Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける 作:お薬二錠
なかなか時間取れなかったのと、コロナになってました。
辛かったのは初日だけでしたが、喉の痛みがずっと続いてました。
最近流行ってるそうなので、みなさまもお気をつけて。
Ave Mujicaを復活させる。
そのために行動を始めた私の前に、大きな壁が立ちはだかっていた。
『お前のバンドを復活させることはしない。中途半端に解散したバンドを、もう一度支援したいと思う企業があると思っているのか?』
開口一番にお祖父様に言われた言葉。それは否定の余地がないほど的を得ている言葉だった。私の身勝手な理由でAve Mujicaを解散させた。それによって発生した賠償金をお祖父様に払ってもらい、私は何一つ自分で責任を取れていない。それなのにバンドを復活させたいなんて、虫がいいにも程がある。
それでも、諦めることなんてできるわけがない。
もう私だけの問題ではないのだ。Ave Mujicaは私一人だけじゃない。彼女達の人生を預かると言った責任を取るために私は引き下がるわけにはいかなかった。
『ですが!Ave Mujicaなら豊川グループの広報としてもう一度活躍できます。それだけの力が彼女達にはあります!』
『…広告塔なら適役がいる。学生は学生らしく、勉学に励みなさい』
「正論だからこそ何も言い返せない。分かってはいるけれどももどかしいですわね…」
いっそお祖父様が起こした過去の事件を、複数の出版社にリークしてやろうかと考えていると教室の扉が開かれた。
「祥子ちゃん、ともりん来た?」
「先生からの用事が長引いているみたいですわね」
教室に入ってきたのは彼女は、クラスが別であるにも関わらず、教室に残っていた他の生徒と楽しそうに言葉を交わし私の元へ歩み寄ってきた。
燈達が新しく結成したバンドMyGO!!!!!でギターをやっている千早愛音さん。コミュニケーション能力が高いだけでなく彼女は成績も優秀だ。前回のテストで私よりも順位が上だったと聞いた時は、正直驚きを隠せなかった。
「それじゃともりん待ってる間ギターやろ〜っと、隣いい?祥子ちゃん」
「教室だと、他の生徒の迷惑になってしまいますわよ?」
「それもそっか……そうだ!それじゃ天文部の部室に行こうよ祥子ちゃん」
「天文部?」
天文部の存在は知っているが、去年卒業した先輩が唯一の部員だったはず。
「部室を勝手に使うのは流石に……」
「あれ?祥子ちゃん知らない?ともりんが天文部だから、部室使っても大丈夫なんだよ」
「そ、そうでしたの…」
知らなかった。燈が星を好きなのは知っていたが、天文部に所属していることは初めて知った。大切な友人から目を背けてきた時間に、私が後悔して塞ぎ込んだことを察したのか、愛音さんは私の手を掴み勢い良き連れ出した。
「そういうわけで、祥子ちゃんも天文部の部室に行こー!」
「ちょ!部外者の私が天文部の部室に入るわけには」
「大丈夫!私も天文部じゃないから」
「全然大丈夫じゃありませんわ〜!」
ケースからピンク色のギターを取り出し、曲の練習を始めた愛音さん。結論、天文部室使用の許可はあっさり取ることができた。これも愛音さんのコミュニケーション能力があってこそだろう。
部室の中はとても静かで、愛音さんが弾くギターの音だけが鳴っている。画面に表示されたフレーズを悪戦苦闘しながら奏でる愛音さん。そしてそんな彼女を眺める私。
私と彼女の関係は少し曖昧だと思ってる。友達…愛音さんはそう言ってくれたけれど、私が彼女と過ごした時間はほとんど無いに等しい。
繋がりは私に取ってかつてのバンドメンバーで、愛音さんにとって今のバンドメンバーである彼女達。そんな彼女達が、過去の存在である私に協力することを愛音さんはどう思っているのだろうか。
「愛音さん」
「ん?なに、祥子ちゃん」
ギターを弾く手を止め、こちらに目を向ける愛音さん。
「私のことどう思ってます?」
「……どう思ってる…ってどういうこと?」
言葉が詰まり、彼女の目の動きから私の問いに動揺していることが分かった。
「言葉のままですわ。愛音さんがあの時言ってくれたように、私も親しい関係になりたいと思っています。だからこそ、私はあなたの本当の気持ちが知りたい」
「知ってどうするの?」
そう言った彼女の瞳は、少し濁っているように見えた。それに怯むことなく私は真っ直ぐ愛音さんを見て口を開く。
「どうもしません。愛音さんの見方が変わることなんかない。友達になりたいから…そのためにあなたの本当の気持ちを知りたいと思ってますわ」
言葉を受けて愛音さんは一瞬怯み俯いてしまった。
彼女の本心が分からなかった。だけど彼女の言葉が本心でないことは何となく分かっていた。
本当の自分を隠すために、強がりという仮面を身につけた私とは違う。彼女は本心を隠し周りと調和し続けるために、今までの自分という仮面で素顔を隠し続けていた。私がそれに気づくのだから、燈達も彼女の変化に気づいていたと思う。けれども燈達には解決できない。これは私と愛音さんの問題だから。
「…なんか変わったね祥子ちゃん。今までや、ムジカやってる時よりも明るくて……真っ直ぐ見れないくらい眩しいよ……」
「燈達……愛音さんも含めた MyGO!!!!!のおかげですわ」
私の言葉を聞いた愛音さんの表情が曇る。表に出せない言葉をなんとか引き上げようと、愛音さんは俯きながら口を開いた。
「……どうしてAve Mujicaを復活させるの?」
「どうしてとは?」
「だってそうでしょ?Ave Mujicaを復活させるためにやらなきゃいけないことがたくさんある。それはどれも簡単じゃないし、どれも辛いことばかり。それなら!それなら……CRYCHICを、復活させたほうが絶対いいじゃん」
「っ!愛音さん」
「私はCRYCHICを知らない。だけど、どれだけ大切なものだったのかはともりん、りっきー、そよりんを見てれば嫌でも分かる!こんなこと思いたくないけど、やっぱりいらないのかなとか考えちゃうし……そう思うと、祥子ちゃんのこと、心から好きになれなくて……そんなこと思っちゃう自分が嫌で!……嫌いなの……今の自分が……」
本心を吐き出した愛音さんは、そう言いながら涙を流していた。崩れた仮面は本心を覆い隠す機能を失い次から次へと。少し前の私と似ていると思った。責任も果たせない。逃げることしかできない。前を向けず己を嫌悪していたあの頃の自分と。
「こんな気持ちになるなら始めなければよかった!ずっと向こうにいればよかった!ともりんとも出会わなければ」
「その先は言ってはダメですわ」
そう言いながら人差し指で愛音さんの唇を抑える。
きょとんとした顔が少し可愛らしいと思ってしまった。同じ気持ちを経験しているから分かる。一度自分を嫌ってしまうとその先は暗闇だ。どんどん深く落ち、抜け出すことも、上を向くことも出来なくなる。
けれども私達には共通の友がいる。どれだけ己を嫌おうとも、あの子は必死に言葉を紡ぎ引き摺り込もうとする沼の底から明るい世界へ引き摺り出してくれる。
「それ以上言ったら、燈が怒りますわよ」
「あのちゃん!」
開かれた扉の先にいたのは燈だった。
なんとなく、ただなんとなくだけれども燈がすぐ近くにいるような気がして私は彼女の名前を口にした。
ずっと隠し通そうとした思いを聞かれた愛音さんは、逃げ道を探すように燈から眼を逸らす。だけど運命共同体を、一生を約束した仲間を、燈が手離すわけないことを、私も愛音さんも嫌というほど理解していた。
「あのちゃん……」
「……ご、ごめんねともりん。変なこと言っちゃった……私は大丈夫だから…心配しないで」
「……私だけじゃない。立希ちゃんも、そよちゃんも、楽奈ちゃんも…みんな、あのちゃんが少し変なことに気付いてるよ」
「あはは…そんなに分かりやすいかな私。ともりんの言葉、信じてないわけじゃないし……私も一生バンドやるって思ってるけど……本当にそれが正しいのか、分からなくて……」
本音を隠していた燈に、愛音さんは自分の本心を少しずつ打ち明けていく。
「だって……だって、すごく大切だったでしょ?元に戻せるのなら、またやり直せるならやり直したいって思うのが普通じゃん……」
そうだ。CRYCHICは私にとって光。何よりも大切で、何にも変え難い大切なものだった。もう一度やり直したいと、またみんなと一緒に音楽を奏でたいと何度願ったことか……そう、それはいくら願っても叶わないことだ。CRYCHICは無くなり、私達は変わってしまった。そして今、お互いに別々の道を歩んでいる。
燈と目が合う。その時、彼女の考えていることが言葉にしなくても理解できた気がした。
「あのちゃん、私はMyGO!!!!!を終わらせない。バンドの楽しさを、もう一度あのちゃんが教えてくれた。一生一緒にって約束したから。私達は運命共同体……なんだよ」
「ともりん…」
「愛音さん、CRYCHICは私達の中に存在している。でもそれは形がないものですわ。私達はそれぞれ違うバンドで歩み始めている。今の、これからのMyGO!!!!!に愛音さんの存在は欠かせませんわよ」
「祥子ちゃん……」
私達からの言葉を反復しているのか、愛音さんは満足気に幸せそうな笑顔を浮かべていた。
「立希やそよにも聞いてみればよろしいのでは?素直じゃない二人ですが、愛音さんのことを大事に思っているのは間違いありませんわよ」
「私…何度でも伝えるから。あのちゃんが立ち止まっても、こっちだよって手を伸ばす。だから……改めてよろしくお願いします」
「うん!ともりん、祥子ちゃん、ありがとう!」
私達の手を取り愛音さんは太陽のような笑顔を浮かべていた。
(あの時、私も愛音さんと同じようにできていたら、違った未来があったのかもしれませんわね)
ふと心によぎった後悔を振り払い前を向く。過去は変えられない。私は思い描く未来を掴み取るために進んでいくと決めたのだから。
その時、愛音さんの携帯から通知音が鳴った。
「そよりんからだ…」
画面に表示される文字を目で追う愛音さん。
その動きが止まり、私の方へ目を向ける。
「睦ちゃんと話せたって。祥子ちゃんと話をする日程を決めたいって連絡がきた」
「……ありがとう、そよ」
私はもう一度向き合わなければならない。
私の我儘で大切な幼馴染である睦に無理をさせ、結果彼女は深い眠りについてしまった。そんな睦の代わりに現れたモーティスは私に嫌悪感を抱いている。
私の話を聞いてくれるかも分からない。再び睦が目を覚ますことはないのかもしれない。そう思うと恐怖で身体が震え出す。
「大丈夫!」
そう言いながら私の手を包み込む愛音さんの両手はとても暖かいものだった。
「祥子ちゃんと睦ちゃんの仲ならきっと大丈夫だよ。私達も協力するし!ね?ともりん」
「ぉ、うん!」
二人の存在がとても心強い。本当に私には勿体無いくらいだ。
「ありがとうございます。燈、愛音」
「あー!名前で呼んでくれた!じゃあじゃあ私も祥子ちゃんって呼ぶのやめて、別の呼び方考えるね!えーと、祥子ちゃんだから……さきぽん?なんかちょっと違うな……さき、さき、さきりぬ?これもなんか違う」
「えっと…愛音?私は今まで通りでも良いのですが…」
「えー、ダメだよー!せっかく祥子ちゃんが名前で呼んでくれたのに、私だけ呼び方変わらないなんて!そうだ!いっそのこと読み方変えてしょーこちゃんは?」
「私は豊川祥子ですわ!」
ねぇ、睦。あなたに話したいことがたくさんありますの。新しいお友達ができました。CRYCHICの頃と同じとはいかないけれども、前より笑う機会が増えた気がします。
睦。どうか、この幸せなひとときをあなたと共に
豊川の手が届いていたのだろうか。高校はあっさりと辞めることができた。思い出がないと言えば嘘になるし、後悔がないと言えば嘘になる。でも、これからの俺には必要のないものだと思ったから。
「ん?」
目の前に一人の少女が現れる。
白髪で金色と銀色のオッドアイ。会うのは燈達のために一緒にステージに立ったあの日以来だ。何を考えているのか全く分からないし、俺はこいつがあまり好きじゃない。
「一人?」
「……だったら何?」
「ドラムやって」
「……は?」
突拍子のないことを言うこいつが、全てを見透すような瞳をした要楽奈が、俺は嫌いだ。
「りっきー、泣いてた」
「……だから何だよ。俺に関係ないだろ」
それを聞いた要は、俺の言葉に答えることなく背を向けて歩き始める。
その姿は黙ってついて来いと言われてるような気がした。
「……何が言いたいんだよ」
無視しようと思えばできたはず。だけど泣いてる立希の姿が頭をよぎって要を無視することができず、俺は彼女の言葉に従い後を追いかけることにした。
キャラ紹介
千早愛音
本心を吐き出した愛音。原作で彼女の本心は分かりませんが、本作では自分の知らないCRYCHICを羨やむ気持ち、そしてそこに自分がいないことに対する不満を抱いてもらいました。でも彼女は優しいので、いつも通りの自分を燈達の前で演じると思います。けどそんな彼女の無理は、MyGO!!!!!メンバーに見破られ今回、本音を話すことができました。
要楽奈
久しぶりの登場。えぇ本当に久しぶりで申し訳ないです。
本能のままに動くらーなちゃん。再び千明希の前に現れた彼女は、いったい何をもたらすのか。
読んでいただきありがとうございます
次回も楽しみにしていただければ幸いです