Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける   作:お薬二錠

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見切り発車で出発した本作のifストーリー
元々三話くらいで終わるつもりでしたが、気づけば七千文字オーバー…どうしてこうなった。文章まとめる力がなくて辛い……


幸せになった咎人

CRYCHCI初ライブまで…残り三日

 

千明希をライブに招待し、わたくし達の演奏で魅了してしまいましょう大作戦は難航していた。

 

「全然出会えませんわ……千明希と全然出会えませんわ!」

 

練習終わりのスタジオでわたくしは頭を悩ませていた。前回あの公園で千明希に会ってから今日まで一度も会えていない。電話で連絡すればと言われても、千明希は携帯を持っていなかったのでどうしようもできなかった。

 

「どこの学校とか分かんないわけ?制服の特徴とか」

 

「千明希はいつも黒のパーカーを着ていましたわ。制服を着てるところは見たことがありません」

 

「どの辺に住んでるとか分からない?」

 

「初めて会った公園の側くらいとしか聞いてませんわ……」

 

「祥、彼のことどれくらい知ってるの?」

 

「……名前と、よくあの公園にいることくらいしか…」

 

わたくしの解を聞いて、しばらく考えた睦は深くため息を吐いた。

 

「祥、何を学んできたの? 私の恋愛漫画読んでその程度なんて…悲しい」

 

「ぐぅ……ぐうの音も出ませんわ……」

 

「いや、今でてたよね?祥ちゃん、ぐぅって確かに言ったよね」

 

そよが何か言っているが気にしないことにする。

最近わたくしは、睦から恋愛漫画を借りて読んでいる。数週間前にクラスメイトが話しているのを耳にし、睦に聞いたところ何冊か持っているというので読ませてもらっている。そこにはわたくしの知らない世界が広がっていた。初めは夢物語と思っていたが、自分が恋する立場になったとき思い知らされる。

恋愛漫画は、まるで迷える仔羊を導いてくれる教科書だと。

 

「睦の言うことはもっともです……ですが好きになった相手が携帯電話を持っていないパターンなんて今までありませんでしたわ!」

 

「そこは応用が必要」

 

「応用…いったいどうすれば?」

 

「……応用は応用……もう!そんなこと言われたって、私だって分からないよ!」

 

急に幼児退行した睦は、そのままそよに泣きついてしまった。何とか千明希と会えないか考えていると、燈が何か思いついたのか声を上げた。

 

「ち、千明希君の…こと、知ってる人を探す……とか……」

 

「……それですわ!」

 

流石は燈!わたくし達にはない着眼点を持っている。

そこに痺れますわ!憧れますわ!

千明希と出会った公園には、バンド練習前に足を運んでいる。早速明日からあの公園で千明希を知っている人を探そう。行き詰まっていた手探りの道に、一筋の光が差し込んだ気がした。

 

 

 

 

 

 

CRYCHCI初ライブまで…残り二日

 

外は快晴。絶好の日向ぼっこ日和。だと言うのに…

 

「どこにもいませんわー!」

 

この日も千明希の姿は見当たらなかった。

 

「いったい何でですの!? あんなに日向ぼっこが好きなのに、どうしてここ最近姿を見せないんですの!? しかもこんな天気の良い日に! 家で引きこもってる場合ではありませんわよ!? 千明希の……千明希のバカー!!」

 

千明希以外にも公園に人の姿は見当たらない。溜まりに溜まった鬱憤を晴らしてやろうと思い、声を大にして叫んだ。言いたいことを言ってスッキリしたが、背後に人の気配を感じ恐る恐る振り返る。

 

「……君、千明希君の知り合い?」

 

「は……はいぃ……」

 

顔から火が出るほどはずかしかった。

 

 

 

「あはは……確かに彼はいつもここにいるようで、意外と神出鬼没だからね〜。君みたいに彼に用がある人は困ってしまうだろうな」

 

「笑い事ではありませんわ。わたくし本当に困ってるんですの」

 

メガネをかけた男性はわたくしの話を愉快そうに聞いていた。フリーのカメラマンをしている彼は、この公園の景色をよく撮りに来るらしい。その際、千明希の姿を目にしよく話す関係になったそうだ。

 

「千明希に見てもらいたいライブは明後日が本番ですのに、このままじゃ来てほしいと伝えられませんわ」

 

「……君はどうして千明希君に聴いてほしいんだい?」

 

そう言われて少し考える。

 

わたくし達が作った曲をバカにすることなく賞賛してくれた千明希。でもそれは歌詞だけで、まだ音をのせて聴いてもらっていない。わたくしの音楽を聴いてほしい、CRYCHCIの春日影を聴いてほしい。楽譜を読むときに見せてくれた、キラキラとした千明希の笑顔をまた見たい。

 

「……笑ってほしい……そう、笑ってほしいからですわ」

 

「笑う?」

 

「初めて会ったとき、わたくし達が作った曲の楽譜を見てもらったんです。その時の彼の顔が、まるで宝物を見つけた子どものように純粋で、輝いていて……その笑顔をまた見たい。今度は音ものせて聴いてほしい……わたくしが千明希を笑顔にしたいから、千明希にわたくし達の曲を聴いてほしいんですわ」

 

「かぁーっ!」

 

「な、何なんですの?」

 

メガネの男性は声を上げると目元を押さえて天を仰ぐ。

 

「いやー! 感動した! 君がどれだけ千明希を大切に思っているかがよく分かったよ!是非、僕にも協力させてほしい!」

 

「協力?」

 

「協力と言っても僕が千明希に会ったとき、君のライブの話を代わりに伝えるってだけだけどね」

 

「本当ですの!? それでも充分ありがたいですわ!」

 

心強い味方を得たような気分だった。

その時、携帯から着信音が鳴り画面を見ると立希の名前が表示されていた。

 

『祥子、今どこ』

 

「立希! やった! やりましたわ! 千明希にライブのことを伝えてくれる人が現れましたの!」

 

『は? それ本当?』

 

「後はライブに向けて練習あるのみですわ! 今からすぐ向かいますので、お待ちになってて!」

 

『ちょ、祥』

 

立希の声を最後まで聞かずわたくしは通話を切る。

 

「あなたのおかげで、千明希にわたくし達の曲を聴いてもらえる希望が見えてきましたわ!」

 

「会えればだから……そこまで期待されるとちょっと……」

 

「えぇ、存じております。ですがわたくし一人よりも二人の方が出会える確率は多くなる。本当にありがとうございます」

 

「……どういたしまして。練習頑張ってね」

 

「はい!」

 

優しい笑顔で手を振るメガネの男性に、感謝を込めて頭を下げる。昨日よりも軽い足取りで、わたくしは急いでスタジオへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

千明希に演奏を聴いてもらえる。わたくしの心は舞い上がり、練習にもより一層熱が籠るというのに……

なぜ、わたくしはこんな目にあってますの?

 

今わたくしは立希とそよの前で正座をしている。何か気に障ることをしてしまっただろうか。しかし心当たりは一つもない。

 

「あ、あの…立希、わたくし知らぬ間にあなたに何か酷いことをしてしまったかしら?」

 

恐る恐る聞いても立希は何も答えてくれない。

 

「……そ、そよ?」

 

「祥ちゃん、大人しく正座」

 

「は、はい……」

 

そよはニコニコと笑顔を浮かべているけど、それが本心ではないことがひしひしと伝わってくる。

 

「祥」

 

背後から睦の声で呼ばれる。でもこれは本当に睦だろうか。顔を見なくても、声を聞けば分かる。今の睦は、完全に何かに怒ってる。

 

「祥、もう一度話して。今日スタジオに来る前の話」

 

「えっと…千明希と出会った公園に行って、でも千明希がいなくて、彼のことをバカーと叫んだら、千明希を知る人が現れて、千明希にライブのことを伝えてくれるっていうから、心強い協力者が現れたと思って嬉しくて」

 

「祥」

 

「ひゃ、ひゃい…」

 

睦はわたくしの前でしゃがみ、頬を両手で挟む。睦の眼の中にわたくしがいて、わたくしの眼も睦を写してる。

 

「世の中には悪い人もいるから。祥の明るさは祥の良いところ。わたくしもそんな祥が大好き」

 

「むちゅみ…」

 

「だからこそあまり心配かけさせないで。次行く時はCRYCHCIの誰かと一緒……燈以外の」

 

「わ、わかひまひはは…」

 

立希とそよは、うんうんと首を縦に振る。何故燈以外のだれかでなければいけないのか理由は分からないが、目の前の睦の圧におされ従う以外の道はなかった。

 

「ひほりへこうどうしはほほは、はやひりまふわ……あの、ふちゅみ? ほろほろ、ははひへ…」

 

睦の力が少しずつ増していく。

 

「だめ。祥が反省するまで続ける」

 

「ほ、ほんな…」

 

それから数分後、ずっと心配して見ていた燈によってわたくしは睦から救われた。

 

「祥の頬、やわらかかった」

 

それを聞いた燈に、しばらく頬をむにむにされたのは、まぁ、悪い気はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CRYCHCI初ライブまで…残り一日。

 

ライブ本番は明日。

しかし千明希にその話はまだ出来ていない。

 

練習前に足を運んだ公園で千明希に会うことはできず、千明希を知るメガネの男性にも会うことは出来なかった。わたくしが知らないだけで、千明希はライブの話を聞いてるかもしれない。しかしそれと同時に、まだ彼が何も知らずにいる可能性もゼロではない。

 

記念すべきCRYCHCIの初ライブ。わたくしの我儘だと分かってはいるが、どうしても千明希に聞いてほしかった。

 

最後のスタジオ練習を終え、それぞれ退室の準備を進める中、わたくしの様子を気にかけてくれた燈が声をかける。

 

「祥ちゃん、その…大丈夫?」

 

「燈……えぇ、大丈夫ですわ。いよいよ明日はライブ本番。流石に緊張しますわね」

 

「ライブも大切だけど、今は千明希君のこと」

 

わたくしの真意だけを見るように、燈はまっすぐな目でこちらを見ていた。

 

「CRYCHCIのライブは、明日で終わりじゃない。また…聴いてもらう機会はいくらでも作る……だから!」

 

「……えぇ、そうですわね。何度だって千明希にCRYCHCIの音楽を聴いてもらいますわ」

 

わたくしは、心のどこかで千明希にCRYCHCIを聴いてもらえるのは明日のライブだけだと思ってしまっていた。でも燈の言う通り、CRYCHCIのライブは明日で最後じゃない。明日がダメならまた次回。それがダメでもその先もずっと、千明希にわたくし達CRYCHCIを聴いてもらう機会はいくらでもある。

 

CRYCHCIはわたくし達が作り上げた運命共同体なのだから。

 

立希、そよの方へ目を向けると、二人は何も言わずに頷いていた。自分も燈と同じ気持ちだと言わんばかりに。

 

「祥」

 

近くに寄ってきた睦は、わたくしの手を取り自身の胸に手を当てる。

 

「祥と一緒なら、私ギター弾けるから」

 

「睦……期待してますわ!」

 

わたくしには勿体無い。

そう思えるくらいにCRYCHCIの存在。睦、燈、そよ、立希と出会えて良かったと心の底から思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタジオ練を終えた帰り道。

睦は家の用事で先に帰ってしまい、暗がりの夜道をわたくしは一人で歩いていた。

 

ふと夜空を見上げると、雲が月を覆い隠している。

月は、そのまま姿を消してしまうのではと思わせるくらい薄い影だけを残していた。

 

『あまり心配かけさせないで』

 

睦に言われたことを思い出したが、わたくしは心の中で彼女に謝り来た道を引き返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

たどり着いたのはあの公園。

呼吸が正常に行えないのは、ここまで全力で走ってきたことだけが理由ではない。

 

「や、やっと……やっと、見つけましたわ」

 

いつもの木の下、いつものベンチで、黒のパーカーを着た千明希がそこにいた。最後に会ったのはほんの数日前。それなのにわたくしは、遠い時を超え、ようやく巡り会えたかのような多大な幸福感に包まれた。

 

 

「……千明希?」

 

背丈や格好は初めて会った時と同じだが、万が一人違いだったことも考えてわたくしは恐る恐る声をかけた。

 

「お嬢……良かった、無事で」

 

わたくしを見て安堵した顔を浮かべる。無事と言った意味はよく分からなかったが、そこにいたのは千明希で間違いなかった。でも何故だろう。目の前にいるのは、わたくしが知る以前の千明希とは別人のような気がしてならない。

 

「……千明希、わたくしがどれだけあなたを探していたか分かってるんですの?ここ数日は全然姿を見せなかったですし、心配してたんですのよ?」

 

けれどもわたくしは以前と同じように千明希と言葉を交わす。久しぶりに会えた喜びを隠すように、言葉に皮肉を織り交ぜながら。

 

「ごめんね〜。家の方が忙しくて……二酸化炭素吸収のために日向ぼっこする暇もなかったよ」

 

「全く、わたくしの気も知らないで……まぁいいですわ。ところで千明希、この公園によく来るメガネをかけたカメラマンの方はご存知?あなたに伝言を頼んだのですが、もう聞いてるかしら?」

 

その瞬間、千明希の肩がビクリと動いたのが目に入った。

 

「……いや、何も聞いてない」

 

「では改めてお伝えしますわね。明日、わたくし達CRYCHCIの初めてのライブがあります。千明希、あなたをそのライブに招待しますわ!」

 

そう言ってわたくしはライブハウスのチケットを差し出した。しかし千明希は、そのチケットを受け取ってはくれなかった。

 

「ごめん…お嬢。俺に、そのチケットを受け取る資格なんて…ない」

 

「どういうことですの? 資格なんていりませんわ。わたくしはあなたにわたくし達の音楽を聴いてほしいだけ」

 

「俺は! そんな陽の当たる場所にいていい人間じゃない!」

 

「千明希…何を?」

 

「俺とお嬢じゃ住む世界が違う! お嬢の他のバンドメンバーもそうだ。きっとキラキラと輝いていて、光り輝く道をまっすぐ歩ける…そんな人達。でも俺は違う……俺はそんな風には生きられないんだよ……」

 

千明希の言葉がわたくしは何一つ理解できずにいた。

でも千明希が何かに怯え、恐怖してること。これだけは分かった。わたくしは無意識に彼を抱きしめる。

 

「やめっ! 離して!」

 

「嫌です。絶対に離しません」

 

「こんなことしたら、俺のせいで、祥子が、汚れる」

 

「構いませんわ。わたくしはあなたが安心できるのなら、喜んで汚れてやりますわよ」

 

「……優しくしないでくれよ、こんな奴に」

 

「優しくするのは当たり前ですわ。千明希のためですもの」

 

「はは……何だよそれ……けど、ありがとう」

 

それから千明希が泣き止むまで、わたくしは彼を抱きしめ続けた。理由は聞かなかった。彼を安心させることができれば、それで充分だったから。

 

落ち着きを取り戻した千明希はチケットを受け取ってくれた。

 

「……約束はできないかも。行けたら行く」

 

「それ、来ない人がいうセリフですわよね。まぁいいですわ。CRYCHCIを終わらせる気はありません。また演奏を聴いてもらう機会はありますもの」

 

「……何も聞かないの?」

 

「話たくないのではなくて?無理に聞こうと思いませんわ」

 

「そっか……そろそろ行くよ」

 

そう言って千明希はベンチから立ち上がった。

 

「千明希! また、会えますわよね?」

 

「……お嬢がまた会いたいって思ってくれてれば会えるよ。ちなみに俺はまた会いたいって思ってるよ?」

 

「なら良かったです。わたくしも同じ気持ちですわ」

 

「同じ気持ちか……そりゃ光栄だね。ありがとう祥子。今日、会えてよかった」

 

「……わたくしも、会えてよかったですわ。またね、千明希」

 

「またね」

 

千明希は公園を出ていき、その姿は夜の闇の中に消えた。また明日、とは言えなかった。何となく、千明希は明日のライブには来ないような気がしたから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CRYCHCI初ライブから時は流れ、わたくし達は高校三年生になっていた。高校生となったCRYCHCIは、多くのライブを重ね、その絆は昔より強い結びになっていた。意見のぶつかり合いも決して少なくはなかった。でも、その度にぶつかって、寄り添って、理解しあって、わたくし達は今もCRYCHCIをやっている。

 

燈は、石や、小物を集めるのが相変わらず好きで、コミュニケーションが苦手なのも変わっていない。それでも最近ファンになってくれたピンク色の髪をした同い年くらいの子が、グイグイ声をかけてくることもあって、少しは人とうまく話せるようになった。歌唱力も上がり、ライブを見にきていた事務所のスタッフから声をかけられていたが、私はCRYCHCIの高松燈です、と強い意志がこもった真っ直ぐな目でそう言っていた。

 

立希は、燈に対して過保護なのは相変わらずで、悪い虫がつかないよういつも睨みを利かせている。変わったといえば立希と一緒にCRYCHCIの作曲をするようになった。以前から興味があったようで、お姉さんから少しずつ教わっていたらしい。お互いのイメージが食い違い対立することもよくあるが、CRYCHCIにとって最高の曲を作るために欠かせないことだ。

 

そよは、昔から変わらない優しい笑顔でいつもわたくし達を見守ってくれている。そんな頼り甲斐のある彼女だが、長い付き合いの中で弱い一面があることを知った。一度はCRYCHCIを辞めることを考えた彼女だったが、わたくし達の声を聞いて留まることを決めてくれた。少しずつ本心を出すようになってくれたそよは、昔よりも近くにいるような気がしてわたくしは好きだ。

 

睦は、親の勧めもあって芸能事務所に所属した。しかし、学生、CRYCHCI、芸能人の三足の草鞋は想像以上に睦に負担を与え、疲労が重なりすぎた彼女は一度壊れてしまった。学業は彼女の未来を考えたうえで、切り離すことは決して出来ない。CRYCHCIと芸能界を天秤にかけた睦はCRYCHCIを選んだくれた。

『誰に何を言われても関係ない。私は、祥と同じ道を歩む』

彼女の思いが、その覚悟がわたくしにとってどれほど嬉しかったことか。後悔はさせない。CRYCHCIを選んでよかったと思えるようにと、わたくしは作曲により力を込めるようになった。

 

 

 

 

 

千明希は………千明希とは、CRYCHCI初ライブ前夜から会えていない。わたくしとの約束を守らず、ライブに姿を見せなかった千明希に対し、他のメンバーは微かに怒りを抱いていた。

 

『またそのうち会えますわ。今度会ったとき、たくさん文句を言ってやりますわよ』

 

なんて言って怒りを収めてもらったが、彼とは一度も会えないまま時間だけが過ぎていった。

 

 

 

 

 

何度もあの公園に足を運んだ。それでも千明希に会うことは出来なかった。

緑が生い茂る夏が来て、緑が赤や黄で染まって秋が来た。紅が散って白で染まった冬になり、白が消えて桃色に色づいた木々が春の訪れを知らせる。

思い出の場所だった公園も、時の流れで姿を消し、今は何の変哲もないただの駐車場になってしまった。

 

豊川家の未来のため、お祖父様がいくつか縁談の話を持ってくるが、わたくしは首を縦に振ることが出来なかった。眩しすぎるのだ。千明希との思い出が、千明希がわたくしを見る眼が、時折見せる千明希の笑顔が。眩しすぎて、脳に焼きついて離れない。わたくしを離さない。魅了させると息巻いていたのに、すっかりわたくしの方が彼の虜になってしまった。

 

「全く、罪深い人ですわね」

 

豊川の名を途絶えさせるわけにはいかない。そう思い、お祖父様やお父様はわたくしの伴侶となる方を必死に探していることだろう。それに対し申し訳ないと思う気持ちはあるが、わたくしが隣に立つのは千明希以外あり得ない。そう思えるほどに彼と過ごしたほんの数日間は、わたくしにとってかけがえのない大切で愛おしい思い出だ。

 

形を変えた思い出の場所に足を運ぶ。今日も誰もいないこの場所で、わたくしは叫んだ。

 

「……千明希ー! ずっと待ってますわよー! 何年でも、何十年でも! わたくし、待っていますからねー!」

 

叫び終えたわたくしの携帯から通知オンが鳴る。

CRYCHCIのグループチャットからのメッセージを見て、急がねばとスタジオへ向かって駆け出した。

 

話したいことがたくさんある。伝えたいこともたくさん。文句もたくさん言ってやろう。でも、次にあなたと会ったときわたくしは、真っ先に自分の思いを伝えたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー出会ってくれてありがとう。愛してますわー

 




キャラ紹介

豊川祥子…CRYCHCIのキーボード。月ノ森学園三年生。数年前に出会った男の子のことが忘れられず、縁談、男子生徒からの告白を全て断り続けている。そんな一途な彼女に挑み、玉砕する者は後を絶たない。

若葉睦…CRYCHCIのギター。月ノ森学園三年生。かつては天才子役として活躍していたがメンタル不調により芸能界を引退。CRYCHCIが原因ではないかという声も上がるが、自身のギター演奏で全て黙らせた。

高松燈…CRYCHCIのボーカル。羽丘学園三年生。不思議ちゃんなのは相変わらず。最近クラスメイトに自分の大ファンを名乗るピンク髪の子が現れた。歌唱技術を認められ、燈単体で声をかけられるが、私はCRYCHCIの高松燈だと、きっぱり断り彼女達の絆の強さを見せつけた。

長崎そよ…CRYCHCIのベース。月ノ森学園三年生。高校でも吹奏楽部でコントラバスを続けている。周りの評価を気にし仮面を被り本心を見せない自身の生き方に嫌気がさし、一度はCRYCHCI脱退を考えたがそんな自分を受け入れられたことで昔よりも自分を見せるようになる。

椎名立希…CRYCHCIのドラム。羽丘学園三年生。燈を見守る過保護なドラマー。高校生になって近くのライブハウスでバイトを始めた。燈にまとわりつくピンク髪のファンに睨みを効かせているが、ライブハウスに住む野良猫にも手を焼いている。

双海千明希…身体に暴行の跡あり。正当防衛として、調査中。

今回も読んでいただきありがとうございます
次回から本編更新再開していくのでよろしくお願いします!
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