龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
漢軍は、逃げる
すると前方に大きな陣営が見えてきた。
どうやら
そのとき、陣の中から一声の鉄砲が鳴り響いたかと思うと、四方の陣門が一斉に開かれ、人馬が蜂のように湧き出て来た。
その先頭に立って突っ込んでくるのは、まぎれもなく総大将の
突然の反撃に、漢軍の前陣は驚き、態勢を崩した。
そこへ
劉邦は、前方の戦況を
「前陣が負けてるみたいだな……よし」
劉邦は、すぐに指示を飛ばした。
まず、後方に急いで陣営を作らせる。
それと同時に前陣救援の部隊を送り、撤退を支援させた。
おかげで、漢軍の前陣は無事撤退。劉邦が作った陣営の中へ逃げ込むことに成功した。
これを見た
「これ以上の深入りは危険だ」
と冷静に判断を下し、自分の陣へと後退していった。
このとき、天はすでに晩の色に染まっていた。
両軍が引き上げたことで、ひとまず、この日の戦いは終了したのだった。
*
劉邦は、これまでに
その経験が、劉邦を立派な将へと鍛え上げた。
先ほどの指揮ひとつを見ても、今の劉邦が十分な力量を持っていることが分かる。
対する
不利な状況から皇帝
*
劉邦は、陣に引き上げてきた諸将を集め、厳しく
「今日の合戦で、味方の人馬は疲れ弱っているだろう。
だが、敵が
安心して眠りこけるんじゃないぞ!」
と、夜通し油断なく陣門を守らせた。
*
おなじ頃、
「
汝らは今日、なぜ戦いもせずに逃げ出したッ!
おかげで私は漢軍に追われ、
もしこの陣営に逃げ込むことができなかったら、いまごろ我が軍は大敗していたところだ!
今後ふたたび同じようなことがあれば、必ず軍法をもって罪を正す! 分かったか!」
*
そこからは、何事もなく一夜が明け……
翌日。
劉邦は中軍の幕舎に諸将を集め、軍議を開いた。
劉邦の左右に並んだ諸将の中から、王陵が進み出て言った。
「
韓信の軍法を、よほど深く研究したのでしょう。
陣営の作り方といい、戦場での駆け引きといい、
このまま交戦しても、おそらく勝つことは難しいでしょう。
日数をかければ味方の
愚見ですが、いったん撤退し、
そして諸方の軍勢を呼び集め、十分な戦力を得てから力を尽くして勝負を決めるのです。
そうすれば、天が陛下に味方してくれます。
劉邦は、難しい顔をして腕を組んだ。
「うん……お前の意見は、もっともだ。
だが、ここから撤退すれば、
王陵が言う。
「はい。ですので日中は兵を動かさず、日暮れを待って、少しずつ撤退を始めましょう。
さらに、二手の精兵を左右に
まあ、臣の予測ですと、おそらく
劉邦は、大いに喜んだ。
「なるほど。じゃあ、その手で行こう!」
というわけで、その日の夕暮れ時。
劉邦は、全軍に
そして
その他の人馬には
*
「漢帝が撤退を開始した。
漢帝は『この場に陣取っていては
おそらく
諸将は、口々に言った。
「ならば、これを逃がす手は、ありません!
すぐに追いかけ、漢帝を
しかし
「いや。漢帝は、長いあいだ戦場を駆け回ってきた人物だ。
漢帝が道の左右へ伏兵を置いていることは間違いない。
もし汝らが追撃したら、必ず返り
決して追ってはならないぞ」
しばらくして間者たちが帰還し、こう報告した。
「確かに、たくさんの伏兵が置かれていました」
これを聞いた諸将は、
*
かくして、劉邦の軍勢は、追撃を受けることもなく、ゆるゆると
これ以後、両軍は決め手を欠いたまま
(つづく)
■次回予告■
劉邦と
ついに明るみに出た反乱計画。変事を未然に防ぐべく謀略を巡らせる呂后と
次回「龍虎戦記」第八十二回
『国士無双の末路』