Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける 作:お薬二錠
好きになるのが遅かった……Ave MujicaとMyGO!!!!!の合同ライブ見たかったよ……Blu-ray販売されたら絶対買う
「……チアキ」
目の前で俺の名前を呼ぶ父。それと同時に見せる笑顔は、罰を与えていた時のモノと変わらなくて俺は冷や汗をかいた。言葉が出てこない。何を話せばいいかも分からない。怒ればいいのか?謝ればいいのか? ここに来る前に医師に言われた。こいつは出血性ショックで記憶を失っている。下手に刺激してはいけないと。覚えてないならこのまま他人としてやり過ごした方がいいのではないかと思ったその時だった。
「チアキのせいでこんな体になってしまったよ……お前は……元気そうだな」
「記憶……あるの?」
「ああ、記憶喪失と偽っておけば、もしもの時便利だろ?」
おそらく数年ぶりに意識を取り戻したとき、俺が虐待のことを公にしていた場合を想定してのことだろう。
「色々聞きたいことはあるが、とりあえず二つ。今日までお前を育てたのは誰だ? それと私の入院費用はどこから出ていた? 親子に隠し事は無しだぞ?チアキ」
過去の光景が甦り、俺は無意識のうちに自分の首に触れていた。絞められているわけではないのに、息をするために守らなければと錯覚してしまっていた。
「どうした? 教えてくれチアキ。私はその恩人にお礼がしたいんだ。私も、お前も、ここまで面倒見てもらったんだ。恩を返すのは当たり前だろう?」
絶対にやばいって分かってる。こいつにとってこの名前は地雷だ。俺よりも豊川家に対する憎悪は大きい。最愛の人を奪われたこいつの憎悪は、息子の俺でも計り知れない。分かっているのに、恐怖で身体の制御がうまくできずーー
「……豊川…家…育てて、くれたのも……入院費用……出してくれていたのも」
豊川の名を口にしてしまった。
「……豊川家?どうして豊川の名前が出てくる?答えなさいチアキ……早く答えろ!!」
父は濁った目をしていた。ドス黒くおどろおどろしい目を。負の感情に身を任せ、拳を壁に叩きつけ言葉を続けた。
「誰が頼んだそんなこと! よりによって俺から幸せを奪い妻を奪った豊川家に!? お前分かってるのか!? 豊川は俺から妻を奪った最低最悪の屑だ!しかも奪っただけでは飽き足らず、罪にも囚われていない罪人だぞ! そんな奴らがお前を育てた!? 俺の入院費を払った!? そんなことで許されると思ってるのか!? お前もお前だ! 母さんを奪った悪人どもに絆されのうのうと生きてきたのか!? そんなお前を見たら母さんも悲しむ。母さんだって言うはずだ! 奪え! 壊せ! 私の仇を討てってぇ!!! お前が出来ないなら俺がやる。今すぐあいつらの元に向かって、妻を奪ったこと後悔させてやるぅ!!!」
どうすることもできなかった。復讐に溺れ声を荒げる父を、俺はただ見ていることしかできなかった。しばらくして騒ぎを聞きつけた医師数名によって父は無力化された。暴れ狂う大人を数名がかりで押さえつけ、睡眠作用の強い鎮静剤を打ち込まれそのまま眠りについた。
「千明希君、今日はもう帰りなさい。これは君とって良いニュースか悪いニュースかは分からないが、君のお父さんは順調回復している」
「……別に、俺は……あんな奴……」
そのまま死んでもかまわない
あいつが自分の父親であるという事実が、その言葉を口にさせなかった。
「……この件は、定治さんにも伝えておく。今はゆっくり休みなさい」
ゆっくり休む?そんなこと出来るはずがない。あいつは俺以上の殺意を豊川家に持っている。再びあいつが目覚めた時、お嬢に危害を加える可能性は0じゃない。
俺のせいで……俺がそばにいるから……
その日、家までの帰路の記憶も曖昧で、気づいた時にはベッドの上で横になっていた。日付はすっかり変わっており、携帯から何度も着信音が鳴り響いたが今の俺にはどうする気も起きなかった。
ツアー中に発表された突然の解散宣言。明確な理由も明らかにされず、方向性の違い、不仲説など様々な憶測が飛び交っている。
テーブルの上で着信音を響かせる携帯。
「…また……出なくていいよ祥ちゃん」
「…………」
Ave Mujicaが抜けた穴を埋めるよう、sumimiの初華として多忙の日々を過ごしながら、彼女は心の拠り所を失った祥子に寄り添い続けた。しかし祥子が彼女を見ることはない。
「……ずっと、ここにいていいから……Ave Mujicaがなくなっても、ずっと一緒にいてくれる?」
祥子がそばにいてくれれば幸せだった。しかし、彼女が自分を求めてないことは嫌というほど伝わってくる。祥子からの答えは返ってこない。それでも彼女は寄り添い続ける。それが彼女の望みで、彼女の幸せだから。
スタジオ練を終えた彼女は、楽器を片付けながら次のスケジュールを確認していた。
「海鈴、この後ご飯行くけど一緒に行く?」
「こいつの奢りだから、遠慮なく食べれるよ〜」
「いえ、この後別のバンドのサポートが入っているのでこれで失礼します」
大切なものを失った恐怖から逃れるように、Ave Mujicaが終わってから空いてる時間は出来る限りバンドのサポートをいれた。流石にやりすぎではないかと、心配されることもあったが一人でいるよりはマシだった。彼女のギターは変わった。昔よりも感情を爆発させ、荒々しさが増したギターは、Ave Mujicaが終わったことで生まれたものなのは誰が見ても一目瞭然だった。信じることをやめた彼女はただひたすらにベースを弾き続ける。それでも過去のトラウマは今もずっと、彼女の身体にまとわりついて離れない。
収録を終え、ようやく迎えた休憩時間。彼女は周りに誰もいないことを確認して深くため息をついた。
Ave Mujicaが終わったあの日、事務所に直談判し所属タレントとして活動を始めた。彼女が望んだマルチタレントになるという夢を歩き始めることができたが、なんとも言えない喪失感が振り払えず拭えない。
脳に焼きつく若葉睦の演技、耳に残る双海千明希のドラム。演者としても、奏者としても、自分に影響を与えた存在が大きすぎる。上を目指そうにもその二人の存在が邪魔をして、進む脚を止めてしまう。天才であり、立ちはだかる天災が彼女の足枷となってしまっていた。
「……ほんっと最悪!」
背中を追おうにも彼女達はもういない。目指す場所が見えないまま、彼女は自分の夢路を歩き続けるしかなかった。
「睦ちゃん、この前の写真集買ったよ!」
「私はドラマ見た! 今度舞台も出るんでしょ?」
「えへへ、ありがとう! お仕事あるの嬉しいけど、こうして学校に来る機会が減っちゃうのが、少し寂しいんだよね…」
「睦ちゃん…」
「私達も寂しい! 困ってることがあったら力になるから言ってね?」
「うん! ありがとう!」
彼女は変わった。それと同時に周りを取り巻く環境も変わった。笑顔を振り撒くようになった彼女は、いつも中心にいた。目立たないようひっそりと過ごしていた彼女は消え失せた。自分の周りに、自分だけを見てくれている人はいない。彼女の後ろにある大きな力に、皆目を向けている。そんなことは分かっていた。それでも良かった。見てもらえるという、今まで体感できなかったことが、彼女に幸せを与えた。
(……だけど)
幸せが満ちれば、人はより多くの幸せを求む。それは意思だけの存在だった彼女も同じ。
そんな彼女の笑顔の仮面で隠されたもう一つの顔を、長崎そよは見逃さない。そよは自分の席から立ち上がると、談笑を続けるモーティス達の中に割って入った。
「睦ちゃん、今日の放課後空いてる?」
「……そよちゃん?……放課後なら少しは空いてるけど」
「そう……少しお茶しない?」
モーティスは本当の顔を仮面で隠しつつ、そよに対する警戒を解かない。どんな野心があるかも分からない、裏で何を考えているのか分からない。しかしそよの目は、モーティスのことを確かに真っ直ぐと見ていた。
キャラ紹介
モーティス…Ave Mujica解散後は芸能活動に力を入れる。モデル、バラエティなど多方面で活躍しており、彼女を見ない日はないと言っても過言ではない。
千明希の父親…出血多量により昏睡状態となっていた。妻を奪った豊川家に恨みを抱いている。
今回も読んでいただきありがとうございます
次回も楽しみにしていただければ幸いです
ライブに行く方!楽しんできてください!