Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける   作:お薬二錠

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現地で購入できなかったスイパラ祥子が届きました。

スイパラ祥子の可愛さって群を抜いてますよね。
そしてAVER様とのカップリングが多く、その全てが尊い。
無事に買えて良かったですわ〜


第三十二話 ツクリモノ

そいつに抱いた印象は八方美人のお人好し。

 

たまたま同じ学校に入学して、たまたま同じクラスになって、たまたま席が前後になった。

 

 

 

『双海千明希…です。よろしくね椎名さん』

 

『…よろしく』

 

 

 

いっつも笑顔で、見かけた時は必ず誰かを助けてる。

クラスメイトからの頼まれごと。先生からの頼まれごと。全く関係のない部活動の助っ人まで、双海は嫌な顔ひとつせず引き受けていた。

だから人付き合いが苦手な私と違って、双海の周りには彼を慕う友人やクラスメイトが次第に集まっていった。

 

似てると思った。いつも笑顔で、無意識のうちに周りを明るく照らす、太陽のようにあたたかかったあいつに。

 

だからだろう。初めは好印象を持たなかったけど、時間が経つにつれありきたりのない会話をするくらいの関係になっていた。

 

 

 

「椎名、おはよ!」

 

「はいはい、おはよ」

 

いつしか双海の後ろの席は、私にとって居心地の良いお気に入りの場所になっていた。CRYCHICをやっていたときのように、私が私でいられる場所。

 

 

 

 

 

 

それなのに…そう、思っていたのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、いなかったって、どういうこと」

 

「え?そのままの意味だけど」

 

私が見てきた双海の存在を、目の前にいる双海が否定する。

理解できない彼の言葉の答えを何とか必死に探していると、直前まで言い合いをしていた黒鉄が間に入ってきた。

 

「お前が今までのお前を否定するのは構わない。けれどAve Mujicaが解散して、まながどれだけ苦労してるか……それを否定、無関係って言うのは許さない」

 

「知ったことかよ。ムジカは終わった。その結果が招く二次被害なんて俺に関係ないだろ。純田なら大丈夫だよ。あいつガッツあるし、今の逆境も難なく乗り越えるって」

 

「まなのことを何も知らないお前が!知ったような口を聞くな!」

 

その言葉と共に黒鉄は双海の胸倉を掴んで殴りかかった。sumimiの純田さんのことでどうして黒鉄がここまで怒るのかは分からない。だけど双海の発言からは純田さんに対する思いやりが全く感じられず、そのかわり無関心であることが嫌と言うほど伝わってきた。

 

「落ち着け黒鉄!ここ教室だから、流石に暴力沙汰はまずいって!お前に何かあったらまなちゃんも悲しむだろ!」

 

「白矢……」

 

友人の呼びかけに黒鉄は落ち着きを取り戻したかのように見えた。だけど手が止まった黒鉄を双海は見逃さなかった。

 

「いつまで掴んでんだよ。離せよ痛えからよ!」

 

目の前で双海が黒鉄を殴った。誰にでも優しかったお人好しの双海が。

 

信じられない光景を目の当たりにした私は叫んだ。

 

「双海!」

 

「お前!」

 

「ははっ!こいよ黒鉄!モヤモヤしてんだろ?こうすれば簡単にスッキリできるぞ!」

 

「お前に言われなくてもやってやるよ!」

 

黒鉄は双海の体勢を崩して馬乗りになり、そのまま殴りつける。全てを防ぐことはできていないようで、黒鉄の手は少し赤くなっていった。

 

「双海! 黒鉄もやめて!」

 

「まなはいつも笑顔だ。でもその笑顔の下に表に出せない感情を隠してきたのを、俺は何度も見てきた!だから俺が守らないといけないんだ!俺はあいつのお兄ちゃんなんだからな!」

 

「気持ち悪いんだよシスコン野郎!自立しろ!自立させろ!お前みたいなのが兄貴なんて気の毒だな!」

 

止める余地のない二人の喧嘩に教室内が騒然とする。

職員室へ走って向かう生徒。どうすることもできずその場で立ち尽くす生徒。中には泣き出してしまう生徒もいた。私を含め、二人を止めるために足を動かせる生徒はいない。ただ一人を除いて。

 

 

 

 

 

「やめろって二人とも!お前らが喧嘩しても何も解決しないだろ!冷静になれよ!」

 

「黙ってろ白矢!」

「部外者は引っ込んでろ!」

 

「……はぁ?」

 

その瞬間、白矢から何かがキレる様な音が聞こえた気がした。しばらくの間ピクリとも動かない白矢だったが、深呼吸一つしたあと今まで見たことのない顔つきに豹変した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どちゃくそぶち殺すぞバカ共が!黙ってろはこっちのセリフなんだよクソが!」

 

彼の口から出たとは思えない暴言と共に放たれた白矢の拳は、二人の顔面を的確に撃ち抜く。

 

「いっぺん◯ね!」

 

そして気を失った二人に対して中指を突きたてる白矢。しばらくして我に帰ったのか、ギギギという音が聞こえるような首の動きでこちらへ振り返り、大量の冷や汗をかきながら言った。

 

「……やっちゃった。てへ⭐︎」

 

「てへ…じゃないでしょ」

 

「いやいやいやいや!俺もここまでするつもりはなかったんだよ?俺は二人を止めようとしてんのにさ、あいつら人の話聞かないんだもん。だから…つい…ね?」

 

「いや、ね?って言われても」

 

状況はかなり最悪。双海の変化に理解が追いついていないのに、自分よりも慌ててる奴を見ていると不思議と落ち着くことが出来た。

 

「あーー!そう言えば俺バイトの面接があるんだった!というわけで、椎名さん!俺早退するから、あとよろしく!」

 

「はぁ!? そんなかってに!」

 

「俺は俺のやることがあるから!それじゃ、あとよろしくねー!」

 

そう言って白矢は教室から逃げるように飛び出して行った。

廊下には騒ぎを聞きつけた他のクラスの生徒が集まり始める。教室に残された私達がどうすればいいか分からないまま混乱していると、事の発端である双海が目を覚ました。

 

「あー、めちゃくちゃ痛え。白矢の奴、あんなに強かったなんて聞いてないぞ」

 

起き上がるのを見た瞬間。考えるよりも先に身体が動いていた。私は急いで双海に駆け寄り、ハンカチを取り出して彼の顔につく血を拭う。

 

「いてっ」

 

傷口に触れてしまったようで、双海は表情を歪ませた。しばらく私の方をジッと見ると徐に口を開いた。

 

「なんで?」

 

それはどうしてこんなことをするのか、という意味だと思った。

 

「……分かんない。それにこっちのセリフだから。何でこんなこと」

 

「……お前には関係ない」

 

そう言って双海は立ち上がる。タイミングが良いのか悪いのか、職員室へ向かったクラスメイトが担任の先生を連れて戻ってきた。

 

「双海……事情は黒鉄から聞く。校長先生が呼んでいる。今すぐに校長室へ向かいなさい」

 

「……は〜い」

 

「双海!!」

 

私の声に反応した双海は進む足を止めてこちらへ振り返る。しばらく視線が合うと、まるで作り物のような張り付いた笑顔を浮かべていた。

 

クラスメイト、野次馬の群は双海を避けるように、彼が歩む道をつくっていく。今だに気を失っている黒鉄の元に先生が駆け寄り、他のクラスの生徒は指示を受け自分の教室に戻っていく。

ざわついている教室の中で、私はなんて静かなんだろうと感じていた。

 

(……ごめん祥子……何も…できなかった)

 

祥子との約束を果たすことができない悔しさ、そして…今まで見えていた幸せが、全てまやかしだったことに、苛立ちと、怒りと、悲しみを抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かった。祥が、それを望むなら協力する」

 

祥ちゃんの過去を知ったあの日、私は祥ちゃんから睦ちゃんと話す機会をつくってほしいと頼まれた。

 

睦ちゃんと話すと言っていた祥ちゃんは、少し怯えているようにも見えたし、前回話した睦ちゃんを思い返すと、Ave Mujicaの解散は彼女に良くない影響を与えていると身構えていたのだが、彼女はいつも通りだった。

 

私が違和感を覚える前の睦ちゃんがそこにいた。

 

 

 

 

「…ありがとう睦ちゃん」

 

「……予定わかったら、そよに連絡する。祥子とはまだ、連絡しない方がいいかもしれないから」

 

「うん、祥ちゃんにも伝えておくね」

 

CRYCHICで見てた頃と変わらない睦ちゃんがそこにいる。前回話をしたときの彼女が気になるが、一度謝った方がいいと思った。

 

 

「ねぇ睦ちゃん、この前は…変なこと言ってごめんね。睦ちゃんじゃないあなたに…なんて」

 

私の言葉を聞いた睦ちゃんは首を横に振って私の言葉を否定する。

 

「謝らなくていい。今は一人だから。若葉睦は、今そよの目の前にいる一人だけ」

 

そう言って睦ちゃんは笑顔を浮かべていた。

それはCRYCHICのときと同じ、お人形さんのように可愛らしい笑顔だった。

 




キャラ紹介

双海千明希…仮面を外し本来の素顔を見せた。自分の目的を渡すことを第一とする彼の目に、他人の姿は写らない。

若葉睦…今は一人と宣言する若葉睦。多頭の怪物は姿を消し、残ったのは可愛らしい笑顔を浮かべる彼女ただ一人。

今回も読んでいただきありがとうございます
次回も楽しみにしていただければ幸いです
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