Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける   作:お薬二錠

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お久しぶりです。
すみません、ミアレシティに観光行っていたらだいぶ空いてしまいました。現在アレフガルドを救ってる途中なので、次の投稿までまた期間が空くかもしれませんが、何卒よろしくお願いします。


第三十九話 ケシサッテ

いつもと変わらない朝。愛らしい人形達に囲まれたベッド。そこで目覚めるいつもと変わらない私。

 

お話ししたいのに、睦ちゃんは今日も私の中で眠り続けている。

 

 

 

 

「おはよう睦ちゃん。今日はもう出ないといけないから。ちゃんと朝ごはん食べるのよ」

 

「うん」

 

薄々感じていたが、睦ちゃんの家庭環境はハッキリ言って異常だ。みなみちゃんは睦ちゃんの異常性に恐怖心を抱き、いつしか顔を見ないようになった。たぁくんは笑顔を向けてくれるけど、睦ちゃんのことなんか何一つ分かってなくて正直ムカつく。だから睦ちゃん自身を見てくれる祥子ちゃんや、千明希君の存在が嬉しかった。睦ちゃんをちゃんと見てくれるのは二人だけだった。でも今は違う。

 

「睦ちゃんが思ってるよりも、睦ちゃんはみんなに愛されてるんだよ?確かに若葉睦を見る人ばかりかもしれない。だけど睦ちゃんを見てくれる人は絶対にいるから」

 

昔一度会っただけだけど、白矢君はずっと睦ちゃんを想い続けていた。当然だよね。睦ちゃん可愛いもん。

まぁ、私の方がずっと前から睦ちゃんのことずっと想ってるけどね!

 

「必ず起こして思い知らせてあげるから覚悟しててね睦ちゃん!」

 

お手伝いさんが用意してくれた朝ごはんを食べ、私は学校に向かうため家を出る。若葉睦が眠り続けていることを世界は知らない。だから私は今日も若葉睦を演じる。自分のためではなく、大切な睦ちゃんのために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

睦ちゃんを必ず目覚めさせる。なんて意気込んでから三日たったが、私達の問題は何一つ進展してなかった。

 

「もう!いろいろ試したのに睦ちゃん全然起きないのなんで!?」

 

「うるさい、お前の存在気づかれると面倒なんだから声抑えろ」

 

店内には私達の他に従業員さん一人しかいない。そんなんでやっていけるのと心配になったが、たまたま見つけたこの喫茶店は、有名人である私が白矢君とひっそり会うのにうってつけの場所だった。目の前にはコーヒーを飲んで苦い顔をする白矢君。睦ちゃんを目覚めさせるために、二人でカラオケに行ったり、お芝居の練習をしたりなど色々試したけど反応は無かった。

 

「祥子ちゃんの方はどうなの?」

 

「そっちも進展なし…もう少しだけ時間をくれ」

 

白矢君は私と一緒に睦ちゃんを目覚めさせる方法を探しながら、祥子ちゃんをお屋敷から脱出させる計画を練っており疲れ切っている様子だった。

 

「睦ちゃん、どうすれば起きるんだろ」

 

「まだ試してないのは…ギターか?」

 

その言葉に、私はズキンと胸に痛みが走るのを感じた。

 

「……私は、ギター弾けないから」

 

「悪い…そんなつもりじゃ…」

 

「白矢君は優しいね」

 

私がギターを弾けていればAve Mujicaは壊れなかった。祥子ちゃんが作った大切な場所を、睦ちゃんと千明希君が帰って来れる場所を、私が壊した。

でもAve Mujicaが続くということは、睦ちゃんが無理をするということ。ギターを弾ける睦ちゃん。演技ができる私。お互いの苦手なところを補って、一緒に頑張ることができていればこんなことにはならなかったかもしれない。私達はもっと話し合うべきだったんだ。

 

「ギター、家に帰ったらちょっと弾いてみるよ。睦ちゃんが目を覚ますきっかけになるかもしれないし」

 

「モーティス……」

 

「だから!睦ちゃんが目を覚ました時、ちゃんと大切にしてあげなきゃ怒るからね!?」

 

私が声を大にして言うと白矢君は目を丸くしていた。

決して口には出してあげないけど、白矢君のことは信頼している。睦ちゃんのためにここまで動いてくれることが心の底から嬉しかったから。

 

「祥子ちゃんのこと、お願いね」

 

「あぁ、任された!」

 

今後のことを話しながら注文していたケーキを食べ、また数日後に会う約束をして私達は喫茶店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰り、お手伝いさんからみなみちゃんとたぁくんが今日は帰ってこれないことを聞いた私は、夕食をいつもより少し遅めにお願いして自分の部屋に向かった。

 

横たわるギターケースに手を伸ばし、チャックを開くと睦ちゃんが昔から使っているピンクのギターが姿を見せた。

 

芸能人である両親との間に産まれた若葉睦。

親の七光であり、演技の天才だった彼女が唯一手に入れた自分だけのもの。このギターがあったから、若葉睦は誰のものでもなく若葉睦自身になることが出来た。睦ちゃんが演奏していた光景を思い出しながらギターを弾き始める。楽譜は読めないし、弾き方も分からないからただ適当に鳴らすだけ。聴こえてくる音は形が歪で、なんだか身体がむずむずした。

 

「弾くだけなら簡単だと思ってのに…睦ちゃん、ギターの練習いっぱいしてたもんね…」

 

楽しかったのだろう。嬉しかったのだろう。ギターを手にしたあの日から、睦ちゃんはいつも楽しそうに表情を明るくしながら長い時間ギターを奏でていた。

 

「祥子ちゃんのピアノと合わせて演奏するようになって、祥子ちゃんに誘われてCRYCHICを始めて」

 

睦ちゃんがギターを始めてからは、私と一緒にいる時間が減ってしまった。あの時は寂しかったし、悔しいとも思ったけど、今なら睦ちゃんの世界が広がるきっかけになって良かったと思える。

 

 

 

「睦さん、夕食のご用意が出来ましたよ」

 

「え?わ、分かった。もう少ししたらいくね」

 

「分かりました。ギターの練習をされていたんですね。睦さんのギターは昔から聴いていますが、いつもお上手です」

 

「あ、ありがとう…」

 

「では、あまり遅くなりませんように」

 

 

 

時計を見てみると、思っていたよりも長く時間が過ぎていた。

 

「私、そんなギター弾いてた?」

 

歪なギターの演奏を何時間も続けていた事実に違和感を抱きながら、私はお手伝いさんの言葉を思い出しもう一度ギターを鳴らす。

 

「……嫌な音がしない」

 

最初に弾いた時に出た音とは明らかに違うものになっている。それだけじゃない。知るはずもない運指も次から次へと抑えることが出来ている。自分の身体が自分の物じゃないみたいな感覚。

 

「これって…もしかして睦ちゃん!?」

 

演奏は止まることなく続いていく。難しい指の動き、慣れてなければ追いつけない速さでも私の身体は難なく対応してみせた。Ave Mujicaの曲も、CRYCHICの曲も私はあっさり弾くことが出来ていた。

 

「すごい…すごいよ睦ちゃん!やっぱり睦ちゃんのギターはすごい!」

 

 

 

 

 

『……私はそう、思わない』

 

「え?」

 

『私は……バンド、楽しいと思ったことなんて、一度もない』

 

「睦ちゃん!」

 

睦ちゃんの名前を呼んでも反応は無かった。もう一度ギターを弾いても、歪な音しか出せなくなっていた。

 

「なんで…どうして!?」

 

睦ちゃんが一瞬でも目覚めてくれた。でも目覚めてくれた嬉しさよりも、私は睦ちゃんに腹が立った。

 

「睦ちゃんの分からずや!睦ちゃんのギターこんなに凄いのになんで分かってくれないの!?睦ちゃんの頑張りを、睦ちゃんが否定しちゃダメじゃん……」

 

睦ちゃんに分からせないといけない。睦ちゃんのギターは、睦ちゃんが思ってるよりも凄いんだってことを。大切なギターをケースにしまい、私は携帯でとある人物に連絡をする。

 

 

「……あ、もしもし。うん、元気だよ。この前はありがとう。それでね、お願いがあるんだ」

 

睦ちゃんを目覚めさせるためには、私と白矢君だけじゃ足りない。彼女達の助けが必要不可欠だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一度、CRYCHICで演奏がしたいの」

 

でも睦ちゃんは、再び深い眠りについてしまった。だから私は彼女達に謝らなければいけない。

 

今目の前にいるのは若葉睦じゃない。名前を与えられた、ただの人形だと言うことを




簡単なキャラ紹介

モーティス…学校や家では若葉睦として生活しているが、一人の時や白矢といる時は演技をやめ、モーティスとして生活している。白矢と行ったカラオケや、演技の練習は睦を目覚めさせることが目的だったが、なんだかんだ楽しかったらしい。

白矢如…豊川祥子の専属執事、若葉睦を目覚めさせるために東奔西走中。執事のバイトは家族に内緒で行っている。朝早く家を出る様子を怒ると怖い姉に不審に思われているが、まだ言及はされていないらしい。

改めて、読んでいただきありがとうございました。
この先の展開はぼんやり考えているので、また期間が空くとは思いますが応援してくれると嬉しいです。
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