Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける 作:お薬二錠
眩しかった
一度崩壊したバンド。でも、一人の想いが彼女達を繋ぎ止め、本当のバンドとなって一緒に歩み始めたあの景色
眩しかった
二度と味わいたくなかったトラウマを再び目の当たりにしたにも関わらず、諦めることなく一人でも詩い続ける彼女の姿
眩しかった
深い悲しみに落ちた彼女が、心の拠り所を見つけ毎日楽しそうに話しながら浮かべる笑顔
まぶしかった
ぼくがなにものかもしらず、なにをしてきたのかもしらず、どんなおもいできみをみているのかわからないのにやさしくてをさしのべるきみが
まぶしかった……まぶしすぎた……
私達が MyGo!!!!!になって数日がたった。
野良猫に無理矢理ステージに上げられ、双海から挑発的なドラムの演奏を聞かされ、燈とまたバンドが出来た。
それから少し経って愛音が来て、観客席にいたそよを燈がステージまで引っ張って、私達は多くのお客さんの前で涙を流しながらライブをした。今思い返しても、顔から火が出るほど恥ずかしい。
迷惑をかけたし、あからさまに避けていたこともあって、双海にどう言葉をかけようか悩んでいると、あいつはたった一言「よかったな」って言ってくれた。文句の一つでも言われる覚悟をしていたけど、双海はそれ以外何も言わずにクラスメイトとバカやっていた。
「双海! 今度私達ライブやるから来てほしいんだけど」
「……もちろん、喜んで見に行く!」
燈が一人でステージに立って詩を歌っていた時の予約が残っていて、急遽行うことになったライブ。三日前にライブをすると決めて、そこから新曲を作って。愛音はバンドの名前や、衣装なんて考えてたけど。とにかく色々あって、みんなでそよの家に集まったり、愛音の家で夜通し衣装を作ったり、リハーサル直前までバタバタしていたけど私達はライブをやりきった。過程はどうあれ、ライブは大成功と言って間違いないし、双海の感想もすごく好評だった。
でも私は一つ引っかかることがある。
何で私がライブに誘った時、双海は少し困ったような顔をしたんだろう。
それは、私が双海と出会って、初めて見る顔だった。
今にも雨が降り出しそうな曇り空。灰色の雲が太陽を覆い隠すが、これくらいがちょうど良い。
『ひび入ってる。このままじゃいつか割れる』
MyGo!!!!!のギターに言われたことを思い出し、拳を深く握りしめる。初対面の奴に何が分かる。俺の何を見た? 何も知らないくせに何が割れるだ。ひびなんて入ってない。俺は上手くやってる。何一つ問題なんてない。そう思ってるのはオマエだけ。違う。アイツと会ったから思い出してしまった。黙れ。取り繕うな素直でいるのが一番生きヤスイ。俺は。思い出せない。何を思い出せって言うんだ。アイツはお前に何をした。お嬢は俺に居場所をくれた。他は。お嬢は俺を必要としてくれた。他。お嬢はこんな俺に笑顔を向けてくれた!必要だと言ってくれた!でも捨てられた。俺は…。改めて、アイツラはお前に何をした。アイツラは俺に……
「黙れよ!!」
息も絶え絶えになりながら大声で叫ぶ。ここが屋上で良かった。声は届いてしまったかもしれないが、姿を見られなければどうだっていい。そう思っていたのに、
「千明希君」
振り返ると、そこには初華がいた。
「初……華?」
「探したんだよ? 教室にいないし、千明希君の友達に聞いても分からないって言うし」
「何で」
「これ渡してほしいって頼まれたの」
初華が渡してきたのは、差し出し人不明の黒い封筒。
封には顔半分を覆い隠す仮面のシールが使われている。
「それじゃ私は教室に戻るから。授業サボろうなんて考えちゃダメだよ? 千明希君」
「何で何も言わない。聞こえてたんだろ?」
あれだけの声量で叫んだ。いつからいたかは知らないが、あそこにいた以上聞こえないわけがない。普段通り接してくる初華を不審に思い、俺は彼女に問いかけた。
「……そう言うのって大切だと思うから。ずっと溜め込んでいたらいつか壊れちゃうよ」
「お前はどうなんだよ初」
「私は!…大丈夫。今、幸せだから。それで大丈夫」
「人の心配する暇があるなら自分の心配しろよ」
「さっきの千明希君、私より重症だったよ」
「……うるさい。お前よりマシ」
「おんなじだよ私達。ほんと心配してあげてるのにそう言う態度取るの良くないよ。だから千明希君って嫌い」
「言ってろ。俺だって嫌いだよ」
「……無理しないでね」
最後にそう言って初華は帰って行った。
自分が今どんな顔をしているか分からないが、きっとみんなの前に出せる顔ではないと思う。
「後で初華に怒られるか……椎名からも色々言われるだろうな」
もう少し一人でいようと俺は次の授業をサボる決意をする。灰色の雲の隙間から指す陽の光がすごく眩しくて、嫌気がさした。
初華から渡された封筒にはライブのチケットが入っていて、会場と日時、そして【Ave Mujica】と書かれていた。
「歓迎はされてるってことか?」
ライブ当日、同じようにAve Mujicaを見にきた大勢の観客に紛れ、列に並びスタッフにチケットを確認してもらう。俺が渡したチケットを目にしたスタッフは、何故か驚いている様子だった。
「お待ちしておりました。お客様は別席からの観覧となりますのでご案内いたします」
列を抜け別場所へ誘導される俺に、怪奇の視線が集まる。視線を浴びながら先導するスタッフの後に続き、たどり着いたのはステージを一望できる個人席だった。
「開演まで今しばらくお待ちください」
「ありがとうございます」
至れり尽くせりなことを気味悪く思い、しばらくするとステージが暗転し、仮面を付けた一人の少女が綺麗な声で歌を披露し始めた。
少女は月の光を模した照明に照らされ、妖艶に、美しく輝いている。
「あなた、お歌が上手ね」
そんな彼女の歌を褒めたのは、同じように仮面を付けた二人の少女だった。二人は仲の良い姉妹だろう仲睦まじく手を繋いでいる。
再び世界が暗転し、次に明るく照らされた時、舞台上には四人の少女の姿があった。
時計を見る者。鏡で自分の身だしなみを確かめる者。静かに微動だにせず、まるで人形のようにそこにいる者。そんな人形の美しい髪を丁寧にとかして整える者。
「ここは?」
彼女達の世界に一人の少女が迷い込む。先程綺麗な歌を披露していた少女だ。
「おや? 新入りがまた一人」
「まだ微かに人間の匂いがついていますね」
「ここは……どこ?」
「どこって……ここはね〜捨てられた人形達が集められた」
「捨てられた、人形? どういうこと。だって僕は」
「自覚がないタイプでしたか」
歌を歌っていた少女は、自分が他の子と同じ人形である事実を受け入れることができず困惑している。
「そんなのおかしいよ! だって僕は、今こうして生きている! 君達だって生きているじゃないか!」
「それは今宵の月が特別だから……ようこそ、ロフトムーンへ。この月の光で私達は仮初の命を宿しているのですわ」
信じられない真実に狼狽える人形に、ツインテールの人形は問いかける。
「お名前は?」
「ぼく…は…」
「それでは元の持ち主の名前……あぁ、お友達でしたわね」
「………」
「あなたも私達と同様に、既にその命を終えているのです。人形にとっての死は何かご存じ?」
彼女達の言っていることは正しい。間違ってるのは自分なのだと、少女は目を俯ける。
「捨てられる、こと」
「火炙り〜」
「それは魔女」
「愛されないこと」
「捨てられることも、愛されなくなることも、我々にとっては死と同じ。でも一番辛い死は忘れられること。そう! 忘却ですわ。ですが、月の光で私たちは仮初の命を宿している。つまりは復活! 今こそ復権の時!」
「そして新しいお友達に祝福を」
オーパルグリーンの髪色をした人形がそう言って立ち上がると、四体の人形はそれぞれが用意された楽器の前まで脚を運ぶ。
「さぁ! 仮面舞踏会の前に仮初の名を与えましょう! モーティス」
「我、死を恐れる勿れ」
「ティモリス」
「我、恐れることを恐れる勿れ」
「アモーリス」
「我、愛を恐れる勿れ」
「オブリビオニス。我、忘却を恐れる勿れ」
オブリビオニスと名乗った人形は観客に対し、模範的なカーテシーで挨拶をする。
「ドロリス!」
ドロリスと呼ばれた人形は、先程までの不安げな表情から打って変わって、全てを受け入れた強い瞳で与えられた名を口にする。
「我、悲しみを恐れる勿れ」
歓声が上がるなか演奏が始まり、舞台はAve Mujicaに包まれる。ダークさとゴシックホラーな雰囲気が観客の心を鷲掴みにし、ステージの熱は一気に上がる。
誰もがAve Mujicaの五体に目を奪われていた。
そんなステージを前に、俺はただ一人だけを凝視する。眩しかった笑顔はどこへやら。仮面を付け、キーボードを奏でる少女に俺は微かな殺意を抱いていた。
「なんだよそれ。何が仮面舞踏会だ。こんな世界……
コワシテヤル
読んでいただきありがとうございます。
次回からAve Mujica編に入ります。
簡単なキャラ紹介
双海千明希…花咲川のお助け部長。ドラムサポート。元豊川祥子専属執事。椎名立希、八幡海鈴、三角初華とクラスメイト。豊川祥子、若葉睦、三角初華とは昔からの知り合い。名前の千明希は有名なホラー映画の登場人物チャッキーから。基本何でもできる。犬が苦手。眩しいものが苦手。豊川祥子が嫌い。
次回も楽しみにしていただけたら幸いです