龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
覇王項羽は、劉邦の父太公を
「お前の父親を
と、
ところが漢王劉邦は、ヘラヘラ笑いながら、
「それなら、親父の
などと、ふざけた返事をするばかり。
項羽は、脅迫が無意味だと
*
……が。
劉邦が平然としていたのは、項羽を
本心では、父のことが心配でしかたがない。
劉邦は、本陣の中に帰ってくるなり、大泣きしはじめた。
「とりあえず今日のところは親父の
実の父を見殺しにするなんて……俺は天下の罪人だあ!」
そこで劉邦は、軍師張良と
「張良先生!
親父を救う方法は、なんかないのか!?」
張良が、うなずく。
「今、
ここで誰か弁舌の士を派遣して和睦をもちかければ、項羽は、必ずや和睦を受け入れ、太公をこちらへ送り返してくるでしょう。
ただ、問題は……この大仕事を任せられる人材が
そのとき、劉邦の前に並んでいた群臣たちの中から、1人の男が声をあげた。
「軍師! どうして『人材がいない』などと
臣が
劉邦たちは、驚いて、声の
それは
侯公は、数代にわたって
幼いころから豪気な性格で、「
無官とはいえ、決して無能な男ではない。
たとえば、かつて、こんな出来事があった。
その頃、侯公の隣家で、兄弟2人が家の財産めぐって争っていた。
この訴訟が、何年たっても決着しない。
そこで侯公は、この
このとき侯公が
そういう働きもあって、地元の人間は、侯公のことを、たいへん尊敬していた。
その後、劉邦が
そのとき侯公が社会の悪い所を見事に言い当てたので、劉邦は喜び、侯公を部下として用いるようになったのだった。
その侯公が、使者の役を買って出たのだ。
張良は、侯公に目を向けて言った。
「項羽は、生まれつき乱暴で強情な性格です。
そればかりか、太公も取り戻すことができなくなります。
よく気を付けて、君命を
1つのことを3回ずつ考えるくらいの慎重さで、ちょうど良いでしょう。
決して、軽率に行動しないように……分かりましたね?」
侯公は、真剣な顔で張良を見つめ返した。
「殺されるのが怖いなら、そもそも、項羽に
そんなふうに震え恐れて
漢王様は、これまで長いあいだ私に
これだけお世話になっておきながら、何もお役に立てぬまま人生を終える……それでは、私は犬や豚も同然。
必ずや、上手くやってみせましょう!」
劉邦は、侯公の力強い言葉を聞くと、たのもしげに、うなずいた。
「よし! 侯公が行くと言ってくれたんだ。
この大仕事を、必ず成しとげてくれるだろう!」
劉邦は、すぐに項羽
*
しばらく後、こちらは
項羽の元に、外から報告が来た。
「漢の使者が、覇王様に
項羽は考えた。
「この状況で、使者?
……なるほど。たぶん劉邦は
なるべく有利な条件を引き出したいが……
よし! ちょっと
項羽は、部下に命令を飛ばした。
まず、屈強の大将たちに刀や斧を持たせ、項羽の左右両辺に並ばせる。
そして、項羽自身は剣を
侯公は、ずらり並んだ大将たちの間を、平然と進んでいった。
その奥で、項羽が目を怒らせ、虎のように侯公を
侯公は突然、声をあげて大笑いしはじめた。
項羽は、侯公に
「貴様ッ! 漢の使者として来ておきながら、何をバカみたいに笑ってるんだ!
俺の剣の切れ味を、お前の首で試してみたいってわけか!?」
侯公は、ますます笑う。
「はっはははは!
いやいや。覇王陛下は車1万乗をも動かしうる大国の
陛下の武威は全世界を震わせ、陛下の号令は四方に行きわたっている。
陛下を恐れぬ者など、この世におりません。
それに引きかえ、それがしなどは
そんな、ちっぽけな私に対して、陛下は、左右に武装した大将たちを並ばせ、みずから剣を握りさえして、威勢を示そうとなさっている。
わざわざ示威行為などしなくとも、一体だれが陛下を軽く見るというのです?
そんな人間がいるのなら、ぜひ名前を教えていただきたいものですな。
そういうわけで、私は大笑いしたのですよ」
(
(
項羽は、侯公の言葉を聞くと、たちまち怒りを収めた。
そして、
「下がっていろっ!」
と
それから項羽は、侯公を、ギロッと
「で? 汝は、何のために来た?」
侯公は、堂々と答えた。
「臣がここに参りましたのは、覇王陛下に、あるお願いをするためでございます。
その願いとは、両国が兵を撤退させ、
決して、意味も無く陛下に
こちらに、漢王から覇王陛下に
さっきまでの怒り方が嘘のように、項羽の顔に
項羽としても、
項羽は
『漢王、書を項王の
「天が君主を立てるのは、ひとえに
こんなありさまで、我々は君主となるに
70回以上もの戦いを
人民の父母となるべき我々が、これを
そこで今、侯公を使者として
このように国境を
そして長く富貴を
そうすれば、我々2人は座ったまま
もう、これ以上、人民を苦しめるのは、やめにしよう。
覇王よ。以上に述べたことを、よく検討して、進むか止まるか決断していただきたい』
項羽は、
「俺と劉邦が長く戦ってきたせいで、兵も疲れ果て、
それでも俺は勝つことができずにいる。
たしかに、もうウンザリだ……
劉邦の言葉に従って兵を
(つづく)
●注釈
劉邦の
『天が