Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける   作:お薬二錠

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久々に筆が乗りました。なので文字数もいつもより少し多めです。
個人的には3000文字くらいが読みやすいのかなと、勝手に思っているのですがどうなんでしょう? そもそも3000文字くらいがアベレージで、それ以上書く技量がないのですが……


第十九話 マクヒラク

その日一日の仕事を終え、家に帰るなりベッドにバッグを投げ捨てる。そのままソファに倒れ込んで、今日の収録を思い返しては深いため息をつき、帰る途中のコンビニで買ったグランデサイズのラテにストローを突き刺して勢いよく吸い上げた。

 

「ぷはー! あーもう上手ういかん! ムーコん奴なんなん!? うまかところだけ持って行ってさー」

 

テレビ番組の収録で失言をかました以前の若葉睦と今の彼女を比べる。前よりもハッキリと受け答えをし、観客の心を掴んでいる彼女は以前とはまるで別人だった。

 

(あれもパフォーマンスの一環だったの? ムーコの底が全く見えない。見えないから怖いし……見えないから、なんとしても見たいって目が離せない)

 

「頑張ってこれだもんね〜。才能しか勝たん!あー」

 

ソファで項垂れていると、携帯から着信音が鳴り響く。画面にはおかーさんと表示されていた。

 

「おか〜ちゃ〜ん!」

 

『元気のなかね〜。どぎゃんしたと?』

 

「どぎゃんもこぎゃんもなか〜。東京で絶対チャンスば掴もうと思うとったばってん、ほんなこつ天才ばっかで〜」

 

『あらそぎゃんね?』

 

「今日の収録もムーコ出しにして話そうしたばってん、全部持ってかれて喋れんくなった…」

 

『あらま〜。心配せんでよか。にゃむは若い麦って書いてにゃむって読むけんね。麦んごつ踏まれて強なるたい。明日のにゃむは、もっと強なっとるよ』

 

Ave Mujicaでは決して見せない、アタシ本来の顔が現れる。東京でビッグになる! そんなアタシの夢を家族は応援し、支えてくれた。

 

(……これが当たり前だと思ってたけど)

 

ふと、先日の双海との会話を思い出す。

 

『いないよ。俺に家族は。今はもういない』

 

あの時のアイツの顔はやっぱり寂しそうだった。深く聞くことが出来る関係でもないけど、せめて少しでも明るい場所に連れて行けるならと思ってサキコの話をした。予想外だったのか、自覚がなかったのか、サキコも家族同然と言われた時のアイツの顔は少し嬉しそうで安心した。

 

サキコもサキコだ。今日の練習の帰り、道の真ん中でうずくまる彼女を見つけた時、考えるよりも先に駆け出していた。過呼吸を起こしていたが、しばらくして落ち着いた彼女は何があったかは言わず、礼だけ言ってそのまま帰って行った。サキコの家族については彼女が豊川グループ令嬢だと知った時、興味本位で調べたことがある。だから少し前に詐欺被害に遭ったことも知っている。

 

(ムジカ結成のきっかけも、それが理由?)

 

考えても答えは分からないし、私一人でどうこう出来るものではないからそれ以上は何もしない。ただ人を頼ることが下手くそなくせして、自分は人を助けるために、導くために手を差し伸べるよく似た二人のことが気にはなった。

 

「……なかなか上手ういかんな」

 

『にゃむ、どぎゃんしたと?』

 

「なんでんなかよー」

 

私はマルチタレントになる。その目的のために始めたAve Mujicaなのに、気づけば自分以外にも目を向けていた。これが良いことかそうでないかは分からないけど、不思議と嫌な気分ではなかった。

 

「……これも時間なかくせに、つきっきりで指導するあいつのせいや」

 

『あいつって、ねーちゃんの彼氏?』

 

『にゃーちゃんの彼氏の話、うちも聞きたい!』

 

「やけん違うって言いよろ〜」

 

困ったことに、前回お母さんと通話で双海の愚痴を話している際、下の子達が彼氏の話をしていると勘違いしてしまったらしい。

 

『『聞きたい〜』』

 

「だ〜か〜ら〜、あいつはただんバンド仲間だってば〜!」

 

明後日の福岡ライブは家族も観に来てくれる。もしそこで双海と鉢合わせにでもなったりしたら……どうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無機質な部屋の中で私はベースを奏でている。

様々なバンドのサポートとして活動してきた私にとって、ライブは緊張するものではなくなっていた。それなのに……

 

(なかなか眠れない。柄にもなく緊張している……ということですか)

 

気分を変えようとベランダに出たが、外は少し風が吹いていて肌寒かった。外を眺めながら物思いに耽る。

一人でいるとふと思い出してしまう、飲まなきゃやってられなくなるほどの深いトラウマを。

 

 

 

今までやってきたバンドで、デビュー間違いないと自負できるバンドがあった。誰もが音楽に夢中になれて、高い目標があって、このメンバーなら絶対成功する。このメンバーでなら上手くやれる。大切なライブを前日に控えた私はそう思っていた。他のみんなも同じように思っていると信じていた。

 

惨めだった。翌日のライブ、他のメンバーはボイコットして会場に誰一人現れず、たった一人ステージの上でベースを持つ私は何よりも惨めだった。上手くいってると思っていたのは、成功すると思っていたのは私だけだった。

 

人を信じること、深い関わりを持つことが怖くなって、裏切られた時の保険として多くのバンドでサポートをするようになった。私生活でも感情をあまり表に出さなくなった。それでも好きな音楽をやめることは出来なくて、いつか信頼し合えるメンバーに出会えるんじゃないかと思っていた時に彼を観た。

 

荒々しいドラム。曲をバンドの全てを喰らい尽くそうとする音に、他のメンバーは誰一人ついていけていない。苦しそうに必死に演奏を続けるメンバーに対して、ドラムの彼は縦横無尽に思うがままに自分の音を私達にぶつけてきた。誰がどうなろうが関係ない。自分を表現する音、彼が鳴らす音楽の世界に、私は自分のモヤモヤがどうでもいいことのように思えた。

 

 

 

(流石にあそこまで自分の本音を音に乗せることはできない。でも、そんな方法もあると双海さんが教えてくれた)

 

彼の役柄的に一緒にステージで演奏する機会はない。

Ave Mujicaのメンバーとなった今、以前のようにサポートに入る暇もないそうだが、祐天寺さんから彼のドラムの凄さは嫌というほど愚痴と一緒に聞かされている。

 

(Ave Mujicaの活動が落ち着いたら、またセッションしたいですね)

 

緊張はいつしか消え、私は明後日のライブに備え眠りにつくことにした。ライブの成功と、Ave Mujicaの今後を願って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、つかれた〜」

 

sumimiの仕事を終えて私は帰路についていた。

 

「まなちゃん、お仕事終わっても元気だったな。明後日のライブ楽しみにしてるって言ってたし……あれ?まなちゃん明日はソロのお仕事あるって言ってたっけ?見た目以上に体育会系なんだよな」

 

明後日はムジカのライブがあるにも関わらず、この時間まで仕事を入れるなんて事務所もかなり酷いことをする。なんてふうには思えなくて、ムジカとsumimiの両立は自分で選んだこと。そして今もこうして活動できていることに、私は感謝していた。

 

(いつ終わるか分からないけど……もう少しだけ今のままでいれたら)

 

そう思うと無性に祥ちゃんの顔が見たくなり、私は早足で祥ちゃんが待つ家へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「た、ただいま〜」

 

いつもこうだ。家に帰った時、もし祥ちゃんがいなかったらと思うと不安で私はいつも恐る恐る玄関を開ける。

 

「初華! お帰りなさいですわ。遅くまでお疲れ様です」

 

いつもはロフトで作業をしている祥子ちゃんだけど、この日はタイミングよく玄関で出迎えてくれた。その事実と祥ちゃんの笑顔が眩しくて、私は胸元を押さえてその場で立ち尽くす。

 

「どうしたんですの初華?」

 

「う、ううん! なんでもない!」

 

「ふふっ、変な初華ですわね。外は寒かったでしょう。コーヒー淹れますわ」

 

「そ、そんな! 自分でやるよそれくらい」

 

「わたくしが初華のためにコーヒーを淹れたいのです。素直に受け入れてくださいまし」

 

「さ、さきちゃんがそこまでいうのなら」

 

「腕によりをかけて作りますわね」

 

幸せすぎる。祥ちゃんと一緒にバンドしてるだけでも幸せなのに、この半同棲のような今の生活は私に贅沢すぎるくらいだ。祥ちゃんのおかげで自分の存在を認めることができた。祥ちゃんがいたから、生きていてもいいと思えた。祥ちゃんは私にとっての光で……全てで……そんな祥ちゃんと同じ屋根の下で過ごしていることが、今でも夢なんじゃないかと思ってしまう。

 

「初華ー?いつまで玄関にいるんですの?そろそろコーヒーの用意ができますわよ……って、自分の頬をつねってどうしたんですの?」

 

「えっと……祥ちゃんと過ごしてるのが嬉しくて、もしかしたら夢なんじゃないかって」

 

「もう。早くしないとコーヒー冷めてしまいますわよ」

 

「そ、そうだね!すぐ行くよ」

 

 

 

 

 

 

 

二人並んでソファに座ってコーヒーを飲む。テレビも点けず、外からは雨の音だけが聞こえていた。

 

「我ながら上手くできましたわね。初華もそう思うでしょ?」

 

「うん!祥ちゃんが淹れてくれたコーヒーすごく美味しいよ!」

 

静かな空間で二人きり。まるで私達だけが世界から孤立されたと錯覚するくらいだった。けれども、それでも構わないと思ってしまう。もちろんAve Mujicaのメンバーも大切だけど……私にとっては祥ちゃんがいればそれで……

 

「いよいよ明後日はライブ本番ですわね」

 

祥ちゃんの言葉で現実に引き戻される。夢を見ていてはいけない。私は人の不幸の上で存在しているのだから。

 

「絶対成功させようね。まなちゃんもライブに来てくれるって言ってたよ」

 

「二人に見てもらうなんて少し恥ずかしいですが、私達の名前に恥じないライブにして見せますわ!」

 

「……祥ちゃん?」

 

「初華、あなたにはいくらお礼を言っても足りません。あなたのおかげで素晴らしい歌詞が書けたと燈も言ってました」

 

「え……なんで燈ちゃんが歌詞を?」

 

「なんでって……燈は私達CRYCHICの作詞担当。その歌詞に音を乗せるのが作曲担当である私の務め。歌詞作りに難航していた燈に、初華がアドバイスをくれたから新しい曲が完成したんですわ」

 

「ちがう、ちがうよ祥ちゃん!」

 

祥ちゃんの言葉に脳が追いつかない。だって私はAve Mujicaでドロリスで、祥ちゃんはオブリビオニス。CRYCHICは祥ちゃんが組んでいた昔のバンドで今はもう無い。それに明後日は私達のライブ……

 

「初華?」

 

夢だ。これは悪い夢だ。醒めろ、覚めろ、さめろ!

この悪い夢から早く私を解放して!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お姉ちゃん』

 

 

 

先ほどまでいた私の部屋が祥ちゃんと共に消える。

辺りは黒一色に染まり、その中から私とよく似た女の子が現れた。

 

『お姉ちゃん』

 

やめて、呼ばないで!

 

『お姉ちゃん』

 

私の前からいなくなって!

 

『お姉ちゃん』

 

赤の他人の私をお姉ちゃんと呼ばないで

 

『私を返してよ』

 

……ごめん……なさい

 

 

 

人の不幸の上に三角初華は存在している。

大切な人の不幸。家族の不幸。それだけでは飽き足らず、半分血の繋がった妹の人生を喰らい尽くして三角初華は存在している。

 

私がこんなだから。神様は罰を与えるんだろう。

だからここはまだ悪夢の続き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステージの上でAve Mujicaのドロリスとして立ち、ライブに来てくれた多くの観客を前にする。オブリビオニス、ティモリス、アモーリス、モーティスも同じようにステージの上にいる。

 

これは悪夢だ。そうでなければ私がこんなこと口にするはずがない。脳と口が連動しない。思っていないことが自然と言葉になる。こんなこと言いたくない。お願いします。私を、この悪夢から解放してください……

 

 

 

 

 

 

 

今宵のマスカレードをもって、Ave Mujicaの終幕とさせていただきます

 

 

 

 




キャラ紹介

祐天寺にゃむ…家族を大切にするにゃむ。どんどんこの子の好感度が上がってきてます。誕生日限定グッズ、購入しなかったのは後悔でしかない…

八幡海鈴…千明希のおかげでトラウマに対する恐れが少し弱い。千明希のおかげで…

三角初華?…夢の中に現れた彼女は、自分の名前でアイドルとして活動する姉に何を思っているのか。この辺りが明確でないため、なんとも書きにくく、腕の見せ所だと思っております。

今回も読んでいただきありがとうございました
次回も楽しみにしていただければ幸いです
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