龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
項伯は、張良からの
「こんな
汝は張良の
士卒は、うなずいた。
「お許しください。老大王を
ただ、
お
張軍師の使者として、この
もし老大王がお返事をなさるおつもりなら、私が張軍師にお届けしましょう」
「うむ。危険な任務なのに、ご苦労だった」
と、項伯は喜び、さっそく自分の幕舎に入って返書を
書き終わると、項伯は返書を士卒に
「私のためにも、これを
と念を押しながら、
さらに項伯は、念には念を入れ、信頼できる部下に士卒を陣門まで見送らせたのだった。
*
士卒が項伯からの返書を渡すと、張良は、さっそく開いて読み始めた。
その文面は……
『大好きな友と離れ離れになっていた長い時間、君の深遠なる思想に触れたいと、私は
そんなとき、君が教えを示してくれたのだ。
どうして断ることなどできようか?
君に頼まれた仕事は、なんとかやってみよう。
太公が我が方に拘束されて、ずいぶんになる。
私は、朝も夕も太公を保護し、暮らしに不足がないよう世話をしている。
だが、漢軍が兵を撤退させる姿勢を見せなければ、覇王は決して太公を帰国させないだろう。
たとえ私が太公を助けても、それは一時しのぎの計略にしかなるまい。
近ごろは、覇王の左右の臣が、毎日のように『太公を殺せ』と
もし漢王が軍の撤退を拒否し続けるなら、太公の
どうか、以上のことをふまえて計略を立ててくれ!』
張良は、項伯からの返書を読み終わると、ななめならず喜んだ。
張良が、満足げに士卒に
「よしよし、これでよい。よくやってくれた。
後日、漢王様に申し上げて、汝には重ねて厚く
そして張良は、軍政司(軍中の政務を担当する役職)を呼び、この士卒の名を記録させた。
それが済むと、張良は劉邦に
*
その日、項羽は
そして漢陣から見えるところまで来ると、大きな
それから項羽は、兵に
「漢軍よ、太公を
もし
これを聞いた劉邦は、陣の前に走り出て、大声で返事した。
「項羽ーっ!
俺は昔、汝と
そのとき、俺たちは義兄弟の
つまり、俺の父は、お前の父!
親父が
項羽は
言うに
しかも劉邦は、こんな悪趣味な冗談を言い終えるや、1人でゲラゲラ笑いだしさえした。
自分の親が殺されようかというときに、悲しむそぶりさえ見せないのだ。
項羽は怒り、部下に
「いいだろう! お望み通り、親父さんの
おい! 太公を
そのとき、すぐそばにいた
「お待ちを!
天下を取ろうとする者は、
昔、
しかし、息子の
その間、自宅の門前を通りかかる機会が3度ありましたが、
そして
今、漢王劉邦は、覇王陛下と天下を争っております。
我々が太公を捕らえてから、はや3年。
父親が
それは、自分の家族よりも天下のほうを
もし今、陛下が太公を殺しなさっても、
それでいて、天下の人々は『覇王陛下が人の父を殺した』と
陛下、ここは、ひとまず軍を撤収させ、本陣に戻りましょう。
その後、あらためて別の計略を立てましょう。
劉邦が
陛下の威武は、すでに天下を震わせているのです。
『太公を殺せ』などという進言を聞き入れることは、陛下の臆病さを天下に示すことにしかなりません」
項羽は、考え込んだ。
確かに項伯の言う通りだ。この場で太公を殺しても、
項羽は、納得して、うなずいた。
「分かった。太公を殺すのはやめよう。撤収する!」
こうして太公は、
(つづく)
■次回予告■
人質作戦も不発に終わり、
もちかけたのは両国和睦。西を漢とし東を
次回「龍虎戦記」第六十六回
『偽りの和睦』
●注釈
(1)
今回のサブタイトルは『一杯ちょうだい、親父の煮物』とした。しかし「西漢通俗演義」「通俗漢楚軍談」「史記・項羽本紀」のいずれにおいても、該当部分の劉邦のセリフは『我に一杯の
『
こう考えると、サブタイトルの『煮物』は、
(2)
項伯のセリフにあった『
「史記・夏本紀」に次のような話が収録されている。五帝の1人
ところが9年たっても洪水被害は治まらなかった。そこで
その後、