Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける   作:お薬二錠

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今日Ave Mujica最新話ですね。心抉られる覚悟はできています。


第四話 オヒトヨシ

様々なバンドのサポートとして活動していると、予定を合わせることが難しく、次に会うのがライブ本番当日なんてこともある。

その場合スコアを貰って一人で練習し、ライブ当日に支障をきたさないようにするのだが、曲によっては同じリズム隊であるドラムと合わせたい場面も存在する。

 

そんな時、私はいつも彼を呼ぶ。

 

「お待たせ八幡。ごめん少し遅れた」

 

「いえ、誤差ですのでお気になさらず」

 

双海 千明希

花咲川の助っ人部長と呼ばれているお人好しだ。

 

 

 

 

 

「最後にドラムに触れたのはどれくらい前です?」

 

「んー、二週間くらい前かな。出先でちょっと時間があったから近くのライブハウス行ってドラム借りたんだ」

 

そんな雑談を繰り広げながら彼は慣れた手つきでドラムを叩く。その腕前は私がサポートに入っているどのバンドのドラムよりも上だった。

 

(やはりプロ並みの実力。これでバンドに所属しておらず、趣味でやってるだけなんて勿体無いですね)

 

彼のドラムを見たのは偶然だった。

いつだか忘れてしまったが、どこかのライブハウスで彼は私と同じようにサポートとしてドラムを叩いていた。

出会った日は覚えていないが、あの光景は今でも覚えている。周りのモノ全てを喰らうような荒々しいドラムの轟音。曲として最低限のバランスを取りつつ彼は笑みを浮かべながら周りを飲み込みつつドラムを叩いていた。

 

「ヨシ! 準備運動終わり。次やる曲はどんなの?」

 

「これです。音源もいただいてるのでいつものようにお願いします」

 

「分かった」

 

カウントから初まり、彼と音を轟かせながらいつも思うことがある。

 

(もし、一緒にバンドを組むことが出来たら…)

 

実現すればどれほど喜ばしいか。しかし、そう思うたびに過去の忌々しい古傷が私の身体を蝕んでいく。

 

(いけない! 今は曲に集中しなくては)

 

だが這い上がってきた過去はなかなかどうして簡単に振り払うことが出来ず私の動きを鈍らせる。

 

「八幡!!」

 

そんな過去をかき消したのは彼の声と、鋭いドラムの轟音だった。

 

「表情暗いぞ? 大丈夫か!?」

 

「……全く、人の心配しながらそんな荒々しい演奏するなんて器用な人ですね!」

 

今はいい。これだけでいい。

彼と奏でる音が混ざり合うこの瞬間、この時間。

私は全てを忘れ、シンプルに音楽を楽しむことができる。

 

 

 

 

 

 

新曲はある程度形となり、八幡は次のスケジュールをこなすためにスタジオを後にした。

残った俺は一人、黙々とドラムを鳴らし続ける。

何かの曲という訳ではなく、適当なリズムを刻む。

叩くことだけ考えていたが、次第に黒いモヤのようなナニカがまとわりつくのを感じ、スティックを叩きつける強さが増していく。

 

(……消えろ、消えろ、消えろ消えろ消えろ!!)

 

衝撃に耐えきることができず、折れたスティックが宙を待ったことで俺は我に返った。

いつも通りにすごしているつもりでも、彼女と会った事実は明らかに俺自身に変化を与えていた。

かなり長い時間ドラムを叩いていたことに気づいた俺は、何か飲もうとスタジオを出た。

 

「あれ、千早さん?」

 

「あ……」

 

「あ! ごめん愛音さ」

 

同じタイミングで隣のスタジオから出てきた千早さんと鉢合わせ、名前で呼ぶよう言われていたのに無心で苗字で読んだことに気づい慌てて言い直した。

 

でも千早さんは何も言わずに悲しげな表情のままギターを背負ってスタジオを後にした。

彼女の様子が気になり出てきたスタジオを覗くと、

崩れ落ちた高松さんとドラムの前に座ったまま俯く椎名の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ」

 

「…ど、どうも」

 

駅のホームで電車を待つ。

あの後、信じられないことに椎名は高松さんを置いて帰ってしまった。

 

「ごめん、燈を家まで送ってあげて」

 

無言のまま帰る準備を始め、何も説明することなく最後にそう言い残して。

 

 

 

 

 

 

 

非常に気まずい。前回会った時は間に彼女がいたから話すことが出来た。高松燈という人物は言葉を選ばずに言うと普通とはズレている人物だ。引っ込み事案でコミュニケーション能力が低く、その反面何かに熱中すると周りが見えなくなる。

今もちびちび飲み物を飲むだけで何があったか口を開こうとしない。こちらから聞いた方がいいのか考えていると、突然彼女が口を開いた。

 

「あの、祥ちゃん…は、元気…ですか?」

 

自分自身に何かよくないことがあったのは明らかだった。スタジオで彼女を見た時、ひどく落ち込んでいる様子で涙を流していたのだから。にも関わらず高松さんは自分のことよりも、大切な友人で、運命共同体を誓い合った彼女のことを案じていた。

 

『燈の心は純粋でとても綺麗なんですの。それはもう、とても眩しいくらいに。だから素敵な歌詞が書けるんですわ』

 

(自覚してるか分からないけど、その性質で苦労したこともあったろうに。ほんと自分が嫌になるほどお人好しだな)

 

だからこそ、話したいと思った。彼女の綺麗な心を裏切らないように。

嘘偽りなく。

 

 

 

 

「ごめん。もうお嬢の執事じゃないんだ。……いなくなってって言われてさ」

 

「祥ちゃんがそんなこと!」

 

「大丈夫。俺だって同じように思ってるよ。何か話せない理由があったんだと思う。てか理由がなかったら俺泣いちゃう」

 

「祥ちゃん、羽丘にいて……でも、いつも一人で、外側はいつもの…いつもの祥ちゃんだけど」

 

「…お嬢と話せた?」

 

俺の問いに高松さんは首を横に振って答えた。

 

「そっか。高松さん、お願いがあるんだ。お嬢がどんなお嬢になっても、前と変わらず一緒にいてやってほしい」

 

「絶対! も、もちろん! 祥ちゃんは大切な友達で! 大好きなCRYCHICのバンドメンバーで…CRYCHICは今はもうないけど……でも! それはずっと、これからも変わらないから!」

 

少し顔を赤くしながら必死に言葉を並べる高松さん。

 

(厄介な人に目つけられたなお嬢。こりゃどんだけ突き放しても一生一人にはなれないだろうに)

 

「だから双海君も!」

 

「俺も?」

 

「ずっと、一生……祥ちゃんを大事にしてほしい。双海君の話する祥ちゃん、CRYCHICのみんなといる時と同じくらい楽しそうだったから。きっと、祥ちゃんの中で双海君はCRYCHICと同じくらい大切で、かけがえのない存在…なんだと思う」

 

「だったら嬉しいな。約束するよ。俺もお嬢が何よりも大切だから」

 

「あ、ありがとう」

 

「どういたしましてかな? さて! お嬢の話は一旦終わり! 高松さんさえ良ければ今日あの場で何があったのか教えてくれる? 俺、力になりたいんだ」

 

そう言うと高松さんは俯いて少し考えている様子だったが、しばらくして今日あったことを少しずつ話し始めた。




簡単なキャラ紹介

八幡海鈴…間違いなくおもしれー女の子。8話の海鈴最高でした。

高松燈…こちらもおもしれー女の子。カスタネットやトライアングル叩く姿が可愛かったです。

読んでいただきありがとうございました。次回も楽しみにしていただければ幸いです
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