Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける   作:お薬二錠

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今日最新話ですね。凛々しい表情の祥子ちゃん、どうか初音ちゃんを救ってください。残り話数かなり少ないですが、Ave Mujicaにハッピーエンドはあるんでしょうか? 歪な終わりも好きですが、やっぱりハッピーエンドが一番です。

それでは第八話どうぞ
先に謝っておきます。ごめんなさい


第八話 モドレナイ

ライブ終了後、私の携帯から通知音が鳴り止むことはなかった。

 

「何故あんな浅ましい真似を!」

 

「え〜?結果Ave Mujicaの知名度は爆上がりなんだからそれでいいじゃん。ほらほら!トレンドもうちらの事ばかりだよ!アンタが言ってた最高の舞台、最高のタイミング。それが今日だったって事だよ」

 

「仰りたいことは分かります。ですがそれもバンドが盤石でなければ」

 

ギャーギャー喚く祥子の声を聞き流し、私はSNSに目を通す。誰もがAve Mujicaの話題で持ちきりだ。そうなると当然見たくない奴の名前を目にすることになる。

 

「……インテリタス」

 

突如現れたアイツのせいで、話題の何割かはAve Mujicaの中の自分ではなく、インテリタスに持ってかれてしまった。

アイツに言われたことは紛れもない事実だ。自分から台本にない動きをしたのに、アイツが現れてから脳が追いつかず次の動きが全く出来なかった。そしてそれを見透かしたかのような声。仮面を外し、素顔を晒すことで話題を掻っ攫うという目的は達成したが、結果的に悔いが残るライブとなってしまった。

 

「ところで彼は何者ですか? 豊川さんも知らなかったようですが」

 

「……Ave Mujicaに私達五人以外のメンバーはいませんわ。だから彼が何者なのかわたくしにも」

 

コンコン

 

海鈴と祥子のやりとりを遮るかのようにドアをノックする音が響き渡る。タイミングもあって、話題となっていた彼が来たのではと私達は息を呑んだ。

 

「…どうぞ」

 

祥子が扉の向こうの人物に声をかけ、ゆっくりとその姿が顕になる。

 

「失礼します〜。皆さん車の用意が出来ましたので、着替え終わり次第向かってください」

 

「あ、ありがとうございます」

 

やってきたのはマネージャーさんで、ただの業務報告だったことに安堵する。

 

「それと……」

 

 

 

 

 

 

「ムジカの皆さん! ライブお疲れ様でした!」

 

「うわっ!」

 

突然現れたスチームパンクな仮面をつけた男の登場に、私は思わず声を出してしまった。奴はマネージャーさんに礼を言うと、何食わぬ顔で部屋に入ってきた。

 

「素晴らしい演奏でした! 舞台袖で聴かせてもらいましたが流石はプロだ! ボーカルもギターもベースもキーボードもレベルが高い!」

 

私の方を一瞬見てそんなこと言うもんだから、居ても立っても居られず近づいて奴の胸ぐらを掴んだ。

 

「ドラムは?それともアタシに何か言いたいことでもあるわけ?」

 

「独学じゃ限界があるでしょ? ドラム経験のある俺が教えてやるって話だよ」

 

先ほどまでの楽観的な声質から打って変わって、その声は冷たく、見下すような声だった。アタシの怒りのボルテージを上げるには十分すぎる。

 

「誰がアンタにドラム教えてくださいなんて頼むか!早くこの部屋から出てって!」

 

「断る。俺もAve Mujicaの一員だからな。ちなみにこれは決定事項。豊川定治がそう言ったって言えば分かるよな」

 

「お祖父様が!?」

 

聞いたことない名前だけど、反応したのは名前が上がった人物と同じ苗字の祥子だった。もしかしてこんなに早く武道館でライブが出来たのも祥子の家系がなにか

 

「……それよりさ」

 

「あがっ⁈」

 

「いつまでそうしてんの? 俺だって痛いんだけど」

 

次の瞬間、呼吸が苦しくなる。急いで息を吸おうにも、酸素が喉を通っていかない。

 

(うそ! 首、絞められてる)

 

痛いと苦しいが交互に駆け巡り、アタシは奴の手に思いっきり爪を食い込ませる。それでも絞める手が緩むことはなく、アタシは必死に足をばたつかせた。

 

「いってぇな」

 

「祐天寺さん!」

 

「にゃむちゃん!」

 

海鈴と初華の声が聞こえるが、少しずつ意識が遠のいていくのを実感する。

 

(やばい……このままじゃ……アタ…シ)

 

「やめなさい千明希!!」

 

地に足がつき、締めあげていた彼の手はアタシの喉から離れていった。解放された気道が全部いっぱいになるくらいアタシは勢いよく酸素を吸った。

 

「はぁっ!はぁっ!はぁっ!……はっ!」

 

「何で止めんだ……ってか何で俺だって分かるんだよ。こいつのせいでお前がつくったバンド壊れる可能性だってあったんだぞ」

 

「そうだとしても!あなたの力は他の誰かを救うために使いなさいと言ったはずです!そんな使い方、私が許しませんわ!」

 

(なに?どう言うこと?二人は知り合いなの?)

 

目の前の状況はアタシが理解出来ないまま進行していく。祥子のあんなに怒った顔今まで一度も見たことがなかった。でも怒りと一緒にどこか悲しんでるようにも見える。

二人の言い争いはヒートアップし、祥子が奴の仮面を奪い捨てると鋭い目つきをした同い年くらいの男の子がそこにいた。

 

「どの口が言ってんだ。俺はもうお前の執事じゃない」

 

「そ、それは……そうだとしてもAve Mujicaの総指揮を務めるのは私です!お祖父様の命令であなたが加入することになっても、Ave Mujicaである以上私の指示に従ってもらいますわ!」

 

「……分かった分かった。そんなに怒るなよ。悪かったなアモーリス。いきなり現れた奴に教わるなんて癪だろうが、俺の実力ならそこのティモリスがよく知ってるから教えてもらいな」

 

謝るのはそこだけじゃないだろと怒鳴ってやりたいが、落ち着きを未だに取り戻せないアタシはインテリタスを思いっきり睨みつけてやった。

 

「そんだけ睨みつけることが出来るなら大丈夫そうだな」

 

そう言ってインテリタスは床に落ちた仮面を手に取り部屋を後にしようとする。

 

「どこに行きますの!? まだあなたとの話は終わってませんわよ!」

 

「今日は挨拶だけの予定だったんだよ。それがあんなイレギュラーが発生したもんだから仕方なくな。俺はバンドの演奏顧問とマネジメントを任されてる。改めて自己紹介させてもらう。インテリタス 双海 千明希だ。それでは皆さま、良い夜を」

 

そう言って双海は部屋を後にした。祥子に聞きたいことは色々あったが、困惑している彼女の顔を見て日を改ようを思い、そのまま解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗がりの廊下で一人の少年がうずくまる。

 

「はぁー、まだ手が震えてる」

 

舞台上で彼女の姿を見た時、心が弾むほど嬉しかった。仮初とはいえ、以前のような凛々しい表情の彼女を見ることが出来たのだから当然だ。髪に触れた時、手の震えに気づかれなかっただろうか。彼女が創り上げた舞台の妨げにならなかっただろうか。アモーリスの件については、正直軽蔑されたかもしれないと思っている。でも彼女にとって大切なAve Mujicaをめちゃくちゃにしたアモーリスが許せなかった。

 

「歪んでんな……」

 

考えれば考えるほど、自分にとって豊川祥子がどれだけ大切だったのか痛感する。

 

「本当にキモいわ」

 

純粋な好意だけを抱くことが出来ない自分が心底気持ち悪くて押しつぶされそうになる。俺は深呼吸をしてゆっくりと立ち上がった。

 

「大丈夫……まだ大丈夫」

 

仮面が壊れても新しく仮面をつければ人形は動く。

しかし動力が歪んでいればその動きはどこかぎこちなく、崩壊の一途を辿るのみ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、生徒達の話題はAve Mujica一色となっていた。

 

「オブリビオニスってB組の豊川さんだったんだね!」

「うちらも豊川さんと話せるかな?」

「ねぇ!行ってみようよ」

 

今まで注目を浴びなかった少女は、一夜にしてクラスメイト達の注目の的になった。

 

「祥ちゃんが…バンド?」

 

「ごめんともりん! 昨日ライブの後、りっきーに相談したら言うなって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ本当にこっちであってる?」

「間違いないって!さっき八幡さんが歩いてるの見たし」

「あ、椎名さん!この辺りで八幡さん見なかった?」

「…購買の方に行ったよ」

「ありがとう!」

 

「……もういいよ海鈴」

 

「ありがとうございます椎名さん」

 

柱の影からひょっこり姿を表した海鈴は、自分を探し追い求めるクラスメイト達の背を見てため息をついた。

 

「人気者って大変ですね」

 

「自分で言うな。三角さんは?」

 

「さぁ、気づいた時には教室からいなくなってましたから」

 

「そう……」

 

何かを考え込むような椎名に、海鈴は問いかける。

 

「何か?」

 

「……何で祥子とバンドやってんの?」

 

「椎名さんもお知り合いでしたか。結構顔が広いんですね豊川さん」

 

「椎名さんもってどう言うこと?」

 

「双海さんとも知り合いだったので。まぁ、昨日は言い争いの喧嘩をしていましたが」

 

「は? 何で双海の名前が出てくるわけ?」

 

「何でって…双海さんもAve Mujicaの一員だからですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人形達の秘密が暴かれていく。

人間の姿を取り戻した彼女達は、それぞれの想いを胸に進み出す。

 

「私……どうし…たら……」

 

誰もいないスタジオで、少女はギターを胸に問いかける。その表情は不安、恐怖、絶望に染まりきっていた。

 

「誰か……助けて……祥」

 

人間の姿を取り戻したとは言え所詮は人形

その道の先が幸福か不幸か分からないまま

彼女達は歩みを止めることはできない

 

もう、後に戻ることは出来ないのだから

 




にゃむちファンの皆さま ごめんなさい
この展開は割と序盤から決まってました。

簡単なキャラ紹介

ムジカのマネージャー…ほんわかした性格だが、仕事はしっかりこなす。インテリタスの第一印象は素敵な好青年らしい

祐天寺にゃむ…にゃむの漢字表記は若麦らしい。いや、初見で読めるか。今回インテリタスの逆鱗に触れあのような結果になってしまいました。

今回も読んでいただきありがとうございます
次回も楽しみにしていただければ幸いです
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