Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける 作:お薬二錠
今まで書いてきたキャラの葛藤、繋がり、その他諸々を無かったことにはしたく無いので、自分のペースで頑張ります。
オリジナルストーリーって考えるの本当に難しい!
燈と共に、行先も分からぬまま雨降る夜の街を二人で駆ける。CRYCHICが無くなり、新しいバンドを初めた燈。練習の成果だろうか、昔よりも走るのが得意になってるような気がした。
「はぁ……はぁ……はぁ…はっ……つ……ついた……」
肩で息をする燈を心配しつつ、たどり着いた建物を見上げる。高く聳え立つそれは超高層マンションだった。燈の家は一般的なマンションだったはず……知らぬ間に引っ越したのだろうかと考えていると、建物の中から私達を呼び、慌てて駆け寄ってくる誰かの姿が見えた。
「燈ちゃん!祥ちゃん!」
私達の元へ駆け寄ってきたのはそよだった。
最後に会ったのは、お屋敷近くの公園でCRYCHICの話をした時。後腐れないよう事を終わらせるために、突き放す言葉を言ったことを思い出し、彼女の顔を真っ直ぐ見ることが出来なかった。
でもそよは、急いでこちらへ駆け寄るとそのまま私を優しく抱きしめる。勢いはかなり強かったが、柔らかく包容力のあるナニカに包まれ痛みは全くなかった。
「よかった無事で!本当によかった!燈ちゃんから連絡もらった時、息が止まるかと思ったんだよ?あまり心配かけさせないで!」
「……ご、ごめんなさいですわ…」
何が何だか分からないが、涙を流しながら抱きしめ続けるそよを落ち着かせるために謝罪の言葉を述べる。それでもそよの抱擁が解かれることはなくて、助けを求めて燈を見ると、少しあたふたした彼女は携帯の画面を見せてきた。
『祥ちゃんが死んじゃう! いまからそよちゃんの家に行っても大丈夫? みんな来てほしい』
「祥ちゃん、雨でびしょびしょで……風邪ひいちゃうから……そよちゃんの家なら…みんな入っても、狭くない、って思って」
言いたいことは色々あるが、燈が発信したメッセージは少し大袈裟だと思った。しかし思い返してみれば彼女の言葉に間違いは一切なく、馬鹿な事をしたと改めて自らの行いを反省する。
「二人とも早くうちに入って。そんなびしょ濡れじゃ本当に風邪ひいちゃう」
「ありがとう、そよちゃん」
「いいよ、別に。祥ちゃんも、一緒に」
「え、えぇ……」
燈とそよに両手を繋がれたまま、マンションの中を進んでいく。
CRYCHICの頃は、彼女達と肩を並べて隣を歩くのは当たり前のことだった。楽しくおしゃべりをしたり、ライブの話をしたり、今日会ったことを話し合ったり…………そんなCRYCHICを壊した私が、罪を重ねた今の私が、決して手にしてはいけない幸福だと分かっているけれども、この手を離すことは出来なかった。
離したくなかった。
エレベーターで上へ上へと昇っていく。そよの家は最上階にあるらしく、何を話せばいいか分からない私はただ階表示器を眺めていた。
(そよの家につけば、待っているのは私の懺悔の場。
私の話を聞いた時、燈は、そよは、どう…思うのでしょう)
罪を告白し、それ相応の罰を受ける。それが罪人の義務だ。しかし、今の私には…耐えられない。睦を、千明希を、失い……かつて運命共同体を誓った燈達まで失ったら……私は……本当に…ひとり
「祥ちゃん」
名前を呼ばれたことにハッとし、燈の方へ目を向けると優しい眼差しで私を見ていた。
「大丈夫。祥ちゃんは、一人じゃない」
そう言いながら燈は、先ほどよりも強く、ぎゅっと手を握ってくれた。
「……なぜですの?……どうして、私なんかを……」
「祥ちゃんだからだよ」
「……そよ」
そよは一瞬私に目を向けると、再び前を向いて話始めた。
「祥ちゃんが始めたCRYCHIC。燈ちゃんも、立希ちゃんも、睦ちゃんも……みんな祥ちゃんがいたからCRYCHICで出会えた。祥ちゃんがいなかったら、CRYCHICやってないよ、私」
「どういう……ことですの?」
そよは再び私を見ると、呆れたようにため息をついた。
「……着いたよ」
気づけばエレベーターは、私達を最上階へ送り届けていた。エレベーターの音に反応したのか、遠くの扉が開き、黒いロングヘアーをたなびかせながら、立希がものすごい勢いで走ってくる。
「ーーーッ! 燈!!!」
「立希ちゃん、来てくれて…ありがとう」
「燈に呼ばれたから当然。どこにいようとも、どこへだろうと、必ず駆けつけるから」
「ありがとう、立希ちゃん」
「身体濡れてるよね。これ、タオル使って」
「うん」
立希の燈に対する過保護はCRYCHICの時から全く変わっていなかった。寧ろ前より重くなっているかもしれないと見て思う。立希と最後に会ったのは、ずっと前。CRYCHICを続けられなくなり辞めることを伝えたあの日が最後だ。燈のことを思う立希だからこそ、あの日酷いことを言って、無責任にCRYCHICを辞めた私にどんな感情を抱いているかは分かっている。
「…ほら」
「あ、ありがとう…ございます」
それでも、こうして昔と変わらない不器用な優しさを見せてくれることが嬉しかった。
「ちょっとみんな〜、ずっと玄関にいないで部屋においでよ〜。お風呂も用意したし、そよりんが淹れてくれた紅茶も冷めちゃうよ?」
「…分かってる」
「ここ私の家なんだけど、なんで愛音ちゃんは自分の家のように話すのかなー?」
「あ、愛音ちゃんも、来てくれて、ありがとう!」
「ともりんの頼みだからね〜。てか二人ともずぶ濡れじゃん!そよりんの家のお風呂広いから二人で入っちゃったら?」
「は!?お前、何言ってんの?」
「え?だって、片方入ってるの待ってる間に風邪ひいちゃうかもしれないじゃん」
「そ、それは…そうだけど……」
「……はぁ、今回ばかりは愛音ちゃんが正しいかもね」
「そよ!?お前まで!?」
「今回ばかりは、ってどういうことそよりん?」
「はいはい、愛音ちゃんはいつも正しいよー」
「「ちょっと!!」」
完全に置いてけぼりを食らった私。燈も同じだと思って顔を見ると、嬉しそうに微笑みながら彼女達のやり取りを見ていた。CRYCHICの頃と変わらない笑みを。
(あぁ、やはり私の居場所は……もう……)
「祥ちゃん!お風呂入ろう!」
「ふぇっ!?」
燈の突然の申し出に、脳が思考を停止する。
確かに愛音さんが言っていたことに間違いはありませんけど、だからといって私が燈と二人でお風呂に入るなんてそんな……そんなことがあっていいんですの?
「燈と二人きりにはさせない。私も一緒に入る」
「え?」
「りっきーが入るなら私もー!そよりんも一緒に入ろうよー」
「え、ちょっ」
「……まぁ、私一人だけ待ってるのも、あれだし……」
「あ、あの?」
「みんなで……入ろう!」
話がどんどん進み、結局みんなでお風呂に入ることになってしまった。私の感情の浮き沈みが激しくて脳と心がうまく連動しない。
「……ふ、不束者ですが、よろしくお願いしますわ」
思わず変な事を口走ってしまった。
そんな私をおかしいと思ったのか、そよが笑い、それに釣られて千早さん、燈も笑い出す。立希は呆れた表情をしながらも、確かに笑顔だった。
あの頃と変わらない、皆と笑い合えるこの時間、空間。
今だけは、これまでの罪を忘れ、このひとときの幸せを噛み締めたいと心から思った。
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴る。でも、身体を起こす気力が全く無い。父親と顔を合わせ、言葉を交わしたあの日から数日が経った。正確な日数は分からない。何も口していないから頭も回らなくて、今日が何曜日かも分かっていない。
ピンポーン
チャイムはまだ鳴っている。
今までのように無視しようと思ったが、部屋の中がすごく暗いことで違和感に気づいた。部屋のテレビも電気もつけず、カーテンは全て閉めきっている。それでも陽の光は遮蔽物を貫き嫌でも部屋に差し込んできた。しかし今はそれが無い。壁掛け時計に目を向けると針は十二時を指している。真夜中の十二時を。
(まさか……)
わざわざ人目を避け、こんな時間に訪れる来訪者。最悪のパターンを想定した俺は、おぼつかない足でフラフラと立ち上がり、キッチンから包丁を一本手に取ってゆっくりと玄関に近づいた。
チェーンはかかっている。
何があっても落ち着いて対処すれば大丈夫と、自分に言い聞かせ深呼吸をする。
鍵を開け、狂気を隠しながら、恐る恐るドアを開けると……
「……何で、あんたがここに」
「……責任を果たしてもらいに来た。だから、その手に持つ物騒なものを離しなさい」
突然の来訪者は、今の俺を創り上げた元凶と言っても過言ではない、忌々しい相手 豊川定治だった。
祥子ちゃんの周りには燈ちゃん達。でも千明希の元には定治。書いていて思った。千明希、ごめん。
キャラ紹介
豊川祥子…自分の居場所はないと落ち込んでいる間に話が進み、みんなでお風呂に入ることが決定し、恥ずかしさと嬉しさと申し訳なさで感情が大渋滞してる。
前もって言っておきますと、次回はお風呂後のシーンから始まります。
お風呂シーン書くのって何だか難しそうで逃げさせてもらいます。
読者の皆様には想像で楽しんでほしいです。
改めて、今回も読んでいただきありがとうございます
次回も楽しみにしていただければ幸いです