Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける   作:お薬二錠

7 / 48
Ave Mujica編 仮面をつけたタスケビト
第七話 Ave Mujica


少女は創った

運命共同体という強い繋がりを持ったバンドを

曇っていた少女に光がさし、彼女は太陽のように周りを照らし、幸せな毎日を過ごしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーごめんなさい

『CRYCHICは祥ちゃんが…祥ちゃんがいないと…』

 

ーごめんなさい

『どうして? この前のライブ楽しかったじゃない? またやりたいねって話してたよね?』

 

ーごめんなさい

『燈はお前を待ってたんだよ‼︎』

 

ーごめんなさい

『私は…バンド楽しいと思ったこと、一度もない』

 

でも、少女はバンドを壊してしまった

それは運命共同体というにはあまりにも脆く、簡単に壊れた 

大切だったのに、みんなとの繋がりが大事だったのに

 

 

 

 

 

『私はもう! あなたの主人ではないの! 必要ない! あなたなんかいらない!』

 

それは彼女の叫びだった

他に伝え方があったかもしれない

でも、その時の彼女にそんな余裕はなかった

 

『……ごめんなさい。私が弱いから……ごめんなさい』

 

彼女はもう一つ大切なものを手放してしまった

大事にしていたのに

大事にされていたのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日経って、彼女はある光景を目の当たりにする

 

『これは……』

『……CRYCHICじゃない春日影』

 

見ていられなくなり逃げ出した

 

自分達の大切な曲だった 

ー壊したのは自分だ

あの場所に自分の居場所はない 

ー自業自得だ

もうあの頃には戻れない 

ー自分の手で終わらせたのに何を今更

 

彼女は決意した

弱い自分を殺し、思い出を忘れ、新しい自分を偽る

 

『私のバンドに入っていただけませんか? プロとしてやっていく。あなたの残りの人生、私に下さいます?』

 

仲間を集めた

話題作りにはうってつけのボーカルとギター

経験、実力共に申し分ないベーシスト

人気上昇中で顔と数字にもってこいのちょうど良いドラマー

 

そして彼女達に新しい名と仮面を与え、創り上げたのが

 

 

 

Ave Mujica

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Ave Mujicaのみなさん、ありがとうございました」

 

ライブ終了後、インタビューの対応を終え私は一息つく。後ろ盾の影響かデビュー後間も無く武道館ライブが決まり、多忙なスケジュールをこなしているが全てが順調に動いていた。

 

「はぁ〜、疲れた〜。ずっとこんなの付けてたらせっかくの顔が台無し」

 

「アモーリス!楽屋に戻るまで仮面を外さないで。どこで誰に見られているか分かりませんから」

 

身長差的に私が見上げる形となり、アモーリスは反抗的な目でこちらを見下ろしていた。

 

「ねぇオブリビオニス。アタシ達いつまでこれでいくつもり? せっかくの顔と数字が台無しなんだけど」

 

「Ave Mujicaの価値を安売ったりはしません。まずは実績を重ねて音楽性の評価を」

 

「昨日好きでも、今日飽きた。世の中って残酷だから〜ちんたらしてたらすぐ飽きられちゃうかもよ〜? そんなことしたら人気アイドルsumimiの初華、お笑いの大御所若葉と演技派女優森みなみの娘に泥塗ることになるの分かるよね?」

 

前々からそうだが、アモーリスとは意見が全く合わない。彼女は芸能の世界でのし上がるためにAve Mujicaに加入した。それは大いに結構。こちらも利用している側なのだから。

 

「Ave Mujicaの総指揮は私。あなたにとやかく言われる筋合いはありませんわ。私はAve Mujicaを一時の流行で終わらせるつもりはありません。仮面を外すのは最高の舞台、最高のタイミングで」

 

「ふ〜ん。ま、総指揮官がそう言うなら任せるよ。それじゃお疲れ〜」

 

そう言ってアモーリスはうすれ笑いを浮かべながらスタジオを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

着替えを終え、夜道を一人で歩いているとバンドメンバーである初華が追いかけてきた。

 

「祥ちゃん! 途中まで一緒に帰ろう?」

 

「ええ、構いませんわ」

 

初華とは昔からの知り合いで、毎年夏に別荘のある島へ行った際、そこで仲良くなってからずっと交流が続いている。

 

「さっきの話感動しちゃった。Ave Mujicaのことすごく大事にしてくれてるんだって」

 

「皆さんの人生を預かるんですもの。当然ですわ。それに初華には迷惑をかけてしまって申し訳ないと思ってますの。同じ事務所とはいえsumimiと並行しての活動は大変でしょ?」

 

初華は上京してしばらくしてsumimiというアイドルユニットで活動している。その人気は凄まじく、彼女の曲をいたるところで耳にした。

 

「大変じゃないよ。むしろ気分転換になってるというか……私は、私の祥ちゃんとずっと一緒いたいっていう願いが叶ったから」

 

「バンド加入の件も悩むことなく即答でしたものね。初華は絶対水晶とか変なツボとか買わされるタイプですわ」

 

「えー、私そんなふうに見える?」

 

私達はお互いに笑い合う。今の状況になって、冗談を言い合える相手なんて片手で足りるくらいしかいない。初華の優しさが今の私には心地よく、ありがたいものだった。

 

「そうですわ初華。あの……封筒は渡してくれました?」

 

「……うん!ちゃんと渡したよ。受付の人に聞いたけどライブに来てたって」

 

「本当ですの! それは、良かったですわ」

 

勇気を出して招待状を送って良かった。彼が初華のクラスメイトということは聞いていた。今の私なら、彼に見せることが出来る。惨めで弱い昔の自分ではなく、今の私なら。

 

「……嬉しそうな顔」

 

「初華?」

 

「何でもない! それじゃね祥ちゃん。また明日!」

 

「えぇ、おやすみなさい」

 

バンドメンバーと繰り広げる談笑に昔とは違う暖かさを感じ、自然と口元が緩む。

 

 

 

 

 

ブーッブーッ

 

しかし、携帯から聞こえてきたバイブ音が私を一気に現実へ引き戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中学3年生の頃、母が亡くなった。

病気だった。葬式の場では泣かなかった。睦もいたし、我慢しなくてはいけないと思った。

 

家に帰り、母との思い出が詰まったピアノが視界に入ると堰き止められていた涙は限界を迎え、わんわんと大声で泣いた。

 

『お母さま!お母さま!』

 

『祥子……お父さん頑張るから』

 

『お嬢……』

 

『千明希……私はもう、大切な人を失いたくない!』

 

『大丈夫です! お嬢から離れたりしません。俺達はずっと一緒ですよ』

 

でもそれから千明希はお祖父様に言われて研修の為に海外へ行ってしまった。でも私にはCRYCHICがあった。だからまだ、私は私でいられた。

 

 

 

 

 

『もう一緒に暮らせない』

 

『祥子は幸せになってくれ』

 

 

 

CRYCHICで初めてライブを行ったあの日。来る予定だった父からそう言われるまでは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父は詐欺に遭い多額の損失を豊川家に与えた責任として勘当された。

いてもいられなくなった私は、母の形見である人形と僅かな自分の荷物を持って家を飛び出した。

 

父の家に着くと、そこは寂れたアパートで今までの生活とはかけ離れたものだった。父は酒に溺れ、昔の父ではなくなっていた。でもそんな父を一人にすることなんて出来ない。いつか昔のように真っ直ぐで誠実な父に戻ることを願って、私は頑張った。

 

父の身の回りの世話、初めてやったアルバイト。いくつもの応募先に連絡をしたが、訳ありの中学生を雇ってくれる場所なんて無く、毎朝早起きして新聞配達をした。

それでも資金は限界を迎え、私は月ノ森をやめた。

 

 

 

 

そしてCRYCHICもやめた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて、父は酒に溺れている。

 

「……では行って参ります」

 

酒瓶が転がる畳の上で、父は朧げに携帯を眺めている。

 

「武道館だって? ははっ…すごいな祥子は」

 

「ご存知でしたのね」

 

「どんな状況でも、一人でどんどん前に進んで……すごいよ祥子は。俺には、出来ない。俺はもう、頑張れないっ!」

 

「ーーーッ! 馬鹿なことおっしゃらないで! 今の姿をお母さまが見たら悲しみますわ! 昔のように誠実でまっすぐなお父様に」

 

「昔の俺はもういない!」

 

潰れた空き缶が私のすぐ横の柱にあたる。父が私に向かって投げたのだと理解したのは、数秒経ってからだった。

 

「分かるだろ!? もう死んでるんだよ! それなのに、お前みたいな立派な娘がいると俺は! 俺は俺自身が情けない……お願いだから、俺の前からいなぐなってぐれ……」

 

荷物を持って家を出た。あんな奴、もうどうなったっていい。

 

「あのクソ親父! 私が今までどんな思いで……あそこには戻らない! もう戻りませんわ!」

 

「祥…武道館大丈夫?」

 

「何の心配ですの? 大丈夫に決まっているでしょう」

 

「ごめん…」

 

迎えに来てくれた車の中で、私は睦を睨みつけた。

 

「何のために頑張ってきたと思うの? 全てを忘れ、過去を断ち切る。私にはもうAve Mujicaしかありませんわ」

 

武道館が近づき、私は車窓に薄く映る自分の顔を見た。ハッキリと見えなくてもひどい顔をしていることが分かる。

 

(こんな顔、早く隠さないと)

 

父の言葉が頭の中でこだまする。

忌々しいその言葉は、聞き覚えのあるものだった。

 

『お願いだから……私のまえから、いなくなって』

 

「……あなたもこういう気持ちでしたのね……最低ですわ」

 

心の中で謝っても何の意味もない。分かってもいても私にはそれ以外何も出来なくて、一度死んで生まれ変わりたい気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台裏でセリフの確認をしていると、ニヤついたアモーリスが歩み寄ってきた。

 

「ねぇオブリビオニス〜。アタシ達の仮面はいつ取れるの?」

 

「しつこいですわよアモーリス。今はまだその時ではありませんわ」

 

「何で!? 最速武道館。観客席も満員。今があんたの言う最高のタイミングじゃん」

 

「Ave Mujicaはまだ音楽方面の評価が高くはありません。演者の知名度だけで名を上げては、落ちるのも早いですわ」

 

「はぁ? まずは人気を上げてからでしょ? ほんと何も分かってないんだから」

 

「……話は終わりです。もうそろそろ出番ですわよアモーリス」

 

「こっわ〜い。それじゃいってきま〜す」

 

私は間違っていない。今は音楽面で評価を集める考えは正しい。

 

「観客をAve Mujicaの世界に取り込み、虜にしてやりますわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、そろそろお客様がいらっしゃいますわ」

 

「誰が来るの?」

 

「ドロリス、前を向いて」

 

「お友達」

 

「モーティス、髪が乱れているわ」

 

「新しい持ち主になる方々です」

 

「ティモリス、襟元はまっすぐ」

 

「今日こそアタシを見つけてもらうんだ〜」

 

「アモーリス、あなたに必要なのは完璧な身だしなみと完璧な笑顔。お客様には一番のあなたを見せなければなりません」

 

「完璧ぃ? あはははははっ!」

 

「アモーリス?」

 

「こ〜んなはりついた偽りの笑顔じゃなんて誰ももらってくれないよ〜?」

 

(台本と全く違う……祐天寺さんまさか!)

 

椅子から立ち上がり観客の前に出るアモーリス。

 

「一番のあなたを見せるなら〜こんな仮面なんていらないよね!」

 

アモーリスは自身の仮面を投げ捨て祐天寺(ゆうてんじ)にゃむの顔を見せる。観客からは歓声が上がるなか、彼女はモーティスへ近づいていく。

 

「ねぇモーティス〜。アンタの本当の顔も見・せ・て!」

 

「や、やめてっ!」

 

「わぁ〜ホンモノのお人形さんみたいで可愛い!」

 

有名人の娘である若葉 睦(わかば むつみ)の素顔が顕になることで、歓声の熱が上がる。

 

「どういうおつもりですか?」

 

「ティモリスの素顔はどんな顔か〜なっ!」

 

有名バンドでサポートを務める八幡 海鈴(やはた うみり)の素顔に彼女のファンが反応する。

 

(やってくれましたわね。これ以上は……一旦下がっておさめるしか)

 

「どこに行くのオブリビオニス? 大事なお客様が目の前にいるのに」

 

「あなたなんてことを」

 

「Ave Mujicaのためでしょ。ほらオブリビオニス〜。お客様に本当のアンタを、偽りない笑顔を見せてあげなきゃ」

 

背中を押され前に出るオブリビオニス。

もう後に戻ることは出来ない。

姿勢を正し、オブリビオニスは凛とした姿を見せる。

そして付けていた仮面を外し、豊川 祥子(とがわ さきこ)として観客の前に出た。

 

「凛々しいいい顔。アンタはどうするドロリス?」

 

困惑するドロリスは、総指揮を務める祥子に視線を向ける。あなたまで仮面を外す必要はないと祥子は首を横に振るが、祐天寺がそれを阻害する。

 

「みんな本当の自分を見せてるのに、ドロリスだけ仮面つけたままなのはずるくな〜い? そんなに本当の自分見せるのが嫌なの?」

 

「わ、私は……」

 

意を決したドロリスは立ち上がりゆっくりと仮面を外す。

 

「うそっ!」

「何で?あれってsumimiの!」

「初華ちゃん!初華ちゃんだよ!」

 

(初華、どうして)

 

「流石sumimiの初華。一番の歓声じゃん」

 

(このままでは、Ave Mujicaが……)

 

素顔を曝け出したAve Mujicaに祥子が困惑していると、舞台に一つの拍手が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にアモーリスはお転婆だね〜。オブリビオニスが困ってるじゃないか」

 

ゆっくりと歩いてきたその人物は祥子の髪に優しく触れ、祐天寺の方へ歩いて行く。

 

(今の声…)

 

「な、なに?」

 

「おや? 君の舞台は終わりかい? 残念だな〜その程度の軽い気持ちで好き勝手やってもらってわ」

 

突然の来訪者に起点をきかすことができず、悔しそうに表情を歪める祐天寺。

 

「ダメじゃないか。完璧な笑顔が崩れてるぞ?」

 

来訪者は観客の前に立ち、左手を腹部の前に当て右手を後ろに回し礼をする。

 

「お越しいただきの皆々様! 今宵、彼女達は偽りの仮面を外しました。その彼女達の勇気に今一度拍手を!」

 

彼の言葉で舞台は拍手に包まれる。

 

「ありがとうございます。私はここロフトムーンを保守するもの。彼女達のように美しい人形は、捨てられてもなおその輝きを失わず、目が眩んだ一部の人間の標的となります。そのような不届者から彼女達を守るのが私の役目。その心に刻まなくても構いません。忘れてしまっても構いません。私は所詮、代替品ですので」

 

振り返りAve Mujicaのメンバーを一通り眺める。

彼女達にも敬意を込めた礼をして、彼は名乗りをあげた。

 

 

 

 

 

「私はインテリタス。破壊を愛するものなり」




簡単なキャラ紹介
インテリタス…interitus ラテン語で破壊を意味する。スチームパンクな顔を全て覆い隠すデザインの仮面をつけている。背はにゃむより少し大きいくらい。

読んでいただきありがとうございます
いよいよAve Mujica編開始です
次回も楽しみにしていただけたら幸いです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。