龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
漢軍が配置を終えるのと時を同じくして、項羽もまた、みずから大軍を
漢本陣の前までくると、項羽は、まず
「漢王劉邦! 汝に会って言いたいことがある!」
すると、漢の陣から、1騎の大将が進み出てきた。
劉邦……ではない。大元帥韓信である。
項羽は、韓信の姿を見ると、軍勢の前に進み出て、
「韓信か! 汝は、もともと
だから先日、
まったく、俺に従わないなんて、バカな選択をしたもんだな!
今日はもう、いつもの卑怯な計略なんか使うんじゃないぞ!
前に出てこい! 俺と直接戦って決着をつけようじゃないか!」
韓信は、あざけるように答えた。
「覇王陛下は当代の帝王、天下の人々の主君でいらっしゃるはず!
そういう、やんごとなきお方は、深く
外敵から
それを、みずから槍を
陛下のしておられることは、自分で自分を
項羽は、顔面を真っ赤に燃やして怒った。
「やっかましい! また
さっさとかかってこいっ! もしお前が俺と10合でも戦うことができたなら、すぐに武器を収めて争いをやめ、天下を劉邦に
韓信は、馬上で、わざとらしく苦笑してみせた。
「やれやれ……
自分の武勇に頼りきってはならない!
いつまでも強さを
もし覇王陛下が私などに負けてごらんなさい!
当代最強の英雄という陛下の名声は崩壊いたしますよ!
そうなったら、後悔しても、しきれないでしょう!
まあ、悪いことは言わない!
誰か手下の良将に
陛下ご自身は、陣の奥深くに引っ込んで、威厳を失わないようにしたほうがよろしい!」
という韓信の
項羽は、すさまじい勢いで韓信に駆け寄り、手にした槍で突きかかる。
だが韓信は、
「おおっと」
と後退して槍を避けると、そのまま1合も戦わずに、東南へ向けて逃げ出した。
項羽は、背後の
「行くぞ! 今日こそ必ず、あの
そのまま項羽は電光のように韓信を追って駆けていく。
その後ろから、項伯、項荘、
やがて
ここで
「お待ちください!
この広武山は、樹木も密に
山から脱出する道は、狭い山道1本しかありません。
もし敵が伏兵によって山の入口を遮断したら、味方は
陛下! 追撃に力を入れすぎては、いけません!
しばらく後続の軍勢が追いついてくるのを待ち、いったん、このあたりに陣を取って、様子を見てはいかがでしょう?」
と、そのとき、先行させていた前軍から報告が来た。
「韓信は、どこかへ逃げうせてしまい、
また、この道の先は
これを聞くと、項羽は、ようやく気持ちを落ち着けた。
「そうか……前に道がないんじゃあ、しかたない。
ここで小休止して後陣が追いついてくるのを待ち、それから徐々に引き返そう」
と。
そこに、今度は背後のほうから兵が転がり込んできた。
「報告いたします!
後陣の軍勢は、漢の大将
「なんだと!?」
と項羽が
ドン! と、項羽の耳に、一声の鉄砲が響いた。
かと思えば、周囲の四方八面から
「し、しまったっ!」
と、
「前には大きな山が
この場所に留まっていたら、敵の数はますます増えて、どうしようもなくなります!
覇王様! 早く後方の漢軍を突破して、後陣を救い出しましょう!」
項羽は首を振った。
「いいや。敵が大軍で山の出口を固めているなら、簡単には突破できない。
無理に突破しようとしても、逆に打ち破られるのがオチだ。
ならば、いっそこのまま勢いに乗って前進し、韓信を追う!
前方の山を乗り越えれば、その先に必ず活路がある!
項羽の
「しかし覇王様! 前方の山は、はなはだ
などと、項羽たちが
その直後、項羽たちの周囲を取り囲むように、漢軍が姿を現す。
北からは
西からは
左には
右には
中央からは、多くの大将を
一気に殺到してきた漢軍に、
項伯や
「逃げるなっ! 逃げる者は斬り捨てるぞ!」
と呼びかけたが、まったく
項羽は怒った。
「俺は、かつて
なのに……なぜだ!? どうして韓信と戦う時だけは、こんなふうになってしまうんだ!?
……いいや! こんなわずかの敵兵に、負けてなどいられるかァーッ!」
項羽は槍を挙げ、がむしゃらに漢軍へ突っ込んでいった。
なんといっても覇王項羽は当代きっての英雄。さすがの強さで行く先々の漢兵を
そのとき、項羽の前に、1騎の大将が立ちはだかった。
項羽のよく知る顔……かつて項羽の右腕として活躍した
項羽は、さらに声を大にして
「英布! この裏切り者め!
どの
英布も負けじと
「項羽! 汝は昔、俺に
俺がこんなに
俺は、義帝への
そして、ついでに俺の心の中の怒りも晴らしてくれるわっ!」
英布は、斧を振り上げ、
対する項羽も槍を舞わして受けて立つ。
覇王項羽は無論の強さだが、英布もまた、その覇王の右腕を務めたほどの男。
中国一、二を争う強者2人が繰り広げる激闘は、全く勝負のつく気配が見えない。
そのとき、横手から別の軍勢が乱入してきた。
漢の
前方を英布の軍に
項羽は
目の前には強敵、英布。
周囲の味方は
いくら項羽が強くとも、これでは長く持ちこたえられない。
と、そこに
「覇王陛下! お
この
項羽は、季布・
「……頼むっ!」
と叫び返して、その場を離れた。
(つづく)