Ave Mujica そのタスケビトは仮面をつける 作:お薬二錠
筆が進むこと進むこと。詰め込み過ぎたような気もします。
来週で終わりですか? モーティスやまなちゃん、本物の初華のことが気になりますが、いつか何処かで明かされればいいなと思ってます。
今はとりあえず祥子、初音の二人が笑顔になれただけで私は満足です。
息が苦しい。寝てる俺の身体の上に誰かが跨っている。辺りは暗くてそれが誰か分からないが、そいつはゆっくりと顔を近づけてきた。
背丈は俺と同じくらいで、歪んだ歯車が目に入る。
(こいつ!インテリタス!?)
『コンニチワ』
俺が動けないことをいいことに、インテリタスはゆっくりと俺の首を絞めていく。徐々に絞める強さを増し、適度に緩むことで俺の反応を見て楽しんでいるようだった。
(悪趣味な奴!クソ野郎が!何で俺が俺自身に)
『クルシイ?クルシイか?オモシロイナーお前の歪む顔』
聞き覚えのあるセリフに嫌気と苛立ちを覚え、力任せに無理矢理体を動かして奴の腹部を思いっきり殴りつける。
「どけよ!クソ」
『ダメじゃないかチアキ。そんな口の聞き方ーーー許した覚えないぞ?』
「お前なんて……お前なんて!!」
『何でそんなメでみる?お前も同じことをしてたじゃないか。俺とおんなじ。結局お前はオレだ。変わらない。避けれない。逃げれない。お前は俺とおんなじ』
「黙れッ!!」
俺は思いっきり上体を起こし、奴の上に馬乗りになると思いっきり首を絞め返した。
「俺はお前とは違う!お前なんかと一緒にするな!俺は双海千明希だ。お前じゃない!」
ここで終わらせる。俺はめいいっぱいの力を込めてインテリタスの首を絞める。
「苦しいですわ……千明希」
「……なん、で?」
目の前にいたインテリタスはいつの間にか姿を消していた。その代わり、祥子が首を絞められながら苦悶に満ちた表情を浮かべていた。俺の手によって。
「……君! 千……君! 千明希君!」
誰かの呼ぶ声で意識を覚ます。そこは自分の部屋のベッドの上で、隣を見ると心配そうにこちらを見つめる初華の姿があった。
「初華……なんで」
「大丈夫?すごくうなされてたけど」
「……うん、大丈夫」
「よかった。落ち着いたらリビング来てね。聞きたいことあるから。あと朝ごはん、出来てるよ」
「……ありがとう」
礼を言われた初華は、困り気な笑顔を浮かべて部屋を出ていった。ふと、昨日の自分を思い返す。怒りに身を任せにゃむにあのようなことをしてしまったことに、後悔と罪悪感を覚えた。
「昔よりはマシになったと思ってたのに……」
『お前は俺とおんなじ』
「……違う、俺はアイツとは違う。俺は俺だ。俺以外の何者でもない。双海千明希だ。双海…千明希…それが俺だ……それだけが、俺なんだ」
膝を抱え込み布団の中で丸くなる。自分に言い聞かせるよう何度も呟き、初華の元に向かえたのは30分後のことだった。
初華が作ってくれた朝ごはんを食べながら俺は冷静さを取り戻し、聞かなければならないことを彼女に問いかける。
「何でうちが分かった」
「……この前学校帰りにたまたま見かけて、それで」
「……どうやってうちに入った」
「玄関の鍵を……ちょっとこう、ピッキングっていうか、ちょいちょいって」
「警察呼ぶぞ」
「で、でも!今回は私のおかげで助かったでしょ!?」
「たった今、別の意味で命の危険を感じてるよ」
正論に何も言い返せず、初華は俯いてしまった。
まぁ彼女に命を狙われたとしても、不意打ちでなければ返り討ちに出来るし、一般的には常識がある人物だからよっぽど大丈夫なはずだ。
「玉子焼きうまい」
「玉子焼き!私得意料理なんだ。昔からお母さんの代わりに作ることがあって初……ごめん、何でもない」
明るい表情を浮かべたかと思ったら、すぐ表情を暗くする。表面はアイドルのsumimi、Ave Mujicaのドロリス、クラスでも人気者の彼女だが、根っこは引っ込み思案で自己主張しないタイプということを俺は知っている。彼女が抱え込む秘密も。
「で?不法侵入までして聞きたいことって何?」
「不法侵入っていうのやめてよ」
「何も間違ったことは言ってないだろ?」
「それは、そうだけど…」
再び小さくなる彼女だったが、意を決したのか真っ直ぐ俺の方を見て問いかけた。
「どうやってムジカに入ったの?」
「お祖父様と取引した。豊川家を継ぐからアンタの権限で俺をAve Mujicaのメンバーにしてほしいって」
ダンッ!
初華は俺の答えを聞いて勢いよく椅子から立ち上がる。
「何で、何でそんな取引したの!?自分がしたこと分かってるの!?豊川家を継ぐってことは千明希君にとってどういうことか」
「分かってるよ」
「分かってるなら何で…」
「元々お祖父様は祥子のお父さん、清告さんを勘当した時から俺を後継にしようとしてたらしい。執事の海外研修もそのためのものだったらしいし」
初華は何も言わない。俺の境遇を知っているから困惑するのも当然だ。俺にとって豊川家は復讐の対象なのだから。
「いつ自分達に牙を向くか分からない奴を手懐けておきたいんだろ。一度断った話だけど、今回の取引を持ち掛けたら快く承諾してくれたよ」
「それ祥ちゃんは知らないんだよね」
「当然だろ。当たり前だけどお嬢には言うなよ?今お嬢に余計なストレスは与えたくない」
「ならAve Mujicaに加入したいって直接祥ちゃんに言えば」
「言えるわけないだろ。捨てられてるんだぜ俺。昨日舞台に上がるのだって、どれだけ怖かったお前に分かるかよ」
「……それでも祥ちゃんなら喜んで」
パンッ!
俺は初華の話を遮るように両手を叩く。
「はい!この話はお終い。正式に継ぐのは高校卒業してからだから、それまではムジカのサポートやるよ。かなり難ありなメンツだし、お嬢一人でマネジメントは厳しいだろうからな」
「……人の心配する前に自分の心配してよ。千明希君は私にとって大切な人で!千明希君に何かあったら……嫌だよ、私」
sumimiの初華にこんな顔させてるなんて知られたらファンの人達に何されるか分かったもんじゃない。それに俺も初華のそんな顔はもう見たくない。俺は初華の頭をポンポンと優しく撫でた。
「自分のことはちゃんと見てるつもりだよ。それでも心配なら、sumimi、Ave Mujicaの合間に俺のこと少し見といて」
「……うん。ちゃんと見てるよ。私達、同じ穴のムジナだから」
「……共犯者だからな」
呆れたように笑うと、初華も困ったように微笑んでくれた。俺達の関係が良い関係かどうかは思うところ人それぞれだろう。でも初華には俺が必要で、俺には初華が必要で……俺達には豊川祥子が必要だった。
先日のライブで仮面を外し、素顔を暴け出したことでAve Mujicaの人気は急上昇。人気アイドルや有名人の娘がメンバーにいると言うこともあって、メディアでも連日取り上げられていた。
「ねぇなんで〜? にゃむが全然話題になってないんだけど」
「動画であれだけ匂わせていたら驚きもないでしょう」
「てか一般人のくせにウミコの方が話題になってんのムカつく〜。元から有名なウイコやムーコは分かるけどさ〜」
「私も綺麗な顔してますから」
「はいはい、そーですね〜。それよりも……アイツもしっかり話題になっんだけど、そっちの方がムカつくわ」
そう言いながらにゃむは千明希に絞められた首元をさする。
「……祐天寺さん、その件は本当にごめんなさい。首はもう痛みなどありませんか?」
「まぁ、日が経ったら痛み引いたから大丈夫だけど。サキコが謝る必要なくない?謝るならアイツに謝らせてよ」
「いえ、メンバー間の問題は総指揮である私の責任ですので」
「真面目だね〜豊川グループのお嬢様は」
「……そんなんじゃありませんわ」
「……サキコ?」
「ごめんなさい!遅れちゃって!」
「悪い、sumimiの仕事が長引いた」
遅れてやってきた二人が来たのを確認すると、祥子はパソコンを開き今後のミーティングを始めた。
「全員揃いましたわね。それでは本題に入らせていただきますわ。八幡さん」
「全国ツアーに向けてスケジュールを更新したのでご確認を」
ツアー中もAve Mujicaは、テレビ出演や雑誌の取材など、ライブ以外の予定が多くスケジュールに組み込まれていた。メディアの興味はAve Mujica。特に現在sumimiで活動している初華と、有名人の娘である睦にスポットが当てられている。
「先方からの指定で睦さんの仕事が多く組み込まれています。双海さん、若葉さんの取材や撮影関係のサポートをお願いします」
「分かった。若葉のサポートの入りつつ、祐天寺のドラム指導も入るから。ムジカの曲、演奏した動画を俺に送って。確認して指摘箇所探すから。そっから時間あるタイミングで顔合わせて指導する」
「別にアンタの指導なんていらないけどね」
「うるさい。拒否権なんてないんだから言われた通りにやれ。八幡から聞いたろ? 教える側になったことないけど、実力はあるって自負してるから」
「……ちっ」
海鈴から千明希のライブ映像を見せてもらったにゃむは、認めたくはないが彼の実力を理解しているからこそ、それ以上は何も言わなかった。
そんな時、睦の携帯に着信が入る。
「えっ!? みなみって森みなみ!?」
それは彼女の母からの連絡だった。
みなみちゃんから電話があって、私達は私の家に来ていた。
「みんないらっしゃ〜い!」
「「「「「お邪魔します」」」」」
「祥ちゃん久しぶりね〜元気にしてた? それに千明希君まで!昔から思ってたけどこんなカッコよくなるなんてね〜」
「お久しぶりです」
「お招きありがとうございます。みなみさん」
顔馴染みである二人はみなみちゃんと久しぶりの再会に会話を弾ませていた。
リビングに入るといつもより豪華な食事が並んでいる。いつもよりお手伝いさんの人数も多い。
「みなみちゃん、何で……」
「何でって、私の噂してるような気がしたのよ〜」
「すご〜い!何で分かったんですか?てかみなみちゃんって呼んでるの可愛い〜!にゃむも呼んでいいですか〜?」
「呼んで呼んで〜」
初華と海鈴は並べられた食事を楽しんでいる。にゃむはみなみちゃんと番組、プロデューサーの話をしていて、祥がそんなにゃむを図々しいと注意している。
私は……
「ほい、むっちゃん」
目の前に差し出されたのは、薄く切ったきゅうりの漬物が乗ったお皿。
「あれ違った? 昔からこれ好きだったと思ったけど」
「……ううん、違わない。ありがとう」
「いいえ〜」
昔から周りに好奇な目を向けられてきた。
人気女優である森みなみの娘だから。お笑いの大御所若葉の娘だから。真っ直ぐに若葉睦を見てくれたのは、祥と千明希だけだった。
それが私は嬉しくて
「ムーコ!スタジオでみなみちゃんの上映会するから一緒に行こう!」
スタジオ
たあくんが欲しいって言って作ったスタジオ。でもみなみちゃんもたあくんも仕事が忙しくてなかなか使えなくて。私はいつもそこで一人、ギターの練習をしていた。若葉睦だけの場所。
「う〜感動しました〜」
「最高です」
「ありがとうね〜!もういつでも見にきていいから!何ならここでバンドの練習してもいいわよ!」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
少しずつ今までの世界が崩れていく。
好奇の目が向けられなかった世界も、私だけの練習場所も……私を真っ直ぐ見てくれていた二人までも
「続いてAve Mujicaの皆さんです!」
今はテレビの生中継。先方の要望もあり仮面を外した状態で彼女達は収録に臨んでいた。舞台慣れしてる初華と海鈴。動画配信をしているにゃむ。祥子にも緊張の色は無くリラックスした様子だが、睦だけが俯いてぎこちない様子だった。
(若葉は有名人の子どもとして見られるのを一番嫌う。それはアイツも知ってるはずなのに……どうするつもりだよお嬢)
「生放送は初めてだって?」
「そうなんですよ〜。だから少し緊張してて〜」
「今すごい人気だよね。睦ちゃん、みなみさんは何か言ってた?」
「え…あ…」
案の定、番組スタッフは母親の名前を引き出しに睦へ質問を投げかけた。やり方としては正しいのかもしれない。しかしそれが誰にとっても正解とは限らない。
「彼女はモーティスですわ。みなみさんとはどなたでしょう」
答えられない睦の代わりに祥子が答えるが、あくまでそれは、Ave Mujicaの世界観を保守するための答えだ。睦のための答えではない。
「えっと〜、それではモーティスさんのご両親はAve Mujicaの人気についてなんて?」
「私達人形に親などおりませんわ」
少しずつスタジオがぎこちない雰囲気に包まれていく。初華や海鈴は祥子のサポートに入ることが出来ず、にゃむは絡みづらい返答をする祥子に呆れていた。このままではいけないと思いながらも、インテリタスの出番は今日は無い。
「それじゃあ、モーティスさんはどう思う?
Ave Mujica今すごく人気だけど、今後の目標とかあるのかな?」
「……長くは続かない」
スタジオに静寂が走る。
自分の発言に気づいた睦が慌てて顔を上げると、驚きの表情を浮かべる祥子と目があった。
「いっ!一旦CMです!」
番組スタッフが場の空気を断ち切るため、無理矢理CMへ進行させた。
咄嗟に出てきてしまった言葉
それは彼女が全てを捨ててまで創り上げた
Ave Mujicaに亀裂を入れるには十分すぎる言葉だった
簡単なキャラ紹介
三角初華?…やっぱり大切な人に対する愛がちょっと重い。朝起きて隣にいないはずの初華ちゃんがいたら、それはそれで嬉しいかもしれませんが
森みなみ…若葉睦の母。演技派女優として多くの実績を持つ。Ave Mujicaの親って難ありの人ばかりですよね。この人も例に漏れずでした。
読んでいただきありがとうございます
また次回も楽しみにしていただければ幸いです