Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける 作:お薬二錠
待っていてくれた方はお待たせしました。
空いてる期間にいろいろありました。
ようやくAve Mujicaのぷちっしゅが全員揃ったり、ぷちっしゅの仮面を全員分買ったり、舞い上がって車内に置いといたら暑さでフェルトの衣装が剥がれてしまったり……ぷちっしゅ達に申し訳ない。不器用ですが、早く直してあげようと思います。
みなさんも暑さに気をつけてください。
私の前に扉が立ち塞がる。建て付けの悪い、木造の古めかしい扉。私が住む今の世界を、目を背けたくなるような現実を突きつける忌々しい扉。
でも決して逃げることはしない。
これも、清算しなくてはならない私の罪。
扉を開けた先はいつもと変わらない光景だった。
床に散乱する飲み終えた酒缶。部屋に充満するアルコールの嫌な匂い。ただ、いつもそこにいるお父様の姿がどこにも見えなかった。
出かけてるのならそれでもいい。ただ、酔った勢いで誰かに迷惑をかけなければそれで。
学校から帰ってきたときにまた話をしようと思い、制服に手を伸ばしたところで玄関の開く音がした。
「お父様?」
そこには濡れた服を着て息を切らすお父様の姿があった。
「さ、さき…こ」
私の姿を見るや否やお父様はすごい勢いで駆け寄ってきた。
「さきこ…祥子!あぁ、良かった無事で!怪我は?どこか痛むところとか無いか!?」
「だ、大丈夫ですわ。怪我もしてませんし、至って健康です」
こんな慌てた様子のお父様を見たことがない。見たことがないと言っても最近の話で、あの屋敷に住んでいた時は私やお母様が少し怪我をしただけでも、今と同じように……
「お父様?もしかして、心配して」
ここでの生活が始まってお父様は変わった。変わってしまった。酒に溺れ、自分を責めて、世界から目を背ける日々を送っていた。そんなお父様の目に、私の姿なんて映ってないと思っていた。
だけど……
「心配したに決まってるだろ!あんな時間に家を飛び出して!外は雨が降っていたのに、朝になっても帰ってこない娘を心配しない親がどこにいるんだ!」
お父様の目に、私の姿はちゃんと映っていた。あの頃と変わらない。私のことを気にかけてくれるお父様がいることに、私は気づけなかった。落ち着きを取り戻し、我に返ったお父様は声を荒げてしまったことを後悔している様子だった。
「す、すまない……散々迷惑をかけてきたのに、今更親だなんて言っても、仕方ないよな」
お父様は気まずそうな表情で私から距離を取ろうとする。そんなお父様を手放さないよう、私は優しく手を取った。小さい頃、私の頭を撫でてくれた大好きな手。あの頃と比べて少し頼りなくなったけど、優しさは何一つ変わらない。
「いいえお父様。心配かけてごめんなさい。本当に……ごめんなさい」
そのままお父様をぎゅっと抱きしめる。昔はよく甘えて抱きついていた。その度にお父様は優しい笑顔で私の頭を撫でてくれた。そんな時間が大好きだった。
「……いいんだ、祥子が無事で本当に良かったよ」
お父様は昔と同じように私の頭を優しく撫でてくれた。その手つきはあの頃と全く変わってなかった。優しさと愛情を、今のお父様から感じられたことが、私は心の底から嬉しかった。
花咲川の制服に袖を通した俺は、鏡の前で笑顔を作る。ふと我に返り良い人を演じ続けた自分を見つめる。愛想を振り撒いてきた自分にため息をつく。
「ほんと、良くやるよ」
もう一度笑顔を浮かべたタスケビトは、皆が求めてきた仮面を捨てた。
ここからは自分のために動き始めよう。
ニヤリと笑みを浮かべ、人形は太陽が照らす外の世界へ足を運んだ。
祥子からCRYCHICを辞めた理由を聞いた翌日、一度家に帰って制服に着替えた私は、いつものように学校へ向かっていた。
『私は……Ave Mujicaを復活させますわ!』
そう宣言した祥子はCRYCHICを始めた時と変わらない目をしていた。気づかないうちに周りを引っ張ってくれる。進むべき道を照らしてくれているような、そんな力が祥子にはある。Ave Mujicaをやっていた時の祥子も、周りを導く力を持っているのは確かだけど、CRYCHICのときにはあった輝きがないように見えた。だから、祥子から私達を導いてくれた光が再び見えたことが素直に嬉しかった。
「……と言ってもな」
祥子が決めた道は簡単な道ではない。バンドを復活させるためには、バラバラになったメンバーを再び集めなくてはならない。名前だけをそのままにして新しいメンバーでバンドを始めても、そんなバンドに意味なんてない。
Ave Mujicaは祥子のお爺さんが経営している会社がスポンサーとしてバックアップしているらしい。つまり祥子がまずやらなくてはいけないことはお爺さんの説得だ。いきなりハードルが高いが、祥子は諦めるつもりなんてこれっぽっちもなかった。
『相手は家族ですし、赤の他人を相手にするよりもやりやすいですわ。何としてもお祖父様を納得させてみせます。それが私の役割ですもの』
そう言った後、祥子は申し訳なさそうな顔で言った。
『そよ、立希……あなた達二人に、折り入ってお願いがあるのですが』
Ave Mujica復活のために必要なこと。
一つは心強いバックアップを味方につけること、そして、代わりなんて決して見つかることのない、唯一のメンバー達の再勧誘だ。
下駄箱から靴を取ると同時にため息が出る。
改めて考えると凄いことだと思うが、私のクラスメイトにはAve Mujicaのメンバーが三人在籍している。
八幡海鈴、三角初華、双海千明希の三人。
その三人と祥子が話す時間を確保するのが私の役割だ。かなり重荷だけど、あの祥子に頭下げて頼まれたんじゃやらないわけにはいかない。
「椎名さんおはよ〜」
と言っても話す以前の問題で、あの三人は最近学校に来ていない。
「椎名さん?」
三角さんは元々アイドル業が忙しくてあまり学校に来ていなかったから仕方ないといえば仕方ない。
「あれ?俺、死んだ?」
海鈴も、バンドのサポートが忙しいようで、登校する日数は減ったし、来ても寝ていることが多かった。双海は…Ave Mujicaが解散した次の日から学校に来ていない。
「ってことは今の俺は霊体?一生椎名さんに気づいてもらえない⁉︎無反応で冷たい眼差しだけ向けられるのはすごく良い!! だけどそれが一生続くのは話が別! 嫌だ! 悲しい! すごく悲しい! お願い椎名さん! 俺のこと思い出して! 千明希の友達の片割れとか、千明希の友人Aとか、せめてクラスメイトBくらいで俺の居場所をつくっ」
「あー、もう!!うるさいんだよ!!」
「し、椎名さ〜ん!よかった〜、おはよ」
限界を迎えた私は鬱陶しくまとわりつくクラスメイトBに怒鳴り散らす。にも関わらずそいつは私の顔を見て嬉しそうな顔をしていた。
「何?私いま忙しいんだけど」
「うん、見たら分かるよ。すごい忙しそうだな〜って」
他人事みたいに言うのもムカつくし、知ってるくせして声かけてくることにもムカついた。
「あっそ、だったらほっといてくれない?」
「それは無理。Ave Mujica復活させるんでしょ?千明希は友達だし、それに……まぁ、これは良いや。何はともあれ友達のために俺も一肌脱ぎますよ?」
「……待って、何でそれ知ってーー」
「白矢!」
私の言葉は慌てた様子で駆け寄ってきたクラスメイトに遮られた。
「どうしたん?そんな慌てて」
「今、双海が教室にいて」
「来てるのか?千明希が」
「あ、あぁ…だけどなんか変で、黒鉄が声かけたんだけど…一言二言言葉交わしたら、急に言い争いになって」
「分かった、すぐに教室向かう。行こう、椎名さん」
「ちょ、ちょっとどういうこと?」
訳も分からないまま白矢の後を追って廊下を走る。途中で生徒とぶつかりそうになったり、先生に注意されてもその足を止めなかった。
(いったいなんなの?双海も急に学校来て問題起こしてるし、白矢は何か知ってるみたいだけどよく分からないし…)
考えがまとまらない。言葉を選択できない。それでも今は出来ることをやろうと。ぶっつけ本番で彼と話そうと心に決めた。
そう、決めたんだけど……
「だから初めからいなかったんだって。お人好しで、助けたがりの、双海千明希なんてさ」
考えていたことが全て真っ白に染まった。
いなかったなんて……双海千明希、本人から言われた私はすぐそこまででかけた言葉を、誰に伝えればいいの?
キャラ紹介
白矢…久しぶりの登場。彼みたいな普段はふざけているのに、ここぞというところで真剣な表情を見せるキャラが好きです。彼の言葉通り、ここから活躍してもらう予定です。怒ると怖い姉がいる。
椎名立希…Ave Mujica復活のために、祥子から三人との時間をセッティングしてほしいと頼まれる。自分と違って完璧である彼女に頼られてまんざらでもない様子。しかし三人のうちの一人は初めから存在していなかったようで…
双海千明希?…久しぶりに登校。以前と違って自分の利にならないことには無関心になっている。よく笑うようになったが、その時は相手を下に見ていることが多い。
読んでいただきありがとうございます
次回も楽しみにしていただければ幸いです