龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
漢の
その様子を、後方から、じっ……と
覇王項羽その人である。
項羽は、
すさまじい勢いで戦場に駆け寄ってくる項羽。
と、そのとき。
項羽が、カッ! と燃えるように目を
「コラァァッ!」
と、天地も震えんばかりの大声で
この一声で、
だが、
今、目の前にいる、この男……覇王項羽。こいつは、あまりにも強すぎる!
項羽が猛然と迫ってくる。
主人の恐怖は馬にも伝わる。
いったんこうなると、もうダメである。
*
項羽は、そのまま大軍を
戦意を失った漢軍は、風のなびくように逃げ回りながら、次々に背中を項羽に斬られていく。
漢軍の負傷者、戦死者は、数え切れないほどになりつつあった。
この戦況を、劉邦は、後方からハラハラと見守っていた。
劉邦が、左右の臣に
「おい! あの、
臣が答える。
「項羽です!
……ああっ、項羽が、もうすぐそこに! 今にもこちらへ突入してきそうです!」
劉邦は大いに驚いた。
なにしろ、相手はあの項羽である。漢軍は、上へ下への大騒ぎとなった。
劉邦は、慌てて後退を
と、そのとき。
項羽が漢軍の前で馬を止め、
「ちょっと話したいことがある! 劉邦! 前に出てこい!」
劉邦は、この声を聞くと、ピタリと馬を止めた。
項羽は、君主同士の
これを無視して安全な後方に逃げだすのは……恥だ。
どんなに怖くとも、項羽と並び立つ君主として、情けない姿を部下たちに見せるわけにはいかないのだ。
劉邦は、
項羽と劉邦、それぞれの軍勢を背後に置き、距離を置いて
項羽が言う。
「こうして
俺とお前の争いは、もう数年も続いている! だが、いまだに俺とお前で一騎打ちをしたことがない!
ここで
もうこれ以上、軍の将兵たちを苦しめることはあるまい!」
無茶を言う。
直接刃を交わせば、項羽が勝つに決まっている。
だが、ただ勝負を断るだけでは芸がない。劉邦は、薄く笑いながら、ベラベラと舌を振るい始めた。
「いやいや、項羽さんよ! 俺は別に、あんたと好き
あんたが悪いことばっかりするんで、天の神様も地の人間も、みんな怒っているんだ!
だから天下の諸侯と協力して、無道の君主を
今から、項羽、お前さんの罪を
罪の1!
罪の2! 反乱計画をでっちあげて、
罪の3! 諸侯が
罪の4!
罪の5!
罪の6!
罪の7! 良い土地はぜんぶ手下の諸侯に与えてしまい、そのために元々の六国の王を
罪の8! 義帝を追放して
罪の9! 長江に伏兵を置き、義帝を暗殺させた!
そして罪の10! 不公平な政治を行い、約束を守らず、大逆無道のふるまいで天下に残虐な害を与えた!
だから俺は義兵を起こし、諸侯と一緒に
つまり俺は、ただ
それを、お前さんときたら、俺に挑戦なんかしてきちゃってさあ?
バッカじゃねえの?
対等の勝負なんか、するわけねーだろっ!」
よくこれだけスラスラと
項羽は、自分から論戦を
しかし劉邦は、まったく取り合わない。項羽の攻撃をヒョイと
そこへ漢の大将たちが進み出て、項羽と劉邦の間を
そのまま劉邦は後方へと
が。
その途中。林の近くを通りかかったところで、1発の
「えっ!?」
と驚く劉邦の前に、林の中から
実は、
「わあっ!?」
劉邦は、いきなり矢の雨を浴びて、魂を失うほどに驚いた。
慌てて馬に
ドスッ!
と
(つづく)
●注釈
(1)
「史記・項羽本紀」によると、漢軍の中には『
この『
一方、「漢書・高帝紀」の高祖四年八月の項には、『
『
「通俗漢楚軍談」「西漢通俗演義」では、ここに紹介した2つの記述を組み合わせ、『
(2)
今回、劉邦が
この場面は、「史記・項羽本紀」において『項王伏弩射中漢王』と記されている。これを『項羽が隠し持っていた
実際「西漢通俗演義」では、
例によって、本編では「軍談」の記述に基づいて描写を行った。