龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
兵のほとんどを失った
彼らは口を揃えて総大将
「英布の武勇だけでも正面からは挑みがたいほどなのに、項羽まで黄河を渡って接近してきました。迎撃準備をお急ぎください!」
そこに早馬の報告も舞いこんできた。
「項羽は黄河を渡ったところで釜を破り、舟を沈め、命を捨てて戦う覚悟で出陣しました。その勢いは、はなはだ盛んであります!」
王離。
渉間。
蘇角。
猛防。
韓章。
李遇。
章平。
王官。
そうそうたる9名の大将が並ぶ前で、
「項羽の武勇は飛び抜けている。力で戦うのはなかなか難しい。ここは策をもって
まず、お前たちは
わしが項羽と戦い始めたら、お前たちは入れ替わり入れ替わり攻撃を仕掛け、少しずつ
そして
「おう!」
9人の大将は、それぞれの持ち場へ移動し、
*
ほどなく項羽の軍勢は
「逆賊め、よくも叔父上を殺したな! 貴様とは、ともに天を
項羽は馬を飛ばして突進し、槍をひねって突きかかった。
迎え撃つ
むろん項羽がその背にピタリと追いすがる。
5里(約2km)ほども走ったところで、
が……20合ほども戦ったところで、項羽は、不意に槍を止めた。
王離が気迫とともに突き込んでくる刃。項羽はそれをジッと見極め、身をひねって巧みに
たちまち
このありさまを目の当たりにした
なんたる早業。なんたる剛腕。王離とて
「コラァ逆賊ッ! どこまで逃げる気だ!」
項羽は兵を駆り立て
だが、彼が乗っているのは
みるみるうちに味方を引き離し、項羽はただ一騎突出してしまった。
これを好機と見た
しかし項羽は単騎になってすら強かった。群がる
「一体どうなってるんだ、あの男は! 手が付けられん!」
そこへ
「それがしにお任せを!」
渉間がいきりたって項羽に挑む。
それに対して項羽の反応は冷めたものだった。渉間を迎え撃ち、ほんの10合ばかり戦うと「自慢の槍を用いるまでもない」とばかりに腰の
片手で握れる長さの鉄棒に破壊力を上げるための突起をつけたもので、その重量は普通の剣の数倍以上。この重さを活かし、鎧兜の上から強烈な衝撃を加えるのだ。
この
渉間は慌てて避けようとしたが、避け切れず左肩に痛打を浴びた。
鈍い打音が戦場に響く。骨が割れたか、肉が
「いかん! 宋文、項羽を止めろっ」
だがちょうどその時、遅れていた
項羽一人にさえ手を焼いていたところに、英布、
もはや渉間の救出どころではない。おびただしい数の兵を討ち取られた
*
このとき、時刻はすでに晩に及んでいた。あたりは薄暗闇に包まれ、見通しも悪くなってきている。
「敵の伏兵があるかもしれんな」
と警戒した項羽は、
項羽が陣屋を構えて休息していると、軍師
「将軍。我らは敵地に深く入り込んでおります。それにもう日も暮れた。敵の夜襲を用心しなされ」
項羽はうなずいた。
「俺もぴったり同じ考えだ。軍師、迎撃の段取りは任せます」
「しからば」
と、
本陣の中にはわざと燃料の
そのうえで、
「
「はっ!」
4人は、ただちに出撃していった。
さらに英布を呼んで言う。
「英布どのは一軍を西の道に伏せ、
「承知!」
こうして万事
*
一方、
ここで
手痛い敗北に歯噛みする
「
それがしが騎馬の精兵を
孫子の兵法に言う『その守らざる所を攻むる』……この作戦だけで完全な勝利は得られないでしょうが、せめて敵の鋭気は
「よし、やるか」
とうなずいた。
そして、蘇角に1万騎余りを授け、自身も軍勢を率いて出発し、東西に分かれて
*
「この作戦、我ながら名案だ。これこそ神妙の計というやつだな」
突然の夜襲に慌てふためく項羽の姿を想像すると、つい、笑いがこみ上げてくる。
ほどなく
「予想通りだ。
策が図にあたって喜び勇んだ蘇角は、ドッと
だが、どうも様子がおかしい。
蘇角の軍勢が門を打ち破って乱入したというのに、
不審に思って宿舎の中まで探ってみたところ、どこもかしこももぬけの殻。人っ子一人いないではないか。
「いかん、これは……!」
蘇角が青ざめた、その時。
一声の鉄砲(爆弾)が炸裂し、四方で赤々と火の手があがり、さらには、猛烈な
「しまった!
一転して窮地に陥った蘇角は、慌てて兵を走らせ西の道へと逃げ出した。
そのとたん、左手より
「一人も逃がすな!」
とばかり、
蘇角の兵はみるみるうちに討ち取られていき、今や残る兵力は半数以下。包囲から抜け出すこともできず、蘇角は逃げ道を求めて東の山道へ駆けていく。
だがその行く手へ、軍勢の黒い影が立ち塞がった。
「ここは通さん」
「誰だっ」
問う蘇角に、野獣の如き大音声が答えた。
「無謀の
「項羽だとぉッ!」
震え上がる蘇角。
項羽は風の如く駆け寄るや、ただ一槍にて彼を突き殺してしまった。
(つづく)