最後がコレ。

 

「……はぁ」

 

深いため息を吐くと、無精髭でメガネをかけたいかにも怪しそうな男が声をかけてきた。

 

「君、少しいいかな?」

 

「嫌だ」

 

「まぁまぁそう言わず。私はフリーのジャーナリストをやっている者なんだけれども、君とさっき一緒にいた女の子。彼女って若葉睦で合ってるよね?」

 

「知らない」

 

「いやいや!あの見た目絶対に若葉睦ちゃんでしょ。超有名人二人の娘である彼女を、僕が見間違えるはずないからね」

 

有名人二人の娘という言葉に反応したが、男はそのまま喋り続けた。

 

「僕の見立てでは、君は睦ちゃんの彼氏じゃないかな?もう睦ちゃんの両親とは会っているのかい?そもそも二人はいつからお付き合いしているんだい?」

 

止まらない質問の嵐。今日何度目か分からない俺の堪忍袋の緒が切れ、こめかみを思いっきり掴みかかる。

 

「おっさん黙れよ。俺とアイツは今日会った赤の他人。何の関係もねぇんだよ!」

 

「そ、そんなわけないだろ? 彼女の両親はお笑いの大御所と超演技派の名女優。上手くつけ込むことが出来たら一生甘い蜜を吸えるのに」

 

「興味無い! そもそもアイツは何考えてるかよく分からないし、会話は続かないくせに質問はやたらめったらしてくるし、顔は可愛いかもしれないけど、俺みたいな奴を怖がらない変人だぞ!」

 

そこまで言って視界の端にオパールグリーンの髪色が見えた。まぁ本人に聞かれても、今日たまたま会っただけの関係だからどうってことないだろ。

 

「アイツの親が誰だろうと関係ない!アイツはアイツだ。それ以外の何者でもないんだよ!気に食わねーんだよ!お前みたいな親がすごいから子もすごいって考えの奴がよ!見るなら本人をちゃんと見ろや!」

 

「わ、分かったから!手を離して!」

 

「……離して欲しかったらお前が持ってるカメラ今ここでぶっ壊せ」

 

「は? だ、だめだ! コレは僕の命の次に大事な物なんだぞ!」

 

「写真撮ってたよな? 気づかないとでも思ったか?命の次に大切な物なら、命とカメラ天秤にかけた時、カメラの方を躊躇なくぶっ壊せるよな!?」

 

「い、いのち!? 君、僕を殺す気か!?」

 

「嫌だよ。お前のせいで犯罪者になるなんて」

 

「だったら今すぐこの手を」

 

「壊れても命かけて仕事してまた買えや」

 

俺は男が首から下げるカメラを奪い取り、思いっきり地面に叩きつけた。カメラは大きな音を立てて粉々に砕け散った。

 

「いやー!僕のカメラがー!」

 

「文句あんなら白矢って家に来いよ。お前が俺達を盗撮したこのデータは貰ってく。きっちり搾り取ってやってもいいんだぜ俺は」

 

「お、覚えてろよー!」

 

「明日には忘れてるっての……クソが」

 

ギャラリーが増えてきたので、さっさとこの場から立ち去ろうと駆け出すと、近くまで来ていた若葉が俺の手を握った。

 

「……お前も早くどっか行けって」

 

「……駅の方向知らない」

 

「はぁ……ほんとお前って、クソめんどくさいお嬢様だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕日が沈みかかる空。俺と若葉の間に会話はなかったが、彼女は何か言いたげにこちらをチラチラ見ていた。

 

「……何?」

 

「あ…何でも、ない」

 

今日一日、ほぼ半日だけの関係だがなかなか濃い時間を過ごしたと思う。ナンパから救ったり、手を繋いで走ったり……思い返すと漫画のような展開で顔が少し熱くなる。自分がどういう人間かは自分がよく知っている。だからこそ俺は、若葉に聞きたいことがあった。

 

「……何で今日俺と一緒にいたの?」

 

何だこの質問。何だか自惚れているような気がして、ますます顔が熱くなった。

 

「特に理由ない」

 

「あっそ……」

 

まぁ、なんて言うか……コイツならそう答えるような気がした。見慣れない物だったのか、周りの景色には興味を示していたが、人に対してはあまりそうではないらしい。ナンパに対しても全く動じず、目の前で暴力を振るっていても顔色ひとつ変えやしない。何となく友達もいなさそうだし……俺も人のことを言える立場じゃないけど。

 

「……だけど」

 

「ん?」

 

「今日一緒にいてくれたのが白矢で良かったって思った」

 

「……そりゃどうも」

 

若葉の顔は少し笑っているように見えた。

そうこうしているうちに駅にたどり着いた。この街に来る時に乗ったはずなのに、若葉は切符の購入であたふたしていた。

 

「また…会える?」

 

別れ際、改札の手前で若葉がこちらへ振り返る。

 

「……何で?」

 

「コレ使って育てたきゅうり……食べてほしい」

 

「今度はちゃんと携帯持ってこいよ?」

 

「うん。ありがとう……白矢」

 

薄っぺらい口約束だけど、俺は何となくまた若葉に会えるような気がしていた。電車に乗るためホームに向かう若葉を最後まで見送る。見えなくなる一歩手前で、若葉は控えめに手を振り自分が住む街へ帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白矢?ぼーっとしてると置いてくぞ?」

 

「あーごめん!すぐ行く」

 

友人の呼ぶ声で我に帰る。明日の福岡遠征のために買い出しに来ている途中だった。

 

「誰か知り合いでもいた?」

 

黒鉄の言葉に先ほど見えたオパールグリーンの髪色をした少女を思い浮かべる。外見は昔会った不思議な女の子そのものだったが、何故そう思ったかは分からないけど、中身が違うと思った。

 

「いや、似てるけど他人だったよ」

 

「ふーん。まぁいいや。まなも待ってるから早く行くぞ」

 

「はいはーい!いやー、それにしても黒鉄の妹ちゃんか〜。可愛いんだろうな〜」

 

「妹に手出したら殺すから」

 

「分かった!分かったからこめかみやめて!脳が潰れる!」

 

 

 

待ち合わせ先にいる黒鉄の妹に会うまであと数分…

彼女の正体を知り、大声を上げるまであと数分…

大事なクラスメイトが壊れるまであと……

約束をした女の子の死を告げられるまで……あと……




キャラ紹介

白矢…初めはモブだった。千明希のクラスメイトのムードメーカーで女好き。昔は結構荒れてた。彼の目の前に用意されたレールはまたいつか……怒ると怖い姉がいる。

若葉睦…きゅうりのためなら苦手な電車に乗って何処までも。行き当たりばったりで後のことはあまり考えていなかった。帰ってから祥子にめちゃくちゃ心配され、白矢の話をしたら悪い虫がついてしまいましたわ〜と泣きつかれた。

今回も読んでいただきありがとうございます
次回も楽しみにしていただければ幸いです
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