Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける   作:お薬二錠

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ぷちっしゅが、ぷちっしゅがいない!
祥子ちゃんのぷちっしゅがどこにも! 
当日、仕事終わりに行きましたが、ティモリスとアモーリスだけでした。しっかり二人とも迎え入れました。
だけど祥子ちゃんのぷちっしゅがほしい! いつか巡り会える日はくるのでしょうか……今回キリがいいので少し短めです。


第二十七話 サヨウナラ

玄関のチェーンを外し、訪れてきたのが父親じゃなかったことにひとまず安堵した俺は手に持っていた凶器を置いた。しかしわざわざこんな時間にやってきたコイツに対し、警戒心を解くことはしない。

 

「こんな時間に何のご用ですか定治様。流石に常識はずれじゃないです?そろそろ寝ようとしてたところなんですが」

 

豊川家の屋敷で住んでいた時と同じ口調で話し始める。定治は、まるで商品を品定めするように俺を見て口を開いた。

 

「隈も酷く、顔色も悪い。医師から話は聞いている……父親のことで十分な睡眠を取れていないはずだ」

 

「……何の心配ですか……余計なお世話なんだよ、引っ込んでろ」

 

「それがお前の本当の顔か」

 

自分の中で沸々と怒りが沸るのが分かる。コイツが逃げなければ母さんは助かったかもしれない。母さんが助かっていれば父さんも変わらなかった。父さんが変わらなければ、俺はこの手を汚さずに済んだ。

 

全部…全部!全部!!全部!!!コイツのせいで!!!

 

「…早急にお引き取り願えますか?アンタの顔見てると……怒りでどうにかなりそうなんだよ」

 

お嬢の側にいた時、当然顔を合わせる機会は何度もあった。その度に込み上がる感情を押し殺し、仮面をつけて過ごしてきた。

 

でも今は無理だ。父親が目覚め何をするかわからない状況。最悪、俺の周りに被害が及ぶ可能性もある。自分一人の力じゃどうすることもできなくて、自分がいなくなれば、誰も不幸にならずにすむんじゃないかって考えていたところだった。

 

「千明希、お前がAve Mujicaに入ることを望んだ時、私に提案した条件を覚えているか?」

 

「…豊川家を……継ぐ。でも!Ave Mujicaは、まだ終わってない!」

 

「祥子が作ったバンドは解散した」

 

「は?」

 

言葉の意味が理解できなかった。だってAve Mujicaはツアーの最中で、いくら睦がモーティスとなっていたとしても、ヘルプを呼ぶなりやり方は色々あるわけで、それなのにAve Mujicaが終わったなんて……

 

「……う、そ……うそ…だろ?」

 

「何も聞いてなかったのか。事務所からも正式に発表があった。ツアー中止によって発生した賠償金もすでに払っている」

 

「あ……あぁ……俺…おれは……なん…で」

 

足に力が入らず、崩れ落ちた俺はそのまましゃがみ込んだ。何で側にいてやれなかったんだろう。またあの時と同じだ。お嬢がCRYCHICを辞めた時、俺は側にいることができなかった。お嬢の辛さ、悲しみを共有することもできず、全部一人で背負わせた。

 

同じ思いはさせない。次はちゃんと、側にいて守りたい。そのために俺は、Ave Mujicaに入ったのに。

 

「何で俺は!いつもこうなんだ!大切なものが!全部壊される!それなのに俺は!何もできない!無力で!守れない……俺は…もう、どうすればいいのか……分からない」

 

幸せだった家庭は壊された。でも母さんを失ったのは自分のせいだ。お嬢がCRYCHICを辞めることになったのも、側にいれば変わっていたかもしれない。

Ave Mujicaも壊れた。次から次へと壊され、奪われる。

 

「……ダメ…ダメだ……あいつが、あいつが壊しにくる!」

 

脳裏に父親の嫌な笑顔が浮かび血の気が引く。恐怖で身体が小刻みに震える。次に壊されるのは、奪われるのは、きっと豊川祥子だ。守らないと。護らないと!頭では分かっていても、心がそれを拒む。あいつの前に立っても、何もできない自分が安易に想像できてしまう。植え付けられた恐怖は、俺が父親の前に立つことをユルサナイ。

 

今まで形を保っていた何かが、砕け散る音がした。

 

 

 

 

 

 

「……お願い、します……お嬢を…祥子ちゃんを……守ってください……」

 

力が入らない足を引き摺りながら、定治に何とか近づき、涙を浮かべながら服を掴んで必死に懇願する。

自分ではどうすることもできない。もう、相手を選んでいられない。大切な人を守るためなら何でもする。

 

「お願いします……お願いします……祥子ちゃんまで……失いたくない……」

 

「……私とて同じだ。大事な孫娘を危険な目には合わせたくない」

 

同じ気持ちだと言ってくれたことが嬉しくて、俺は顔を上げ定治を見る。

 

 

 

何とも醜い、濁ったような色の目をしていた。

 

 

 

「祥子は必ず守る。あの男の好きにはさせないと約束する。その代わり……千明希、お前を私の息子として迎え入れ、いずれ豊川のトップに立ってもらう」

 

「…俺、おれ」

 

「大丈夫だ。お前の力は誰よりも理解している。お前なら必ず、豊川のトップ立つ器になれる」

 

安心させようとしているのか定治は泣いてる俺を抱きしめる。心底気持ち悪いが、これで祥子ちゃんを守れるならどうでもいいと思った。

 

定治に抱きしめられながら玄関の方を見ると誰かが立っている。

 

スチームパンクなフルフェイスの仮面を外したそいつは、ニタニタと嫌な笑顔を浮かべていて、俺とよく似た顔をしていた。

 

「幸せ?」

 

「別に…幸せとかどうでもいい……祥子ちゃん、さえ、無事なら…何でも…いい……」

 

「そう。疲れただろ?一休みしたらどうだい」

 

「……そう、する……すごく…眠たい」

 

「おやすみ、千明希」

 

「……おやすみ…インテリタス…………サヨウナラ」

 

「はい、サヨウナラ」

 

 

 

 

 

少年は安息の地へ堕ちる

最愛の人を守り抜いてくれると、他人を信じきる姿は

破壊を愛するモノの目に滑稽に映っていた




キャラ紹介

双海千明希…大切なものが次から次へと壊されること、次に壊されてしまう祥子ちゃん、その元凶となる自身の父親にどうすることもできないと悟り、守る役目を他者に託す。

インテリタス…こんにちわ。みっともない主人が眠りについたので、代わりに出てきました。

今回も読んでいただきありがとうございます
次回も楽しみにしていただければ幸いです
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