龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
劉邦のもとに大軍が
劉邦は、韓信を呼んだ。
「味方の軍勢は、人も馬も完璧に
大元帥、ここからの方針を教えてくれ」
韓信が答える。
「人馬は整いましたが、まだ配置を伝えておりません。
明日から臣が各大将に指示をして、『あれはここ、これはあっち』ということを定めていきます。
こうして配置が終わり、全軍を自由に動かせるようになれば、いよいよ進発の時です。
その時には、漢王様にも
劉邦は、
「よしよし、分かった。
ところで韓信、俺は考えたんだが、項羽のところに
こういうのを『
これなら確実に勝てるんじゃないかな。
汝は、どう思う?」
韓信は、首を振った。
「漢王様の
が、ひとつ問題があります。
項羽は、あれほどの強さにもかかわらず、これまで何度も遠征して、そのたび撤退を
その理由は、ひとえに
今となっては、項羽も自軍の欠点を思い知っているでしょう。
特に今は、天下の諸侯が兵を合流させて、ここに駐屯しています。
たとえ
そこで……
臣が、別の策を考えました。
漢王様。
漢王様が、みずから軍を進めて、
目の前に漢王様がいるのを見れば、項羽は
そのとき臣が
この方法なら、項羽は二度と生きて帰ることは、できません」
劉邦は、目を丸くした。
要するに、韓信は……主君である劉邦その人を
だが……
考えてみれば、これは実に合理的だ。
相手を釣り出す餌は、思わず食いつきたくなるほど魅力的なものでなければ意味がない。
そういう意味では、項羽を誘い出す
劉邦は、ニヤッ、と不敵な笑みを浮かべた。
「……おもしれえ。
やってやろうじゃねえか!
韓信! その方針で進めてくれ!」
*
それから、さらに数日が過ぎた。
韓信は、諸侯軍の配置や指揮系統を整理し、100万の軍勢を手足のように動かせるまでに
韓信が指示ひとつ出せば、
すべての部隊が整然と
さすがは韓信。短期間で、見事な
そこで劉邦は、韓信のところへ張良を
韓信は喜んで
このとき、張良が韓信に
「大元帥。どうやら軍は完璧な
もう、すぐにでも軍を動かせそうですが、どうして、まだ進発しないのですか?」
韓信は、うなずいた。
「兵を駐屯させる土地を決める時には、あらかじめ、土地の
そこで私は、数日前から多くの調査員を
まだ『これだ』という土地が見つかっていないのですが……
ただ、九里山の南に、
丘は高く、
前方は兵を
この
まだ調査員は帰ってきていませんが、もし
張良は、にっこりと
「なるほど、そういうことでしたか。
私が昨夜、
帝王の星たる
これはまさに、漢王様が大事業を
近代の歴史においては、比べるものがないほどの、すばらしい運気です。
大元帥も、すばらしい功績を、お早く立ててくださいませ。
そうして天下に平和をもたらして、逆さ吊りにされるような苦しみから人民を救いなされば、私たちもまた、漢王様という龍にしがみつき、大元帥という
そして我らは、
韓信は、自信たっぷりに、うなずいた。
「無論です。
これだけの大軍を、いつまでもただ
数日のうちに漢王様にお許しを得て、出発することにいたしましょう」
張良は、
*
これに慌てたのは、
「劉邦は、天下の諸侯を集合させ、100万もの精兵を手に入れました!
韓信は毎日、軍馬を
あとは、
項羽は、報告を聞いて、もってのほかに
項羽は、声をあげて、大いに泣きはじめた。
「覇王様! 何を泣いておられるのですか?」
項羽が答える。
「
『劉邦の野望は小さなものではない。後日、必ず
それなのに俺は! そんなに心配するほどでもないだろう、なんて軽く考えて、結局、
今、劉邦は100万の精兵を集め、こちらへ攻め込んで来ようとしているらしい。
俺の兵は、30万人にも満たない。
これで、どうやって奴と戦えというんだ!
なにもかも、
すまない、
俺が
俺は……なんてかけがえのない人を
項羽は、地に倒れて
諸将は、慌てて項羽に駆け寄り、助け起こした。
そして、項羽を勇気づけようと、口々に策を述べた。
「覇王様。
使者を送って軍勢を招集すれば、
「そうですとも。
それに、
もし
項羽は、涙を
「
それで
英布は、もう漢に降ってしまった。
となれば、
『
狼の子のような狂暴な野心が、いつまでも狭い池の中に留まっているはずがない。
ここは、そしらぬ顔をして
項伯が言う。
「は。陛下のお言葉は、極めて妥当かと思います」
そこで、
*
その文面は……
『
きっと、その兵馬は、かなりの
今、漢軍が
そこで
星降る夜も
かつて防風氏という神は、
もしお前が来なければ、お前も防風氏と同じ
これは大げさに言っているわけではない。分かったな。
(つづく)
●注釈
(1)
項羽が、『
この前半部分『
後半部分の『
なお、
というわけで、本編の項羽は、上記のように全く別の文章2つを合体させていたのだ。おかげで狼の子は、いささか妙な状況に置かれるハメになってしまった。
さらに、
(2)
本編に
本編より1600年近く後、
「西漢通俗演義」では執筆当時である明代の地名や社会制度を反映した部分がある。これもその1つと思われる。
(3)
項羽が
昔、
つまり項羽は、この神話を引用することで『遅刻するんじゃないぞ』と