龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
項羽は、漢軍に包囲されて危険な状況に
その戦いの後、本陣へ帰る道の途中で、項羽は大将たちに向かって
「みんな、よく俺を救い出してくれた。
韓信の、あの妙な陣形を知っている者がいたのか?」
それに
「臣が知っておりました。
韓信が今日とった陣は、
この陣は生門・死門という2つの出入り口を持ち、陰陣・陽陣という2つの
いちおう前後の向きもあるのですが、おおむね四方に向けて対称な構造になっており、見た目は
生門から陽陣へ入った場合には活路を得ることができますが、それを知らず
臣は、昔、
そのとき
その教え通りに、諸将と
項羽は、
「なるほど、そうだったのか。おかげで本当に助かったぞ」
だが、項羽の喜びに水を差すように、横から
「陛下。我らは、劉邦の父太公を連れてきたのですぞ。
今日は、漢軍と交戦する必要は無かったはずです。
明日こそは、予定通り太公を縛って前面に出し、劉邦に
劉邦が要求通り兵を
その後で、再び計略を
項羽は、きまり悪そうに目をそらした。
「ん……そうだな。分かってる」
*
さて、その夜。
漢の本陣では、張良と
計略がまとまると、張良は、
張良は、その士卒を安心させるように
「私が汝の人相を見たところ、汝は、どうやら
いずれ大きな功名を成しとげるかもしれないな。
だが、今のまま雑兵の立場でいたら、功績を評価される機会が
そこで……汝に1つ、大事な仕事を任せたい。
もしこの仕事をやりとげたなら、漢王様に
どうかな? またとない出世の好機だとは思わないかね?」
士卒は、緊張の
「軍師様、自分は何をすればよいのでしょうか?」
張良が言う。
「ここに
これを届けてほしい。
君は
そのツテを利用して
もし項伯から返事があれば、戻ってきて報告してくれ。
気を付けて、慎重に頼むぞ」
士卒は、うなずいた。
「それなら、簡単なことです。ご安心ください、軍師様。
すぐに
張良は限りなく喜び、士卒に前金として金銭を握らせた。
そして
「よいか。この書は、
何事にも気を付けて、決して油断しては、ならないぞ」
*
士卒は、張良の
すると、
この
「あれっ? お前、このあいだ漢軍に捕らえられて、降参したんじゃなかったか?
一体どうやって帰ってきたんだ」
士卒は答えた。
「確かに俺は敵に捕らえられて、生きのびるために投降した。
でも、俺の父母や妻子は、みんな
本気で漢に降伏できるわけないだろ?
だから、
なあ、頼みがあるんだ。明日、項伯将軍のところへ連れていってくれないか。
項伯将軍に事情を話して、元通り
「なるほどな。よし、任せとけ」
そして、翌日。
項伯が軍勢の点検を行っていると、昨夜の
「老大王。この者は、先日、漢軍に
また元通り
我らで勝手に決められることではありませんので、老大王のご判断をいただきたく、連れて参りました」
項伯は、わずかに眉を動かした。
項伯は、
「汝は、漢軍の中にいたのだな。
では、張良を見かけなかったか?」
士卒は、うなずいた。
「はい、お会いしました。
私は、漢軍では張軍師の下で働いていたのです。
張軍師は、よく老大王のことを話しておられました。
そこで私が『自分は
ただ、私の父母妻子は
これを聞くと、項伯は、思わず顔を、ほころばせた。
項伯と張良は、若い頃からの親友である。
項伯が追われていた時には張良が
お互い、
運命の
少なくとも項伯の方では、今でも張良を親友と思っているのだ。
項伯は、胸の中に温かな気持ちが湧いてくるのを感じながら、士卒に
「張良は、私のことを、どんなふうに話していた?」
士卒は、左右を見回して人目が無いことを確かめると、項伯に近づいて、サッと
「私が漢の陣を出るとき、張軍師から、この
項伯は、顔色を変えて、
その文面は……
『旧交の友張良、書を
かつて貴公には、住む家と日々の食事を世話していただいた。
その後、私は
しかし、思いがけず
私が今の居場所に束縛されているのは、何か望みがあるからではない。ただ歳月を過ごしているにすぎないのだ。
ただ、漢王は仁義に
それゆえ、漢王を捨てて去るのが
たとえて言うなら、小鳥が人間に
そんなとき、人間なら自然に愛着が湧いてくるだろう?
小鳥が困っていれば、知らぬ顔はしていられない。策略のひとつも
さて。
昨日、覇王は太公を
これは漢の兵を
だが、漢王がここまで兵を進めてきたのは、他に帰るべき場所がないからだ。
漢軍は
かつて貴公は、
(第十六回参照)
あの約束を果たすとき、貴公は一体どんな顔をして漢王と対面するつもりなのかね?
そのことが心配でたまらないから、この張良、1羽の
もし覇王が太公を
さすれば、太公は
貴公の恩と義は二つながら行きわたり、貴公の仁と徳は
もしこの願いを聞き届けてくれるなら、返信をいただきたい。
漢王は、太公のことを深く心配し、救いを求めている。その心を貴公の善意で
私の胸にあるこの気持ちは、
(つづく)
●注釈
張良の
「史記・秦本紀」によると、
たとえば、
ところが、さらに9年後の
このように