Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける   作:お薬二錠

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筆が乗って連日投稿。
夏の暑さで身体がだるいのですが、執筆は意外にもさくさく進みました。
あとからものすごい反動が来るかもしれないと、少し恐怖してます。


第三十三話 スガリタイ

忌々しい太陽が私の身を焦がす。

疲れが抜けきらない身体を無理矢理叩き起こして学校へ向かう。気は進まないが、私の不登校が遠方に住む母親の耳に入ることの方が嫌だった。

 

あの日からスケジュールはライブでいっぱいだ。

帰ってからは、まともな食事も取らずにベースを鳴らす毎日。

 

何かに捕まっていなければどこまでも落ちてしまいそうな恐怖に駆られ、私は必死に音楽を続けた。

前までは安心感のある足場があった。頼れる手綱がすぐ近くにあった。今はもうない。

 

 

充実していた日々を思い出した私は、おもむろに携帯のトークアプリを開く。数日前までフル稼働していたが、今ではすっかり時が止まってしまったかのように静かなアプリ。

 

最後に私が送ったメッセージには、トーク内の人数から一つ引いた既読数が付いている。苛立ちを抑えられなくて舌打ちをしてしまう。慌てて周りを見渡すが、今歩いている道は私以外誰もいなくて、それを聞かれることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 

教室に入れば休みがちだった私を心配してくれるクラスメイトがちらほらいる。クラスメイトの八幡海鈴だからなのか、Ave Mujicajティモリスだったからなのかは分からないが。

 

教室の中を見渡せば二つ前の席に荷物が置かれてないことに気づく。ここ最近は私の無茶を心配してくれることが多くて、なんとなく顔を合わせずらかったのだが、いないことが分かると少しだけ寂しさを覚えた。

 

「立希さんは休みですか?」

 

「えっと、学校には来たんだけど…」

 

私の問いに歯切れの悪いクラスメイト。何か口にしようと悩んでいるようで、他の子と顔を合わせてしばらくすると意を決して口を開いた。

 

「今日、双海君が来たの」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんで、なんでなんでなんで!)

 

 

 

『教室に来てすぐ、黒鉄君と口論になって』

『そこから喧嘩が始まって、お互いに殴り合ってた』

『椎名さんや、白矢君が声をかけても、双海君は止まらなくて』

『結局、白矢君が怒って殴って二人を止めたんだけど…』

『黒鉄君は保健室、双海君は先生に呼ばれて校長室に、椎名さんは……元気ない様子で早退しちゃった』

 

 

 

意味が分からなかった。

理解が出来なかった。

理解したくなかった。

 

(双海さんが暴力を振るった?確かに祐天寺さんとの件もあるから可能性はゼロではない。だけど、椎名さんや白矢さんの呼びかけにも反応しないのは明らかにおかしい)

 

考えても考えても、彼のことが全く分からない。そのまま止めることなく足を進め、校長室に着いたが双海さんの姿はなかった。私の様子に校長先生は驚いていたが、私と双海さんにAve Mujicaという共通点があることを知ってるからか、何があったのかを話してくれた。

どうやらつい先程まで双海さんはここにいたらしく、数分前に校長先生との話を終えて出て行ってしまったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校を辞めるという話を終えて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業開始を告げるチャイムがなっても、私はお構いなしに彼を求めて走った。

 

 

 

しっかり朝食を取ってくれば良かった。

胃液だけが入った胃がシェイクされて気持ち悪い。

 

ちゃんと睡眠を取るべきだった。

足がふらつき、視界がちゃんと定まらない。

 

もっと話すべきだった。

あの時も、あの時も、あの時も。

 

そうすればもっとメンバーのことを知れたかもしれない。Ave Mujicaも解散せずに済んだかもしれない。私の根本にこべりつく嫌な思いをせずに済んだかもしれない。

 

何で上手くできないんだろう。

何でみんなみたいに上手くいかないんだろう。

どうして、私は毎回選択を間違えてしまうのだろう。

 

苛立ちと不甲斐なさで感情がぐちゃぐちゃになるまま走り続け、ようやく彼を見つけることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……双海…さん」

 

「…八幡」

 

彼は荷物を持って外履きに履き替えようとしているところだった。

何を話せばいいんだろう。彼が抱えるナニカを聞きだし、私はなんて言葉をかければいいんだろう。そもそも私と彼の関係は?ただのクラスメイトで、元バンドメンバー。ただそれだけ。全てを話してくれるほどの信頼関係を築けているとは言い難い。

 

 

 

怖い

裏切られることが

 

怖い

彼を、信用しているから

 

怖い

相手の本心を知ることが

 

 

 

それでも、私は

 

 

 

 

 

 

「千明希…さん、私は間違えました。裏切られることが怖かったから、保険として多くのバンドを掛け持ちした。相手の本心に触れて傷つかないように、一定の距離を保つことを選んだ。だけどそれが間違いだった!私はもっと!皆さんのことを知らなければいけなかった!本音で語り合える…そんな関係になりたかった!他のバンドとは何かが違った。分からないけれども、Ave Mujicaにしかないものが確かにあった!だからやり直したいんです。もう一度Ave Mujicaをやりたいんです!教えてください千明希さんのことを。私はもっと!あなたのことも知りたいんです!」

 

信頼って何だろう?

すぐに答えを出せなかった私は、ひとまず彼を名前で呼ぶことを選んだ。そして恐れることをやめて、自分の胸に秘めた本音を包み隠すことなく吐き出した。

きっと簡単に築けるものじゃない。それでも今の私に出来ることは、これしかないと思った。

 

「覚えてますか?間違ってもいいと言ってくれたこと。間違えても俺らがいるってーー」

 

「八幡。それは俺じゃない」

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は出来る奴だよ。ベースの技術もすごい、多くのタスクを与えられても、ちゃんとこなすことができる」

 

(…違う、そんな評価される人間じゃない)

 

「何にこだわるかは自由だけど、お前はお前の力で十分やっていけるよ」

 

(違う、私は一人じゃ何も出来ない)

 

「だから俺がいなくてもお前は大丈夫」

 

「大丈夫なわけないじゃないですか!私はそんなに…強くないっ!毎日怖くてたまらない。今でもずっと、あの日の光景が、あの時見たステージが頭から離れてくれない!千明希さんがいたから、あなたの音楽に触れた時から私は!」

 

「ごめん」

 

勢いよく顔を上げた時、千明希さんは困ったような顔でほんのりと笑顔を浮かべていた。

 

(何の…顔だよ、それ)

 

「ありがたいけど…俺はもう、お前達とは一緒に行けない。応援はしてる……それじゃ」

 

「千明希さん!」

 

手を伸ばしたところで彼には届かない。

分かっていても、伸ばさずにはいられなかった。

このまま離せば、二度と会えなくなってしまうような気がした。

 

彼を救いたいという思いはあった。だけどそれよりも、自分が救われたかった。

 

過去との向き合い方を教えてくれた。一時的にでも、彼の音楽を聴くことで忘れることができた。これからも支えてほしいと思った。

なんてわがままで、自分勝手なんだろう。

みっともない。情けない。

 

無理が祟ったのか、視界が少しずつ暗転していく。

 

(だめ…このままじゃ……)

 

そのまま私は、ゆっくりと意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと保健室のベッドの上にいた。

保健の先生からは貧血で倒れたと言われ、ちゃんと食事をとって、睡眠時間もしっかり確保するようにと怒られた。

 

「あの…ここまで私を運んだのは」

 

「黒鉄君。あなたが下駄箱付近で倒れてるのを見つけて、ここまで運んでくれたのよ。あとでちゃんとお礼言いなさいね。戻るならもうしばらく休んでから戻ること。無理はしちゃダメだからね」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

期待してる自分がいた。

もしかしたら千明希さんがここまで運んでくれたのではないかと……

 

「本当に、いなくなってしまったんですね…千明希さんがいないと……私」

 

口にした途端、寂しさが込み上げてくる。

先生に気づかれないように、誰にもバレないよう、

私は毛布に潜りこんで、静かに涙を流した。




キャラ紹介

八幡海鈴…なかなか信頼を得ることができない女の子。そんな彼女ですが一生懸命考えて行動しています。裏目に出てしまうこともあるけれど、何かのために頑張れる彼女が私は好きです。信頼に依存していた海鈴。千明希に依存していたことを自覚していた海鈴。Ave Mujica復活の光はまだまだ見えません。

読んでいただきありがとうございます
次回も楽しみにしていただければ幸いです
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