龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
項羽は、馬に
このあたりには漢兵がいない。項羽は、ここでようやく一息つくことができた。
丘の上から見下ろせば、漢の英布・婁煩《ろうはん》が勢いに乗って大いに攻め立て、季布・
そこへ漢将
項羽の
「覇王様。
すでに太陽も西に傾き、敵勢は時を追うごとに増えていき、全体でどれほどの数がいるのかも分かりません。
丘のあちら側に、道が1本あるようです。はなはだ狭く細い道ではありますが、敵が布陣している様子はありません。
陛下! この道からお逃げくださいませ!」
項羽は、
道の前方には、広武山の
太陽は完全に沈んだらしく、空が、だんだん黒に染まっていく。
同じく敵から逃げて来た季布たちの軍勢も、項羽の後ろに合流した。
と、そのとき。
どこかから、戦場には似つかわしくない優雅な
音の
前方、広武山の山頂に高い
その誰かとは……韓信である。
項羽は激怒した。
「あ……あの
俺を馬鹿にしてるのか! もう許さん!
おい、お前ら! 敵の総大将は、あの山頂だ! 攻め上って奴を引っ捕らえろ!」
項羽の
が、そのとき、韓信が、サッと腕を振って合図した。
すると、山頂に隠れていた漢兵が一斉に立ち上がり、丸太や大石を雨のように投げ落とした。
項羽は、
季布が、慌てて項羽を
「いけません!
これは韓信の計略です!
陛下を怒らせ、みずから山を登るようしむけているのです!
もう
陛下が山を登っているところを、山頂から石や矢で狙われたら、防ぐことは不可能です。
今は、とにかく
明日になったら、敵の少ない方を探して逃げるのです」
しかし、項羽は季布に
「
目の前に韓信がいるんだぞ! 俺は奴を
項羽は、完全に我を忘れているようだ。
これを見た
「やむをえん……覇王様、お許しください!」
と、項羽の愛馬
「あっ! やめろ
と項羽が誘導を
項羽たちの周囲に、漢軍の新手が
たちまち漆黒の夜に火の手があがり、
そこへ漢軍が攻め込んできて、あるいは殺し、あるいは捕らえ、
項羽に従う者は、とうとう、わずかの大将と兵110騎ほどを残すのみになってしまった。
こうなってはもう、韓信を
項羽は諸将と
が、その
以前の戦いで、
しかし、今回は勇敢に項羽へと向かっていき、力の限り槍を繰り出した。
その
両者が槍を
項羽は槍先を
項羽は、おそるべき強さで
だが安心する暇もなく、今度は漢将陳武・王陵が項羽たちに食らいつき、
「逆賊項羽! はやく降伏せよ!」
と
「やかましいわっ!」
項羽は、ますます怒って陳武と王陵に攻めかかった。
ここでも項羽は手の付けられない強さを見せ、陳武・王陵という強豪2人を、たった1人で圧倒した。
項羽は陳武・王陵の部隊を
いまだ
そのとき、サラサラと、水の音が聞こえてきた。
暗くて見えないが、どうやら前方に川が流れているらしい。
となると、このまま馬で進むことはできそうにない。
そこへ、またしても漢軍が襲ってきた。
今度は背後からである。
項羽は、奥歯を固く噛みしめた。
「前は水に
しかも、
くそっ……俺の命運は、ここで尽きてしまうのか!」
ところがそのとき、追手の漢軍が、急に後ろの方から乱れ騒ぎはじめた。
一体なにごとか? と様子を見ていると、漢軍は背後からの攻撃を受けたらしく、たちまち粉砕されて逃げ散って行ってしまった。
その漢軍を切り裂くようにして、2人の大将が軍馬をこちらへ駆け寄せてくる。
項羽は、その大将たちに、
「誰だ!」
と呼びかけた。
「そのお声は、覇王様ですね!
臣らは、
覇王様が敵に囲まれて危機に
近づいてきた2将の顔を、
九死に一生とは、このことだ。
項羽は大いに喜び、
ようやく空も
項羽が頭をあげて、四方の様子をうかがうと……そこら
どの方角を見ても、動くものといえば漢兵ばかり。
山々、
漢の
項羽は、
「俺は、
だが……韓信のように兵を用いる者は、他に見たことがない……」
「覇王様の武勇が天下無敵であることは、すでに誰もが知っております。
そえゆえ、韓信は、覇王様を
ですから覇王様、我らは、
もたもたしていると、敵は再び我らを取り囲み、我らが疲れ果てるのを待つ策を取るでしょう。そうなったら今度こそおしまいです」
項羽は、うなずいた。
「よし。俺が前に出て退路を切りひらく。
汝らは俺の後に続け!」
(つづく)