龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
項羽からの
項羽が降伏を受け入れる意思を示したことを受けて、張良と
張良が言う。
「では、まず漢王様を城から逃がし、その後で紀信を
「いやいや、項羽は心の
少しでも遅くなれば、また城を攻めてくるでしょう。
それに、城を包囲する
漢王様を城から出すこと自体、難しいでしょう。
私に、もうひとつ計があります。
まず……」
やがて2人は、うなずきかわして、動き出した。
まず劉邦は、目立たない地味な衣服に着替えさせ、馬にまたがらせた。
他の将兵も、逃げやすいよう軽装に統一してある。
一方、
「ここに
と
無論、これもまた、
そして、計の
彼は
(
こうして、準備は
*
それから時間が過ぎ……
と、そのとき。
城門の中から、思いもよらない者たちが姿を現したのだ。
女性である。
2000人あまりもの美女が行列を作り、続々と門から
これこそ
項羽は、まさかこれが計略であるなどとは思いもよらず、大笑いした。
「劉邦は、昔から色ボケだったらしいからな。
この
あんな奴に天下統一の
*
誰もが花の如く
そのため、
劉邦は、他の将兵たちと
そして、西にある拠点、
*
そんなこととは
ところが、2
「なにをチンタラやってんだ、あの男は!」
項羽は、
この時、
劉邦は
周囲に漢の赤旗が数多く立て並べられているのを見ても、実に堂々とした態度である。
項羽は、にわかに目を怒らせた。
「なんだ、アレは!
降伏するときは、自分から縛られて出てくるとか、とにかくもっと申し訳なさそうにするのが礼儀だろうが!
俺の姿は見えてるだろうに、車から降りてひざまずこうともしないし……
それどころか、ピクリとも動かないじゃないか。
劉邦の野郎、酒の飲みすぎで死んでるんじゃないのか?
でなけりゃ、
おい、誰か、ちょっと見てこい!」
項羽の
車を照らして呼びかけるが、車内からは何の返事もない。
項羽の部下たちは、眉をひそめた。
「漢王劉邦! なぜ
すると、車の中から、思いもよらない返事が返ってきた。
「我は漢王にあらず!
漢の大将、紀信なり!
主君の
漢王様は、すでに
やがて漢王様は、韓信大元帥、九江王英布、
そして項羽の一族を
「く、車の中にいるのは劉邦ではありません!
漢の臣の紀信です!」
項羽は、話を聞いて
もちろん、いつものように怒った。
だが、すぐに
「劉邦みたいに逃げるのは簡単だが、紀信のように主君の
誰にでもできることじゃない……その紀信って男は、
俺も、今まで何百人もの文武の将士と出会ってきたが、紀信みたいな忠義者は他に1人もいなかったぞ」
項羽は、
「俺は、あの紀信という男の忠義が好きになった。
季布よ、彼を説得して、
そこで季布は、紀信の乗る車の前にやってきて、大声で呼びかけた。
「紀信よ!
劉邦を脱出させるため、
覇王様は、貴公の
それどころか、貴公に重く
これは覇王様の温情だ。
車から降りて、投降せよ!
この機会を無駄になさるな!」
しかし、紀信は、おとなしく投降するどころか、車の中から大声で
「汝らは、無知な
礼儀も知らないし、バカげた妄想ばかりしている!
大丈夫(立派な男)たるもの、一度主君に仕えたら、忠義を尽くして、二度と他の主君には
たとえ俺の首が地に落ちるとしても、俺の魂は天に満ち、金属や岩石のように残り続ける!
生きては漢の臣となり、死しては漢のために鬼となり、
どうして汝の妄言に
紀信の言葉は、そのまま項羽に伝えられた。
紀信を
そうと知った項羽は、部下に
「あの車の周りに
命令は、すぐに実行された。
火に包まれた車の中で、紀信は……少しも逃げようとしなかった。
むしろ紀信は、ひたすら項羽を
やがて、炎は収まって……
完全に
紀信の肉体だったものは、あの灰の中に混ざり込み、もう、どこへ行ったか分からない。
後に、この話を伝え聞いた人々は、ひとり残らず涙して、
(つづく)
■次回予告■
かろうじて難を逃れ、
落ちぬ城に
次回「龍虎戦記」第五十七回
『果てなき逃走』
●注釈
美女行列の場面で紀信が
たとえば「史記・周本紀」には、周の武王が