Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける   作:お薬二錠

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一週間空いてしまいました。

多くの方に評価していただき、モチベはあるのですが文才不足で悪戦苦闘しています。ゆっくりですがしっかり更新していきますので、今後もよろしくお願いします。


第二十話 ヒトゴロシ

仲の良い家族がいた。

 

真面目で仕事熱心。そして笑顔を絶やさない太陽のような母。

 

優しいが少し頼り甲斐のない。しかし家族への愛情は人一倍強い月のような父。

 

そんな二人の間に産まれ、愛されてきたのが双海千明希。誰が見ても羨み、皆が口を揃えて理想というような温かい家族だった。

 

 

 

 

 

 

母が交通事故で亡くなるまでは

 

 

 

 

 

覚えているのは二人で道を歩いている最中、突然母が俺の身体を突き飛ばした。その次に視界に飛び込んできたのは車に轢かれた母の姿。突き飛ばしてくれたから自分は直撃を免れたが、母は自分の身代わりになったのだ。

 

運転席の男は、助手席に座る幼い少女に声をかけ続けている。俺は地面に叩きつけられ、痛みが身体中を走るなか少しずつ母に歩み寄った。

 

『お母……さん……』

 

『……千……明希、よかっ…た……無事?』

 

母はまだ息があった。急いで病院に運べば助かる。

俺は助けを求め車を運転していた男の方を見る。目が合った。確かに目が合ったのに、男はエンジンが生きていることを確認すると、車を走らせその場から去っていった。

 

『……は?』

 

それからしばらくして、事故の音を聞きつけた近隣の住人が救急車を呼んでくれたが、その時にはもう母はすでに事切れていた。

 

 

 

 

 

 

 

父は変わった。最愛の人を失った悲しみから逃れるように、部屋にこもっては母の名前を涙ぐみながら溢していた。父は家族を愛していた。でもその量には差があった。俺よりも母を愛していた父は、俺の存在を消去し、俺を見なくなった。たまに俺を見てくれる日もあった。でもそんな時は決まって暴力を振るわれ、父から憎しみをぶつけられていた。

 

 

 

お前がいなければ母は死ななかった

 

 

 

何度も父に言われた。

確かに俺がいなければ、俺の代わりに母が死ぬことはなかった。確かに恨まれることをした。それでも愛してほしかった。お前だけでも生きていてくれて良かったと、嘘でも言ってほしかった。

 

初めは父のために我慢した。父から母を奪った自分に与えられた罰だと我慢した。でもいづれ限界が訪れた。罪を認め、罰を受けいれ続けた俺は、死によって許されることを恐れた。俺が壊される。そう思い許されることよりも生き延びることを選択した俺は、血を流して倒れる父親を見捨て逃げるように部屋の窓から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼い頃の光景を悪夢として見るのも、父親という恐怖から逃げたこと、自分が壊れそうになったことからくる恐怖、そして自分が犯した罪を忘れさせないために見せられているんだろう。Ave mujica福岡ライブ前日を迎えた朝もそれは変わらなかった。

 

椎名の頼みをきっかけにお嬢と再会し、楽奈の一言で自分の歪さを思い出された。初華からの招待でAve Mujicaの世界を見て、昔見せてくれた明るい笑顔を仮面で隠し、偽りの姿で人形を演じるお嬢を見て殺意を抱いた。そんな彼女達の世界に乱入し、近くでお嬢を見たときあまりの嬉しさと感動で胸が弾んだ。だからそんなお嬢の世界を壊そうとした祐天寺に暴力を振るってしまった。そして睦の中にいたモーティスに、誰にも知られてはいけないお嬢に抱く自分の歪さを指摘された。こんな自分が彼女を支えたいと願うこと、好意を抱いていることに嫌気がさした。

だけど純田さんからは、思いやりを持てる自分を肯定され、祐天寺からは自分とお嬢の関係を家族同然と言われ嬉しかった。

 

「……結局俺はどうしたいんだろう?」

 

復讐の対象はお嬢……というよりも豊川家全体だ。ただそうなるとお嬢も復讐の対象になるのではないか?

お嬢のことは好きだ。こんな俺を救ってくれて、明るく照らしてくれた。救われたからこそ、彼女の支えになり困っているなら救いたいとも思う。でもそんな思いと一緒に、微かな憎悪も抱いているのも事実だ。

 

「Ave Mujicaがなかったらお嬢と一緒にいることもなかったし、とりあえず今はバンドの継続が第一か」

 

それにモーティスのこともある。モーティス曰く、睦自身は眠っていると言っていた。アイツがAve Mvjicaにとって良くないことをしないとも限らない。

 

「気は乗らないけど、アイツとも話をした方が良さそうだな」

 

課題は山積み。でも今は出来ることからと、俺は今日のライブリハーサルのために家を出る準備を進めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブ会場につき、祐天寺は家族と電話、お嬢と八幡はスタッフとステージで打ち合わせ、睦、もといモーティスの姿は見当たらず、控え室には俺と初華の二人だけだった。

緊張、ではないと思うが初華の顔色は悪く、なんだか不安そうな顔をしていた。

 

「初華、顔色悪いけど体調悪いのか?」

 

「あ……ううん、大丈夫」

 

大丈夫じゃないことは顔を見れば一目瞭然だった。

俺は控え室の中が俺達二人きりであることを再確認し、彼女の目をまっすぐ見て言った。

 

「初音、大丈夫じゃないことくらい顔見れば分かるんだけど?俺でよければ話聞くから」

 

初音 そう呼ばれた彼女は一瞬、ビクッと身体を震わせた。それから身を守るように自分の身体を抱きしめ、ゆっくりと話し始めた。

 

「夢を…見たんだ。初華が出てきた夢……私のことを、お姉ちゃんって何度も呼んでたの。それと、私を返して……って」

 

彼女の生い立ちを知ってる俺でも、上手い言葉を見つけてやることが出来ない。

 

「私、こんな最低なことしてるのにさ……お姉ちゃんなんて、呼ばれる資格なんか……ないのに」

 

「初音……」

 

「分かってるんだ……分かってる。祥ちゃんに会いたくて、祥ちゃんと一緒にいたくて……私は初華になることを選んだ。今、祥ちゃんのそばに入れて…私はすごい幸せ。後悔はなかったはずなのに……大切な妹、家族を裏切って得た幸せが……素直に喜べない……」

 

同じだと思った。俺は好意と憎悪。初音は幸福感と後悔といった相反する二つの感情を抱いている。同じだから分かる。いつ壊れるか分からない不安。いくら幸せだと思っていても、それは足枷となって何処までもまとわりついてくる。そしてそれが簡単に無くならないことを俺は知っている。そんな不安定な彼女に出来ることは、共犯者となって支えることだ。

 

「念願のお嬢と一緒になれたんだ。今はその現実に幸せを噛み締めろ。それにもしもの時は共犯者として、俺も一緒に頭下げにいくからさ」

 

そう言いながら俺は少し乱暴に初音の頭を撫でた。

 

「ちょ、ちょっと! 折角メイクさんに整えてもらったのに」

 

「またやって貰えばいいだろ?ほれほれ、いい加減泣きやめ」

 

「……もう!いい加減にしないと、怒るからね!」

 

目に涙を溜めながらも、初華はぎこちない笑顔を見せてくれた。

 

「あー!千明希君が初華ちゃん泣かせてる!」

 

そう言いながら部屋に入ってきたのは、行方をくらませていたモーティスだった。

 

「ダメだよ千明希君!女の子泣かせちゃ」

 

「心配してくれてありがとう睦ちゃん」

 

「お前何処行ってたんだよ?」

 

「ん?お散歩。千明希君も一緒に行きたかった?」

 

「遠慮しとく。それよりそろそろリハーサル始まるから、お前もギターの準備しとけよ」

 

「何で?ギターなんかいらないでしょ。そもそも私、ギター弾けないし」

 

「「え?」」

 

Ave Mujicaを壊させないと言ったのに、破壊の火種は俺達にとって余りにも大きすぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

睦がギターを弾けない。

それを知った俺達は他のメンバーをすぐ呼び寄せた。

 

「睦、ギターが弾けないってどういう事ですの?」

 

「ムーコ、ツアー初日のライブでギター弾いてたじゃん」

 

「セトリはさほど変わっていませんが、どこか体調が悪いのですか?」

 

「もー!いっぺんに言わないでよー!祥子ちゃんがムジカやりたいっていうからやってるだけ。ギターなんて持った事ないもん。だから弾けないよ私」

 

他のメンバーが困惑するなか、俺はあってもおかしくない可能性を見落としていたことを悔やんでいた。

 

(睦とモーティスは別人格。睦が当たり前に出来ることを、モーティスも出来るとは限らない。くそっ! 俺が早く言っていれば何か変わったか?でも、モーティスの事を伝えて他のメンバーはどう思う?)

 

モーティスの方に目を向ければ、ことの重大さを理解していないようでいつもと変わらない笑顔を浮かべている。

 

「みんなそんな慌ててどうしたの?」

 

「どうしたのって、アンタがギター弾けないことが問題なの!」

 

「睦ちゃんのギターは楽曲の要だから私一人じゃ……」

 

「若葉さんのギター音源があれば話は別ですが……生演奏にこだわってきたのが裏目になりましたね」

 

「別に良くない?ギターなんかなくても。この前も大丈夫だったじゃん」

 

ギターなんか

 

その言葉は、睦がギターをすごく大切にしてきたことを知っているお嬢の怒りを買うのに十分すぎた。

 

「いたっ」

 

「きなさい」

 

お嬢はモーティスの腕を強引に掴み、二人は部屋を出ていった。残された俺達はこの先どうするか考えていた。今から睦のギターを用意することは出来ない。それならば急いでサポートのギターを用意するか? しかしそれでは、お嬢が求めるAve Mujicaの世界観が崩れる。

 

どうしたものかと悩んでいると、ポケットの携帯から着信音が鳴り響き、皆に断って電話を出るために俺は控え室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「睦! あなたいったい何を考えていますの!?」

 

わたくしは睦を無理矢理外へ連れ出し、人気がないところへ着くと手を離すやいなや怒った顔でそう言った。

 

「頼んでもないアドリブで演奏をめちゃくちゃにした挙句、今度は弾かないですって!? あんなにもギターを大切にしていたのに!あなたの事が分からなくなりましたわ!」

 

睦がどれだけギターを大事にしていたか分かるからこそ、先ほどの彼女の発言が心から許せなかった。

 

「Ave Mujicaのためだよ。祥子ちゃん言ったでしょ?全部私に言わせてって。だから祥子ちゃんの代わりみんなと話したの。みんなAve Mujicaが大好きだよ。ギターがなくても、私のパフォーマンスがあればお客さんは喜んでくれる。Ave Mujicaが続けば、祥子ちゃんも大好きな千明希君ともずっと一緒にいれるでしょ?」

 

「わけの分からないことを言わないで!それに、あなたのギターがなければAve Mujicaの世界は成り立たない!」

 

「ならどうして助けてくれなかったの」

 

「…え?」

 

睦の表情が一変する。それはまるで、わたくしが知る睦ではないような

 

「睦ちゃんは苦しんでた。ようやく見つけたギターが嫌いになってしまうくらい傷ついてた。だから助けを求めてあの日、祥子ちゃんについていったのに!そんな睦ちゃんを祥子ちゃんは自分勝手の我儘でさらに傷つけた」

 

あの日見た怒った睦とは違う。より感情を爆発させる今まで見たことのない睦がそこにいる。それに彼女の言い方は不自然だった。

 

「な、なにを言ってますの? 睦は……あなたでしょ?何故そんな……まるで、その光景を見ていたかのような言い方を」

 

「…はぁー、ほんっとイライラする。祥子ちゃんってさ、睦ちゃんのこと何も分かってないよね? それなのに、睦は私の大切な幼馴染ですわ〜、なんて言うのやめてくれる?」

 

「睦?……いいえ、あなた……いったい誰ですの?」

 

目の前にいるのは確かにわたくしの幼馴染である若葉睦。でも中身が全然違うことにわたくしは今更気づいてしまった。

 

(思えば私や、千明希の呼び方も違う。目の前にいるのが睦でないのなら、本当の睦はどこ?)

 

「……私の名はモーティス。名前をくれてありがとう、お母さん」

 

睦の顔をしたナニカは、睦の舞台の上での名前を名乗る。

 

「モーティス……って……で、では睦はどこに?」

 

「私の中にいるよ。あの日からずっと眠ってるけど」

 

「眠ってる……ど、どういうことですの?」

 

心音がうるさい。呼吸もうまく出来ない。モーティスが怒っている理由。睦のことを分かってないと言った彼女の言葉。わたくしがあの日、睦を傷つけてしまったことから、睦が眠ってる理由は憶測がつく。でもそうあってほしくないと、わたくしは心の底から願ってしまっていた。

 

「睦ちゃんは死んじゃったの。祥子ちゃんが殺したんだよ。助けてくれなかったから。睦ちゃんだけじゃない、千明希君も一緒。祥子ちゃんと出会ってしまったから千明希君も死んでしまった。出会う人、祥子ちゃんを大切に思ってくれる人を次から次へと不幸にして、壊して、殺して……全部祥子ちゃんのせい。まるで死神みたいだね」

 

気づいたときには、もう遅かった。

 

「……わ、わたくしが……」

 

手は震え、足は力を失い、呼吸すらまともにできない。そんなつもりじゃなかった。傷つけたくなんてなかった。けれど、確かに壊したのは――自分だった。

その現実が、心を引き裂き押し潰す。

 

「いや……いやーー!!!」

 

今更遅いと後悔しながらも叫ばずにはいられなかった。何をどうすれば良かったのか、何処で間違えてしまったのか、考えても答えは出ない。やり直しをどれだけ求めてもやり直すことは出来ない。大切な幼馴染を守れなかった自分に対する怒り、悲しみ、後悔。

負の感情がわたくしの中に一気に押し寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電話をもらい、ライブ会場を後にした俺が病院に着いたのは夜中だった。すでに話は通してあったようで、遅い時間にも関わらず面会が許可された。

 

今俺は、あの扉の前にいる。

 

開けたくない、会いたくない、帰りたい、逃げ出したい。

 

手は嫌な汗でぐっしょりだった。でも開けなくてはいけない。この目で見なくてはならない。今までは何の反応もなかった。だが、目を覚ましたのであれば話は別だ。

 

恐る恐る扉を開ける。薄暗い病室の中、ベッドの上で半身起き上がる生気のない男と目があった。

 

「…………」

 

言葉が出てこない。

 

俺を殺そうとした父親が、俺が殺した父親が目の前にいる。

 

「……チアキ」

 

そいつは俺を見るなり、にっこりと笑みを浮かべて、昔と同じように俺の名前を呼んだ。

 




キャラ紹介

豊川祥子…出会った人を不幸にしてしまう体質。本人にその意思は全くない。運命か、偶然か、彼女と出会い魅了されたものは誤った道とも知らず進み続けてしまう。

双海千明希…一度は罰を受け入れた。しかし壊されることを恐れ、自分のために再び罪を犯した罪人。恐怖を植え付けた張本人が目を覚ました彼の行く末は…

今回も読んでいただかありがとうございます
次回も楽しみにしていただければ幸いです
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