Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける   作:お薬二錠

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突然書きたくなったifストーリー。
サブタイトルにもあるように迷子にならなかった祥子のお話。

CRYCHIC時代の祥子はとにかく明るく書けるので癒しですわ〜。
多分そんな長くは続きませんわ〜。三話くらいで終わる予定でおりますので、楽しんでいただけたら嬉しいですわ〜。


ifストーリー 咎人 祥子
迷子にならなかった咎人


厳しい寒さの冬が終わり季節は春へ移り変わっていた。桃色に色づいた木々がその身を夏の緑へ変えようとしている。そんな季節のなか、わたくしは一人の男の子と出会った。

 

 

 

「また日向ぼっこですの?」

 

「そうそう。光合成して絶賛酸素放出中だよ。お嬢も吸ってく?」

 

「光合成をするのは植物だけですわ。それに千明希から放出される酸素って、少し健康に良くなさそうですもの」

 

「言葉が辛辣だな〜お嬢は」

 

そんな軽口を交わらせながら、わたくしはベンチに座る彼の隣に腰を下ろす。舞い散る桜の花びらを眺めながら、公園で遊ぶ子ども達の声、鳥のさえずり、街の雑音に耳を傾ける。会話がなくても、わたくしにとって彼の隣はとても居心地の良い場所だった。

 

 

 

 

 

 

出会ったのは数日前。

バンド練習を終え一人で帰っているとき、手に持っていた楽譜がふいに吹きつけた風で飛ばされてしまった。

 

「あっ、お待ちなさい!」

 

わたくし達が作った、わたくし達だけの曲。

嬉しくて興奮が抑え切れず手に持って眺めていたのが良くなかった。急いで駆け寄り楽譜を拾い集め、最後の一枚を掴もうとしたところで、意地悪な風は公園へ続く横断歩道の上に楽譜を運んでいった。

 

「もう!いい加減に!」

 

気づけば、わたくしは周囲の様子もろくに見ず、楽譜へと手を伸ばしていた。

すぐ近くまで車が迫っていると知らずに。

 

「危ない!」

 

誰かの声がして、強く引っ張られた次の瞬間、わたくしの身体は地面に叩きつけられた。

 

「バカヤロー!周りちゃんと見ろ!」

 

車の運転手の怒号が遠くで響く。

呆然としていると、下から呻き声が聞こえた。

 

「いった……悪いんだけど、動けるなら早く降りてくれる?」

 

「ごごご、ごめんなさいですわ!」

 

わたくしは急いでその場から離れて彼を見る。

助けてくれた彼は長袖のパーカーを着ており、立ち上がって自身の埃を払うとわたくしの顔をじっと見た。あまり男の子と関わることのなかったわたくしは、自分に向けられる彼のまっすぐな目にどぎまぎしてしまう。

 

「あ、あの…なにか?」

 

「いやー、小さい子が横断歩道に飛び出すのが見えて、急いで駆けつけたら自分と同じくらいの年齢だったから驚いたよ。ダメだよ?横断歩道渡るときは右左見なきゃ」

 

「わ…わかってますわ!確かにわたくしの不注意でしたけれども……こ、子ども扱いしないでくださいまし!わたくし歴としたレディなんですのよ?」

 

「いやーごめんごめん」

 

「気持ちがこもっていませんわー!」

 

今思えば豊川家の人間としてあるまじき失礼な振る舞いだったと思う。命を助けてもらったにも関わらず、子ども扱いされたことに腹を立て嫌な態度を取ってしまった。

 

自分の行いを反省しながら、最後の一枚も無事に見つけることができた。

 

 

 

 

 

「追いかけてたのって…それ?」

 

「え、ええ……」

 

わたくしが手に持っているのは有名でもなんでもない、ただの女子中学生が作った曲の楽譜。そんなもののために、あんな危険な真似をしたのかと馬鹿にされると思ったが彼は違った。

 

「……春日影。いいね。特に歌詞がいい。これに音が乗ればもっと最高なんだろうね」

 

「そ、そうなんですのよ!わたくしのバンドの作詞担当は天才で!歌詞の言葉一つ一つが心に直接語りかけてきて響き渡るんですの!」

 

嬉しくなって、夢中で語ってしまった。

お淑やかなレディはどこへやら。そのままわたくしは興奮冷めやらぬまま話し続けた。

 

「でも歌詞だけではありませんわよ!ギターも、ベースも、ドラムも最高なんですの! 音がそれぞれ重なって、一つになって……春日影はわたくし達が作った素敵な曲ですわ!ギターはわたくしの幼馴染でとても可愛いんですの。ベースの方もいつも笑顔で優しくて、わたくし達を見守ってくれるそんな方ですわ。ドラムは…少しぶっきらぼうですが、隠しきれてない優しさが可愛らしくて」

 

「そっか、楽しそうだね……お嬢はキーボード?」

 

「ええ、わたくしはキーボードを担当して……お嬢?」

 

「うん、ですわ口調とかお嬢様っぽいからお嬢。嫌だった?」

 

「……いえ、そんなことありませんわ」

 

そうは言ったがお嬢と呼ばれることに違和感を覚えてしまった。つい最近バンドメンバーを他人行儀な呼び方ではなく名前で呼ぶようになった。そして何故かこの人は今日初めて会ったのに、ずっと前から会っているような、そんな気がしてならない。

 

「あなた、お名前は?」

 

だから尋ねた。

彼を、名前で呼びたくて。

 

「双海千明希」

 

「双海…千明希。良い名前ですわね」

 

彼の名前を口にすると不思議と胸が暖かくなるのを感じた。聞こえないように何度も心の中で繰り返しては、不思議と嬉しくて自然と笑みが溢れる。

 

「お嬢の名前は?」

 

千明希がわたくしの顔を覗き込み尋ねる。

当然だ。名前を聞いたなら、自分も名乗るのが礼儀。

 

「わたくしは豊川祥子。豊川祥子ですわ」

 

「豊川……そっか。豊川祥子…か……。あのさ、CMでやってる豊川グループって、お嬢と関係ある?」

 

「関係おおありですわー。わたくしが豊川グループのご令嬢ですもの」

 

「うへ〜、本当にお嬢様だったんだ」

 

豊川の名を聞いて驚いた顔をしていた千明希は、わたくしが豊川グループの娘と知ってさらに驚いていた。

 

その後はCRYCHICの話をした。大切なメンバーの話。初めてのスタジオ練習。初めてのカラオケ。どの話も千明希は楽しそうに聞いてくれていた。

 

気づけば陽もすっかり沈み、辺りは暗くなっている。

そろそろ帰らなければならないが、まだ千明希の側にいたい。

 

「さて、そろそろ帰らないとね。お嬢はここから家近いの?」

 

「え、えぇ…もうすぐそこですわ」

 

また会えるだろうか。せっかく知り合えたのに今日で終わってしまうのは、何故か胸が苦しくなる。

 

「あ、あの!千明希、またわたくしと」

 

「ん?」

 

「……いえ、何でも…ありませんわ」

 

また会ってくれますか

 

その言葉が出てこなかった。

 

「さて、送ってくよお嬢。家、ここから近いんでしょ?」

 

「…ありがとうございます。しっかりエスコートしてくださいまし」

 

まだ千明希と同じ時間を過ごせる。それが嬉しくてわたくしは笑顔で千明希が差し出した手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着きましたわ」

 

「……なに……ここ……」

 

わたくし達の前に佇むのは大きな大きな門。

その先は木々が続き、さらにその先を見ると家の屋根がちょこんと見えている。

 

「でか……流石豊川グループ」

 

「ふふん、どうですか千明希。ここがわたくしの家ですわよ!」

 

「日本にあるんだね。こんな家…」

 

「千明希。あなたさえよろしければ命を助けていただいた礼がしたいのですが、よろしければ一緒に食事を」

 

「ごめんねお嬢。俺そろそろ門限だから帰らないと父さんに怒られるんだわ」

 

「そう…ですの……それでは、仕方ありませんわね」

 

もう少し一緒にいたいなんて、千明希を困らせてしまう。これ以上の我儘は言えなかった。

 

「そんな寂しそうな顔しないでよ」

 

「だ、誰も寂しがっておりませんわ!」

 

「そう?俺は少し寂しいよ…」

 

「え?」

 

「あの公園にはよく行くから。また来てくれたらまた会えるかも」

 

「ほ、本当ですの!?あっ」

 

今日で終わりじゃないと分かったわたくしは喜びが抑えきれなかった。慌てて顔を逸らすがもう遅い。千明希はわたくしの顔を見ながらニヤニヤしている。

 

「ほら〜、なんだかんだ言って、また会えるの嬉しいんじゃん」

 

「そ、そうですわよ!な、何か問題でも!?」

 

「いや〜、俺も嬉しいよ。それじゃあねお嬢!今度はちゃんと左右確認しろよ〜」

 

「余計なお世話ですわー!」

 

手を振りながら夜道へ姿を消す千明希を見送る。

 

暗がりのなか去り際に、手を振ることで服の袖が下がったとき、彼の腕に、痣のようなものが一瞬見えたような気がした。




キャラ紹介

豊川祥子…母も亡くならない。CRYCHICも辞めない。存在したかもしれない世界線の祥子。公園でばったりあった双海千明希が気になるご様子。
最近のハマりは恋愛ものの少女漫画。

双海千明希…公園で日向ぼっこしてたら横断歩道に飛び出す子が見えたから急いで止めにいった。まさかその女の子が豊川祥子とは思わず驚き、彼女の家の大きさでより驚く。
最近のハマりは特にない

読んでいただきありがとうございます
次回も楽しみにしていただければ幸いです
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