龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
項羽の部下は次々に離散し、あるいは戦死し、とうとう兵卒28人を残すのみとなってしまった。
項羽は、ろくに休息もできぬまま漢軍からの逃走を続け、その途中で行きついた古い屋敷に入り、屋敷を守っていた老人たちの
さて、項羽が屋敷の奥で
夜半を過ぎたころ。
突然、
項羽は驚いて起き上がり、太陽を見つめた。
すると……なんということだろう。
太陽の近くに
よく見れば、雲の上には……劉邦が座っているではないか!
劉邦は、雲に乗って太陽のそばまで行くと、太陽を抱いて、持ち去ろうとした。
項羽は、慌てて服の
どうにか項羽は劉邦の雲に追いつき、雲の上に、よじ登ろうとした。
だが劉邦は、項羽を雲から蹴り落とし、そのまま太陽を抱いて、西の空へ飛び去っていってしまった。
項羽は、水の中に落ち、沈んでいった。
沈みながら、項羽は、
やけに
*
「うっ!?」
ここで項羽は目を覚ました。
夢。いままで夢を見ていたのだ。
なんという夢だろう。
劉邦が太陽を抱いて飛び去る夢とは……
かつて、これとよく似た夢を見た男がいる。
始皇帝は、その夢を見て、狂った。
(第一回参照)
では……項羽は?
項羽は、長く長く
「これが天命、か……」
と、そのとき。
突然、屋敷の外から、天を動かすような太鼓の音と、地を震わせるような
兵卒が、項羽の前に駆け込んで来て報告する。
「漢軍ですッ!
この屋敷の周りにある林へ
項羽は、すぐさま立ち上がり、左手で
夜が、ほのぼのと明けた時刻。
屋敷の四方八面には、すでに漢の兵が雲のように集まって来ていた。
その中から、1人の漢将が馬を
「我は漢の大将、
項羽は怒り、
1打、1打、受ける
と、そのとき、
いくら項羽が強くとも、味方がたった28人では、漢の大軍と正面きって戦うのは無理というもの。
項羽は、
「オォリャァーッ!」
と怒声を放ちながら、正面の漢軍に、いきなり突進した。
項羽の狙いは、漢将たちとの交戦を避け、強行突破で包囲を脱出することだ。
一方、漢の将兵たちも、項羽の恐るべき力と気迫に
結局、項羽と28騎の兵士たちは、まんまと包囲を抜け出すことに成功した。
*
そこから項羽は、さらに50里(20km)走り続けた。
ようやく項羽は、
うまく舟を見つければ、江東へ渡ることも、できるだろう。
項羽は
長江が見えれば……あわよくば舟でも見つかれば……と思っていたのだが。
長江どころか、見えるのは、漢軍が何重にも何層にも重なって、野に満ち山を埋め尽くしている姿のみ。
項羽は苦笑し、心の中で思った。
「これじゃあ、たとえ翼があっても、包囲から抜け出せそうにないな。
昨夜の夢の警告もある。
……どうにもならないか」
ここで項羽は、28人の兵卒を
「俺は、兵を起こしてから今まで、
ぶつかった相手は全て破り、攻撃した相手は全て服従させ、いまだかつて敗北したことはない。
そして、ついに天下に覇を唱えた。
確かに今、俺は、これほど追いつめられている……
……だが!
天が俺を滅ぼそうとしているのだ!
今日、俺は
3回だ! 今から俺は、3回勝つ!
お前たちも、俺に続いて敵の包囲をブチやぶれ! 将を斬れ! 軍旗を
俺たちは弱くて負けるんじゃないってことを、天下に知らしめてやれ!」
今、項羽のもとにいる28人。
それは、ありとあらゆる困難と苦境に叩き込まれながら、それでも項羽についてきた屈強の28人である。
その28人の目が……燃えた!
項羽は28騎の兵士を4つに分けて、一斉に漢軍へと突撃を開始した。
項羽が
「まず俺が敵の大将を1人斬って道を作る!
汝らは、そこから包囲を突破し、それぞれ別の方向へ走れ!
そして東の山の
28騎が声をそろえる。
「はっ! 覇王様の
そうこうする間に、漢軍は、もう目の前。
項羽は
「
と
項羽の槍が、うなる!
出会い頭に1人の漢将を斬って捨て、勢いそのまま駆け抜ける。
漢軍は、あたかも風に吹き散らされる雲の如く、四方へ乱れ散っていく。
その中にあって、ただ1人踏みとどまって項羽の前に立ちふさがった大将がいた。
彼は、つい昨日、項羽の
その痛みもどうにか消え、昨日の
が。
項羽は
「どけェッ!」
と大声で りつけた。
その、あまりの迫力に、
さらに、
こんな調子では、戦いになど、なるはずもない。
*
項羽は、そのまま駆け抜けて、東の山の
28騎の兵は、約束通り、3ヶ所に分かれて項羽を待っていた。
項羽が28騎と合流した、まさにそのとき。
漢の大軍が、3方向から項羽に襲い掛かってきた。
項羽は、もう慌ても騒ぎもしなかった。
ただ槍を
漢の大将
一方、これだけの戦いをしておきながら、
漢将の
「項羽ッ!
そんなありさまに成り果てても、まだ我が兵を
一体どうしてそうまで強いんだ!」
だが、とても
10合も戦わないうちに、
*
結局……
その日、項羽は1日で9回も漢の大軍と戦い、大将9人と漢兵1千人以上を殺した。
それでいて、項羽自身は体に1つの傷も受けていないのだ。
戦いが済んだ後、項羽は、生き残りの兵士たちに無邪気に
「どうだ?
俺が言ったこと、
兵士たちは、全員そろって拝伏した。
「覇王様は、『3回戦って1人の大将を斬る』と
9回戦って、9人の大将と千人以上の兵を斬りなさるだなんて!」
項羽は、思わず、少年のように笑いだした。
「あはっ!
そっか。ちょっとやりすぎたかな?」
兵士たちは言った。
「覇王様は、
(つづく)