Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける 作:お薬二錠
彼女の生い立ちを考えるとImprisoned Xllの歌詞が心からの叫び、嘆き、懇願だったのだと思います。
前と同じ、みんなバラバラになった。私が上手く歌えなくて、CRYCHICはバラバラになった。今は何で?
春日影をやってそよちゃんを怒らせたから?
悲しそうな顔をする愛音ちゃんに何も言うことが出来なかったから?
いつもそばにいてくれたのに、自分の気持ちを何一つ立希ちゃんに伝えられなかったから?
私が何も出来なくて、楽奈ちゃんを失望させたから?
どうして、他の人みたいに上手く出来ないんだろう。
伝えること。泣くことも、笑うことも、怒ることも。私はみんなと同じように出来ない。みんなと違うから、少し困って、どこか息苦しくて、ほんのちょっと生きるのが辛いと思ってしまう。
でも祥ちゃんはそんな私を認めてくれた。
でも祥ちゃんもいなくなってしまった。
こんな思いするなら、バンドなんてやらなければよかった。今まで通り、好きなものを集めて、誰かに理解されなくても、一人でずっと……
「高松さんはどうしたいの?」
すぐには答えられなかった。頭の中でいっぱいの言葉が浮かんでは消えて、思考がぐちゃぐちゃになる。
出来るわけがない。望んじゃいけない。欲しがっちゃいけない。
頭の中はどんどん、どんどん黒いモノでいっぱいになって私は……
「燈!」
両側から優しく頬を押しつぶされ、無理やり顔を上げさせられる。
「迷ってもいい。自分に正直になれ。立ち止まってたらほしいものは手に入らない。自分から向かって行かなきゃ」
私は、私がしたいこと、私がほしいものは……
「わはひは、ふはへはい」
「あ、ごめん。そのままじゃ喋れないね」
あたたかい彼の手が離れるのを、少し名残惜しいと思いながらも、私は自分の思いを吐き出す。
「伝えたい…みんなに謝らなきゃいけないこと。これからのこと。私が思っていることを。愛音ちゃん、立希ちゃん、そよちゃん、楽奈ちゃん、祥ちゃんにも伝えたい!」
「そっか、それじゃやることは決まったな」
「え?」
「聞いたよ。高松さんが書く歌詞は心の叫びって。
負けんなよ? 作詞の天才さん」
気づかせてくれた。二人のおかげで気づくことが出来た。迷っても、上手く出来なくても私に出来ること。
それは歌だ。歌を描いて、詩を歌うことだ。
私は想いを紡ぐ。書いては消して、悩んで、また書いては消してを繰り返す。
「あ…愛音、ちゃん。いっしょに…ライブ…やって」
「……そよさんどうするの?」
あいさつは出来ないし、頑張って話しかけても、やっぱり怖くて上手く伝えることが出来ない。
それでも、何度ダメでも進み続ける。上手く出来なくてもやり遂げるんだ。それが今の私に出来ることだから。
あれから一週間たった。
あの日何があったのか高松さんから聞いた次の日、椎名に声をかけたが、たった一言「ごめん」と謝られ、それ以降避けられ続けている。
内容を要約すると、春日影を演奏した新しく出来たバンド。その内3人が、昔CRYCHICとして活動していた。今のバンドを作ったのは千早さんと、長崎さん。
しかし、長崎さんはCRYCHICを復活させるために千早さんを利用し今のバンドを作ったらしく、最終的には切り捨てる予定だったことを椎名づてに告げられたのだ。当然、千早さんはバンドを離脱。長崎さんは何故かCRYCHICの復活を諦め、今のバンドを放棄したらしい。
どうにか力になれないかと、千早さんに連絡を取ってみたが返事は無く、椎名には避けられ、昔から交流があるにも関わらず、高松さんと連絡先を交換していないので、進捗を聞くこともできない。
今日も今日とてどうしたものかと頭を悩ませていると、思わぬ人物から連絡が来た。
【RiNGにきて】
情報が少なすぎる文章にイラッとするが、それがまた彼女らしいと懐かしくなり、微かな希望にかけ俺は
学校終わりにRiNGへ向かった。
RiNGの入り口側に彼女はいた。オパールグリーンの髪色をした小柄な少女。道ゆく人が彼女の姿を見て微かにどよめくのは、両親が有名だからだろう。
そんな周りの好奇の目を気にすることなく、俺は彼女に歩み寄り声をかける。
「ごきげんよう。若葉様」
「……様つけるのやめて」
「お嬢に叩き込まれたんですよ。挨拶は大事ですわよって」
豊川祥子の幼馴染であり、大切な友人だ。
「何で、来てくれたの?」
「何でって、呼ばれたから来たんですよ?」
「敬語もやめて」
「若葉さんにタメ口使ったらお嬢に怒られますよ」
「……若葉さん?」
「なに?」
「若葉さん」
「……若葉さん」
「若葉さんなんて知らない」
「……むっちゃん」
「うん」
見てわかる。昔のように呼ばれたことで若葉は上機嫌になっていた。ほんのり笑みを浮かべる人形のような少女に呆れながらも、俺は今日呼ばれた意味を問いかける。
「……燈が歌ってる」
「バンド戻ったの?」
「違う。ずっと一人で歌ってる。ギターの子もいる。今日も燈が出る」
ギターの子と言われ真っ先に思い浮かんだのは千早さんだ。でもそれなら彼女から返事が来るはずだ。その時、高松さんのバンドにはもう一人ギターがいたことを思い出した。
「あのオッドアイの子か」
「うん。でも来る日もあれば来ない日もある」
「自由だなその子。とりあえず行こう。一人でステージに立つなんて高松さんの性格的に厳しいだろうし」
「どうするの?」
「どうにかして欲しくて呼んだんでしょ?任せて」
若葉に先にステージに向かってて欲しいと伝え、俺は凛々子さんに会いに行った。突然のお願いにも関わらず、凛々子さんは快く承諾してくれた。
「分かった! そういうことなら任せて!」
「ありがとうございます!」
その時、カフェのカウンターに立つ彼女と目が合ったが、タイミング悪くお客さんに呼ばれそそくさとその場から立ち去ってしまった。
「接客苦手なんじゃねぇのかよ」
色々言ってやりたい気持ちを抑えステージに向かう。
どいつもこいつも自分の思いを伝えるのが下手くそで、逃げ癖があって嫌になる。まぁ、俺も人のことは言えないけど
ステージ袖に着くと高松さんがいた。大勢の観客を前に一人で。
「双海…君」
「ライブやってるなら教えてよ。って連絡先知らないからしょうがないか」
「ありがとう」
「これからでしょ?」
「うん!」
マイクを持つ彼女の言葉にドラムの音を添える。
ふらついてもすぐ支えられるように、大勢を前にしても彼女が安心できるように。
必死に考えたんだろう。何度も消しては書いてを繰り返したんだろう。彼女の詩は、後悔、懺悔、希望、絶望、望み、感謝、欲望、多くの感情が入り混じっている。それは誰もが持っているもので、誰もが曝け出すことができず隠しているもの。彼女はそんな人達の想いを代弁するかのように詩を歌う。
(普通は怖いだろ。全て曝け出すなんて。あの子のどこにそんな強さがあるんだろうね)
その時、ステージ袖からオッドアイのギターが上機嫌でステージへやってきた。
「じー」
「ど、ども」
ドラムの前で立ち止まり人の顔をじっと見つめるもんだから、思わずたじろいでしまう。彼女はニッと笑うと、自分のギターにアンプを繋げ高松さんの詩に合わせギターを奏で始めた。そんな掴みどころのないギターは、もう一人仲間を引き連れてきたらしい。
「双海?」
「遅いじゃん椎名」
高松さんの詩を潰さない全力でドラムを叩きつける。
お前の居場所、俺が食っちまったけどいいか?と椎名を焚きつけるよう挑発的に。
「どいて! そこは私の場所だから」
「はいはい」
ドラムの音が変わったことに気づいた高松さんは後ろへ振り返る。
「立希ちゃん」
「ごめん燈。待たせて、ごめん」
「ううん……来てくれてありがとう、立希ちゃん」
静かにステージ袖に移動し彼女達の詩を聴く。
一度壊れてしまった彼女達だが、諦めたくない強い想いが皆を結びつけ、少しずつ形を取り戻していく。
「輝いてるな。眩しくて見てられないよ」
その日の演奏は大成功だった。観客から賞賛の拍手、感動の声が投げられる中、高松さんは椎名に感謝の言葉を伝えていた。
その日のスケジュールが全て終わり、改めて今日の礼を言おうと凛々子さんを探していると、オッドアイのギターの子に出会した。
「えっと、双海千明希です」
「らーな」
「ありがとうね。高松さんと一緒にライブしてくれて」
「ううん、ライブしたかったから」
「そっか」
会話しづらい。若葉並みに何考えてるか分からないし、またジッと見られてるし、この子がよく分からない。
「ひび」
「は?」
彼女が唐突に告げたその言葉を、俺は瞬時に理解できなかった。
「ひび入ってる。このままじゃいつか割れる」
「……割れるって、何が?」
「さあ?」
そう言って彼女は去ってしまった。
「……何が言いたいんだよ」
その時、周りには何もなく、周りには誰もいないのに、確かに固いナニカが砕けるような音がした。
簡単なキャラ紹介
若葉睦…彼女も色々ありました。そんな簡単な言葉で言い表せることではないのですが。モーティスちゃん、また出てきてくれると嬉しいです。
要楽奈…普段はライブ、抹茶、猫の子なのにたまに見せるイケメンムーブがたまらなく好きです。この子中学生だよね? さすがはオーナーのお孫さんです。
今回もお読みいただきありがとうございました
次回も楽しみにしていただけたら幸いです