龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
一方、
体も疲れ、馬も弱り、もうこれ以上は一歩も進めそうにない。
日も暮れてきて、そろそろ馬から降りて休もうかと考えていたところへ、背後から
劉邦は震え上がった。
「もうダメだ……今度こそ逃げられないぞ。
捕まって
だが、劉邦は、すぐに首を横に振った。
「いや! 自害なんて安易なことだ。それよりは、身を隠して、ギリギリまで生き残りに賭けよう」
劉邦が周囲を見回すと、
馬から降りて井戸をのぞき込むと、どうやら枯れ井戸のようである。
「よしっ」
劉邦は馬の尻を叩いて走って行かせ、自分は枯れ井戸に飛び込んだ。
そして、息を殺して身をひそめていると……
だが、すでに日は暮れて時刻は夜。
この暗闇の中では、草の中に隠れた井戸など、そう簡単に見つけられようはずもない。
やがて……
あたりが静かになったのを見計らい、劉邦は井戸から地上へ
周囲に
探してみると、劉邦の馬が近くで草を食べているのが見つかった。
これ
時刻は、すでに深夜。ひどく腹が減り、体も疲れ果て、いよいよ劉邦は限界を迎えようとしていた。
と、そのとき。
遠くから犬の鳴き声が聞こえてきた。
声のした方角を目を向けると、
「人家だ! あの林の向こうに、きっと村か街があるに違いない!」
劉邦は、ほっと安心して、
はたして、林を抜けた先には、大きな屋敷があった。
その窓から、ゆらゆらと
劉邦は、九死に一生を得た思いで、屋敷の門を叩いた。
すると、屋敷の中から、1人の
さて、
なにしろ、身なりが普通ではない。劉邦は、
「これは、ただの人ではないな。どこかの王侯に違いない」
そう考えた
その席で、
「あなた様は、どちらの王公で?
一体どのようなわけで我が屋敷を
劉邦は答えた。
「俺は漢王劉邦だ。
項羽と
「なんと! あなた様が、あの漢王様で!
漢王様の
漢王様のご
劉邦は深く感謝して
「ご老人、お名前を聞かせていただけないか」
「臣の
この村には6、70の家がありますが、その多くは臣の一族。それゆえ村の名も
先祖がこの地に住み始めて、臣でもう5代目になります」
「そうかそうか。ところで、
「ただ1人だけ女子がございまして、今年18歳になります。
かつて
『この娘は、後々かならず
今日、漢王様が我が屋敷にいらっしゃって、
漢王様。臣の娘を漢王様のおそばに仕えさせたいと思うのですが、いかがでしょうか?」
劉邦は、慌てて手を振った。
「いやいや! 俺は
ただ今夜
娘さんを妻に、だなんて、そんなことまで望めるもんか!」
しかし
劉邦は……
美人である。絵に描こうとしても筆が負けてしまうほどの美人である。
桃の如き顔は
性根が好色な劉邦には、耐えられぬほどの美しさであった。
劉邦は
劉邦は、思わぬ美人との出会いに浮かれて大いに酔い、
*
翌日。
劉邦は早朝に目を覚まし、別れを告げて屋敷を
「漢王様が敗戦なさらなければ、臣の家をお
臣は、もう年老いております。もう二度とお目にかかれないやもしれません。
こんなに早くお別れするのは、
劉邦は、首を横に振った。
「気持ちは
漢の兵は四方に乱れ散って、文武の大将たちも
はやく敗軍の将兵を招き集め、新しい拠点を決めなきゃいけない。
それが済んだら、近い内に必ず娘さんを正式に
こう言われては、
劉邦は馬にまたがり、
さて、そこから南へ10里ほど進むと……
前方から、人馬の一団が
劉邦は、
「またか! どうしよう……まず隠れなきゃ!」
劉邦は、あわてて道の脇の林の中へ逃げ込んだ。
相手の軍勢は、猛烈な勢いで、こちらへ駆けてくる。
一体何者だろうか? と、劉邦が目を
その軍勢が、よく見知った旗印を
あれは漢軍の功臣、
劉邦は、飛び上がって喜んだ。
「おーい、
(つづく)