龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
劉邦が新たに兵を駐屯させた
項羽の本拠地に向かって、かなり大胆に距離を詰めた形である。
ところが、ここへ来て、困った問題が発生した。
劉邦は、張良や
「お前たちの言うとおり、講和の約束を破って
講和が成立した後、韓信や英布を帰国させてしまったんだ。
今さら『もう一度来てくれ』と要請しても、簡単には来てくれないんじゃないだろうか?
一体どうしたらいい?」
張良が言う。
「漢王様は、まず項羽に
さらに、韓信、英布、
『先日、
すでに太公は取り戻せたから、
すみやかに来て、力を貸してくれ』とね。
こうして諸侯を集め、
「よし、わかった」
と、劉邦は、
そして、
「じゃあ、誰を
と諸将と相談していると、
「私が参りましょう」
劉邦は、首を振った。
「いや、ダメだ。
項羽は狂暴な性格だ。俺から『約束に
お前が行ったら、絶対に害を受けるぞ。そんなのはダメだ!」
「臣には、この3寸の舌があります。
この舌をもって項羽の怒りを刺激し、向こうから軍を出して攻めてくるよう誘導してみせましょう。
臣も、必ず無事に戻ります。どうか、ご安心ください」
これに、張良や
「漢王様。
漢王様の
「そうか……確かにな……」
劉邦は、深く考えこんだ末、
*
項羽は、
「
「は……覇王様に、残念なお知らせをせねばなりません。
先日、漢王は覇王様と
あれからまだ半月も経っていないというのに、漢王は『約束を
群臣が、こぞって
『覇王様と
漢王は、せっかく中国の西半分を手に入れたのですから、そのまま国境を守っておれば十分に満たされるはずです。
それなのに、漢王は止まることを知らず、土地を
まったく、これを
覇王様の武勇は天下無敵。それを知らぬ者が、この世におりましょうか?
臣とて、覇王様の威勢を恐れていないわけではありません。
しかし、臣下の道として、役目を任された以上は働かざるを
覇王は、少し得意になって、鼻息を吹いた。
「ふん! 劉邦が約束を破ろうとしていることなんか、とっくの昔に知ってたわ。
お前が来なくても、あらかじめ劉邦と戦う準備は進めていたのだ。
まあいい、とにかく劉邦の
その文面は……
『漢王劉邦、書を覇王の
以前に太公や呂后が
ただ、太公らを長いあいだ拘束して返還を
このことに対しては、胸の中に
この腹立ちは、1日で止まるようなものではない。
できることなら、兵を
しかし、大切な
つまり、俺の攻撃の巻き添えで太公を殺される可能性を心配して、全力で汝と戦えなかったのだ。
俺はずっと、お前を倒すことと、太公を死なせないこと、この2つの困難に板挟みとなっていた。
講和して中国を2つに分割したのも、実は、太公や呂后を漢に帰らせるための計略に過ぎなかった。
そもそも、人の子として親を思う気持ちには、どこまでも限りがないものだ。
親のためなら、この体を
まして、知略を用いるくらいは当然だ。
いわば、利をもって
汝という魚を吊り上げる体勢を整え、
貴公は、まったく計略に気づかず、うまく引っ掛かってくれたよ。
太公や呂后は、こちらへ取り戻した。
今や、俺を縛り付けるものは何も無い。
そこで、大いに軍旗を振り、太鼓を打ち鳴らして、覇王殿と
覇王よ。もし恐れないなら、すぐに軍を動かし、決戦に来られよ。
この挑戦から逃げるなよ!』
項羽は、読み終わるなり大激怒し、
「劉邦! 約束破りの
俺を
俺は
天下の諸侯は、みんな両手を
だが劉邦、あの
汝は、すぐに帰って劉邦に伝えろ!
『俺の剣が振り下ろされるのを、首を洗って待っていろ!』とな!
あの
「ははっ!」
*
そして、すぐに劉邦に
「……というわけで、こちらの
漢王様、あとはお早く使者を飛ばし、韓信たちを召し寄せて戦備をなさいませ」
だが。
これを聞いた劉邦は、なぜか
劉邦は、張良と
「
項羽は、そう遠くないうちに攻めてくるぞ。
だが……
韓信とか諸方の軍勢が、いまだに誰も来てくれてないんだ!
予定が狂っちゃったよ! 一体どうすればいいんだ!?」
そう。
韓信、英布、
このままでは、劉邦自身の兵力だけで項羽と戦うハメになってしまう。
慌てふためく劉邦に対し、張良は、落ち着いた声で答えた。
「まずは冷静になってくださいませ。漢王様の手元にも、兵は、すこぶる多くございますから。
とりあえず、今いる大将たちに
それと同時に、韓信たちには使者を送り、急いで来るようにと要請いたしましょう」
劉邦は、張良の言葉に、一も二もなく従った。
すなわち、王陵・
*
それから、数日後……
項羽は、30万の軍勢を
そのため、各地の郡県では、民衆が、ことごとく逃げ隠れし、
これからまた、昼夜
(つづく)
■次回予告■
みずから挑発しておきながら項羽の脅威に震える劉邦。またも敗走を余儀なくされた理由はもとより明々白々。英布、
この苦境を打破すべく、劉邦は己の持つ最大の美点を余すところなく発揮した。どうして項羽は勝てぬのか? なぜ劉邦は負けぬのか? その理由と原因をあけっぴろげに示しつつ、今、
次回「龍虎戦記」第六十七回
『最後の布石』
●注釈
劉邦の
『里の
つまり、高貴な臣に対して