龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
項羽の恐るべき強さの前に、
その
「く……ダメか!」
戦意喪失した
無論、ただで逃がすような項羽ではない。
「者ども、行くぞ! 敵を踏みつぶせ!」
項羽の号令を受け、
逃げる
「もはやこれまでか……!」
と
漢の新手が
*
項羽は、漢の新手の
あれは……漢王劉邦の旗である。
項羽は、柄が
「ようやく会えたな……
劉邦ッ! 出てこいッ! 返事をしろッ!」
その呼び声に
漢の軍勢が左右に割れた。
太陽を
天さえ震わせる太鼓と鐘。
その奥から、無数の大将を
漢王劉邦、その人である。
項羽は、劉邦の顔を見るなり、火花が散るほどに歯ぎしりして
「劉邦ッ!
お前は元々、
座ったままで
もう許せん! 俺と勝負しろッ!
だが、俺とお前とじゃ戦いにもなるまい。
だから3合だけにしてやる!
もしお前が、俺と3合戦って生き延びることができたなら、俺は
どうだ? これだけ有利な条件でも戦うのが怖いか?
それでも戦いたくないというなら、このまま貴様を踏み潰してやる! 俺の馬の下で死ぬがいい!」
だが劉邦は、カラカラと笑い飛ばすばかり。
「項羽さんよ! 見ろ、この圧倒的な戦力差を! これが王者の徳ってやつだぞ。
俺に比べりゃ、お前なんかは村人その1みたいなもんだ。自分の強暴さが自慢らしいが、この俺の
項羽は
「なら試してみろッ!!」
項羽は
そのとき、劉邦を守ろうと、左右から漢軍の猛将たちが走り出た。
文句無しに漢軍最強の豪傑5人!
この
対する覇王項羽は、
「面白い……まとめてかかってこいッ!」
あろうことか、真正面から豪傑たちを迎えうった。
たちまち
項羽は槍を
なんたることか! 漢軍最強の豪傑と、5対1で項羽は互角に戦っている!
いや、それどころではない。
戦えば戦うほど覇王項羽の気力は倍加し、槍はますます鋭さを増し、徐々に漢軍の豪傑たちを圧倒しはじめた!
「なんてこった! この俺が力負けしてるだと!?」
「5人がかりだぞ!? 信じられん……項羽、こいつ本当に鬼神じゃあるまいか!?」
と、そこへ、
「覇王様に続け!」
とばかり、後方から
項荘!
季布!
いずれも古くから項羽に従ってきた名将ばかり。
項羽1人にすら圧倒されていたところへ、これだけの援軍に加勢されては、もはや支えきれようはずもない。
漢軍は大いに乱れ、四方に崩れ走りだした。
劉邦は、この戦況を見て顔面蒼白となった。
味方の大軍をブチぬいて、項羽率いる
劉邦は、慌てて馬を返して逃げ出した。
*
漢軍が
またしても漢の援軍が現れ、項羽の前に立ちふさがった。
第5隊、総大将
項羽は、
「
恩を忘れて義に
「汝こそ、恩義を忘れて義帝を
だから天下の人々は
項羽は激怒し、槍を横にして構え、飛ぶように
刃を交えること20合。
項羽は烈火の如く激しく槍を突き込んでいたが、ここで急に槍を引き、かわりに
そして
「うおっ!?」
が、完全には避けられず、
その背へ向けて、項羽が牙をむく。
「逃がすものかァッ!」
項羽は、配下の大将と3万の兵を動かして、
漢軍はといえば、
この状況で戦意を
そもそも、
こんなありさまでは、最強無敵の覇王項羽が
かくして、56万の圧倒的多数を誇った漢軍が、たった3万の
総大将が逃げたことで指揮系統は崩壊し、陣形はズタズタに引き裂かれ、孤立したところを項羽の
漢兵は、なすすべもなく殺し尽くされ、その死体は野に
付近の大河
このとき
総勢56万のうち半数以上を失うという、歴史上
(つづく)
●注釈
今回描かれている戦いは、
「史記・項羽本紀」を見ると、項羽がたった3万の兵で56万の漢軍を打ち破ったことが明記されており、漢軍の死者数も合計で『20万人以上』と本編に大差なく、『死体で
ひとつ「西漢通俗演義」や「通俗漢楚軍談」が大きく脚色を加えているのは、項羽の戦い方である。「史記」において、漢軍は財宝・美女を収奪し、連日酒宴を開くなど堕落していた。そこへ項羽が急襲し、一気に漢軍を打ち破ってしまった、という流れになっている。
一方「演義」「軍談」では、わざわざ戦書を送りあって両軍にらみ合い、真正面から衝突したうえで、項羽が漢軍をねじふせてしまう。結果として、項羽の異常なまでの強さが強調される描写となった。というより、これではもうほとんど怪獣である。
人当たりの良さによって次々味方を増やしていく劉邦に対して、20倍近い兵力差をほんの一戦でひっくり返してしまう項羽。両者の対照的な才能と個性が実に鮮やかに描出されている。こういう「演義」「軍談」の筆致が、筆者はたいへん好きである。