Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける   作:お薬二錠

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ゴールデンウィーク。
地味に仕事が忙しくてあまり更新できなさそうです。

書いていて楽しい回でした。
続編のAve Mujicaもこれくらいわちゃわちゃしてほしいです。


恐ろしい破壊力を持った咎人

「はぁ〜」

 

スタジオでの練習を終えそれぞれが退室の準備を進めるなか、片付けの手を止め深いため息を吐く人物が一人。

 

「……はぁ〜」

 

CRYCHCIのキーボード 豊川祥子である。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、なんなの祥子。学校でなんかあった?」

 

「う〜ん、特に変わったことはないと思うけど」

 

周りに聞こえないよう立希ちゃんと小声で話、私達は祥ちゃんに目を向ける。自分の右手を愛おしそうに見つめては、左手で優しく撫でながらため息を吐く祥ちゃんは明らかに変だ。

 

「祥、今日の夜すき焼きだけど、食べに来る?」

 

「すき!?」

 

「ついでに、この前貸した恋愛漫画読み返したいから持ってきて」

 

「恋愛!?」

 

「あ、でも空き巣が多発してるって聞いたから無理にとは言わない」

 

「き、きす!?」

 

うん。これは絶対になんかあった。ジャンルもすぐに分かった。睦ちゃんの会話は全く頭に入ってないようで、祥ちゃんは部分的に過剰な反応を見せていた。

 

「へぇ〜」

 

隣を見れば立希ちゃんが悪い顔をしている。

 

「そよ、今日この後時間ある?」

 

「う、うん。少しなら大丈夫だけど」

 

「よし!」

 

そう言うと立希ちゃんは祥ちゃん達の元へ行き何か話し始めた。途中祥ちゃんが顔を真っ赤にしていたり、睦ちゃんが激しく首を上下に振っていたり、燈ちゃんは何が起こっているのか分かってないようで終始ぽかんとしていた。

 

「そよ!喫茶店行こう!みんなで祥子の恋愛相談やるよ!」

 

「ちょっと立希!あまり大きな声で言わないで!そもそもわたくし、まだ好きなんて一言も言ってませんわよ!」

 

「あんな幸せそうな顔しといてよく言うよ。完全に恋する乙女だったよ祥子」

 

「こ、恋!?」

 

「コイ?」

 

「燈、違う。鯉じゃなくて結婚って意味の恋」

 

「け、結婚!? さ、祥ちゃん結婚するの!? お、おめでとう!あ、で、でも結婚しても、CRYCHCI続けて……でも!お母さんになったら、子育てとか…忙しいから……て、手伝う!私も、祥ちゃんの子育て、一緒に!」

 

「と、ともりぃ!な、なにを言ってますの!わたくしまだ結婚なんてしませんわよ!」

 

「ま、まだ!?そうだよね。そういうのって、ちゃんと時間をかけて、二人の結びつきをどんどん強くして」

 

「あぁ、それもちょっと…違うと言うか、違わないと言うか……」

 

「睦、今まであんな狼狽える祥子見たことあるか?」

 

「ううん、初めて見た。祥、面白い」

 

「意見が合うな。私もそう思うよ」

 

目の前で繰り広げられるカオスな光景に苦笑いを浮かべながら、私は壁掛け時計に目を向ける。時刻は次の予約したお客さんが入る五分前となっていた。

 

「みんなー。そろそろ次のお客さん入ってくるから、とりあえず先に片付けしよっか」

 

この場を納めなきゃいけないと思ったけど、私自身も心の中では祥ちゃんの恋バナをとても楽しみにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始めてCRYCHCI顔を合わせた喫茶店にやってきた私達。コーヒーの程よい香りが広がる店内の中、立希ちゃん、睦ちゃん。その向かい側に燈ちゃん、祥ちゃん、私の三人が座る。

 

「さぁ、洗いざらい吐いてもらおうか」

 

「誤魔化しても無駄。目を見れば分かるから」

 

立希ちゃんと睦ちゃんはやけに生き生きしている。

ノリも合うみたいだし、案外お似合いの二人なのかもしれない。

 

「あ、あの…やっぱり辞めにしません?わたくしの話を聞いても、その…面白くないですし、今は週末の初ライブに向けて練習を」

 

「無理。祥子の話聞かないと気になって夜も眠れない」

 

「私も。祥の恋バナが気になりすぎてギター弾けない」

 

「え〜……と、燈は?」

 

「わ、私も…祥ちゃんの好きな人話…聞きたい!」

 

「え、え〜……」

 

逃げ場を無くした祥ちゃんは最後に私に目を向ける。口にしてなくても助けてと言う思いがその瞳からひしひしと伝わってきたが、私も今回は向こう側の人間だ。

 

「ごめんね祥ちゃん。私も祥ちゃんの好きな人の話気になるな」

 

「そ、そんな…そよが最後の頼みでしたのに…」

 

私達はまだ出会ってばかりでお互いのことをよく知らない。だから相手のことをもっと知りたいって思うし、それが恋の話ならなおさらその欲は増していく。

 

「観念しな祥子」

 

「祥、往生際が悪い」

 

「「さぁ、さぁ、さぁ!」」

 

「わ、分かりましたわよー!そのかわり絶対笑わないと誓ってくれますか?」

 

「誓う誓う」

 

「神に向かって誓う」

 

適当な声で宣誓する立希ちゃんと、感情のこもってない声で話す睦ちゃんに、祥ちゃんは疑惑の目を向けていた。

 

「立希と睦の言葉はなんだか胡散臭いですわ。燈とそよは?」

 

「笑わない、絶対に!」

 

「私も笑わないよ」

 

「良かった…燈とそよの言葉は信頼できますわね」

 

信用されてないことに腹を立てた睦ちゃんを、祥ちゃんの恋バナが誰よりも気になっている立希ちゃんが抑える。しばらくして睦ちゃんは落ち着きを取り戻し祥ちゃんは私達に話し始めた。数日前に起こった、運命の出会いの話を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして千明希は、わたくしを家まで送ってくれて、また会えるかもしれないことを、嬉しいと言ってくれたんですわ……」

 

過去の光景を思い返しながら幸せそうに話す祥ちゃん。うん、なんて言うか、祥ちゃんの話が純粋でピュアな恋物語だったこともあってなんだかお腹がいっぱいだった。

 

「……すみません、追加でブラックコーヒーもらえますか?」

 

「立希、私の分も。出来るだけ濃いめで」

 

「分かった。私もそうする」

 

特に話を聞きたがっていた二人は、想像以上にピュアだった祥ちゃんの恋物語にダメージを喰らっている。

 

「祥ちゃん!すごく良いお話だった!で、でも…横断歩道渡る時は、周りよく、見てね?」

 

「うぅ…お恥ずかしい限りですわ。千明希にも同じことを言われましたわ」

 

祥ちゃんが出会った双海君っていう男の子がどんな子か分からないけど、危ないところを助けられたり、自分の好きなものに共感してくれたら、好きになってしまうのも分かる気がする。彼のことを名前で呼んでいるようだけど、二人の関係はそれほど進展してるということなんだろうか?

 

「祥ちゃんは双海君とよく会うの?」

 

「いえ、前回あったので三回目ですわ。千明希が例の公園で日向ぼっこをしてるのを見かけて、わたくしも一緒に日向ぼっこを…」

 

思ってたよりも会った回数は少なかった。にもかかわらず祥ちゃんは双海君にかなり心を開いている。明るく、人当たりの良い祥ちゃんなら自然なことかもしれないけど、私は気になって聞いてみた。

 

「名前で呼ぶくらい仲がいいんだね。そういうのって勇気いることだと思ったけど、そんなことなかった?」

 

「えぇ、千明希のことを名前で呼んだのは初めて会ったときですわ。彼の名前を聞いたとき、何度も心の中で口にしましたの……心がぽかぽか温かくなって、幸せに包まれるような……そんな感覚でしたわ。そしたら無意識のうちに千明希のことを名前で呼ぶようになっていましたの」

 

嬉しそうに笑顔を見せる祥ちゃんを見て、なんだか顔が熱くなるのを感じた。良くない。この恋愛ピュアピュアモンスターは無意識のうちに多くの犠牲者を出す。自分に訪れた幸せを無意識のうちに振り撒き、それを見たものはその幸せそうな顔に心を打ち抜かれるだろう。

 

「ふぐっぅ!」

 

「睦? 睦ー!」

 

「あんな幸せそうな祥、見たことない。悔しいけど……でも、悔いは無い」

 

「まて睦!私を一人にするな!私一人じゃ、祥子の結婚式見届ける自信が無い!お前がいないと私は!」

 

「先に向こうで待ってるから……式の感想、教えてね立希」

 

「睦ー!!!」

 

早速睦ちゃんが恋愛ピュアピュアモンスターの犠牲者となっている。立希ちゃんも初めて会った時の少し気難しい印象はすっかり消えてなくなっていた。

 

「祥ちゃん!私、応援するから!」

 

「ありがとう燈!でも、わたくし異性の方を好きになったことが今までなくて……この先どうすればよいのか…」

 

「あ…私も…経験、無い」

 

しばらく俯いていた二人は同時に私の方に顔を向ける。何で?私だって恋愛経験ないのに二人は私に何の期待をしているの?

 

「そよ…」

 

「…そよちゃん」

 

周りを見ても他に頼れそうな人はいない。かといって大切なCRYCHCIメンバーの恋路を悲しい結末で終わらせたくなんかない。

 

「……分かった」

 

私は覚悟を決めた。

 

「まずは双海君に祥ちゃんのことをもっと知ってもらうのはどうかな? とりあえず今週末のライブに双海君を呼んでみるとか…」

 

そこで場の空気がピタリと止まる。あれ? 私、何かおかしなことを言っただろうか?

 

「そよ!あなた天才ですわ!」

 

「……え?」

 

「わたくしの特技であるピアノを魅せれば、千明希も特別な感情を抱いてくれるかもしれない!わたくしの演奏技術で千明希を虜にしてみせますわ!」

 

「ついでに私達も祥子の恋人を見ることができる」

 

「まさに一石二鳥」

 

「が、がんばって…祥ちゃんの恋を応援する!」

 

「みなさん……わたくしは素晴らしい仲間とCRYCHCIをすることができて幸せ者ですわ。必ず成功させましょう。CRYCHCIの初ライブを!」

 

「「「おー!!!」」」

 

(……恋は純粋だったのに、ライブの動機は不純だなぁ……)

 

一丸となる四人を目に、置いてけぼりをくらったと感じた私は、このままCRYCHCIで大丈夫かと不安を抱いていた。

 

(お願いだから立希ちゃんはツッコミ側でいて。今だけだよね? ボケなのは今だけだよね!?)




キャラ紹介

豊川祥子…恋愛ピュアピュアモンスター。恥ずかしそうに、でも嬉しそうに話す彼女の後には尊死体がずらりと並ぶ。本人に悪意は全くないので、余計にタチが悪い。

高松燈…大好きな祥ちゃんが幸せで嬉しい。祥ちゃんの子どもは、何を集めるのが好きか考え中。

椎名立希…恋愛ピュアピュアモンスターの犠牲者その1。興味本位で踏み込んではいけなかったと後述している。

若葉睦…恋愛ピュアピュアモンスターの犠牲者その2。あんな幸せそうな祥見たことない。大切な幼馴染の新しくて、可愛すぎる一面を見れたから後悔はないと後述している。

長崎そよ…CRYCHCIの苦労人。本来の立希は自分と同じツッコミ側の人間であることを心の底から懇願している。

今回も読んでいただきありがとうございます。
次回も楽しみにしていただければ幸いです。
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