龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
次の日。
項羽は群臣を召集し、問いかけた。
「昨日、
『漢と戦うな』とな。
この時、
『項羽を
「それは、いけません。
覇王様が
臣が考えますに、いま我々が取るべき策は、覇王様が兵を
これ以外には、ありますまい。
それで我々が勝利を得れば、漢軍は必ず逃げ去っていきます。
仮に、もし勝てなかったとしても、その時は
守りを固めながら各地へ早馬を送り、救援を求めれば、助けに来ない者がおりましょうか?
さらに、そうして漢軍を長く引きつけておけば、漢軍は
覇王様は、その時を狙って追撃なさいませ。
さすれば漢軍を大いに打ち破れること、
こういう必勝の策を捨て、
これが
項羽は喜んだ。
「そうか!
要するに項羽は、自分に同調してくれる者が欲しかったのである。
誰も彼もが自分の考えと違うことを言うので不安になっていたが、誰か1人でも賛成してくれれば、それだけでホッと安心してしまうのである。
しかも、
項羽は、
*
今回の戦いは、
ところが。
まさに
人々は色めき立った。
「こんなときに旗が折れるなど……これは、なにかの怪異の
だが、項羽は、そんなことを気にする男ではない。
そのまま城を出て、愛馬
しばらく進んだところで、項羽は、ある橋を通りかかった。
この橋の入り口には、
その門をくぐった先に橋があるわけだ。
項羽は馬を進め、
と、そのとき。
突然、
まるで「これ以上進むな」と
項羽の
2人は、互いに馬を寄せて、ひそひそと話し合った。
「老大王……突然の大風が旗を折り、
これは不吉の
覇王様を
「うむ……しかし、私たちが何を言っても、耳を貸してはくださらんだろうな……
そうだ。
項伯と
あの項羽も、妻である
この方法なら、項羽の気持ちを変えられるかもしれない。
項伯と
*
項羽は、さらに馬を進め、10里(4km)ほど西の関所に、やってきた。
ここで項伯と
「覇王様。この関所には、1つの
ここで少しご休憩ください」
「そうするか」
と、項羽が馬を降り、
突然、項羽の部下たちが、ずらり
「覇王様!
さきほど
これは、軍を進めるには、大変に不吉な
どうか、ここから
軍を進めるのは、その後でも遅くはありません!」
項羽は、首を振った。
「『
昔、
だが、
同じ
大風が旗を折るだとか、馬が
単なる偶然だよ!
それに、俺はもう、大軍を
国内の人も、国外の人も、
ここで俺が突然引き返したりしたら、人々は『一体どうしたんだ』と疑問に思うだろう。
漢の
そうしたら俺は、漢軍の奴らに、笑い物にされてしまう!」
項羽は、肩で風を切って
と、そこへ、報告が来た。
「ただいま、
(つづく)
●注釈
(1)
昔、
「韓非子・
日本においては、北原白秋作詞の童謡「待ちぼうけ」のモチーフとしてもよく知られた逸話である。
(2)
項羽が『
「今日軍を出すのは不吉でございます」
「その理由は?」
「昔、
そこで道武帝は言った。
「
今回の項羽の発言は、このやりとりを下敷きにしたものだろう。2人の王が戦い、一方が滅びて一方が勝った。ある者が敗北した不吉な日は、その相手にとっては幸運な勝利の日に他ならない。ならば、日付を理由に吉だの不吉だの言うのはおかしいじゃないか……という、
もちろん、項羽より600年近く後の人物である道武帝の発言を項羽が引用できるはずはない。「西漢通俗演義」や「通俗漢楚軍談」が小説的脚色のために道武帝の逸話を借用したのだろう。