Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける   作:お薬二錠

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すみません、長いことかけませんでした。モチベはあります。文才がなくて悩みに悩んで負のスパイラル。やっと納得のいくものが書けたので久しぶりの更新です。本編も頑張って書いていきます。モチベだけはしっかりあるので。文才と、あと時間がほしい…


罪人 千明希

親父が動かなくなってしばらく経った。

自分がしたことを後悔し、時間よ戻れといくら懇願しても無情に時は進んでいく。カーテンを閉めきった真っ暗な部屋に、朝日が少しずつ侵入し始めていた。

 

 

 

(これからどうする?)

 

決して変わることのない、目の前に広がる現実を目の当たりにし、俺は自分の身体が小刻みに震えるのを止められなかった。親父のすぐそばに転がる、親父の血が付いたカメラ。それを俺は、無我夢中で叩きつけた。一度じゃ止めることができなかったから何度も、何度も叩きつけた。親父の呻き声が止むまで何度も、何度も…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ、げぇっ……!」

 

畳の上に吐瀉物が広がる。胃の中のものを全て吐き出すように、何度も嘔吐した。酸っぱい臭いが鼻を突く。呼吸も上手くできない。顔は涙や涎が混ざり、ぐちゃぐちゃになっていた。

 

「はぁ、はぁ、違う…違う!俺は!こんなつもりじゃ……ぐぅっ……!はぁ、はぁ……嫌だ…嫌だよ……なんで…どうすればよかったの……」

 

嘆いても誰も答えてはくれない。

ここには、自分と、息絶えた父親しかいないのだから。

 

 

 

「……楽に、なりたい」

 

 

 

これから先の未来に光が見えない。

汚れてしまったこの手じゃ、何も掴むことなんて……そもそも手を伸ばすことすら烏滸がましい。

学校にも行っていないし、親しい友人と呼べる者もいない。この世界からいなくなったとしても何一つ影響がないのなら、消えてもいいんじゃないだろうか。

 

おぼつかない足取りでふらふらと歩き、キッチンにあった包丁を手に取った。さっきまで身体は震えていたのに、自分でもびっくりするくらい冷静で、俺は首元にナイフを押し当てた。

 

このまま引けば終わらせることができる。

 

何の意味もなかった人生。価値なんてなくて、存在してることも知られていない人生。元々ゼロなら、無くなっても何の影響もない。

 

…だから、ここで終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千明希」

 

「ひっ!」

 

カツーンと甲高い音が部屋の中で鳴り響く。

終わらせようと思ったのに、不意にナニカに足を掴まれ驚いた俺は包丁を落としてしまった。戸惑いながら反射的に下を見れば、先ほどまでピクリとも動かなかった親父が、俺の足首をしっかりと握りしめていた。

 

「…親父?生き…」

 

「…ごめんよ」

 

「は?」

 

突然の謝罪の言葉に頭が真っ白になった。何を言ってるんだこいつは。今まで、どれだけお前に苦しめられたと……違う、そんなことは今どうでもいい。俺は取り返しのつかないことをしたのに、親父のことを殺そうとしたのに……

 

「何で、何で謝るんだよ…」

 

「千明希は……俺と……幸歩の……大事な……」

 

そこまで言って親父の手は、力なくだらんと俺から離れた。

 

「……何なんだよ、何なんだよ!ちゃんと最後まで聞かせろよ、クソ親父!」

 

血濡れた手を洗い流すのも忘れ、俺は急いで部屋に置かれた受話器を手に取る。この先どこへ進んでいくのか、道は見えないままだったが、今自分が何をしたいかはハッキリ見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

返り血の付いた服から着替え、身体を洗い、俺はいつもの公園に来ていた。部屋には、必ず戻りますと置き手紙を残して。道中何台もパトカーが通っていくのを見た。きっと俺を探しているんだろう。許されることではないと分かってはいるが、どうしても最後にここを訪れておきたかった。ここにいることで、自分がこの世界にいた証明になるような気がしたのと

 

「や、やっと……やっと、見つけましたわ」

 

いつもの公園、いつもの木の下、いつものベンチで待っていれば、俺の目の前で肩で息をする少女が……豊川祥子が、きっと俺を見つけてくれると希望を抱いたから。

 

「……千明希?」

 

夜遅い時間帯ということもあり、祥子は恐る恐る声をかけてきた。俺の今の服装は黒のズボンに黒のパーカー。怪しさ満点の格好だし、お嬢が警戒するのも当然だ。

 

「お嬢……良かった、無事で」

 

見えるところに怪我はなく、振り返った先にいたのはいつも通りの豊川祥子だった。俺の言葉に違和感を覚えたようで、彼女は首を傾げて見せた。しばらくして疑問よりも自分の思いが勝ったのか、祥子は口調を強くし話し始める。

 

「……千明希、わたくしがどれだけあなたを探していたか分かってるんですの?ここ数日は全然姿を見せなかったですし、心配してたんですのよ?」

 

「ごめんね〜。家の方が忙しくて……二酸化炭素吸収のために日向ぼっこする暇もなかったよ」

 

「全く、わたくしの気も知らないで……まぁいいですわ。ところで千明希、この公園によく来るメガネをかけたカメラマンの方はご存知?あなたに伝言を頼んだのですが、もう聞いてるかしら?」

 

その言葉を聞いた瞬間、嫌な汗がブワッと身体中から湧き出るのを感じた。救急と警察に連絡をし、俺は姿をくらました。ニュースになって祥子の耳に入っていてもおかしくはない。そもそも親父と祥子にどんな関係があるのかも、俺は何一つ知らない。今の彼女が、今の俺をどこまで知っているのか…考えると怖くなり俺は祥子から距離を取った。

 

「……いや、何も聞いてない」

 

「では改めてお伝えしますわね。明日、わたくし達CRYCHICの初めてのライブがあります。千明希、あなたをそのライブに招待しますわ!」

 

そう言いながら差し出されたのは一枚のライブチケット。彼女が前に話していた、彼女が大好きで大切なバンド。あの日見せてくれた彼女達の曲『春日影』は歌詞を読んだだけでも胸を熱くさせるナニカがあった。音が乗ったこの曲を聴きたいと思った。だけど……

 

「ごめん…お嬢。俺に、そのチケットを受け取る資格なんて…ない」

 

「どういうことですの? 資格なんていりませんわ。わたくしはあなたにわたくし達の音楽を聴いてほしいだけ」

 

事情を知らない祥子は当然俺の断りを受け入れなかった。彼女達の演奏に興味を持ったから、祥子は良かれと思って自分達のライブに招待してくれている。でもあの時と今じゃ状況が違う。

 

温かくて、眩しすぎて、俺は心から『春日影』を見ることも、受け入れることもできない。幸せとはかけ離れた日々を過ごしてきた。結果、濁ったドス黒い感情を抱くようになった。それに加えて今は…人を殺めている。憎む相手とはいえ、血の繋がったたった一人の父親を……思い出したくもない光景が脳裏に浮かぶ。込み上げてくる気持ち悪さを必死に抑え、俺は突き放すように叫ぶ。

 

「俺は! そんな陽の当たる場所にいていい人間じゃない!」

 

「千明希…何を?」

 

「俺とお嬢じゃ住む世界が違う! お嬢の他のバンドメンバーもそうだ。きっとキラキラと輝いていて、光り輝く道をまっすぐ歩ける…そんな人達。でも俺は違う……俺はそんな風には生きられないんだよ……」

 

始まりが違えば隣にいれただろうか。心から素直に彼女達を応援できただろうか。存在したかもしれない未来を想像できない。俺は、戻れないところまで落ちてしまったのだから。

 

俯きながら悔やむ俺に、祥子の影が近づいてくる。

 

何事かと思い顔を上げた時には、女の子特有のいい匂い、冷めた心を溶かすような温かさに包まれていた。

 

それが祥子のものだと気づいた時、俺は慌てて彼女を引き剥がそうとした。

 

「やめっ! 離して!」

 

「嫌です。絶対に離しません」

 

なかなか彼女を引き剥がすことができない。でも、祥子の力が強いわけじゃない。祥子の優しさを拒絶している俺が、心のどこかでそれを望んでいるから、無理矢理にでも引き剥がすことができなかった。

 

「こんなことしたら、俺のせいで、祥子が、汚れる」

 

「構いませんわ。わたくしはあなたが安心できるのなら、喜んで汚れてやりますわよ」

 

「……優しくしないでくれよ、こんな奴に」

 

「優しくするのは当たり前ですわ。千明希のためですもの」

 

「はは……何だよそれ……けど、ありがとう」

 

とっくに枯れ果てたと思っていたのに、祥子に抱きしめられ、優しさと心地よい温もりを感じていた俺は、溢れ出る涙を止めることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして落ち着きを取り戻した俺は祥子と共にベンチに座っていた。祥子は何も言わないまま夜空を見上げている。俺は、先ほどの光景を思い出しては恥ずかしさのあまり、顔を手で覆い隠していた。

 

(あんなに泣いたのはいついらいだ? 恥ずかしい……しかも好きな女の子の胸の中で泣くなんて……ん?)

 

「んーーーーーー!!」

 

「ち、千明希!?何事ですの!?」

 

自分の気持ちをしっかりと認識した途端、顔の熱がぐんぐん上がっていくのが分かる。夜でもこの距離ならバレるくらい赤くなっているに違いない。顔を服の中に埋めた俺の隣で、祥子はおろおろと慌てふためいていた。

 

「……お嬢」

 

顔を隠したまま俺は祥子に向かって手を伸ばす。

 

「……約束はできないかも。行けたら行く」

 

「それ、来ない人がいうセリフですわよね。まぁいいですわ。CRYCHICを終わらせる気はありません。また演奏を聴いてもらう機会はありますもの」

 

そう言って彼女は自分達が出演するライブのチケットを俺の手のひらに乗せ、優しく握りしめさせた。

 

「……何も聞かないの?」

 

「話たくないのではなくて?無理に聞こうと思いませんわ」

 

「そっか……そろそろ行くよ」

 

これ以上彼女の優しさに甘えてはいけない。自分の罪と向き合うためにも、俺はベンチから立ち上がり公園を後にしようとした。

 

「千明希! また、会えますわよね?」

 

「……お嬢がまた会いたいって思ってくれてれば会えるよ。ちなみに俺はまた会いたいって思ってるよ?」

 

「なら良かったです。わたくしも同じ気持ちですわ」

 

全て話せばきっと彼女も変わってしまう。それでもこの瞬間だけでも、自分を待ってくれている人がいるという幸せに浸っていたかった。

 

「同じ気持ちか……そりゃ光栄だね。ありがとう祥子。今日、会えてよかった」

 

「……わたくしも、会えてよかったですわ。またね、千明希」

 

「またね」

 

 

また明日とは言わなかった。

期待させてはいけない。次に会うのは、自分の罪を清算してからだ。

 

振り返ると、祥子はまだ俺を見送ってくれていた。

 

「……ごめんね」

 

彼女に聞こえないよう小さな声で呟く。このままでは前に進めなくにるような気がして、俺は無理矢理足を動かし思い出の公園から走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『次のニュースです。昨夜未明、父親に暴力を振るったとして、10代の少年が警察に任意同行されました。父親は重症で危険な状態でしたが、先ほど意識が戻ったと情報が入っています。通報を受けた警察官が現場に到着したとき、少年の姿はありませんでしたが、つい先程少年自らの意思で警察署に出頭し、現在事情を聴かれています。警察によりますと、少年には暴行の跡があり、父親から虐待を受けていた可能性があるとのことです。現時点では逮捕には至っておらず、警察は家庭内でのトラブルの経緯や、暴力に至った背景について、慎重に調べを進めています』




キャラ紹介

双海千明希…罪を犯した咎人。その罪は少年が抱え込むにはあまりにも重く、永遠に消えることはないが、彼は一生背負って生きていくと覚悟を決めた。暗闇の中に灯る、小さな光に手を伸ばしながら。

豊川祥子…千明希が今までの千明希でないことになんとなく気づいている。それでも今までのように彼が振る舞っていたから、自分も同じように今までと変わらない自分で接した。様々な事柄が次々に変化していくこの世界で、千明希に対する祥子の思いは永遠に変わらない。

読んでいただきありがとうございます
次回も楽しみにしていただければ幸いです
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