龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
韓信大元帥は、漢軍の本隊を引き連れて、東へと駒を進めていた。
劉邦より先行すること2日。
この
今はちょうど、それを逆にたどっている形になる。
山の裏の谷際から兵を進めていくと、いくらか通りやすく整備された道が現れた。先行する
だが、それでもなお、彼らの進む道は
谷川の水が
断崖絶壁が
さらに5里(2km)ほど行ったところで、広い道に行きあたった。
広いことは広いが、そのぶん樹木がびっしりと覆い
先陣の
中軍の韓信は、道すがら、大将たちに言った。
「以前、私が1人で漢中から逃げてきた時、夜中にこの
ちょうど秋の長雨で水量が増し、渡れずにいたところに、
もしあの時この川を渡っていたら、私は今ごろ、
大将たちが言う。
「まさに天の助けですな。
漢の世を
もし大元帥が漢を去っていたら、この道を知る者が誰もいなくなる。そうなれば、
この
というわけで、大将たちは山頂に石碑を立て、
『漢相国邀韓信至此
漢の
という8字を刻んだ。
そして、鳥さえ飛び抜けがたいような
将も兵も
*
さて、そうしてしばらく進んだ後。
先を行く部隊から、兵士が慌てて駆け戻ってきてきた。
「この先の
その両目は、太陽や月のように
これ以上は進めません!」
韓信は、呆れたように言う。
「そんな大蛇が道を
さらに、鉄砲(爆弾)も投げつけて、大蛇が飛びかかってくるのを防げば万全だ」
諸将も「もっともだ」と、うなずいていたところ、1人の将が、
「無用だ!」
と大声をあげながら進み出た。
「たかが蛇1匹が道を
たとえ
その大蛇とやらを、それがしが1人で斬って捨ててくれよう!」
一体誰だ? と、人々が驚いて目を向ければ、
この
韓信は、
「なるほど、
だが、この山深く湿気た土地。ほとんど往来する人もない。踏み込むのは、さぞかし苦労であろう。
酒を飲み、力をつけてから行きたまえ」
韓信は、牛の角をくり抜いて作った巨大な
話によれば、このあたりに大蛇とやらがいるはずだが……
と。
突如、電光が山の下へ
ゾッとするような寒気が、一行の肌を震わせる。
ただならぬ気配に
兵士が、おびえて声を震わせる。
「あんなところに月がある。どういうことだ?」
道案内の男が答えた。
「月じゃありません。大蛇の両目が光っているんですよ。
人が近づくと、大蛇は雲のような息を吐き出す。その息は猛毒で、触れた者は必ず死んでしまう。
だが
「ヌオォォォーッ!」
と
その全長は実に数丈(仮に5丈なら11.6メートル)。巨体を不気味にうねらせながら、大蛇が毒の息を吐きかける。
そこへ大蛇が飛びかかる。
対する
そして雷鳴の如く一声
ガッ!
と響く鋭い打音。
大蛇の首が
山じゅうの木々が動揺し、噴出する蛇の血で谷川がみるみる朱に染まっていく。
慌てて兵士たちが駆け寄ったときには、大蛇はもう完全に事切れて、岩の上に転がっていた。
*
報告を受けた韓信は、蛇の死体を確認すべく、谷川の
見れば、確かに長さ数丈もある大蛇である。化け物だという兵士たちの話は、誇張でも見間違いでもなかったらしい。
左右の大将たちは、大蛇の死体を
「なんと長大な蛇だ……百年も生きてきた奴ではなかろうか? こんな化け物が昔からいたのか?」
韓信は、片膝をついて蛇の死体をじっくり観察し、鱗を触ったり軽く小突いてみたりしながら、低くうなった。
「神仙の住む
とはいえ……」
韓信は、立ち上がりながら身震いした。
「私は、漢に来るときにこの道を通ったが、幸運にも、この大蛇には出くわさなかった。
もし遭遇していたら……今ごろ、私はここにいなかっただろうな」
そして韓信は
(つづく)
●注釈
本文中に『