Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける 作:お薬二錠
メルカリで。ゲームセンター行っても、どこにも姿が見当たらないからメルカリ様々ですわ〜
それから、書きたかったけど時間がなくて書けなくて申し訳ないと思っております。にゃむのバースデーストーリーも、時期はずれでいつか書きたいと思っておりますの。一日遅れですが、にゃむ!ハッピーバースデーですわ!
物心がついた頃には母親という存在はいなかった。
何故いないかは分からないし、聞いたこともない。母親がいなくても普通に生活できてたし、初めからいなかったから寂しいという感情も抱かなかった。それに、俺の顔を見て困ったように笑顔を浮かべるクソ親父には、何故母親がいないのか聞いてはいけないような気がしたから。
クソ親父も昔は、もう少しまともだった。酒に溺れることもなく、夕食を作ってくれる日もあったし、手を上げることも決してなかった。
でもある日、アルバムを見て涙を流しながら誰かの名前を呼ぶ父親の姿を見てしまった。
襖の隙間から見えた父親の背中は、あまりにも小さくて、何が出来るかは分からなかったけど、俺は一目散にその背中に駆け寄った。
「お父さん!どうしたの?大丈夫?」
「ち、千明希!?……だ、大丈夫だ…何でも、ないよ。父さんは」
「泣かないで!僕が側にいるから、お父さんを悲しませたりしないから!」
今まで見たことのない父親の弱った姿。たった一人の家族だから、笑っていて欲しくて、元気になって欲しくてあんなことを言った。
それが、限界ギリギリだった父親を壊すきっかけになるとも知らずに……
俺の言葉を聞いたアイツの目は、取り繕っていた鍍金が全て剥がれ、醜く、ぐちゃぐちゃに、濁り切っていた。
「お父…さん?」
「お、お前が…言うな……俺から!最愛の人を奪ったお前が!言うな!!」
言ってることが分からなかった。けれど、言葉と共に強い衝撃が俺を襲い、しばらく経って頬に痛みを感じた時、父親に叩かれたんだと理解した。
「……え?」
「あ…あぁ…すまない!すまない千明希!ごめんよ、痛かっただろ?本当にごめん!」
慌てて駆け寄る父親に抱きしめられた俺は、今まで感じたことのない嫌悪感を覚えた。
それが始まりだった。俺が、父親を父親として見るのをやめたのは。
俺に手を上げた罪悪感から、クソ親父は酒に逃げるようになった。酔いが回れば暴言を吐きながら暴力を振るう。きっとこれが本来の姿なのだろう。
血の繋がった息子に暴力を振るうコイツが気持ち悪い。普段は一般的な良い父親を取り繕っているコイツが気持ち悪い。
クソ親父は、俺の見る目が変わったことに気づくと、次第に良い父親を演じるの事をやめるようになっていった。
過去に何があったのかは分からない。クソ親父が放った言葉の意味も、何故母親がいないのかも。だけど手がかりになりそうなものに心当たりがあり、俺はアイツがいない時間を見計らってアルバムを開いた。
「これ……」
アルバムの中の写真は、クソ親父と見たことのない女性でいっぱいだった。遊園地の写真、ピクニックの写真、何気ない日常の写真、女性一人が写った写真。どの写真も二人は笑顔で写っていて、見ているだけでも幸せなことが伝わってくる。
ページをめくると、女性はベッドの上にいた。
自分のお腹を愛おしそうに優しく撫でており、写真の下には、『早く会いたい』と書かれている。
日付は俺の誕生日の数日前だった。
ページをめくる。写真は一枚。ふにゃふにゃの赤ちゃんの写真があった。写っているのは赤ちゃんと、クソ親父。クソ親父は涙を流しながら赤ちゃんを抱いている。写真の下には、『会いたい』 ぐちゃぐちゃの字で、そう書かれていた。
ページをめくる。写真の枚数が減ってきた。赤ちゃんは少しずつ成長している。
そして、どの写真にも、あの女性の姿は写っていない。
「……あー、そういうことか」
仮説だが確信。俺の母親がいないのは、俺のせいだ。
俺が、母親を、殺した。
クソ親父が俺を見る時、困ったように笑っていたのも、最愛の人を奪ったという言葉の意味も、全て説明がつく。
「……だからって、どうすることもできないだろ……クソが」
絶望。父親を恨めばいいのか、産んでくれた母親を恨めばいいのか、全ての元凶である自分を恨めばいいのか、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「誰か…教えてくれ……誰か……俺を、助けてくれ……」
望んだって叶わない。分かっていたけど、せめて望みを口にしないと、どうにかなってしまいそうだった。
学校に行くのをやめた。意味がないと思ったから。
クソ親父は何も言わなかった。普段は俺をいない物とし、酒を飲めば手を上げる。そんなクソ親父に俺は何も言わず、暴力も受け入れた。
そんな生活が何年も続いたある日、俺は一人の女の子と出会った。ころころ変わる表情が見てて面白くて、自分のバンド仲間のことを話す時はキラキラと輝いていて、その笑顔が太陽のように温かくて優しくて……モノクロだった自分の世界に、色が染み渡っていくような気がした。たった数回会っただけだけど、一緒にいる時間はすごく楽しくて、嫌なこと全部忘れることができた。
『ほら〜、なんだかんだ言って、また会えるの嬉しいんじゃん』
『そ、そうですわよ!な、何か問題でも!?』
嬉しかった。彼女のおかげで空っぽだった俺は、やっと人間になれた。生きる意味を与えてもらった。大袈裟だと言われるかもしれない。それでも、俺にとって彼女は何よりも大切で、失いたくない人になっていた。
だから…だから……
「千明希、今日な? お前のことを知ってる女の子に会ったよ」
酒を飲むクソ親父が何の前触れもなく祥子の話をした時、悪寒と嫌な汗が吹き出した。
「優しい子だな。お前みたいな奴をあんなにも大切に思ってるなんて」
声が微かに震えている。最も長い時間を共に過ごしてきたから、それが何を意味するか俺には分かる。
「え? 何でお前みたいな奴が幸せで、俺は不幸なままなんだ?」
溢れ出る怒りを、必死に押さえつけている時の声色だ。
「不公平だ!理不尽だろ!?お前も!あの女も!大切な人を失う絶望を!味わえぇぇい!!」
勢いよく振り下ろされた酒瓶は、俺の頭に直撃し視界の半分が赤に染まる。
死
その言葉が脳裏に焼き付く。
今まで死人同然だった。やっと生きる目的を見つけた。今の不幸を終わらせ幸せになる。その機会がやっと手の届くところにある。
死ねない
俺が死ねばコイツは満足するのか?半狂乱のコイツが何をするか分からない。最悪、祥子に被害が及ぶ可能性もある。それはダメだ。それだけは絶対ダメだ。俺と関わったばっかりに不幸になるなんて間違ってる。あいつは大切な人達と共に、これからも光の中を歩いて行くんだ。
死ねない
止める。自分はどうなってもいい。今まで生きてきた意味だって、このためにあると思えば力が湧いてくる。
ふらふらになりながら、机の上に置かれたカメラを手に取る。クソ親父が大切にしている思い出のカメラは、重みがあって、強度があって……丁度良いと思った。
キャラ紹介
千明希の母…千明希を出産と同時に亡くなっている。性格は明るく活発で、千明希の父親はそんな彼女に振り回されることが多かった。千明希と出会う事を、誰よりも心待ちにしていた
今回も読んでいただきありがとうございます
次回も楽しみにしていただければ幸いです