Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける   作:お薬二錠

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これでストック無くなりました。ゆっくり更新していきます。


第三話 ヒサシブリ

記憶に新しいライトブルーの髪色をした少女が目の前に現れる。先日見た時と違う点を挙げるなら、その子は小学校低学年くらいの身長だ。

 

口は動いているが、肝心の声は一切こちらに届いてこない。そのうち少女は泣き出してしまい、なんとかしようと手を伸ばすが…

 

『いなくなって』

 

突如高校生くらいに成長した彼女は、あの時と同じ顔つきでそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……突き放すんなら夢に出てくんなよ」

 

見慣れた悪夢に起こされて、いつもと変わらない朝が始まる。

 

椎名達のライブは大成功だった。バイトの途中でライブハウスを飛び出したことは、しっかり椎名に怒られたが…。

 

彼女達はメインバンドの繋ぎにも関わらず、あの日会場に来ていたお客さんの記憶にしっかりその存在を残した。特に最後に演奏した曲が話題で、SNSでそこそこバズり、俺は投稿された動画のコメント欄に目を通していく。

 

ー繋ぎのバンドとは思えないくらいレベル高かった!

 

ー背の低いギターの子、上手すぎてヤバい!

 

ーボーカル必死すぎ

 

ー最後の曲、歌詞に感情移入して思わず泣いちゃった

 

「そりゃいい曲だったもん。泣くのも分かるわ」

 

SNSは彼女達が演奏した春日影を賞賛しているが、あれが彼女達の曲ではないことを俺は知っている。

昨日演奏した迷子のバンドメンバーである高松燈、椎名立希、長崎そよ。そして別のギターとキーボードの5人で結成されたCRYCHICというバンドのオリジナル曲だ。

だけど、CRYCHICはもうない。再び彼女達の音楽を聴くことを楽しみにしていたが、CRYCHICは最初のライブを最後に解散してしまった。

 

「……誰かに聞けば分かったりすんのかな」

 

唯一接点があるのは椎名だけだが……。

CRYCHICに直接関与していたわけではない。そもそもちゃんと面識があるメンバーもキーボードとボーカルの2人だけだ。

ただ彼女が大事にしていた場所が壊れてしまったのなら元に戻したい。それで彼女がまた笑ってくれるのなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校に着くと、椎名の周りには人だかりが出来ていた。昨日のことを改めて謝ろうと思ったが、また後にしようと考えていると、別の場所に出来ていた人だかりが目に映る。

 

「お! 千明希来たな! こっちこっち」

 

クラスメイトに呼ばれ人だかりに近づくと、そこは男子生徒しかおらず何やらひそひそと小声で会話を繰り広げていた。

 

「それでお前本当に見たのかよ?」

 

「嘘じゃないって。担任に用があって職員室行ったらいたんだよ」

 

「誰がいたんだ? てかなんの話?」

 

「千明希は察しが悪いな。いいか、落ち着いて聞けよ」

 

人だかりは中心に集まり、彼の次の言葉を息を呑んで待つ。周りからの視線が痛いほど刺さっているが、みんなで渡れば怖くないの精神でいこう。

 

「職員室で担任と話してたのが三角初華だったんだよ!あのsumimiの!」

 

「「「な、なんだってー!!!」」」

 

男子生徒が大声を上げたことで、他のクラスメイトの視線が一気にこちらに集まった。

 

「お前達うるさいぞ。朝のHR始めるから席につけ」

 

ちょうどチャイムがなり、興奮冷めやらぬ男子生徒達は、喜び、困惑、感動、疑い、様々な感情が駆け巡るままそれぞれの席に着いた。

 

「朝からなにバカなことやってんの?」

 

「いや、俺も本当かどうかは知らないけど、sumimiの初華が転校してくるって」

 

「はぁ?」

 

「HRの前に転校生を紹介する。それじゃ入って」

 

 

 

 

 

 

 

担任に呼ばれ入ってきたのは、肩あたりまで伸ばした金髪が特徴的な整った顔立ちの女の子。

正直、クラスメイトの見間違いだと思っていた。

 

「初めまして。今日から転校してきた三角 初華(みすみ ういか)です」

 

だから転校生が来ても今まで通りの学校生活だと安心していた。

 

「「「よっしゃー! 本物の初華ちゃんだ!!!」」」

 

「見たかお前ら! 俺の情報力を舐めるなよ!」

 

やばい。彼等にとって三角初華は今大活躍のアイドルの一人だけど

 

「お前らうるさいぞ! 静かにしろ!」

 

俺にとってはそうではなくて…

 

「あ! 久しぶり千明希君!」

 

にっこり笑って手を振ってくるもんだから、クラスメイトの視線は名前を呼ばれた俺一点に集まる。

 

「……久しぶり、初華」

 

俺はぎこちない笑顔を浮かべながら、壊れたブリキ人形のように、今をときめくアイドル転校生に手を振り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「めっちゃ疲れた…」

 

「ごめんね千明希君。私のせいで」

 

放課後になって俺は初華に学校案内をしていた。

あの後、クラスの男子達から怨念混じりの質問攻めにあい、初華とは昔幼馴染だったことを伝えた。

当然、納得いかないと反論する男子生徒がほとんどだったが、担任の説教と、初華のアイドルスマイルでその場を乗り切ることができた。

 

「…アイドルってすごいな」

 

「私なんてまだまだだよ。メンバーのまなちゃんなんていつも笑顔で、すっごく明るくて。本当のアイドルって感じだもん」

 

「ふーん。同じアイドルグループに同じタイプのメンバーがいるのって微妙じゃん? 初華には初華の良さがあるでしょ。気づけてないだけだよきっと」

 

「…そっか。千明希君は相変わらず優しいね」

 

「どういたしまして」

 

他のクラスメイト、椎名や八幡と違って初華と一緒にいるのは気が楽だった。幼い頃一緒に過ごした時間があるから、お互いのことはよく知っているし、アイドルになっても初華はまっすぐで、ちょっと抜けてて、安心した。

 

「そういえば祥ちゃんは元気?」

 

「ああ、今も変わらず元気だよ。初華が最後にあったのはだいぶ前だよね。立派なレディになってるから次会うの楽しみにしてな」

 

「本当⁉︎ また祥ちゃんに会えるんだ。楽しみだな……」

 

初華は本当にまっすぐで、彼女の話になると周りが見えなくなる悪い癖がある。だから……安心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラスメイトに呼ばれた。

そう言って千明希君は帰って行った。

今日、転校してきて分かったことだけど、彼は部活動の助っ人や、クラスメイトからの頼まれ事を引き受けることが多く、花咲川の助っ人部長なんて呼ばれてるらしい。

 

「変わってなくてよかった」

 

先程までいた彼の幼い頃の姿を思い浮かべる。

少しぶっきらぼうで、言葉遣いが悪い。でもしっかり人を見ることが出来て、誰かのためになろうとする。

 

外は陽が落ちて薄暗く、ガラス窓は私の姿をうっすら映す鏡のようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり嫌いだな。千明希君」

 

私以外誰もいない。

誰もいないから、私の本音はナニモノにも拾われることなく薄暗い教室に溶けてなくなった。




簡単なキャラ紹介

千明希のクラスの担任…名前はない。原作は女性でしたが、注意するセリフが多く男性になってしまった

三角初華?…今回転校生になってもらいました。初めからメインキャラ全員が同じクラスって詰め込みすぎと思って

今回も読んでいただきありがとうございました
次回も楽しみにしてくれると幸いです
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