龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
張良が仕掛けた工作は、ものの見事に成功し、項羽は
これで第一の計、項羽を
となれば、すぐに次の仕事に取りかからねばならない。第二の計は、
その人物は、もう
*
月明かりの
張良は、
その手には、1振りの剣が握られてる。以前、劉邦軍が
さて、韓信が率いる部隊は、ごく少数。ゆえにその陣も規模は小さい。
とは言っても陣は陣。陣門のところには、門番の兵が立っている。
張良は、門番へ
「私は
なにとぞ、お取り次ぎを」
もちろん、これは嘘八百。
そうとは知らない門番は、このことを急いで韓信に伝えた。
しかし当然ながら、韓信は深く怪しんだ。
「『同郷の友』だと?
私が
韓信が考え込んでいると、建物の外に人の影が現れた。
月光に照らされ、ぼんやりと浮かび上がる姿を見れば……その人物の顔に、見覚えがある。
韓信は、その人物――張良を建物の中へ迎え入れた。
張良に座を
「あなたは、一体どなたかな? なぜ私に会いたいなどと
張良は薄く
「ご
私は、韓信様と同郷の者。しかし幼い頃に故郷を離れ、ずっと外国で暮らしていたのです。韓信様がご
ところで、私の家には先祖代々うけつがれてきた3振りの宝剣がございます。いずれも
私は、この宝を天下の英雄に役立てていただきたいと思い、あちこちを渡り歩いて、宝剣を持つにふさわしい人物を探し求めてきました。
すでに2振りは、とある人物にお
そこで……韓信様は私と同郷、しかも天下の英雄であると耳にして、この剣をお渡しするために参上したのです。
この
秘蔵されること10万年、価値は数千金という
天下の英雄に出会ったときは、剣が、みずから声を発するといいます。
なに、売りつけて
物品は、それぞれ、ふさわしい
韓信様がこの剣を握れば、天下を制することさえできましょう」
見えすいたお
韓信は身を乗り出し、張良に顔を寄せる。
「私は、
興味がありますな。ぜひ、その剣を見せていただきたい」
張良が、持参の宝剣を差し出した。
韓信がそれを手に取り、
よく見れば、
まさに天下の
喜び得たり、
いずくんぞ
従来
なお
韓信は、
そんな韓信の心を、この見事な宝剣は強烈に
韓信は、どうにかしてこの剣を手に入れられないものかと思い、探りをかけはじめた。
「あなたは、すでに2振りの剣を売ったそうですね。代価は、いかほど取りなさったのか?」
張良は、韓信の心が動いたのを見て、わずかに目を細めた。
「さきほど申し上げた通り、まず相手の人物を
代金の大小など問題ではありません。ふさわしい人物がいたときは、無償で剣をお
今夜も私は、韓信様が天下の英雄であると聞いて、それが本当かどうか確かめに来たのですよ。
そして、期待通りのお
韓信は、
「そうまで言ってくださるのは、ありがたいが……おそらく私は、あなたが考えているほどの人物ではないよ」
張良が、じっと韓信の目を
「ふさわしい人物でないのなら、千金を積まれたとて売りはしません。
この宝剣は、あなたのものです。お受け取りください」
韓信は限りなく喜んだ。
すばらしい剣を
韓信は、
酒を
「ところで、この剣に
張良が、うなずく。
「3振りそれぞれ
一つは、天子の剣『
一つは、宰相の剣『
そして韓信様がお持ちのそれが、
それぞれ8つの大切な素養、すなわち八徳を
韓信が眉を動かす。
「ほう。天子の八徳とは?」
「
「では、宰相の剣にも八徳があるのですか」
「ええ。
「天子の剣にも宰相の剣にも八徳があるのか。それなら、この
「
韓信は、剣をあらためて見つめ、うっとりと溜め息をついた。
「この剣は、まさに天下の至宝だ……
天子の剣と宰相の剣は、誰にお売りになったのかな」
張良が答える。
「天子の剣は、漢王に先日
と、韓信が不意に目をギラつかせた。
「ふうん……?」
(つづく)
●注釈
張良が韓信に語って聞かせた3振りの剣の名は、いずれも中国の伝説的名剣から借用されている。
まず、天子の剣『
『
次に、宰相の剣『
『牢獄の基礎部分を掘ったところ、地下4丈余りまで掘ったところで一つの石の箱が現れた。箱は尋常ではない光気を放っており、中に2振りの剣が入っていた。どちらの剣にも名が刻まれていた。一つは
最後に
長くなるので直接の引用は避け、話の概要のみ紹介する。昔、
ここで
その話を聞いた
この時できた2振りの剣に、
「捜神記」では妻の名が『
以上のように、3振りの剣の名は、それぞれ名剣2振りを組み合わせたものになっている。しかし、
なお、
本文中では外清内ダクによる書き下し文を載せたが、ここには「軍談」に書かれた漢詩を白文で紹介しておきたい。
君不見
昆吾鉄冶飛炎烟
紅光紫気真赫然
良工鍛錬経幾年
鋳成宝剣噴龍泉
龍泉顔色如霜雪
良工咨嗟嘆奇絶
琉璃宝匣吐氷花
錯鏤金環生明月
正逢天下起風塵
喜得周防君子身
精光黯黯青蛇色
文章片片飄龍鱗
悪興交結遊侠子
従来親近英雄人
何年中道遭捐棄
淪落飄零古岳邊
莫道匣蔵無所用
猶能夜夜気冲天