Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける 作:お薬二錠
時間がかかって申し訳ないです。
ハーメルン用のXアカウント作りました。だからなんだって話ですが、よければフォローしてくれると、にまにましながら喜びます。
お薬二錠で検索してもらえれば出てくるので、よろしくお願いします。
祥ちゃんの告白した過去は、私の想像を絶するほどだった。
お母さんを亡くしたことからくる悲しみを、私は祥ちゃんから感じたことがない。
お父さんが詐欺にあって、今までとは一変した生活をしなければならない苦労を、私は祥ちゃんから感じたことがない。
私は祥ちゃんのことを、何一つ分かっていなかったんだと思い知った。
祥ちゃんは私にたくさんの輝きをくれたのに。
祥ちゃんのおかげで、私は人間になれたのに。
祥ちゃんのおかげで、私は前を向いて歩けるようになったのに。
そう思ったら申し訳なさや、不甲斐なさ。自分に対する怒りとか、色々な感情がぐちゃぐちゃになって、気づけば私は涙を流していた。急いで目元を袖で拭うけど、涙は止まってくれなくて、そんな私を見た祥子ちゃんは慌てて私に駆け寄ってきた。
「燈!?大丈夫ですの!?どこか具合でも?」
自分の方が辛い思いをたくさんしてきたのに、自分以外の誰かを心配できる祥ちゃんは、やっぱりすごいと思った。
「ううん、大丈夫だよ……ごめん。祥ちゃんが辛いとき…私、何もすることができなかった」
「そんな…燈は何も悪くなんて」
「違う! 私は、祥ちゃんからもらってばっかりで…まだ、何も返せてない。だから…」
次から次へと湧いてくる自分のダメな部分を叫ぼうとしたとき、祥ちゃんは優しく私のことを抱きしめてくれた。
「……祥、ちゃん?」
「燈。あまり自分を責めないで。私も燈からたくさんの言葉を貰いましたわ。燈の言葉は心の叫び。あの頃の私は素直に受け取ることができなかったけれども、今の私なら、燈がかけてくれた言葉一つ一つの温かさを、ちゃんと受け入れることができますわ。誰がなんと言おうと、たとえ燈自らが否定しようとも、私は燈と出会って救われた。燈の言葉に励まされた……だからありがとう、燈。私と出会ってくれたこと、心から感謝していますわ」
「……うん。私からも、ありがとう祥ちゃん」
「はい!そこまでー!」
「ちょっと、いつまで燈にくっついてんの」
お互いの鼓動を感じるように、抱きしめ合っていた私達を二人を眺めていた三人。そのうち愛音ちゃんと立希ちゃんが、少し不機嫌そうに歩み寄ってきて私達二人を引き離した。ちょっと悲しい。
「燈…そんなあからさまに落ち込まれると……ごめん」
「りっきー、ともりんに弱すぎだよ〜。祥子ちゃんだけのともりんじゃないんだからね〜?」
なんて言葉を返せばいいのか分からずにオロオロしていると、祥子ちゃんは私達のやり取りを微笑ましく眺めながら言った。
「本当に、燈は皆に愛されていますのね」
その言葉で、顔がどんどん熱くなっていくのを実感する。本当の気持ちをぶつけてくれた祥子ちゃんは、昔のように暖かくて、優しい一面を見せてくれる。
だけど、ちょっといじわるだとも思った。
「愛音ちゃんも、立希ちゃんも、ふざけるのはそこまでにして」
「「ふざけてなんかない!」」
「それで? これからどうするの祥ちゃん?」
私達の視線は祥ちゃんに集まる。
祥ちゃんは、私達から目を逸らすことなく、その瞳にはあの頃の祥ちゃんが持っていた自信と輝きが灯っていた。
「私は……Ave Mujicaを復活させますわ!」
眠りにつく燈達を起こさないよう、静かにバルコニーに出る。ベッドを使うようそよに言われたが、家主をさしおいて使わせてもらうのは申し訳ないし、どうせならと思った私はみんなと一緒にリビングで眠ることを選んだ。
星が薄く輝いている夜空と、眠ることを知らない街の明かりの狭間に私はいた。
目指す場所は決まった。
だけど、そこにたどり着くまでの道のりはとても険しく、まるで霧がかかったように先が見えない曖昧な道だ。
バンドを復活させるためには、彼女達に声をかける事は避けては通れない。残りの人生を預かるなんて言っておきながら、その責任を放棄し逃げ出した私が、いまさらどんな顔で彼女達に会えば良いのか分からない。
睦、初華、祐天寺さん、八幡さん。
Ave Mujicaは、お互いの信頼の上に成り立っていたバンドではない。個人の目的のために、私自身のために、なんとか形を保てていた商業バンドだ。
その中でも、睦と初華の二人は私のことを思って、バンドメンバーになることを選んでくれたと思う。
『祥が……壊れそうだから』
『祥ちゃんの頼みだもん』
(それなのに私は…二人のことを見もせずに自分のことばかり)
その結果、睦は深い眠りにつき、初華にも、きちんと挨拶もできずに家を出てしまった。
(許されることではないけれども、話をしなければ終わることもできませんわね…)
「眠れないの?」
振り返ると、そこにいたのはそよだった。
「ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」
「ううん、私も眠れなかっただけ……祥ちゃんと、こうやって星を眺めてるなんて夢みたいだね」
「…そうですわね」
「…もしCRYCHICが終わってなかったら、こんな未来もあったのかな」
「そよ……」
CRYCHICが無くなってからも、そよは諦めずに私達をもう一度結びつけようとしていた。
急にいなくなった私の身を案じ、睦を通じて連絡を取ろうとしたり、燈と立希をもう一度結び、CRYCHICの基盤となるバンドを結成したり、春日影を演奏してしまったことを謝りたいと、何度も連絡をくれたり……
私がそうだったように、そよもCRYCHICを何かの拠り所にしていたのかもしれない。結局、周りが見えずに、自分のことばかりになっていたのは、昔から変わっていないようだ。
「そよ…あの日の私の行いを、改めて謝罪させてください。あなたの思いを汲み取ることもせず突き放してしまったこと、あなたに対しご自分のことばかりなんて酷い言葉を投げかけてしまったこと……本当に、ごめんなさい」
「ううん、一生許してあげない」
「えっ!?そ、そよ!?」
「ふふ、冗談だよ祥ちゃん」
なんて言いながらそよは笑っているが、俄かに信じがたかった。包容力があって、みんなをまとめてくれる優しいそよのイメージは、今日一日ですっかり塗り替えられてしまった。
「祥ちゃん、何か失礼なこと考えない?」
「そ、そんなことありませんわ…」
彼女の本来の顔に未だ慣れない私は、そよと目を合わせたまま答えることができなかった。
「……祥ちゃんに言われて気づいたから。確かに、自分のことばかりだったって。CRYCHICを取り戻したくて、愛音ちゃんとバンド組んで、燈ちゃんと立希ちゃんを巻き込んだ。でもCRYCHICの復活が無理って分かったから、一度全部投げ出した。どうでもよくなっちゃったんだ」
私はそよの話を黙って聞いていた。
そよは当時のことを思い出しているのか、少し申し訳なさそうな顔で話し続けた。
「しばらくして部活の発表会に立希ちゃんがやってきた。だからその時言ってやったの。全部CRYCHICのためだって、愛音ちゃんも楽奈ちゃんもその為に利用しただけだって」
同じだと思った。自分が求める物のために他者を利用する。再生の兆しなんてこれっぽっちも見えない。それなのに、そよ達はどうして今も同じバンドとして活動できているんだろう。
「反論されたけど立希ちゃんに言ったんだ。立希ちゃんも燈ちゃんさえいればいいんでしょって……そしたら立希ちゃん、案の定何も言い返せなくなっちゃった」
初めてCRYCHICでライブをしたあの日から、立希の燈を見る目が変わったのは知っていた。それはまるで崇拝のような、純粋とは言えない視線。私が初華から向けられているものに近いと思う。
「そしたら今度は愛音ちゃんが来たの。よく私に会う気になったなって思ったよ。立希ちゃんから話は聞いてるはずなのに、わざわざ月ノ森までやってきてさ、何言ってもついてくるし、家までついてこられたから仕方なく家にあげたけど……」
「安心しましたわ」
「…何が?」
「結局、そよは優しい人ってのが分かって安心したんですの」
「……はぁ、祥ちゃんってさ、人を誑かすの得意だよね」
「た、誑かす!?私そんなつもりは全く」
「自覚ないなんてもっとタチ悪いよ?」
「ご、ごめんなさい…」
「無意識に人を誑かすのが得意なのは、燈ちゃんと同じだね」
「燈が…人を誑かす?」
「MyGOが解散してからも、燈ちゃんは一人で詩を歌い続けた。バンドの解散なんて二度としたくない思いをしたにもかかわらず。自分にできることはそれしかないって歌い続けて、いつのまにか楽奈ちゃん、立希ちゃん、愛音ちゃんも巻き込んでた。私と愛音ちゃんが作ったバンドだから、私が終わらせようって会場に行ったのに、気づけばステージに引っ張り上げられて、楽譜もないのに即興でライブして……めちゃくちゃだったけど、楽しくて…嬉しかったんだ。こんな私を受け入れてくれたことが」
「そよ…」
「これが私の罪。あの日のことを謝ることもできないまま、私は今もMyGOをやってる。いつか謝らなきゃって思ってるけど、なかなか機会がなくて今日まで来ちゃった」
「……きっと大丈夫ですわ。そよの優しさも、思いも燈達に伝わっている。今日一日、一緒にいただけですけれども、それが充分伝わってきましたもの」
「祥ちゃんも同じだよ」
「…え?」
「Ave Mujicaのことはあまり分かってないけど、同じ目標に向かって共に歩いてきた人との繋がりはそんな簡単に無くならない。CRYCHICが無くなっても、こうして私達が話せてるからきっと大丈夫」
その時見せたそよの笑顔は、あの頃と変わらない温かみのある優しい笑顔だった。
「世界は変わっていくけど、変わらないものもある。それに万が一ダメでもMyGOにキーボードの枠はあるし」
「縁起でもないことを言わないでくださいまし!」
思わず叫んでしまったが、燈達を起こしていないかと気になり私達は部屋を覗く。そこには静かに寝息を立てる三人の姿があった。安心した私達は互いに見合い、静かに笑い合う。
「冷えてきたし、そろそろ戻ろっか」
「ええ。そよ…よろしければ、全て終わった後に一緒お茶でもいかがです?」
「うん!美味しい紅茶淹れてくれるお店探しておくね」
「楽しみにしていますわ」
部屋に戻ろうとした時、そよは真剣な顔つきでこちらに振り返った。
「祥ちゃん、私CRYCHICのこと一生忘れないから。私にとって楽しい思い出でもあるし、辛い思い出でもある。どんな理由だとしても、私にとって大切な思い出であることに変わりはないから。だから一生忘れないよ。今までも、これからも」
「ええ、私も忘れませんわ。CRYCHICは、形を無くした今も、私の心の中で輝いていますもの。忘れることなんて決してできませんわ」
眩しすぎて見ないようにしていた。この輝きは全てを裏切った私に相応しくないと思ったから。だけど、誰がなんと言おうとこの光は私の物だ。
この先、暗闇の中を歩き続かなくてはいけない。恐怖や不安で押しつぶされ、足を止めてしまう時もあるだろう。それでも私は進むことを決してやめない。この道の先に、明るい未来があると信じているから。
ご覧いただきましたのは、秘密を抱えた彼女の話
ここからは仮面を捨てた人形達の物語
『素晴らしい演奏でした。良かったですね、元鞘に戻れて』
恐れから目を背ける人形
『こっちは好きだから必死になってんの!』
愛を自覚したが、すでに手遅れだった人形
『もうあの子はいない。この世界にも、私の中にも』
死を受け入れた、たった一つの人形
『生きてはいますよ。次いつ目覚めるか分かりませんが』
破壊を愛し、一人の少女を愛した哀れな人形
『いいえ!私まだ未成年なので遠慮しておきます!それに成人してもお酒を飲もうとは思いませんので!』
忘れることのできない輝きと向き合うことを決めた勇敢な人形
人形劇はまだ終わらない
どうぞ皆様、素敵な夜を